元殺し屋がバイオ事件に巻き込まれる話   作:オッパッピー

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この物語はChatGPT様の力を多大に受けて完成しております。


Chapter2 悪夢の始まり Part1

 夜風は生暖かかった。

 

 ラクーンシティの夜は、ほんの数時間前まで平穏そのものだった。

 

 仕事帰りの会社員がバーへ立ち寄り、学生たちは笑いながら家路につく。

 

 どこにでもある、ごくありふれた夜。

 

 その静寂を破ったのは、一人の女性の悲鳴だった。

 

「助けてぇぇぇっ!誰かぁぁぁ!」

 

 次いで聞こえたのは、男の怒鳴り声。

 

「来るな! 来るなぁ!」

 

 J's Barを出たばかりの有栖次郎は足を止めた。

 

 悲鳴は住宅街の方角から聞こえる。

 

 迷う理由はない。

 

 次郎はすぐに駆け出した。

 

 通りでは人々が必死の形相で逃げ惑っていた。

 

 子どもの手を引く母親。

 

 転びながら逃げる老人。

 

 買い物袋を放り出し、泣きながら走る若い女性。

 

 誰もが背後を何度も振り返り、恐怖に顔を歪めている。

 

 その流れに逆らうように、次郎は悲鳴のする交差点へ向かった。

 

 角を曲がると、そこには十数人の野次馬が集まっていた。

 

「救急車はまだか!」

 

「誰か止血しろ!」

 

 騒然とした人垣をかき分ける。

 

 道路の中央には、一人の中年男性が血溜まりの中へ倒れていた。

 

 肩から胸にかけて肉が大きく抉られ、シャツは真っ赤に染まっている。

 

 次郎は膝をつき、首筋へ指を当てた。

 

 脈は弱い。

 

 だが、まだ生きている。

 

「聞こえるか?」

 

 男性はゆっくりと瞼を開いた。

 

 焦点の合わない瞳が、次郎を見つめる。

 

「……た、助けて……」

 

「何があった?」

 

 男の喉が震える。

 

「人だ……」

 

「人?」

 

「いや……違う……」

 

 呼吸が乱れる。

 

 恐怖で目を見開き、最後の力を振り絞るように呟いた。

 

「死んだ……はずの……人間が……」

 

 その言葉を最後に、男の体から力が抜けた。

 

 瞳から光が消える。

 

 周囲がどよめいた。

 

「駄目だ……」

 

「死んだ」

 

「なんで救急車は来ないんだ!」

 

 誰もが動揺する中、次郎だけは遺体から目を離さなかった。

 

(……違う)

 

 右手の指先が、小さく震えた。

 

 筋肉の痙攣ではない。

 

 指がゆっくりと曲がる。

 

 肘が持ち上がる。

 

 やがて男は、ぎこちない動きで上半身を起こした。

 

「お、おい!」

 

「生きてるぞ!」

 

 一人の女性が安堵した表情で駆け寄る。

 

「よかった……!」

 

 次の瞬間だった。

 

「ガァァァァッ!」

 

 男は獣のような咆哮を上げ、女性へ飛び掛かった。

 

「きゃあああっ!」

 

 首筋へ噛み付き、肉を引き裂く。

 

 鮮血が噴き出し、女性の絶叫が夜空へ響き渡った。

 

「痛い!痛い!痛い!」

 

「やめて!食べないでぇぇ!」

 

「離れろ!」

 

「逃げろ!」

 

 人垣は一瞬で崩壊した。

 

 人々は我先に逃げ出し、交差点は混乱に包まれる。

 

 それでも男は噛み付くのをやめない。

 

 蹴り飛ばされても。

 

 怒鳴られても。

 

 肩を殴られても。

 

 まるで痛みを感じていないかのように、獲物へ食らいつき続ける。

 

 次郎は静かに観察する。

 

(理性がない)

 

(痛覚も失っている)

 

 男がゆっくりと顔を上げた。

 

 白く濁った瞳。

 

 口いっぱいに血肉を付けた顔。

 

 喉の奥から漏れる獣のような唸り声。

 

「グルルル……」

 

 その視線が、次郎を捉えた。

 

 男は立ち上がる。

 

 折れた腕がだらりと垂れ下がっている。

 

 それでも構わず、一歩、また一歩と歩いてくる。

 

 そして突然、全力で飛び掛かった。

 

 次郎は半身になってかわす。

 

 伸びてきた腕を掴み、その勢いを利用して地面へ叩き付けた。

 

 鈍い衝撃音が響く。

 

 普通の人間なら、呼吸すらできなくなる一撃だった。

 

 しかし男は、何事もなかったように立ち上がる。

 

 折れた腕を引きずったまま、再び歩き出した。

 

 男が距離を詰める。

 

 右腕を振り上げる。

 

 次郎は最小限の動きでかわし、顎へ掌底を叩き込んだ。

 

 男の体が仰け反る。

 

 そのまま膝蹴りを腹へ叩き込み、さらに肘打ちを首筋へ打ち込む。

 

 暗殺者時代に叩き込まれた連撃。

 

 男は倒れ込む。

 

 しかし、しばらくすると立ち上がって、再び次郎へ向かってくる。

 

「ガアアアアッ!」

 

 異様な生命力だった。

 

(急所への打撃が効いてない)

 

 次郎は周囲へ視線を走らせる。

 

 逃げ遅れていた市民たちも、ようやく十分な距離まで離れていた。

 

 巻き込む危険はない。

 

「……仕方がない」

 

 右手がホルスターへ伸びる。

 

 刹那。

 

 乾いた銃声が、静まり返った夜空へ鋭く響き渡る。

 

 放たれたマグナム弾は、男の心臓を正確に撃ち抜いた。

 

 衝撃で男の体が大きく仰け反り、そのまま背中からアスファルトへ倒れ込む。

 

 交差点は静まり返った。

 

 先ほどまで響いていた悲鳴も止み、誰もが倒れた男を見つめている。

 

「……死んだのか」

 

 誰かが呟く。

 

 次郎は答えない。

 

 リボルバーを構えたまま、一歩も動かなかった。

 

 あれだけの打撃を受けても立ち上がった相手だ。

 

 油断はできない。

 

 三秒。

 

 五秒。

 

 十秒。

 

 男は微動だにしない。

 

 次郎がゆっくりと銃口を下ろしかけた、その時だった。

 

 遠くからサイレンが近付いてくる。

 

 パトカーが急ブレーキを掛け、交差点へ滑り込んだ。

 

 ドアが勢いよく開き、二人の警官が飛び降りる。

 

「全員下がれ!」

 

「何が起きた!」

 

 若い警官が倒れている男へ近付こうとする。

 

「待ってくれ」

 

 次郎は静かに制止した。

 

「まだ近付かない方がいい」

 

 警官は怪訝そうな表情を浮かべる。

 

「君は?」

 

「近くのJ's Barで用心棒をやっている」

 

「用心棒?」

 

 その瞬間だった。

 

 倒れていた男の右手が、ぴくりと動く。

 

 次郎の目が鋭く細まる。

 

「下がって!」

 

 叫ぶより早く、男が勢いよく起き上がった。

 

 胸の中央には風穴が空いている。

 

 それでも構わず、獣のような咆哮を上げて若い警官へ飛び掛かった。

 

「なっ!?」

 

 完全に不意を突かれた警官は反応できない。

 

 次郎が一歩踏み込む。

 

 左手で警官の襟を掴み、力任せに後方へ引き倒した。

 

 男の歯が空を噛む。

 

 次郎はそのまま距離を取り、リボルバーを構え直した。

 

(心臓を撃ち抜いても動くのか……)

 

 男は首を不自然に揺らしながら再び歩き始める。

 

 その姿を冷静に観察する。

 

 心臓を貫通しただけでは活動を止められない。

 

 ならば――。

 

 男が再び飛び掛かる。

 

 次郎は半歩だけ横へ動き、避けながら照準を側頭部へ合わせた。

 

 引き金を引く。

 

 パンッ!

 

 二発目の銃声が夜空へ響く。

 

 弾丸は側頭部を撃ち抜き、頭部を大きく破壊した。

 

 男は糸が切れた人形のように崩れ落ちる。

 

 今度は指一本動かなかった。

 

 若い警官は尻もちをついたまま、震える声を漏らす。

 

「……動かない」

 

 年配の警官が慎重に近付き、遺体を確認する。

 

「止まった……」

 

 次郎は小さく息を吐いた。

 

「恐らくだけど」

 

 二人の警官が振り返る。

 

「脳を破壊しない限り、あれは止まらない」

 

 年配の警官は信じられないという表情を浮かべた。

 

「そんな馬鹿な……」

 

 だが、目の前の現実がその言葉を否定していた。

 

 その時、年配の警官の無線機から激しいノイズが流れ始める。

 

『ザーッ……応援を……!』

 

『東地区が……壊滅……!』

 

『噛まれた警官が……うわあああっ!』

 

 悲鳴。

 

 銃声。

 

 そして通信は途切れた。

 

 交差点を重苦しい沈黙が包む。

 

 年配の警官は青ざめた顔で無線機を握り締めた。

 

「……これだけじゃないのか」

 

 次郎も同じ結論に達していた。

 

 この異常事態は、この交差点だけでは終わらない。

 

 

 その時だった。

 

 街中に設置された防災スピーカーから、突然チャイムが鳴り響く。

 

『ラクーンシティ緊急対策本部より、市民の皆様へお知らせします。』

 

 若い女性の声だった。

 

『現在、市内各地で原因不明の暴動が発生しています。市民の皆様は落ち着いて行動し、自宅など安全な場所で待機してくださ――』

 

 ブツッ。

 

 放送が途切れた。

 

 直後、激しいノイズがスピーカーから流れ始める。

 

『ザーッ……ザーッ……』

 

 そして。

 

『いやああああああっ!』

 

 女性の絶叫だけが夜空へ響き、放送は完全に途絶えた。

 

 交差点にいた全員が凍り付く。

 

 若い警官が呆然と呟いた。

 

「本部まで……」

 

 年配の警官は無線機へ怒鳴る。

 

「本部! 本部応答しろ!」

 

 返ってくるのは雑音だけだった。

 

 その時、遠くの夜空が赤く染まる。

 

 ドォンッ!

 

 腹の底まで響く爆発音。

 

 続いて、もう一つ。

 

 さらにもう一つ。

 

 市街地のあちこちから黒煙が立ち昇り始めた。

 

 次郎は空を見上げる。

 

(広がるのが早すぎる)

 

 ほんの数十分前まで、ラクーンシティは普段と変わらない夜だった。

 

 それが今では、街全体が悲鳴と銃声に包まれている。

 

 近くの家から、テレビの音声が漏れ聞こえてきた。

 

『臨時ニュースです。本日発生した暴動について、アンブレラ社はラクーン市警と協力し、市民の安全確保を最優先に対応すると発表しました。』

 

 アンブレラ。

 

 その名を聞いた次郎は眉をひそめる。

 

 昼間のニュースでも耳にした巨大製薬企業。

 

 アークレイ山地で相次いでいた不可解な事件。

 

 点だった情報が、一本の線になり始めていた。

 

(偶然とは思えない……)

 

 しかし、今は考えている時間はない。

 

 腕時計へ視線を落とす。

 

 午後十時四十分。

 

「……店」

 

 思わず呟く。

 

 J's Barなら、まだ営業している時間だ。

 

 店長は最後の客が帰るまで店を閉めない。

 

 何より、客を置いて一人だけ逃げるような人ではなかった。

 

 胸騒ぎがした。

 

「悪い」

 

 次郎は二人の警官へ向き直る。

 

「俺は戻らないと」

 

 年配の警官は頷く。

 

「家族か?」

 

 次郎は少しだけ考え、小さく笑った。

 

「……家族じゃない」

 

「でも、俺にとって大切な人たちなんだ」

 

 店長は恩人だった。

 

 暗殺者以外の生き方を知らなかった自分に、普通の人生を与えてくれた人。

 

 あの店だけは、失いたくなかった。

 

 若い警官が口を開く。

 

「俺たちも一緒に――」

 

 その言葉を遮るように、交差点の先から激しい衝突音が響いた。

 

 ドォンッ!

 

 一台のタクシーが制御を失い、電柱へ激突する。

 

 フロントガラスが砕け散り、エンジンから白煙が立ち上った。

 

 運転席のドアが勢いよく開き、中年の運転手が血まみれのまま這い出してくる。

 

「た、助けてくれ!」

 

 その背後で、ゆっくりと後部座席のドアが開いた。

 

 ギィ……。

 

 ゆっくりと開いた後部座席のドアから、一人の女性が姿を現した。

 

 ワンピースは血で赤黒く染まり、長い髪は乱れて顔に張り付いている。

 

 俯いたまま、ふらつく足取りで車から降り立った。

 

「助けてくれ!」

 

 運転手は必死に地面を這い、次郎たちの方へ逃げてくる。

 

「客が……急に……!」

 

 息を切らしながら振り返る。

 

「急に噛み付いてきたんだ!」

 

 女性がゆっくりと顔を上げた。

 

 白く濁った瞳。

 

 口元には真新しい血がべっとりと付着している。

 

「ガァァァ……」

 

 低いうなり声を漏らしながら、一歩、また一歩と運転手へ近付いていく。

 

「く、来るな!」

 

 運転手は後ずさるが、右足を負傷しているらしく思うように動けない。

 

「警官、運転手を!」

 

 次郎が叫ぶ。

 

「は、はい!」

 

 若い警官が駆け寄り、運転手を抱え起こして安全な場所へ引きずっていく。

 

 その間に、女は標的を次郎へ変えた。

 

「ガアアアッ!」

 

 突然、飛び掛かってくる。

 

 次郎は身を引いて、その突進をかわした。

 

 女は勢い余ってアスファルトへ倒れ込む。

 

 だが、すぐに立ち上がる。

 

 肘は擦り切れ、骨が覗いている。

 

 それでも苦しむ様子はまったくない。

 

(やっぱり同じだ)

 

 理性も、痛覚も失っている。

 

 次郎は静かにリボルバーを構えた。

 

「……すまない」

 

 パンッ!

 

 乾いた銃声が響く。

 

 弾丸は女の眉間を正確に撃ち抜いた。

 

 女は崩れ落ち、もう動かない。

 

 若い警官が息を呑む。

 

「ためらわないんですね……」

 

 次郎は女から目を離さず、小さく首を振った。

 

「これでも、ためらってる」

 

 静かな声だった。

 

「でも、ためらったせいで助けられる命まで失う方が辛い」

 

 そう言ってリボルバーをホルスターへ戻すと、運転手の前へしゃがみ込んだ。

 

「怪我を見せてくれ」

 

 運転手は震える手で右腕を差し出す。

 

 袖は裂け、前腕には深い噛み跡が残っていた。

 

 傷口からは血が流れ続けている。

 

 次郎の表情が曇る。

 

「……噛まれたんだな」

  

「う、後ろの客が……急に……」

 

 運転手は恐怖で声を震わせる。

 

「なあ、俺助かるよな……?」

 

 次郎はすぐには答えられなかった。

 

 交差点で死んだ男性。

 

 今、頭を撃ち抜いた女性。

 

 二人とも噛まれた後、あの化け物になった。

 

 嫌な予感が胸を締め付ける。

 

 しかし、確証のないことを口にはできない。

 

「……まずは止血する」

 

 ハンカチを取り出し、傷口を強く縛る。

 

「この場では応急処置しかできない。できるだけ早く病院へ行ってくれ」

 

 年配の警官が力強く頷いた。

 

「彼はこちらで病院へ搬送する」

 

 若い警官も運転手を支えながら立ち上がる。

 

「ありがとうございます」

 

 その時だった。

 

 遠くの繁華街から、無数の悲鳴が一斉に響き渡る。

 

 銃声。

 

 爆発音。

 

 そして、人間とは思えない低いうなり声。

 

 ラクーンシティ全体が、ゆっくりと地獄へ姿を変え始めていた。

 

 次郎は繁華街の方角を見据える。

 

 その先には、J's Barがある。

 

(店長……)

 

 胸騒ぎは、もはや予感ではなかった。

 

 次郎は二人の警官へ軽く頷く。

 

「任せた」

 

 それだけ言い残し、繁華街へ向かって全力で駆け出した。

 

 彼が目指すのは、第二の人生を与えてくれた場所。

 

 そして、守ると決めた人たちの待つ店だった。

 

 




地の文では主人公を次郎、外国人からの呼ばれ方をアリスとしているのは仕様です。
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