元殺し屋がバイオ事件に巻き込まれる話   作:オッパッピー

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本日一度目の投稿です。


Chapter7 研究所 Part3

 高度滅菌室へ続く通路は、これまで以上に静まり返っていた。

 

 白い壁には非常灯の淡い光が反射し、無機質な空間がどこまでも続いている。

 

 空気は冷たく、わずかな振動すら吸い込むような静寂だった。

 

 レオンはショットガンを構えたまま周囲を見回した。

 

「さっきまでと違って、静かですね」

 

 エイダは歩みを止めず、低く答える。

 

「静かだから安全とは限らない」

 

「こういう場所ほど警戒した方がいい」

 

 次郎もリボルバーを構えたまま視線を巡らせる。

 

「気配は……ないな」

 

「だが、嫌な感じがする」

 

 胸の奥がざわつく。

 

 感染による発熱だけではない。

 

 殺し屋として幾度も死線を潜り抜けてきた経験が、目に見えない危険を訴えていた。

 

 三人は慎重に進み、巨大な自動扉の前へ辿り着く。

 

 扉には、

 

『高度滅菌室』

 

 と表示されていた。

 

 エイダは管理主任の社員証を端末へかざす。

 

 ピッ。

 

『認証確認』

 

『高度滅菌室への入室を許可します』

 

 重厚な扉がゆっくり左右へ開いていく。

 

 ガァァン……。

 

 冷たい空気が通路へ流れ出した。

 

 三人は武器を構えたまま室内へ入る。

 

 室内には大型滅菌装置と無数の保管ケースが規則正しく並び、青白い照明だけが静かに輝いていた。

 

 音が吸い込まれるような静寂が支配している。

 

 レオンは思わず息を漏らす。

 

「すごい設備ですね……」

 

 エイダは中央制御端末へ歩み寄る。

 

「ここなら完成品が保管されていても不思議じゃない」

 

 彼女は素早く端末を操作した。

 

 保管リストが表示される。

 

 その中に目的の項目があった。

 

『抗T-ウイルス剤 試作完成品』

 

 レオンの表情が明るくなる。

 

「あった!」

 

 しかし次の瞬間、画面が赤く染まる。

 

『保管庫ロック中』

 

『冷却装置停止』

 

『非常電源復旧後に解除』

 

 エイダは小さく息を吐いた。

 

「まだ取り出せない」

 

「冷却装置が停止したままじゃ保管庫は開かない」

 

 レオンは肩を落とす。

 

「また一手間ですか」

 

 次郎は苦笑しながら頷く。

 

「ああ」

 

「ここまで来たんだ」

 

「最後まで諦めるつもりはない」

 

 その時だった。

 

 館内放送が鳴り響く。

 

『警告』

 

『高危険度生体反応接近』

 

『繰り返します。高危険度生体反応接近』

 

 三人は同時に武器を構えた。

 

 静まり返っていた空間へ、重い振動が響き始める。

 

 ドン。

 

 ドン。

 

 ドン。

 

 床が揺れる。

 

 レオンはショットガンを握り締めた。

 

「来ます……!」

 

 通路の奥から巨大な影が姿を現した。

 

 三人は息を呑む。

 

 全身は異常なまでに肥大化した筋肉と赤黒い肉塊に覆われ、人間だった頃の腕は背中へ押し上げられ、代わりに胸部の両脇から巨大な二本の腕が生えている。

 

 左太腿、背中、右胸には巨大な眼球。

 

 胸の中央では、心臓のような赤黒い肉塊が脈打っていた。

 

 ドクン。

 

 ドクン。

 

 レオンは震える声で呟く。

 

「バーキン……」

 

 エイダは目を細める。

 

「さらに進化している」

 

「G生物の変異はまだ終わっていない」

 

 次郎は怪物から目を離さない。

 

「もう人間じゃない」

 

「本能だけで動く怪物だ」

 

 怪物は巨大な腕を床へ叩き付けた。

 

 ドゴォォォン!!

 

 床が砕け、研究所全体が激しく揺れる。

 

 直後、咆哮とともに突進してきた。

 

「来るぞ!」

 

 次郎の声で三人は左右へ飛び退く。

 

 巨大な腕が床を砕き、コンクリート片が飛び散る。

 

 怪物はそのまま最も近いレオンへ向きを変えた。

 

「レオン、避けて!」

 

 エイダの声が飛ぶ。

 

 レオンは反射的に横へ転がった。

 

 直後、巨大な腕が彼のいた場所を叩き潰す。

 

「助かりました!」

 

 次郎はすかさずリボルバーを構える。

 

 パンッ!

 パンッ!

 パンッ!

 

 三発の弾丸が右胸の眼球へ命中した。

 

 怪物は苦しげに唸る。

 

 だが止まらない。

 

 レオンは体勢を立て直し、ショットガンを発砲する。

 

 ドォンッ!!

 

 散弾が右胸を吹き飛ばす。

 

 怪物はよろめく。

 

 エイダも左太腿の眼球を狙って連射した。

 

 パンッ!

 

 パンッ!

 

 眼球が弾け飛ぶ。

 

「今よ!」

 

 しかし怪物は怒り狂ったように次郎へ向き直った。

 

 巨大な腕を振り上げ、一気に距離を詰める。

 

 その瞬間、次郎の視界が一瞬だけ霞んだ。

 

 熱が全身を駆け巡る。

 

 足がわずかによろめく。

 

「くっ……!」

 

 間一髪で回避するが、腕の風圧だけで身体が吹き飛ばされる。

 

 床を転がりながらも、すぐ立ち上がる。

 

 レオンが叫んだ。

 

「アリスさん!」

 

「大丈夫だ!」

 

 次郎は短く答える。

 

 

 ドォンッ!!

 

 レオンのショットガンが裂け目へ命中する。

 

 胸の肉塊が完全に露出した。

 

「グォォォォォッ!!」

 

 怪物は苦悶の咆哮を上げ、大きく仰け反る。

 

「今だ!」

 

 次郎はリボルバーをホルスターに収め、ナイフを抜き放つと、一気に懐へ飛び込む。

 

 狙うのは心臓のように脈打つ肉塊。

 

 ナイフは深々と突き刺さる。

 

 怪物は絶叫した。

 

 しかし、次郎は一突きで終わらせない。

 

 何度も、何度も、何度も。

 

 肉塊を抉るようにナイフを突き立てる。

 

 赤黒い体液が噴き出す。

 

「グォォォォォォォォッ!!」

 

 怪物は理性を失ったように咆哮し、巨大な腕を無秩序に振り回し始めた。

 

「アリスさん!」

 

 レオンの叫びに反応し、次郎はナイフを引き抜くと、その反動を利用して後方へ飛び退く。

 

 三人は一斉に距離を取った。

 

 暴走したバーキンは壁、床、滅菌装置を次々と破壊していく。

 

 配管が裂け、高圧蒸気が噴き出した。

 

 天井の照明が激しく点滅する。

 

 そして巨大な腕が床を何度も叩き付けた。

 

 ドゴォン!!

 

 ドゴォォン!!

 

 床に大きな亀裂が走る。

 

「まずい!」

 

 レオンが叫ぶ。

 

 ズズズズズ……

 

 怪物の足元から床が沈み始めた。

 

「全員離れろ!」

 

 次郎の声と同時に三人は飛び退く。

 

 直後、轟音とともに床が崩壊した。

 

 バーキンは瓦礫と研究設備を巻き込みながら階下へ落下していく。

 

 咆哮だけが研究所へ長く響き渡った。

 

 静寂が戻る。

 

 レオンは崩落した穴を見下ろす。

 

「倒せた……とは思えませんね」

 

「また襲ってくるかもしれません」

 

 次郎は息を整えながら頷いた。

 

「ああ」

 

「多分、まだ終わってない」

 

「奴は生きていると考えた方がいい」

 

 その直後、崩落で切断されていた非常電源回路が再接続され、停止していた冷却システムがフェイルセーフ機能により自動復旧を開始した。

 

 館内へ電子音が響く。

 

 ピッ――。

 

『冷却システム復旧』

 

『保管庫ロック解除』

 

 重厚な保管庫の扉が、低い駆動音を響かせながらゆっくりと左右へ開いていく。

  

 冷気が辺りへ流れ出し、白い霧が床を這うように広がった。

 

 三人は崩落した穴から視線を外し、保管庫へ向かった。

 

 レオンはショットガンを構えたまま周囲を警戒している。

 

 次郎も静かに周囲を警戒し、頷く。

 

「クリア」

 

「急ごう」

 

 保管庫の中は外気よりさらに低温に保たれていた。

 

 透明な保管ケースが整然と並び、その中央には一つだけ厳重な固定具で封印されたケースが置かれている。

 

 ケースのラベルには、はっきりと記されていた。

 

『抗T-ウイルス剤 試作完成品』

 

 レオンは思わず息を呑む。

 

「これが……」

 

 エイダは端末を操作し、最後のロックを解除する。

 

 カチッ。

 

 保管ケースがゆっくりと開いた。

 

 中には淡い青色の液体が入った専用アンプルが一本だけ収められている。

 

 エイダは慎重に手を伸ばした。

 

 その瞬間――。

 

 ミシッ。

 

 戦闘で損傷していた天井が軋む。

 

「まずい!」

 

 叫ぶと同時に、次郎はエイダの手首を掴んだ。

 

 強く引き寄せられたエイダの身体が次郎の方へ倒れ込む。

 

 直後――。

 

 ドォォン!!

 

 崩れ落ちた鉄骨が保管庫へ激突した。

 

 激しい衝撃で保管ケースが吹き飛び、アンプルが床へ叩きつけられる。

 

 パリンッ!!

 

 青い薬液が床へ飛び散った。

 

 三人は息を呑む。

 

 レオンは呆然と割れたガラス片を見つめた。

 

「そんな……」

 

 試作完成品は跡形もなく砕け散っていた。

 

 しばらく沈黙が流れる。

  

 やがてエイダが静かに口を開いた。

 

「……仕方ないわ」

 

 彼女は次郎へ視線を向ける。

 

「抗ウイルス剤は失われた」

 

「でも診療室の解析では、アリスの身体はTウイルスを拒絶するどころか、均衡を保ちながら適応し始めていた」

「後はあなた自身が適応できる可能性に賭けましょう」

 

 レオンは不安そうに次郎を見る。

 

「アリスさん……」

 

 次郎は割れたアンプルへ一瞬だけ視線を落とし、小さく頷いた。

 

「ああ」

 

「ここまで来たんだ」

 

「最後まで自分の身体を信じるよ」

 

 その時だった。

 

 研究所全体へ鋭い警報音が鳴り響く。

 

『警告』

 

『研究所中枢機能に重大な損傷を確認』

 

『全職員は直ちに避難してください』

 

『自爆システムを起動します』

 

『爆破まで、残り二十分』

 

 ラクーンシティ地下研究所「NEST」は、終焉への最後のカウントダウンを始めていた。

 

 




今回は難産でした。
それと自分の技量ではどう頑張っても制限時間10分で話を纏める事ができず、制限時間を20分に延長しました。
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