この物語はChatGPT様の力を多大に受けて完成しております。
夜風は生暖かかった。
ラクーンシティの夜は、ほんの数時間前まで平穏そのものだった。
仕事帰りの会社員がバーへ立ち寄り、学生たちは笑いながら家路につく。
どこにでもある、ごくありふれた夜。
その静寂を破ったのは、一人の女性の悲鳴だった。
「助けてぇぇぇっ!誰かぁぁぁ!」
次いで聞こえたのは、男の怒鳴り声。
「来るな! 来るなぁ!」
J's Barを出たばかりの有栖次郎は足を止めた。
悲鳴は住宅街の方角から聞こえる。
迷う理由はない。
次郎はすぐに駆け出した。
通りでは人々が必死の形相で逃げ惑っていた。
子どもの手を引く母親。
転びながら逃げる老人。
買い物袋を放り出し、泣きながら走る若い女性。
誰もが背後を何度も振り返り、恐怖に顔を歪めている。
その流れに逆らうように、次郎は悲鳴のする交差点へ向かった。
角を曲がると、そこには十数人の野次馬が集まっていた。
「救急車はまだか!」
「誰か止血しろ!」
騒然とした人垣をかき分ける。
道路の中央には、一人の中年男性が血溜まりの中へ倒れていた。
肩から胸にかけて肉が大きく抉られ、シャツは真っ赤に染まっている。
次郎は膝をつき、首筋へ指を当てた。
脈は弱い。
だが、まだ生きている。
「聞こえるか?」
男性はゆっくりと瞼を開いた。
焦点の合わない瞳が、次郎を見つめる。
「……た、助けて……」
「何があった?」
男の喉が震える。
「人だ……」
「人?」
「いや……違う……」
呼吸が乱れる。
恐怖で目を見開き、最後の力を振り絞るように呟いた。
「死んだ……はずの……人間が……」
その言葉を最後に、男の体から力が抜けた。
瞳から光が消える。
周囲がどよめいた。
「駄目だ……」
「死んだ」
「なんで救急車は来ないんだ!」
誰もが動揺する中、次郎だけは遺体から目を離さなかった。
(……違う)
右手の指先が、小さく震えた。
筋肉の痙攣ではない。
指がゆっくりと曲がる。
肘が持ち上がる。
やがて男は、ぎこちない動きで上半身を起こした。
「お、おい!」
「生きてるぞ!」
一人の女性が安堵した表情で駆け寄る。
「よかった……!」
次の瞬間だった。
「ガァァァァッ!」
男は獣のような咆哮を上げ、女性へ飛び掛かった。
「きゃあああっ!」
首筋へ噛み付き、肉を引き裂く。
鮮血が噴き出し、女性の絶叫が夜空へ響き渡った。
「痛い!痛い!痛い!」
「やめて!食べないでぇぇ!」
「離れろ!」
「逃げろ!」
人垣は一瞬で崩壊した。
人々は我先に逃げ出し、交差点は混乱に包まれる。
それでも男は噛み付くのをやめない。
蹴り飛ばされても。
怒鳴られても。
肩を殴られても。
まるで痛みを感じていないかのように、獲物へ食らいつき続ける。
次郎は静かに観察する。
(理性がない)
(痛覚も失っている)
男がゆっくりと顔を上げた。
白く濁った瞳。
口いっぱいに血肉を付けた顔。
喉の奥から漏れる獣のような唸り声。
「グルルル……」
その視線が、次郎を捉えた。
男は立ち上がる。
折れた腕がだらりと垂れ下がっている。
それでも構わず、一歩、また一歩と歩いてくる。
そして突然、全力で飛び掛かった。
次郎は半身になってかわす。
伸びてきた腕を掴み、その勢いを利用して地面へ叩き付けた。
鈍い衝撃音が響く。
普通の人間なら、呼吸すらできなくなる一撃だった。
しかし男は、何事もなかったように立ち上がる。
折れた腕を引きずったまま、再び歩き出した。
男が距離を詰める。
右腕を振り上げる。
次郎は最小限の動きでかわし、顎へ掌底を叩き込んだ。
男の体が仰け反る。
そのまま膝蹴りを腹へ叩き込み、さらに肘打ちを首筋へ打ち込む。
暗殺者時代に叩き込まれた連撃。
男は倒れ込む。
しかし、しばらくすると立ち上がって、再び次郎へ向かってくる。
「ガアアアアッ!」
異様な生命力だった。
(急所への打撃が効いてない)
次郎は周囲へ視線を走らせる。
逃げ遅れていた市民たちも、ようやく十分な距離まで離れていた。
巻き込む危険はない。
「……仕方がない」
右手がホルスターへ伸びる。
刹那。
乾いた銃声が、静まり返った夜空へ鋭く響き渡る。
放たれたマグナム弾は、男の心臓を正確に撃ち抜いた。
衝撃で男の体が大きく仰け反り、そのまま背中からアスファルトへ倒れ込む。
交差点は静まり返った。
先ほどまで響いていた悲鳴も止み、誰もが倒れた男を見つめている。
「……死んだのか」
誰かが呟く。
次郎は答えない。
リボルバーを構えたまま、一歩も動かなかった。
あれだけの打撃を受けても立ち上がった相手だ。
油断はできない。
三秒。
五秒。
十秒。
男は微動だにしない。
次郎がゆっくりと銃口を下ろしかけた、その時だった。
遠くからサイレンが近付いてくる。
パトカーが急ブレーキを掛け、交差点へ滑り込んだ。
ドアが勢いよく開き、二人の警官が飛び降りる。
「全員下がれ!」
「何が起きた!」
若い警官が倒れている男へ近付こうとする。
「待ってくれ」
次郎は静かに制止した。
「まだ近付かない方がいい」
警官は怪訝そうな表情を浮かべる。
「君は?」
「近くのJ's Barで用心棒をやっている」
「用心棒?」
その瞬間だった。
倒れていた男の右手が、ぴくりと動く。
次郎の目が鋭く細まる。
「下がって!」
叫ぶより早く、男が勢いよく起き上がった。
胸の中央には風穴が空いている。
それでも構わず、獣のような咆哮を上げて若い警官へ飛び掛かった。
「なっ!?」
完全に不意を突かれた警官は反応できない。
次郎が一歩踏み込む。
左手で警官の襟を掴み、力任せに後方へ引き倒した。
男の歯が空を噛む。
次郎はそのまま距離を取り、リボルバーを構え直した。
(心臓を撃ち抜いても動くのか……)
男は首を不自然に揺らしながら再び歩き始める。
その姿を冷静に観察する。
心臓を貫通しただけでは活動を止められない。
ならば――。
男が再び飛び掛かる。
次郎は半歩だけ横へ動き、避けながら照準を側頭部へ合わせた。
引き金を引く。
パンッ!
二発目の銃声が夜空へ響く。
弾丸は側頭部を撃ち抜き、頭部を大きく破壊した。
男は糸が切れた人形のように崩れ落ちる。
今度は指一本動かなかった。
若い警官は尻もちをついたまま、震える声を漏らす。
「……動かない」
年配の警官が慎重に近付き、遺体を確認する。
「止まった……」
次郎は小さく息を吐いた。
「恐らくだけど」
二人の警官が振り返る。
「脳を破壊しない限り、あれは止まらない」
年配の警官は信じられないという表情を浮かべた。
「そんな馬鹿な……」
だが、目の前の現実がその言葉を否定していた。
その時、年配の警官の無線機から激しいノイズが流れ始める。
『ザーッ……応援を……!』
『東地区が……壊滅……!』
『噛まれた警官が……うわあああっ!』
悲鳴。
銃声。
そして通信は途切れた。
交差点を重苦しい沈黙が包む。
年配の警官は青ざめた顔で無線機を握り締めた。
「……これだけじゃないのか」
次郎も同じ結論に達していた。
この異常事態は、この交差点だけでは終わらない。
その時だった。
街中に設置された防災スピーカーから、突然チャイムが鳴り響く。
『ラクーンシティ緊急対策本部より、市民の皆様へお知らせします。』
若い女性の声だった。
『現在、市内各地で原因不明の暴動が発生しています。市民の皆様は落ち着いて行動し、自宅など安全な場所で待機してくださ――』
ブツッ。
放送が途切れた。
直後、激しいノイズがスピーカーから流れ始める。
『ザーッ……ザーッ……』
そして。
『いやああああああっ!』
女性の絶叫だけが夜空へ響き、放送は完全に途絶えた。
交差点にいた全員が凍り付く。
若い警官が呆然と呟いた。
「本部まで……」
年配の警官は無線機へ怒鳴る。
「本部! 本部応答しろ!」
返ってくるのは雑音だけだった。
その時、遠くの夜空が赤く染まる。
ドォンッ!
腹の底まで響く爆発音。
続いて、もう一つ。
さらにもう一つ。
市街地のあちこちから黒煙が立ち昇り始めた。
次郎は空を見上げる。
(広がるのが早すぎる)
ほんの数十分前まで、ラクーンシティは普段と変わらない夜だった。
それが今では、街全体が悲鳴と銃声に包まれている。
近くの家から、テレビの音声が漏れ聞こえてきた。
『臨時ニュースです。本日発生した暴動について、アンブレラ社はラクーン市警と協力し、市民の安全確保を最優先に対応すると発表しました。』
アンブレラ。
その名を聞いた次郎は眉をひそめる。
昼間のニュースでも耳にした巨大製薬企業。
アークレイ山地で相次いでいた不可解な事件。
点だった情報が、一本の線になり始めていた。
(偶然とは思えない……)
しかし、今は考えている時間はない。
腕時計へ視線を落とす。
午後十時四十分。
「……店」
思わず呟く。
J's Barなら、まだ営業している時間だ。
店長は最後の客が帰るまで店を閉めない。
何より、客を置いて一人だけ逃げるような人ではなかった。
胸騒ぎがした。
「悪い」
次郎は二人の警官へ向き直る。
「俺は戻らないと」
年配の警官は頷く。
「家族か?」
次郎は少しだけ考え、小さく笑った。
「……家族じゃない」
「でも、俺にとって大切な人たちなんだ」
店長は恩人だった。
暗殺者以外の生き方を知らなかった自分に、普通の人生を与えてくれた人。
あの店だけは、失いたくなかった。
若い警官が口を開く。
「俺たちも一緒に――」
その言葉を遮るように、交差点の先から激しい衝突音が響いた。
ドォンッ!
一台のタクシーが制御を失い、電柱へ激突する。
フロントガラスが砕け散り、エンジンから白煙が立ち上った。
運転席のドアが勢いよく開き、中年の運転手が血まみれのまま這い出してくる。
「た、助けてくれ!」
その背後で、ゆっくりと後部座席のドアが開いた。
ギィ……。
ゆっくりと開いた後部座席のドアから、一人の女性が姿を現した。
ワンピースは血で赤黒く染まり、長い髪は乱れて顔に張り付いている。
俯いたまま、ふらつく足取りで車から降り立った。
「助けてくれ!」
運転手は必死に地面を這い、次郎たちの方へ逃げてくる。
「客が……急に……!」
息を切らしながら振り返る。
「急に噛み付いてきたんだ!」
女性がゆっくりと顔を上げた。
白く濁った瞳。
口元には真新しい血がべっとりと付着している。
「ガァァァ……」
低いうなり声を漏らしながら、一歩、また一歩と運転手へ近付いていく。
「く、来るな!」
運転手は後ずさるが、右足を負傷しているらしく思うように動けない。
「警官、運転手を!」
次郎が叫ぶ。
「は、はい!」
若い警官が駆け寄り、運転手を抱え起こして安全な場所へ引きずっていく。
その間に、女は標的を次郎へ変えた。
「ガアアアッ!」
突然、飛び掛かってくる。
次郎は身を引いて、その突進をかわした。
女は勢い余ってアスファルトへ倒れ込む。
だが、すぐに立ち上がる。
肘は擦り切れ、骨が覗いている。
それでも苦しむ様子はまったくない。
(やっぱり同じだ)
理性も、痛覚も失っている。
次郎は静かにリボルバーを構えた。
「……すまない」
パンッ!
乾いた銃声が響く。
弾丸は女の眉間を正確に撃ち抜いた。
女は崩れ落ち、もう動かない。
若い警官が息を呑む。
「ためらわないんですね……」
次郎は女から目を離さず、小さく首を振った。
「これでも、ためらってる」
静かな声だった。
「でも、ためらったせいで助けられる命まで失う方が辛い」
そう言ってリボルバーをホルスターへ戻すと、運転手の前へしゃがみ込んだ。
「怪我を見せてくれ」
運転手は震える手で右腕を差し出す。
袖は裂け、前腕には深い噛み跡が残っていた。
傷口からは血が流れ続けている。
次郎の表情が曇る。
「……噛まれたんだな」
「う、後ろの客が……急に……」
運転手は恐怖で声を震わせる。
「なあ、俺助かるよな……?」
次郎はすぐには答えられなかった。
交差点で死んだ男性。
今、頭を撃ち抜いた女性。
二人とも噛まれた後、あの化け物になった。
嫌な予感が胸を締め付ける。
しかし、確証のないことを口にはできない。
「……まずは止血する」
ハンカチを取り出し、傷口を強く縛る。
「この場では応急処置しかできない。できるだけ早く病院へ行ってくれ」
年配の警官が力強く頷いた。
「彼はこちらで病院へ搬送する」
若い警官も運転手を支えながら立ち上がる。
「ありがとうございます」
その時だった。
遠くの繁華街から、無数の悲鳴が一斉に響き渡る。
銃声。
爆発音。
そして、人間とは思えない低いうなり声。
ラクーンシティ全体が、ゆっくりと地獄へ姿を変え始めていた。
次郎は繁華街の方角を見据える。
その先には、J's Barがある。
(店長……)
胸騒ぎは、もはや予感ではなかった。
次郎は二人の警官へ軽く頷く。
「任せた」
それだけ言い残し、繁華街へ向かって全力で駆け出した。
彼が目指すのは、第二の人生を与えてくれた場所。
そして、守ると決めた人たちの待つ店だった。
地の文では主人公を次郎、外国人からの呼ばれ方をアリスとしているのは仕様です。