元殺し屋がバイオ事件に巻き込まれる話   作:オッパッピー

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本日一度目の投稿です。


Chapter7 研究所 Part1

 三人は研究所へ続く大型エレベーターの前まで辿り着いた。

 

 エイダは懐から一枚の認証カードを取り出し、操作盤へ静かにかざす。

 

 ピッ。

 

 電子音が鳴り、赤く点灯していたランプが青へ変わった。

 

 重厚なロックが解除され、分厚い扉がゆっくりと左右へ開いていく。

 

 ゴォォォ……。

 

 搬送用エレベーターの内部は薄暗く、天井の非常灯だけが淡い光を落としていた。

 

 レオンはようやく張り詰めていた息を吐き出す。

 

 「ようやく研究所ですね」

 

 エイダは小さく頷く。

 

 「ええ。でも――」

 

 その瞳は油断なくエレベーターの奥を見据えていた。

 

 「ここから先が本番よ」

 

 三人は無言で乗り込む。

 

 扉が閉まり、エレベーターは低い振動とともに下降を始めた。

 

 ゴォォォ……。

 

 狭い空間に機械音だけが響く。

 

 誰も口を開かなかった。

 

 それぞれが、この先に待つものを思い描いていた。

 

 やがてレオンが静かに口を開く。

 

 「アリスさん」

 

 「肩の傷、大丈夫ですか」

 

 次郎は壁へ背中を預け、小さく笑う。

 

 「問題ない」

 

 「少し打った程度だ」

 

 そう答える声はいつもと変わらない。

 

 しかし額には冷や汗が浮かび、呼吸は明らかに浅く速くなっていた。

 

 エイダは何も言わず、その様子を見つめる。

 

 感染は確実に進行している。

 

 だが理性は保たれたまま。

 

 この状態がいつまで続くのか、彼女にも分からなかった。

 

 やがて下降が止まる。

 

 チン――。

 

 扉がゆっくりと開いた。

 

 三人の前に広がっていたのは、これまでとはまったく異なる世界だった。

 

 真っ白な照明。

 

 磨き上げられた床。

 

 ガラス張りの研究区画。

 

 壁にはアンブレラ社の巨大なロゴが掲げられ、最新鋭の設備が整然と並んでいる。

 

 まるで地上で惨劇など起きていないかのような静けさだった。

 

 レオンは思わず息を呑む。

 

 「ここが……」

 

 エイダが静かに答える。

 

 「アンブレラ地下研究所」

 

 「NESTよ」

 

 地上では街が崩壊し、多くの命が失われている。

 

 それにもかかわらず、この場所だけは時間が止まったように整然としていた。

 

 次郎は辺りを見渡し、小さく呟く。

 

 「……悪趣味だな」

 

 人命より研究。

 

 その思想が、この静寂そのものに表れているようだった。

 

 エイダは先頭へ立つ。

 

 「まずは研究資料を探す」

 

 「あなたの治療法も、この事件の真相も、この施設の中にあるはず」

 

 レオンはショットガンを握り直した。

 

 「ああ」

 

 三人はゆっくりとNESTの内部へ足を踏み入れる。

 

 廊下には足音だけが反響した。

 

 コツ……。

 

 コツ……。

 

 ガラス越しには分析装置や培養槽、コンピューター端末が並び、モニターだけが静かに光を放っている。

 

 研究員の姿はない。

 

 散乱した書類や倒れた椅子だけが、ここでも何か異変が起きたことを物語っていた。

 

 レオンは周囲を見回しながら言う。

 

 「街はあんな状態なのに……」

 

 「ここだけ別世界ですね」

 

 エイダは歩みを止めない。

 

 「アンブレラは非常時でも研究を継続できるよう設計している」

 

 「だから地上が崩壊しても、ここだけは機能し続ける」

 

 その言葉に、レオンは複雑そうな表情を浮かべた。

 

 「人を助けるためじゃなく……研究を続けるためですか」

 

 「そういうこと」

 

 エイダは短く答えた。

 

 三人は研究区画を抜ける。

 

 その途中、次郎がふらりと壁へ手をついた。

 

 レオンはすぐに駆け寄る。

 

 「アリスさん!」

 

 「もう休んでください!」

 

 次郎は首を横へ振る。

 

 「まだ歩ける」

 

 「少し身体が熱いだけだ」

 

 だが、その声にも僅かな疲労が滲んでいた。

 

 呼吸は荒く、汗が顎を伝って床へ落ちる。

 

 エイダは廊下の案内表示へ視線を向ける。

 

 『MEDICAL LAB』

 

 「診療室がある」

 

 「先に状態を調べましょう」

 

 三人は自動ドアを抜け、医療区画へ入った。

 

 室内には診察台、分析装置、採血設備などが整然と並び、電源も正常に稼働している。

 

 エイダは分析装置の前へ立ち、端末を操作した。

 

 「使えそうね」

 

 レオンは診察台へ腰を下ろした次郎を見る。

 

 「アリスさん」

 

 「少しだけ我慢してください」

 

 次郎は黙って左腕を差し出した。

 

 エイダは採血器具を準備し、慎重に針を刺す。

 

 赤い血液がゆっくりと採取されていく。

 

 採血を終えると、その血液を分析装置へセットした。

 

 「解析開始」

 

 低い電子音が鳴り、モニターへ膨大なデータが流れ始める。

 

 ピッ……。

 

 ピッ……。

 

 静かな診療室には分析装置の作動音だけが響いていた。

 

 レオンは落ち着かない様子でモニターと次郎を何度も見比べる。

 

 「まだですか……」

 

 「もう少し」

 

 エイダは画面から目を離さず答えた。

 

 数秒後。

 

 ピッ――。

 

 解析終了を知らせる電子音が鳴る。

 

 画面いっぱいに検査結果が表示された。

 

 エイダは一つ一つの項目へ目を通していく。

 

 その表情がわずかに変わった。

 

 「……そういうこと」

 

 レオンが息を呑む。

 

 「何か分かったんですか?」

 

 エイダは静かに画面を指差した。

 

 「Tウイルスは、確かにアリスの体内へ侵入している」

 

 レオンは拳を握る。

 

 「やっぱり……」

 

 「でも、それだけじゃない」

 

 エイダはさらに解析結果を拡大した。

 

 「普通なら感染細胞は急速に増殖し、宿主は理性を失い始める」

 

 「ところがアリスの体内では、その反応が起きていない」

 

 「ウイルスが身体へ適応し始めている形跡があるの」

 

 「適応……ですか?」

 

 レオンが首を傾げる。

 

 エイダは端末から別の研究記録を呼び出した。

 

 画面には古い極秘資料が表示される。

 

 『適応型被験者に関する研究』

 

 『極めて稀に、高い適応耐性を持つ個体を確認』

 

 『感染ではなく、宿主との融合・適応が始まる可能性あり』

 

 『身体能力の著しい変化を示す例を確認』

 

 『ただし成功例は極少数』

 

 診療室に静寂が流れた。

 

 エイダはゆっくりと次郎を見る。

 

 「断定はできない」

 

 「でも、アリスは今までの感染者とは違う」

 

 「あなたの身体は、Tウイルスを拒絶するのではなく、適応し始めている可能性が高い」

 

 次郎は静かに目を閉じ、小さく息を吐いた。

 

 「だから意識がはっきりしていたのか……」

 

 エイダは頷く。

 

 「少なくとも今は、脳への異常は確認されていない」

 

 「希望はあるわ」

 

 レオンの表情が少しだけ明るくなった。

 

 「だったら、まだ助かる可能性があるんですね」

 

 エイダは静かに分析データを保存する。

 

 「詳しいことは、この研究所の資料を調べれば分かるはず」

 

 「行きましょう」

 

 「真実は、この先にある」

 

 

 

 三人は診療室を後にし、研究資料が保管されているデータ閲覧室へ向かった。

 

 廊下の自動ドアが音もなく開く。

 

 その先には、無数のコンピューター端末と大型サーバーが整然と並び、機械の駆動音だけが静かに響いていた。

 

 ブゥゥン――。

 

 生き残った研究員の姿はない。

 

 ただ、モニターだけが休むことなく稼働を続けている。

 

 「ここなら研究データにアクセスできるはずよ」

 

 エイダは端末の前へ腰を下ろし、素早くキーボードを操作する。

 

 画面には認証画面が表示されたが、彼女は迷うことなく管理者権限へ侵入した。

 

 「さすがですね……」

 

 レオンが感心すると、エイダは視線を画面へ向けたまま小さく笑う。

 

 「企業秘密を扱う仕事には慣れているもの」

 

 数秒後、膨大な研究資料が一覧表示された。

 

 エイダはその中から目的のファイルを開く。

 

 『B.O.W.開発計画』

 

 レオンは眉をひそめた。

 

 「B.O.W.?」

 

 「Bio Organic Weapon」

 

 エイダが静かに答える。

 

 「生物兵器計画よ」

 

 レオンの表情が険しくなる。

 

 「兵器……」

 

 エイダは最初のファイルを開いた。

 

 画面には『T-ウイルス』の研究資料が表示される。

 

 感染経路、症状、感染速度、そして実験結果。

 

 レオンは無言で資料を読み進めた。

 

 やがて小さく呟く。

 

 「じゃあ……街で襲ってきたゾンビは全部……」

 

 「アンブレラが行った研究の産物よ」

 

 エイダは短く言い切った。

 

 部屋の空気がさらに重くなる。

 

 次郎は腕を組んだまま画面を見つめていた。

 

 「人を救う技術じゃない」

 

 「人を殺すための技術か」

 

 エイダは否定しなかった。

 

 次に表示されたのは、脳が露出した異形の写真だった。

 

 『Licker』

 

 レオンは思わず身を乗り出す。

 

 「あいつだ……」

 

 警察署で遭遇した怪物。

 

 壁や天井を自在に這い回り、長い舌で獲物を仕留める異形。

 

 資料には、

 

 『視力は著しく退化』

 

 『聴覚により獲物を捕捉』

 

 と記されていた。

 

 レオンは苦笑する。

 

 「だから歩いていた時は襲われなかったのか」

 

 次郎も静かに頷く。

 

 「やっぱり音だったか」

 

 エイダは続いて別のファイルを開く。

 

 画面へ映し出されたのは、体中に巨大な目を持つ怪物だった。

 

 『G生物』

 

 『G-ウイルス感染体』

 

 『高い再生能力』

 

 『継続的進化能力』

 

 レオンは息を呑む。

 

 「顔は別人ですけど、駐車場や下水道で戦った奴ですね」

 

 「最初に見た時と姿が変わっていたのは進化していたから……」

 

 「そう」

 

 エイダは資料を閉じる。

 

 「傷付けば傷付くほど、新しい姿へ変異する」

 

 「だから一度倒しただけでは終わらない」

 

 次郎は静かに呟いた。

 

 「厄介な敵だな」

 

 さらに最後の資料が表示される。

 

 『T-103』

 

 画面には帽子とロングコートを身につけた大男が映っていた。

 

 レオンの表情が一変する。

 

 「タイラント……」

 

 資料には、

 

 『量産型生物兵器』

 

 『高い命令遂行能力』

 

 『任務対象の完全排除』

 

 と記されている。

 

 「警察署で俺たちを追ってきた奴か」

 

 レオンは悔しそうに拳を握った。

 

 「あれが量産品だったなんて……」

 

 「今まで戦ってきた化け物は、すべてこの研究所で生み出された」

 

 エイダはモニターを閉じ、静かに言った。

 

 「ここが惨劇の始まり」

 

 「アンブレラの中枢よ」

 

 部屋に重苦しい沈黙が流れる。

 

 エイダはさらに検索を続けた。

 

 そして、一件の極秘ファイルが表示される。

 

 『主任研究員 ウィリアム・バーキン』

 

 エイダはその資料を開いた。

 

 そこには事件発生までの経緯が克明に記録されていた。

 

 『本社はG-ウイルス回収を命令』

 

 『バーキンは命令を拒否』

 

 『特殊部隊を派遣』

 

 『研究所内で銃撃戦発生』

 

 『バーキン重傷』

 

 レオンは目を見開く。

 

 「アンブレラ同士で撃ち合ったのか……」

 

 エイダは続きを表示する。

 

 『瀕死となったバーキンはG-ウイルスを自己投与』

 

 『暴走開始』

 

 『特殊部隊全滅』

 

 『保管中のT-ウイルスが破損』

 

 『下水道を経由しラクーンシティ全域へ流出』

 

 レオンはゆっくり画面から目を離した。

 

 「つまり……」

 

 「街が壊滅した原因は、一人の暴走だけじゃない」

 

 「アンブレラ自身が引き起こした惨劇だった」

 

 「ええ」

 

 エイダは静かに頷く。

 

 「事故なんかじゃない」

 

 「利益を優先し、生物兵器を開発し続けた結果よ」

 

 「ラクーンシティは、その代償になった」

 

 次郎は静かに目を閉じる。

 

 「街一つを犠牲にしても研究を続ける」

 

 「本当に救いようのない組織だな」

 

 レオンは拳を強く握り締めた。

 

 「絶対に許せない」

 

 その瞬間だった。

 

 館内放送が鳴り響く。

 

 『警告』

 

 『研究施設内において重大な生体反応を確認』

 

 『全職員は直ちに警戒区域より退避してください』

 

 機械的な音声が何度も繰り返される。

 

 ピッ。

 

 ピッ。

 

 赤い警告灯が研究所内を染め上げた。

 

 エイダは素早く端末を閉じる。

 

 「バーキンが動き始めたわ」

 

 レオンはショットガンの装填を確認し、深く息を吸う。

 

 「今度こそ決着をつけます」

 

 次郎もリボルバーのシリンダーを開き、残弾を確かめて静かに閉じた。

 

 金属音が静寂に響く。

 

 「真相は分かった」

 

 「後は終わらせるだけだ」

 

 エイダはハンドガンを構え、無言で先頭へ立つ。

 

 レオンはその後ろに続き、次郎も荒い呼吸を押し殺しながら歩き出した。

 

 警報が鳴り響くNESTの最深部。

 

 三人は、それぞれの覚悟を胸に、ウィリアム・バーキンとの決着が待つ研究所の奥深くへと足を踏み入れた。

 

 





分かっていた人は多いと思いますが、アリスという愛称は態とです。
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