本日一度目の投稿です。
「アリスさん!!」
レオンの叫びが研究所中へ響いた。
スーパータイラントの巨大な鉤爪が、唸りを上げながら横薙ぎに迫る。
避け切れない。
そう判断した次郎は、ナイフを逆手から持ち替え、両手で交差するように構えた。
ギィィィンッ!!
鋼と鉤爪が激突し、火花が激しく飛び散る。
その衝撃だけで床が砕け、周囲へ無数の瓦礫が跳ね上がった。
「ぐっ……!」
次郎は全身へ力を込める。
一瞬だけ、攻撃を受け止める。
しかし――。
拮抗は一瞬だけだった。
「グォォォォォォッ!」
怪物がさらに力を込める。
バキッ!!
ナイフの刃が耐え切れず折れ飛んだ。
次の瞬間、巨大な鉤爪が次郎の脇腹から胸元へ深く食い込む。
ブシャァッ!!
鮮血が赤い非常灯の中へ舞い散った。
「がっ……!」
次郎の身体が大きく仰け反る。
「アリスさん!」
レオンは迷わず駆け寄り、スーパータイラントにショットガンを撃ち放つ。
ドォンッ!!
至近距離から放たれた散弾がスーパータイラントの胸部へ炸裂する。
怪物の上半身がわずかに仰け反った。
「エイダ!」
「援護を!」
「分かってる!」
パンッ!
パンッ!
パンッ!
エイダの拳銃が立て続けに火を吹く。
弾丸は露出した心臓や首筋へ正確に命中し、スーパータイラントの注意を一瞬だけ逸らした。
しかし怪物は次郎を乱暴に振り払う。
ドゴォォォォンッ!!
次郎の身体は宙を舞い、研究所の壁へ激突した。
「がはっ……!」
口から大量の血が溢れた。
カラン……。
折れたナイフの柄が床へ転がる。
次郎は壁にもたれ掛かるように崩れ落ち、そのまま動かなくなった。
脇腹からは絶え間なく血が流れ落ち、白い床を赤く染めていく。
その時だった。
『搬送路の障害物除去完了』
『搬送用エレベーター、運行を再開します』
低い駆動音が研究所へ響く。
ゴゴゴゴゴ……。
巨大な搬送用エレベーターがゆっくりと上昇し、二人の背後で停止した。
プシューッ――。
重い扉が開く。
レオンは一瞬だけ振り返る。
「エレベーターが……!」
だが、目の前にはスーパータイラント。
そして、血を流して倒れる次郎。
乗り込む余裕など、どこにもなかった。
レオンは歯を食いしばり、スーパータイラントの前へ立ちはだかった。
ドォンッ!!
ショットガンを撃つ。
さらに一歩踏み込み、もう一発。
ドォンッ!!
至近距離から浴びせられた散弾が怪物の胸部を抉る。
それでもスーパータイラントは止まらない。
「こっちだ!」
レオンは叫びながら後退する。
標的を自分へ向けるためだった。
エイダも理解し、側面から正確な援護射撃を続ける。
パンッ!
パンッ!
パンッ!
スーパータイラントは二人の間で標的を切り替えながら、ゆっくりと歩み寄ってくる。
『爆破まで、残り十一分』
館内放送が無情に響いた。
その背後では、倒れたままの次郎の意識が暗闇の底を漂っていた。
(身体が……動かない)
(ここまでか……)
ぼやけた視界の中に映るのは、必死に戦うレオンの姿だった。
散弾を撃ち込みながら、一歩も退かない仲間の姿。
(……まだ終われない)
身体は動かない。
だが、心だけはまだ戦おうとしていた。
レオンたちだけ戦わせるわけにはいかない。
その想いが、暗闇に沈みかけた意識を必死に引き戻す。
その時だった。
倒れた次郎の右手の指先が、ごくわずかに震える。
誰も、その変化には気付かない。
一方、スーパータイラントは低く唸りながらレオンだけを見据えていた。
「グォォォォォッ!」
巨体が一気に踏み込む。
「来い!」
レオンは真正面からショットガンを構える。
ドォンッ!!
散弾が怪物の胸を撃ち抜く。
灰色の肉が弾け、黒い血が飛び散った。
だが勢いは止まらない。
スーパータイラントは胸を沈ませただけで、歩調を崩さず迫ってくる。
レオンは真正面からショットガンを構えた。
逃げる余裕などない。
撃つ事しかできなかった。
ドォンッ!!
散弾が怪物の胸部へ炸裂する。
続けざまにもう一発。
ドォンッ!!
至近距離から撃ち込まれた散弾が灰色の肉を抉る。
しかし――
スーパータイラントは止まらない。
レオンはさらに引き金を引いた。
カチッ。
乾いた音が響く。
レオンの表情が強張る。
ショットガンのスライドを引く。
ガチャッ。
しかし、薬室は空のまま。
「……くそ、弾切れか!」
赤い非常灯の中で、レオンは即座に判断した。
ショットガンを捨てる。
腰の拳銃を抜く。
「まだやれる!」
パンッ!
パンッ!
パンッ!
弾丸がスーパータイラントの心臓へ正確に命中する。
エイダも側面から援護射撃を重ねる。
パンッ!
パンッ!
パンッ!
怪物は二人の集中砲火を浴びながらも、巨大な鉤爪をゆっくりと持ち上げた。
『爆破まで、残り九分』
赤い警告灯が激しく点滅する。
レオンは拳銃を構え直し、静かに息を整えた。
「まだ倒れないのか……」
スーパータイラントが再び咆哮を上げる。
そして、その鉤爪を天井ごと叩き潰す勢いで振り下ろした。
「レオン!」
エイダが叫ぶ。
ドゴォォォォォンッ!!
スーパータイラントの巨大な鉤爪が床へ叩き付けられる。
エレベーター前の床へ無数の亀裂が走り、コンクリート片が宙へ舞い上がった。
「くっ!」
レオンは横へ飛び込み、間一髪で直撃を免れる。
エイダも反対方向へ転がりながら拳銃を構え直した。
パンッ!
パンッ!
パンッ!
放たれた弾丸はスーパータイラントの露出した心臓へ次々と命中する。
黒い血液が飛び散る。
だが怪物は怯まない。
その巨体はゆっくりとレオンへ向き直った。
「こっちだ!」
レオンも負けじと応戦する。
パンッ!
パンッ!
パンッ!
心臓へ撃ち込まれた弾丸が怪物の巨体をわずかに揺らす。
しかし、それだけだった。
『爆破まで、残り八分』
冷たい機械音声が研究所へ響く。
その時だった。
スーパータイラントが咆哮を上げ、巨大な鉤爪を大きく振りかぶる。
「まずい!」
エイダが叫ぶ。
ドゴォォォォンッ!!
渾身の一撃が床を切り裂いた。
轟音とともにコンクリートが砕け、巨大な亀裂が一気に広がる。
ガガガガガガッ!!
床の一部が崩落を始めた。
レオンは体勢を崩す。
「しまっ……!」
その隙を逃さず、スーパータイラントが止めの一撃を振り上げる。
エイダは迷わなかった。
レオンの背中を思い切り突き飛ばす。
「行きなさい!」
レオンは安全な足場へ投げ出される。
しかし、その代償は大きかった。
エイダの立っていた床が完全に崩れ落ちる。
「エイダ!」
レオンが必死に手を伸ばす。
一瞬だけ二人の視線が交わった。
エイダは小さく微笑む。
「あなたなら、生き残れる」
それだけ言い残し、耐衝撃ケースを胸へ抱えたまま暗闇へ落ちていった。
「エイダァァァッ!!」
レオンの叫びだけが虚しく響く。
返事はない。
崩落した穴の底は闇に包まれ、その姿は見えなかった。
スーパータイラントは落下したエイダを追うことなく、ゆっくりとレオンへ向き直る。
その標的は、一人になった。
レオンは拳銃を構える。
震える腕を必死に押さえ込みながら照準を合わせる。
「来い……」
パンッ!
パンッ!
パンッ!
弾丸は怪物の心臓へ命中する。
それでもスーパータイラントは止まらない。
巨大な鉤爪がゆっくりと持ち上がる。
その時だった。
ドクン――。
静まり返った研究所に、一つの鼓動が響いた。
壁際に倒れていた次郎の身体がわずかに震える。
ドクン。
ドクン。
裂かれた胸と脇腹の傷口から、流れ出ていた血が止まっていく。
裂けた筋肉が蠢き、皮膚が目に見える速度で再生を始めた。
砕けた骨が軋む音を立てながら繋がっていく。
閉じられていた瞼が微かに震えた。
スーパータイラントの鉤爪がレオンへ振り下ろされる。
「まだ……終われるか!」
レオンは横へ飛び退きながら発砲する。
パンッ!
パンッ!
パンッ!
弾丸は怪物の頭部へ命中する。
その一瞬の隙だった。
カツン――。
静かな足音が研究所へ響く。
スーパータイラントの動きが止まる。
レオンも思わず振り返った。
そこには、壁にもたれ掛かっていたはずの次郎が、ゆっくりと立ち上がっていた。
裂けたスーツは血に染まったまま。
しかし、胸や脇腹の傷は完全に塞がっている。
次郎は静かに拳を握った。
ギシッ……。
全身へ力が満ちていく。
視界は驚くほど鮮明だった。
スーパータイラントの筋肉の収縮。
レオンの荒い息遣い。
遠くで揺れる非常灯。
すべてが手に取るように分かる。
「これが……」
次郎は静かに呟く。
「適応したということか」
スーパータイラントが低く唸る。
戦闘が始まって初めて、自ら一歩だけ後退した。
レオンは目を見開く。
「あいつが……下がった?」
次郎はレオンの隣まで歩いてくる。
「心配をかけた」
短く、それだけ告げる。
レオンは言葉を失った。
次郎の身体には、瀕死だった痕跡がほとんど残っていない。
『爆破まで、残り七分』
冷たい機械音声が響く。
レオンは我に返る。
「アリスさん! 時間が!」
次郎は視線をスーパータイラントから外さない。
「そうだな」
「だから、もう終わらせよう」
その静かな一言に、レオンは息を呑む。
スーパータイラントは低く唸り声を上げると、再び巨大な鉤爪を構えた。
そして今度は、標的をレオンではなく――覚醒した次郎ただ一人に定めた。
スーパータイラントは巨大な鉤爪を構え、咆哮とともに突進した。
「グォォォォォォッ!!」
その巨体からは想像もできない速度だった。
しかし――
次郎は動かない。
攻撃の寸前にほんの一瞬、スーパータイラントの肩が沈む。
その僅かな予備動作を見切った次郎は、半歩だけ身体をずらした。
ブォンッ!!
鉤爪は空を切る。
「なっ……!」
レオンは目を疑った。
これまで誰一人として完全には避けられなかった一撃を、次郎は最小限の動きだけでかわしたのだ。
次郎はそのままスーパータイラントの懐へ潜り込む。
肘打ち。
ドゴッ!!
巨体がわずかによろめく。
続けざまに掌底が心臓へ叩き込まれる。
ドンッ!!
スーパータイラントが一歩後退する。
なおも次郎は止まらない。
回し蹴りが膝関節を正確に捉える。
ゴキィッ!!
体勢が大きく崩れた。
「グォォォォッ!!」
怒り狂ったスーパータイラントが巨大な腕を振り回す。
だが、当たらない。
次郎はまるで、次に来る攻撃を知っているかのように、一撃一撃を紙一重で見切っていく。
かわす。
打つ。
かわす。
打つ。
拳。
肘。
膝。
掌底。
流れるような体術が、一方的にスーパータイラントを追い詰めていく。
レオンは思わず呟いた。
「凄い……」
スーパータイラントが咆哮を上げ、渾身の右腕を振り下ろす。
「グォォォォォォォッ!!」
その瞬間。
次郎は右腕を掴み、勢いを利用して巨体を大きく前方へ流した。
ドゴォォォォンッ!!
スーパータイラントは自らの勢いのまま床へ叩き付けられる。
研究所全体が揺れた。
スーパータイラントは床へ叩き付けられ、その巨体が大きく跳ねる。
辛うじて片膝をつき、起き上がろうとする。
露出した心臓を上下させながら荒々しく息を吐く。
次郎は腰から予備ナイフを素早く引き抜いた。
鋼の刃が赤い警告灯を鋭く反射する。
逆手に握り直す。
スーパータイラントの胸部では、露出した巨大な心臓が激しく脈打っていた。
ドクン。
ドクン。
ドクン。
今度はいけるという確信がある。
次郎は一気に踏み込む。
「グォォォォォッ!!」
スーパータイラントが片膝をついたまま咆哮を上げる。
残された力を振り絞り、巨大な鉤爪を横薙ぎに振るう。
ブォンッ!!
空気を切り裂く一撃。
次郎は鉤爪が視界を横切る寸前、膝を折るように身体を沈めた。
巨大な鉤爪は髪先を掠めるように頭上を通過した。
攻撃を躱した次郎は、そのまま踏み込みを止めない。
全身の体重を乗せ、逆手に握ったナイフを振り下ろす。
ズブッ!!
刃は露出した心臓へ深々と突き刺さる。
「グォォォォォォォォォッ!!」
スーパータイラントが絶叫する。
だが、次郎は止めない。
「チェックメイトだ」
「散れ!」
ナイフをさらに深く押し込み、下へ大きく抉った。
グチャァッ!!
心臓が大きく裂け、大量の黒い血液が噴き出す。
スーパータイラントは最後の咆哮を上げながら激しく痙攣し、その巨体はゆっくりと力を失って床へ崩れ落ちた。
ズシィィンッ!!
静寂が訪れる。
警報だけが、研究所に虚しく鳴り響いていた。
第一章完結まで、残すところあと2話です。