元殺し屋がバイオ事件に巻き込まれる話   作:オッパッピー

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本日二度目の投稿です。


Chapter7 研究所 Part2

 警報が鳴り響く研究所を、三人は足早に進んだ。

 

 赤い警告灯が一定の間隔で点滅し、白く整然としていた廊下を不気味な赤色へ染め上げている。

 

 壁や床には鋭い爪痕が刻まれ、所々に飛び散った血痕が生々しく残されていた。

 

 ガラス越しの実験室では培養槽が破壊され、緑色の培養液が床へ流れ出している。

 

 レオンはショットガンを構えたまま辺りを見回した。

 

 「バーキンが暴れた跡でしょうか」

 

 エイダは割れたガラスへ目を向け、小さく頷く。

 

 「恐らくね」

 

 「G生物は進化するたびに破壊力も増していく」

 

 「この施設のどこに現れても不思議じゃない」

 

 次郎は壁に残る巨大な裂傷へ視線を向けた。

 

 「怪物一体で、ここまで壊せるのか……」

 

 その時だった。

 

 ピッ。

 

 通路脇の案内端末が目に留まる。

 

 レオンは操作画面を起動した。

 

 「研究所のマップです」

 

 三人は画面を囲む。

 

 そこには研究所全体の見取り図が表示されていた。

 

 『中央制御室』

 

 『温室』

 

 『低温実験室』

 

 『薬品保管庫』

 

 『管理主任室』

 

 『高度滅菌室』

 

 レオンは画面を見ながら呟く。

 

 「かなり広いですね」

 

 「迷ったら戻れなくなりそうです」

 

 エイダは冷静に画面を確認する。

 

 「重要区画には認証レベルが設定されている」

 

 「一般職員では入れない場所があるみたい」

 

 次郎は薬品保管庫の表示へ目を止めた。

 

 「薬品保管庫か」

 

 「抗ウイルス剤の資料があるなら、この辺りだろう」

 

 「私もそう思う」

 

 エイダは頷いた。

 

 「でも管理主任以上の認証が必要ね」

 

 レオンはため息を吐く。

 

 「また鍵探しですか」

 

 「ゲームみたいですね」

 

 次郎は苦笑した。

 

 「現実でやるには面倒だな」

 

 三人はマップの情報を頭へ入れると、再び廊下を進み始めた。

 

 その途中だった。

 

 一人の研究員が壁にもたれ掛かったまま動かない。

 

 白衣は胸元から真っ赤に染まり、社員証が首からぶら下がっていた。

 

 レオンは近付こうとする。

 

 しかし次郎が静かに右手を上げた。

 

 「待て」

 

 レオンは足を止める。

 

 「どうしました?」

 

 次郎は研究員から視線を外さない。

 

 「呼吸はない」

 

 「だが、まだ動く可能性がある」

 

 「不用意に近付くな」

 

 レオンは拳銃へ持ち替え、慎重に距離を詰める。

 

 その瞬間。

 

 研究員の肩が小さく震えた。

 

 濁った瞳がゆっくりと開く。

 

 「ガァァ……」

 

 レオンは反射的に照準を合わせる。

 

 パンッ!

 

 銃声が研究所へ響いた。

 

 弾丸は研究員の眉間を正確に撃ち抜き、その身体は力なく床へ崩れ落ちる。

 

 静寂が戻った。

 

 レオンは銃を下ろし、小さく息を吐く。

 

 「危なかった……」

 

 次郎は静かに頷く。

 

 「よく見ていた」

 

 「その調子だ」

 

 レオンは少し照れくさそうに笑った。

 

 「アリスさんのおかげです」

 

 三人は再び歩き出す。

 

 その時――

 

 ズ……。

 

 ズズ……。

 

 重い何かを引きずる音が廊下の奥から聞こえてきた。

 

 エイダは即座に拳銃を構える。

 

 「来る」

 

 非常灯の明かりの中へ、一人の研究員が姿を現した。

 

 片足を引きずり、白衣は無数の裂傷で破れている。

 

 その後ろから二体。

 

 さらに脇道から一体。

 

 レオンは瞬時に数を数えた。

 

 「四体」

 

 「距離十五メートル」

 

 次郎が一歩前へ出る。

 

 「俺が前を片付ける」

 

 パンッ。

 

 先頭の研究員が倒れる。

 

 続けて二発。

 

 パンッ。

 

 パンッ。

 

 左右から迫っていた二体も床へ崩れ落ちた。

 

 残る一体だけが突然駆け出す。

 

 「レオン!」

 

 「任せてください!」

 

 パンッ!

 

 最後の一発が研究員の頭部を撃ち抜き、勢いのまま床を滑った。

 

 静寂が戻る。

 

 エイダは周囲を見渡し、小さく息を吐く。

 

 「片付いたわね」

 

 その時、通路脇の扉へ次郎の視線が止まる。

 

 『薬品保管庫』

 

 「見つけた」

 

 レオンも表示を確認する。

 

 「ここですね」

 

 エイダは操作端末へ社員認証を試みる。

 

 しかし画面には赤い文字が表示された。

 

 『管理主任認証が必要です』

 

 エイダは首を横へ振る。

 

 「駄目」

 

 「予想どおりね」

 

 レオンは苦笑する。

 

 「結局、認証カードを探さないといけませんか」

 

 次郎は少し考え込む。

 

 「なら管理主任室だな」

 

 「認証を持っているなら、そこにいる可能性が高い」

 

 三人はマップを確認し、管理主任室へ向かうことを決めた。

 

 廊下は再び静けさを取り戻していた。

 

 しかし、その静けさがかえって不気味だった。

 

 歩き始めて数分。

 

 次郎の足取りがわずかに乱れる。

 

 レオンはすぐに肩を支えた。

 

 「アリスさん!」

 

 次郎は苦笑しながら姿勢を立て直す。

 

 「すまない」

 

 「身体が少し重くなってきた」

 

 レオンは心配そうに顔を曇らせる。

 

 「もう無理はしないでください」

 

 「ここまで来たんです」

 

 「きっと治療法があります」

 

 次郎は静かに頷いた。

 

 「ああ」

 

 「だからこそ、最後まで歩く」

 

 エイダは前方を警戒しながら歩みを止めない。

 

 やがて一枚のプレートが見えてきた。

 

 『管理主任室』

 

 「着いたわ」

 

 だが扉は半開きになっていた。

 

 室内から薄暗い光だけが漏れている。

 

 レオンは拳銃を構え、静かに息を整えた。

 

 「入ります」

 

 ギィ……。

 

 ゆっくりと扉が開き、荒らされた管理主任室が姿を現した――。

 

 

 

 管理主任室の中は無残な有様だった。

 

 机は横倒しになり、書類は床一面へ散乱している。

 

 壁には銃弾の痕が残り、割れたガラスの破片が足元で光を反射していた。

 

 レオンは拳銃を構えたまま室内へ足を踏み入れる。

 

 「誰かいますか……?」

 

 返事はない。

 

 聞こえるのは警報音と空調設備の低い駆動音だけだった。

 

 三人は慎重に室内を調べ始める。

 

 エイダは机の上に残された端末を起動した。

 

 画面には途中で途切れた業務記録が表示される。

 

 『薬品保管庫への入室には管理主任認証が必要』

 

 『試作抗ウイルス剤は高度滅菌室へ移送済み』

 

 『無断搬出禁止』

 

 レオンは画面を見て頷いた。

 

 「薬品保管庫の情報は間違っていませんでした」

 

 「次は高度滅菌室ですね」

 

 エイダは端末の電源を落とした。

 

 「その前に認証カードを確保する」

 

 「そうしないと何も始まらないわ」

 

 部屋の奥には大きな執務机があり、その向こう側で一人の男性が机へ寄り掛かるように倒れていた。

 

 白衣には乾いた血がこびり付き、首には社員証が下がっている。

 

 レオンはゆっくり近付いた。

 

 「管理主任でしょうか……」

 

 次郎は部屋全体を見回しながら答える。

 

 「恐らくな」

 

 「だが油断するな」

 

 レオンは慎重に社員証へ手を伸ばした。

 

 その瞬間だった。

 

 ガシッ!

 

 冷たい手がレオンの手首を掴む。

 

 濁った瞳がゆっくりと開き、血に染まった口元が歪む。

 

 「ガァァァ……」

 

 レオンは反射的に身を引く。

 

 しかし次郎は一歩も動じない。

 

 「……やっぱりな」

 

 パンッ!

 

 乾いた銃声が一発。

 

 弾丸は管理主任の眉間を正確に撃ち抜き、その身体は再び机へ倒れ込んだ。

 

 今度こそ動く気配はない。

 

 レオンは胸を撫で下ろした。

 

 「助かりました」

 

 次郎は小さく笑う。

 

 「お互い様だ」

 

 エイダは管理主任の首から社員証を外し、端末へかざした。

 

 ピッ。

 

 『管理主任権限を確認』

 

 認証完了の文字が表示される。

 

 「使える」

 

 レオンは安堵の表情を浮かべた。

 

 「これで薬品保管庫へ入れます」

 

 その時だった。

 

 館内放送が再び鳴り響く。

 

 『管理主任の認証を確認』

 

 『薬品保管庫への入室を許可します』

 

 続けて別の放送が流れる。

 

 『警告』

 

 『高危険度生体反応を確認』

 

 『研究員は直ちに退避してください』

 

 同じ放送が何度も繰り返される。

 

 次郎はリボルバーを静かに構え直した。

 

 「歓迎されているとは思えないな」

 

 エイダは社員証をポケットへしまう。

 

 「急ぎましょう」

 

 「警戒するべきなのはバーキンだけじゃない」

 

 三人は来た道を引き返し、薬品保管庫へ戻った。

 

 やがて重い自動扉の前へ到着する。

 

 エイダは社員証を認証装置へかざした。

 

 ピッ。

 

 『管理主任認証を確認』

 

 『電子ロック解除』

 

 ガシャン――。

 

 重いロックが解除され、自動扉がゆっくりと開いていく。

 

 三人は慎重に室内へ入った。

 

 薬品保管庫は低温に保たれており、冷たい空気が頬を撫でる。

 

 壁一面には薬品ラックが並び、無数の試薬や培養液が整然と保管されていた。

 

 中央には大型端末と薬品調合装置が設置されている。

 

 エイダは迷わず端末を操作した。

 

 「検索する」

 

 画面へ次々と研究データが表示される。

 

 『T-virus』

 

 『ワクチン』

 

 やがて一件の資料が表示された。

 

 『T-ウイルス抗ウイルス剤試作計画』

 

 レオンは思わず声を上げる。

 

 「本当にあった……!」

 

 エイダは内容を読み進める。

 

 「感染初期なら進行を抑制できる可能性がある」

 

 「まだ試作段階だけど、希望はある」

 

 レオンは次郎を振り返る。

 

 「アリスさん!」

 

 「まだ助かります!」

 

 しかし次郎は冷静だった。

 

 「完成品はあるのか?」

 

 エイダはさらに資料をスクロールする。

 

 数秒後、小さく頷いた。

 

 「一つだけ、試作品じゃない物があるわ」

 

 「完成した抗ウイルス剤が高度滅菌室の保管庫へ移されている」

 

 レオンの表情が明るくなる。

 

 「じゃあ取りに行けば――」

 

 「でも、そう簡単じゃない」

 

 エイダが言葉を遮る。

 

 「最高レベルの認証が必要」

 

 「それに……」

 

 彼女は画面を見つめたまま眉をひそめる。

 

 「保管庫の解除には特殊な手順があるみたい」

 

 その時だった。

 

 ガンッ!

 

 保管庫の扉へ鈍い衝撃音が響く。

 

 三人は同時に振り返る。

 

 ガンッ!

 

 再び扉が揺れる。

 

 その直後、廊下から複数の唸り声が聞こえてきた。

 

 「ガァァ……」

 

 「ウゥゥ……」

 

 レオンは息を呑む。

 

 「さっきの銃声と電子ロックの音に集まってきたのか……!」

 

 衝撃音は次第に増えていく。

 

 ガンッ!

 

 ガンッ!

 

 ガンッ!

 

 次郎は素早く周囲を見回した。

 

 「正面突破は、さすがに危険だな」

 

 「少し待って」

 

 「別の出口を探す」

 

 エイダは保管庫の見取り図を表示する。

 

 「非常搬入口へ通じる扉があるわ」

 

 「こっちよ!」

 

 三人は保管庫の奥へ走った。

 

 エイダは非常扉の解除レバーを引く。

 

 ガコンッ。

 

 重いロックが外れ、扉がゆっくりと開き始める。

 

 その瞬間――

 

 バァンッ!!

 

 正面の自動扉が押し破られた。

 

 十数体の研究員ゾンビが一斉に保管庫へ雪崩れ込んでくる。

 

 「ガァァァァ!」

 

 「急いで!」

 

 レオンが叫ぶ。

 

 エイダが最初に非常扉を抜け、続いてレオンが飛び込む。

 

 最後尾の次郎は振り返り、リボルバーを構えた。

 

 パンッ!

 パンッ!

 

 先頭の二体を撃ち抜く。

 

 倒れたゾンビへ後続が躓き、一瞬だけ動きが止まる。

 

 「今だ!」

 

 次郎も非常扉を抜ける。

 

 レオンは全身の力で扉を押し閉めた。

 

 ガシャンッ!

 

 電子ロックが作動する。

 

 ドンッ!

 

 ドンッ!

 

 ゾンビたちが何度も扉へ体当たりを続ける。

 

 しかし分厚い防火扉は開かなかった。

 

 レオンは肩で息をしながら笑う。

 

 「間一髪でしたね」

 

 エイダは端末から持ち出した記録媒体を確認する。

 

 「抗ウイルス剤の場所は分かった」

 

 「次は高度滅菌室よ」

 

 次郎は壁へ手を付きながら荒い呼吸を整えた。

 

 身体は確実に重くなっている。

 

 それでも瞳の奥に諦めの色はない。

 

 「行こう」

 

 三人は薄暗い搬送通路を進み始める。

 

 その先の通気ダクトの奥から、不気味な低い唸り声が静かに響いていた。

 

 




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