元殺し屋がバイオ事件に巻き込まれる話   作:オッパッピー

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本日二度目の投稿です。


Chapter7 研究所 Part4

 研究所中へ警報音が鳴り響く。

 

 赤い非常灯が規則正しく点滅し、白い廊下を不気味な赤色へ染め上げていた。

 

 館内放送が冷たい機械音声で告げる。

 

 『自爆システム起動中』

 

 『爆破まで、残り十八分』

 

 三人は中央通路を全力で駆け抜ける。

 

 レオンはショットガンを構えながら周囲を警戒した。

 

 「急ぎましょう!」

 

 「時間がありません!」

 

 次郎もリボルバーを構えたまま頷く。

 

 「ああ」

 

 「バーキンも追ってくる」

 

 「最後まで気を抜くな」

 

 感染による高熱で全身は鉛のように重い。

 

 呼吸も徐々に荒くなっていた。

 

 それでも足だけは止めない。

 

 止まれば死ぬ。

 

 そのことを誰よりも理解していた。

 

 その時だった。

 

 エイダが突然立ち止まる。

 

 通路脇の案内板へ視線を向けていた。

 

 『高危険度試料保管区画』

 

 その表示を見つめたまま、静かに口を開く。

 

 「……悪いけど」

 

 「ここで分かれるわ」

 

 レオンが驚いて振り返る。

 

 「え?」

 

 「今ですか?」

 

 エイダは迷いなく頷いた。

 

 「確認しなければならない物がある」

 

 「それを回収しないと意味がない」

 

 レオンは首を横へ振る。

 

 「今から別行動なんて危険です!」

 

 「三人で行けば――」

 

 「駄目よ」

 

 エイダは穏やかに遮った。

 

 「時間がないわ」

 

 「あなたたちは脱出を優先して」

 

 次郎は静かにエイダを見つめる。

 

 その瞳に迷いはなかった。

 

 止めても無駄だと悟る。

 

 「……無茶はするなよ」

 

 「必ず追いついて来い」

 

 エイダは小さく微笑んだ。

 

 「ええ」

 

 「約束する」

 

 そう言い残し、拳銃を構えたまま脇道へ走り去る。

 

 レオンはその背中を見送り、小さく息を吐いた。

 

 「エイダさん……」

 

 次郎はレオンの肩を軽く叩く。

 

 「信じよう」

 

 「俺たちは先へ進む」

 

 二人は再び走り出した。

 

 研究所では隔壁が次々と閉鎖を始めていた。

 

 シャァァン――。

 

 金属製シャッターが降下し、避難経路は少しずつ限定されていく。

 

 『爆破まで、残り十七分』

 

 途中、研究員ゾンビ三体が通路を塞ぐ。

 

 「任せてください!」

 

 レオンがショットガンを構える。

 

 ドォンッ!!

 

 轟音とともに先頭のゾンビが吹き飛ぶ。

 

 残る二体へ、次郎が冷静に照準を合わせた。

 

 パンッ。

 

 パンッ。

 

 二発。

 

 頭部を撃ち抜かれたゾンビは崩れ落ちる。

 

 二人は止まらず走る。

 

 だが途中で次郎の足が一瞬もつれた。

 

 レオンがすぐ支える。

 

 「アリスさん!」

 

 「大丈夫ですか!」

 

 「心配するな」

 

 「まだ走れる」

 

 レオンは心配そうに頷く。

 

 「無理だけはしないでください」

 

 やがて巨大な搬送用エレベーター前へ到着する。

 

 ここが最下層へ向かう最後のルートだった。

 

 レオンは管理主任カードを認証装置へかざす。

 

 ピッ。

 

 『認証確認』

 

 『搬送用エレベーターを呼び出しています』

 

 低い駆動音が響く。

 

 二人は自然と背中合わせになった。

 

 静かだった。

 

 静か過ぎる。

 

 「……今の、聞こえましたか?」 

 

 次郎が息を整えながら振り返る。   

 

 「何だ?」

 

 レオンは耳を澄ませるように周囲を警戒する。

 

 「足音です」

 

 「重い……一定の間隔で」

 

 次郎も注意深く周囲へ視線を走らせる。 

 

 その直後――。

 

 ズン。

 

 ズン。

 

 ズン。

 

 レオンは息を呑んだ。

 

 「……この音、まさか」

 

 次郎は荒い呼吸を整えながら、ゆっくりとリボルバーを構えた。

 

 「だよな……忘れようにも忘れられん」

 

 

 暗闇から巨大な影が姿を現す。

 

 帽子を失い、裂けたロングコート。

 

 灰色の皮膚。

 

 感情を持たない瞳。

 

 タイラントだった。

 

 レオンは息を呑む。 

 

 「……また、お前か」 

 

 次郎はリボルバーを構えながら、静かに言った。

 

 「レオン」

 

 「無理に倒そうとは思うな」

 

 「時間を稼いで、隙を見てエレベーターに乗り込むぞ」

 

 「了解!」

 

 その瞬間。

 

 『搬送用エレベーター到着まで約一分』

 

 館内放送が流れる。

 

 「一分なら……!」

 

 レオンはショットガンを握り直した。

 

 

 タイラントは歩みを止めない。

 

 赤い非常灯の中、その巨体が一歩進むたびに床が低く唸った。

 

 ズン。

 

 ズン。

 

 ズン。

 

 レオンはショットガンを静かに構える。

 

 ドォンッ!!

 

 散弾がタイラントの胸へ命中する。

 

 しかしタイラントは止まらない。

 

 ただ、わずかに歩調が揺らいだだけだった。 

 

 次郎は一瞬の隙を逃さず、膝へ照準を合わせる。

 

 パンッ!

 パンッ!

 

 タイラントは僅かによろめく。

 

 「効いてる。レオン、距離を取れ」

 

 短く、冷静な声が響いた。

 

 

 その時だった。

 

 研究所全体がグラグラと激しく揺れた。

 

 天井から粉塵が舞う。

 

 照明が明滅する。

 

 館内放送が切り替わる。

 

 『警告』

 

 『搬送路に障害を確認』

 

 『崩落した瓦礫を除去中』

 

 『搬送用エレベーターを一時停止します』

 

 レオンの表情が凍り付く。

 

 「そんな!」

 

 次郎は揺れの収まった天井を見上げる。

 

 「……今の揺れが原因か」

 

 『搬送路復旧作業開始』

 

 『到着予定時間まで、約三分』

 

 レオンは唇を噛む。

 

 「三分も……」

 

 次郎はタイラントを見据えた。

 

 「ああ」

 

 「三分間、絶対に生き延びてやる」

 

 ズン。

 

 ズン。

 

 ズン。

 

 タイラントは一定の歩調を崩すことなく、ゆっくりと二人へ迫ってくる。

 

 レオンはショットガンを構え直した。

 

 ドォンッ!!

 

 轟音とともに散弾が胸部へ炸裂する。

 

 黒いロングコートがさらに裂け、灰色の皮膚が露わになった。

 

 しかし、タイラントは一歩よろめいただけだった。

 

 「やっぱり止まらない!」

 

 レオンが歯を食いしばる。

 

 次郎は冷静にリボルバーを構えた。

 

 「あくまで時間稼ぎだ」

 

 「無理に倒そうとするな」

 

 パンッ!

 

 パンッ!

 

 弾丸が両膝へ命中する。

 

 タイラントの動きがわずかに鈍る。

 

 レオンはその隙を逃さず距離を取り、さらにショットガンを撃ち込んだ。

 

 ドォンッ!!

 

 肩口へ散弾が命中し、巨体は二歩ほど後退する。

 

 それでも、また無言で歩き始めた。

 

 まるで痛みという概念が存在しないかのようだ。

 

 『爆破まで、残り十四分』

 

 冷たい機械音声が響く。

 

 その時だった。

 

 パンッ!

 

 乾いた銃声が通路へ響く。

 

 弾丸がタイラントの頭部へ命中し、その視線がわずかに逸れた。

 

 「このままじゃ逃げられないから、援護するわ」

 

 聞き慣れた声だった。

 

 「エイダさん!」

 

 通路の奥からエイダが歩み寄ってくる。

 

 右手には拳銃。

 

 左手には小型の耐衝撃ケースが握られていた。

 

 彼女は二人の隣へ並ぶ。

 

 「用事は済ませた」

 

 「待たせたわね」

 

 レオンは安堵の表情を浮かべる。

 

 「追いつけたんですね、良かった……!」

 

 次郎も小さく笑う。

 

 「あんた、約束はちゃんと守るタイプだな」

 

 エイダも口元だけで微笑んだ。

 

 「もちろん」

 

 

 タイラントはゆっくりと三人へ向き直る。

 

 「来るぞ!」

 

 次郎の合図で三人は三方向へ展開した。

 

 レオンが正面。

 

 エイダが左。

 

 次郎が右。

 

 三方向から銃火を浴びせる。

 

 ドォンッ!!

 

 レオンのショットガンが胸部へ命中する。

 

 パンッ!

 

 パンッ!

 

 エイダが肩と首を正確に撃ち抜く。

 

 タイラントの標的がエイダへ変わる。

 

 その隙に次郎が頭部へ二発。

 

 パンッ!

 パンッ!

 

 

 タイラントは数歩後退した。

 

 その巨体が、ゆっくりと片膝をつく。

 

 「……ようやく倒れたか?」

 

 レオンが息を吐き、わずかに肩の力を抜いた。

 

 その瞬間だった。

 

 ドクン。

 

 タイラントの胸部が不自然に脈動する。

 

 次郎の表情が険しく変わる。

 

 「レオン、油断するな!」

 

 ビリッ――。

 

 ロングコートが内側から膨れ上がり、裂け目が走る。

 

 「なっ……!」

 

 レオンが目を見開く。

 

 ズズッ……!

 

 筋肉が異常な速度で膨張し、灰色の皮膚が赤黒く変色していく。

 

 片膝をついたまま、タイラントは震えていた。

 まるで内部で何かが暴れているかのように。

 

 エイダが低く呟く。

 

 「変異が始まってる……!」

 

 次郎は即座に叫ぶ。

 

 「距離を取れ!」

 

 次の瞬間――。

 

 胸部が爆発するように膨れ上がり、

 巨大な鉤爪が皮膚を突き破って飛び出した。

 

 「グォォォォォォォッ!!」

 

 咆哮が通路全体を震わせる。

 

 照明が激しく揺れた。

 

 レオンは息を呑む。

 

 「こいつも進化するのか……!」

 

 エイダは険しい表情で呟く。

 

 「スーパータイラント……」

 

 次郎は無言でシリンダーを開く。

 

 空薬莢が床へ転がる。

 

 残る弾丸を装填する。

 

 しかし予備弾は、もうほとんど残っていなかった。

 

 スーパータイラントが一瞬で踏み込む。

 

 「速い!」

 

 レオンは横へ飛び、鉤爪をかわす。

 

 ドゴォォォンッ!!

 

 床が深々と切り裂かれる。

 

 エイダは側面へ回り込みながら連射した。

 

 パンッ!

 

 パンッ!

 

 パンッ!

 

 スーパータイラントは止まらない。

 

 レオンもショットガンを撃ち込む。

 

 ドォンッ!!

 

 鉤爪の付け根へ命中し、わずかに体勢が崩れる。

 

 「アリス!」

 

 「今よ!」

 

 次郎は露出した心臓へ狙いを定める。

 

 パンッ!

 パンッ!

 パンッ!

 

 三発の弾丸が命中し、スーパータイラントは初めて数歩後退した。

 

 しかし、すぐに咆哮を上げて再び突進してくる。

 

 三人は別方向へ飛び退く。

 

 巨大な鉤爪が床を抉り、コンクリート片が飛び散った。

 

 レオンはショットガンを構え直す。

 

 ドォンッ!!

 

 スーパータイラントの体勢がわずかに揺らぐ。

 

 エイダもすかさず援護射撃を浴びせる。

 

 パンッ!

 

 パンッ!

 

 パンッ!

 

 次郎は露出した心臓へ狙いを定める。

 

 パンッ!

 カチッ。

 

 シリンダーが空転する。

 

 予備弾を探る。

 

 しかし何も残っていなかった。

 

 「……終わりか」

 

 次郎は静かにリボルバーを収める。

 

 腰からサバイバルナイフを抜き放った。

 

 赤い非常灯を受け、刃が鈍く光る。

 

 レオンは目を見開いた。

 

 「アリスさん!」

 

 「まさか!」

 

 次郎は苦笑する。

 

 「悪い、弾切れだ」

 

 「ここからは、これで時間を稼ぐ」

 

 そう言い残すと、ナイフを逆手に握り、スーパータイラントへ駆け出した。

 

 「アリスさん、待って!」

 

 レオンの声は届かない。

 

 巨大な鉤爪が振り下ろされる。

 

 次郎は紙一重でかわし、その懐へ潜り込んだ。

 

 脇腹を切り裂く。

 

 続けて肩口を斬りつける。

 

 さらに露出した心臓へ両手でナイフを突き立てた。

 

 刃は食い込む。

 

 だが、分厚い筋肉に阻まれ、致命傷には至らない。

 

 スーパータイラントが咆哮し、巨大な腕を振るう。

 

 次郎は後方へ跳んでかわす。

 

 「レオン!」

 

 「今だ!」

 

 「了解!」

 

 ドォンッ!!

 

 レオンのショットガンが心臓へ炸裂する。

 

 スーパータイラントが後退する。

 

 エイダも援護射撃を重ねた。

 

 パンッ!

 

 パンッ!

 

 パンッ!

 

 スーパータイラントはレオンへ向きを変える。

 

 その隙に次郎が背後へ回り込む。

 

 再びナイフを突き立てる。

 

 次郎へ向けばレオンとエイダが撃つ。

 

 二人のどちらかに向けば次郎が引きつける。

 

 三人は息の合った連携で時間を稼ぎ続けた。

 

 しかし、感染と失血による疲労は確実に次郎の身体を蝕んでいた。

 

 呼吸は荒く、視界は熱で霞む。

 

 それでも前へ出続ける。

 

 『爆破まで、残り十二分』

 

 館内放送が響く。

 

 レオンが叫ぶ。

 

 「もう時間がない!」

 

 エイダも声を上げる。

 

 「長引けば全員ここで終わる!」

 

 次郎が浅く息を吐き、スーパータイラントを見据えたその時、巨体が低く身を沈める。

 

 その動きを見た瞬間、次郎は危険を察知した。

 

 「まずい!」

 

 飛び退こうとした、その刹那。

 

 巨大な鉤爪が猛スピードで迫り、横薙ぎに振り抜かれる。

 

 避け切れない――。

 

 「アリスさん!!」

 

 レオンの悲鳴にも似た叫びが、研究所に響き渡った。

 

 





いよいよ残り3話で第一章は完結となります。
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