元殺し屋がバイオ事件に巻き込まれる話   作:オッパッピー

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本日一度目の投稿です。


Chapter7 研究所 Part5

 「アリスさん!!」

 

 レオンの叫びが研究所中へ響いた。

 

 スーパータイラントの巨大な鉤爪が、唸りを上げながら横薙ぎに迫る。

 

 避け切れない。

 

 そう判断した次郎は、ナイフを逆手から持ち替え、両手で交差するように構えた。

 

 ギィィィンッ!!

 

 鋼と鉤爪が激突し、火花が激しく飛び散る。

 

 その衝撃だけで床が砕け、周囲へ無数の瓦礫が跳ね上がった。

 

 「ぐっ……!」

 

 次郎は全身へ力を込める。

 

 一瞬だけ、攻撃を受け止める。

 

 しかし――。

 

 拮抗は一瞬だけだった。

 

 「グォォォォォォッ!」

 

 怪物がさらに力を込める。

 

 バキッ!!

 

 ナイフの刃が耐え切れず折れ飛んだ。

 

 次の瞬間、巨大な鉤爪が次郎の脇腹から胸元へ深く食い込む。

 

 ブシャァッ!!

 

 鮮血が赤い非常灯の中へ舞い散った。

 

 「がっ……!」

 

 次郎の身体が大きく仰け反る。

 

 「アリスさん!」

 

 レオンは迷わず駆け寄り、スーパータイラントにショットガンを撃ち放つ。

 

 ドォンッ!!

 

 至近距離から放たれた散弾がスーパータイラントの胸部へ炸裂する。

 

 怪物の上半身がわずかに仰け反った。

 

 「エイダ!」

 

 「援護を!」

 

 「分かってる!」

 

 パンッ!

 

 パンッ!

 

 パンッ!

 

 エイダの拳銃が立て続けに火を吹く。

 

 弾丸は露出した心臓や首筋へ正確に命中し、スーパータイラントの注意を一瞬だけ逸らした。

 

 しかし怪物は次郎を乱暴に振り払う。

 

 ドゴォォォォンッ!!

 

 次郎の身体は宙を舞い、研究所の壁へ激突した。

 

 「がはっ……!」

 

 口から大量の血が溢れた。

 

 カラン……。

 

 折れたナイフの柄が床へ転がる。

 

 次郎は壁にもたれ掛かるように崩れ落ち、そのまま動かなくなった。

 

 脇腹からは絶え間なく血が流れ落ち、白い床を赤く染めていく。

 

 その時だった。

 

 『搬送路の障害物除去完了』

 

 『搬送用エレベーター、運行を再開します』

 

 低い駆動音が研究所へ響く。

 

 ゴゴゴゴゴ……。

 

 巨大な搬送用エレベーターがゆっくりと上昇し、二人の背後で停止した。

 

 プシューッ――。

 

 重い扉が開く。

 

 レオンは一瞬だけ振り返る。

 

 「エレベーターが……!」

 

 だが、目の前にはスーパータイラント。

 

 そして、血を流して倒れる次郎。

 

 乗り込む余裕など、どこにもなかった。

 

 

 レオンは歯を食いしばり、スーパータイラントの前へ立ちはだかった。

 

 ドォンッ!!

 

 ショットガンを撃つ。

 

 さらに一歩踏み込み、もう一発。

 

 ドォンッ!!

 

 至近距離から浴びせられた散弾が怪物の胸部を抉る。

 

 それでもスーパータイラントは止まらない。

 

 「こっちだ!」

 

 レオンは叫びながら後退する。

 

 標的を自分へ向けるためだった。

 

 エイダも理解し、側面から正確な援護射撃を続ける。

 

 パンッ!

 

 パンッ!

 

 パンッ!

 

 スーパータイラントは二人の間で標的を切り替えながら、ゆっくりと歩み寄ってくる。

 

 『爆破まで、残り十一分』

 

 館内放送が無情に響いた。

 

 その背後では、倒れたままの次郎の意識が暗闇の底を漂っていた。

 

 (身体が……動かない)

 

 (ここまでか……)

 

 ぼやけた視界の中に映るのは、必死に戦うレオンの姿だった。

 

 散弾を撃ち込みながら、一歩も退かない仲間の姿。

 

 (……まだ終われない)

 

 身体は動かない。

 

 だが、心だけはまだ戦おうとしていた。

 

 レオンたちだけ戦わせるわけにはいかない。

 

 その想いが、暗闇に沈みかけた意識を必死に引き戻す。

 

 その時だった。

 

 倒れた次郎の右手の指先が、ごくわずかに震える。

 

 誰も、その変化には気付かない。

 

 

 一方、スーパータイラントは低く唸りながらレオンだけを見据えていた。

 

 「グォォォォォッ!」

 

 巨体が一気に踏み込む。

 

 「来い!」

 

 レオンは真正面からショットガンを構える。

 

 ドォンッ!!

 

 散弾が怪物の胸を撃ち抜く。

 

 灰色の肉が弾け、黒い血が飛び散った。 

 

 だが勢いは止まらない。

 

 スーパータイラントは胸を沈ませただけで、歩調を崩さず迫ってくる。

 

 レオンは真正面からショットガンを構えた。

 

 逃げる余裕などない。

 

 撃つ事しかできなかった。

 

 ドォンッ!!

 

 散弾が怪物の胸部へ炸裂する。

 

 続けざまにもう一発。

 

 ドォンッ!!

 

 至近距離から撃ち込まれた散弾が灰色の肉を抉る。

 

 しかし――

 

 スーパータイラントは止まらない。

 

 レオンはさらに引き金を引いた。

 

 カチッ。

 

 乾いた音が響く。

 

 レオンの表情が強張る。

 

 ショットガンのスライドを引く。

 

 ガチャッ。

 

 しかし、薬室は空のまま。

 

 「……くそ、弾切れか!」

 

 赤い非常灯の中で、レオンは即座に判断した。

 

 ショットガンを捨てる。

 

 腰の拳銃を抜く。

 

 「まだやれる!」

 

 パンッ!

 

 パンッ!

 

 パンッ!

 

 弾丸がスーパータイラントの心臓へ正確に命中する。

 

 エイダも側面から援護射撃を重ねる。

 

 パンッ!

 

 パンッ!

 

 パンッ!

 

 怪物は二人の集中砲火を浴びながらも、巨大な鉤爪をゆっくりと持ち上げた。

 

 『爆破まで、残り九分』

 

 赤い警告灯が激しく点滅する。

 

 レオンは拳銃を構え直し、静かに息を整えた。

 

 「まだ倒れないのか……」

 

 スーパータイラントが再び咆哮を上げる。

 

 そして、その鉤爪を天井ごと叩き潰す勢いで振り下ろした。

 

 

 「レオン!」

 

 エイダが叫ぶ。

 

 ドゴォォォォォンッ!!

 

 スーパータイラントの巨大な鉤爪が床へ叩き付けられる。

 

 エレベーター前の床へ無数の亀裂が走り、コンクリート片が宙へ舞い上がった。

 

 「くっ!」

 

 レオンは横へ飛び込み、間一髪で直撃を免れる。

 

 エイダも反対方向へ転がりながら拳銃を構え直した。

 

 パンッ!

 

 パンッ!

 

 パンッ!

 

 放たれた弾丸はスーパータイラントの露出した心臓へ次々と命中する。

 

 黒い血液が飛び散る。

 

 だが怪物は怯まない。

 

 その巨体はゆっくりとレオンへ向き直った。

 

 「こっちだ!」

 

 レオンも負けじと応戦する。

 

 パンッ!

 

 パンッ!

 

 パンッ!

 

 心臓へ撃ち込まれた弾丸が怪物の巨体をわずかに揺らす。

 

 しかし、それだけだった。

 

 『爆破まで、残り八分』

 

 冷たい機械音声が研究所へ響く。

 

 その時だった。

 

 スーパータイラントが咆哮を上げ、巨大な鉤爪を大きく振りかぶる。

 

 「まずい!」

 

 エイダが叫ぶ。

 

 ドゴォォォォンッ!!

 

 渾身の一撃が床を切り裂いた。

 

 轟音とともにコンクリートが砕け、巨大な亀裂が一気に広がる。

 

 ガガガガガガッ!!

 

 床の一部が崩落を始めた。

 

 レオンは体勢を崩す。

 

 「しまっ……!」

 

 その隙を逃さず、スーパータイラントが止めの一撃を振り上げる。

 

 エイダは迷わなかった。

 

 レオンの背中を思い切り突き飛ばす。

 

 「行きなさい!」

 

 レオンは安全な足場へ投げ出される。

 

 しかし、その代償は大きかった。

 

 エイダの立っていた床が完全に崩れ落ちる。

 

 「エイダ!」

 

 レオンが必死に手を伸ばす。

 

 一瞬だけ二人の視線が交わった。

 

 エイダは小さく微笑む。

 

 「あなたなら、生き残れる」

 

 それだけ言い残し、耐衝撃ケースを胸へ抱えたまま暗闇へ落ちていった。

 

 「エイダァァァッ!!」

 

 レオンの叫びだけが虚しく響く。

 

 返事はない。

 

 崩落した穴の底は闇に包まれ、その姿は見えなかった。

 

 スーパータイラントは落下したエイダを追うことなく、ゆっくりとレオンへ向き直る。

 

 その標的は、一人になった。

 

 レオンは拳銃を構える。

 

 震える腕を必死に押さえ込みながら照準を合わせる。

 

 「来い……」

 

 パンッ!

 

 パンッ!

 

 パンッ!

 

 弾丸は怪物の心臓へ命中する。

 

 それでもスーパータイラントは止まらない。

 

 巨大な鉤爪がゆっくりと持ち上がる。

 

 その時だった。

 

 ドクン――。

 

 静まり返った研究所に、一つの鼓動が響いた。

 

 壁際に倒れていた次郎の身体がわずかに震える。

 

 ドクン。

 

 ドクン。

 

 裂かれた胸と脇腹の傷口から、流れ出ていた血が止まっていく。

 

 裂けた筋肉が蠢き、皮膚が目に見える速度で再生を始めた。

 

 砕けた骨が軋む音を立てながら繋がっていく。

 

 閉じられていた瞼が微かに震えた。

 

 スーパータイラントの鉤爪がレオンへ振り下ろされる。

 

 「まだ……終われるか!」

 

 レオンは横へ飛び退きながら発砲する。

 

 パンッ!

 

 パンッ!

 

 パンッ!

 

 弾丸は怪物の頭部へ命中する。

 

 その一瞬の隙だった。

 

 カツン――。

 

 静かな足音が研究所へ響く。

 

 スーパータイラントの動きが止まる。

 

 レオンも思わず振り返った。

 

 そこには、壁にもたれ掛かっていたはずの次郎が、ゆっくりと立ち上がっていた。

 

 裂けたスーツは血に染まったまま。

 

 しかし、胸や脇腹の傷は完全に塞がっている。

 

 次郎は静かに拳を握った。

 

 ギシッ……。

 

 全身へ力が満ちていく。

 

 視界は驚くほど鮮明だった。

 

 スーパータイラントの筋肉の収縮。

 

 レオンの荒い息遣い。

 

 遠くで揺れる非常灯。

 

 すべてが手に取るように分かる。

 

 「これが……」

 

 次郎は静かに呟く。

 

 「適応したということか」

 

 スーパータイラントが低く唸る。

 

 戦闘が始まって初めて、自ら一歩だけ後退した。

 

 レオンは目を見開く。

 

 「あいつが……下がった?」

 

 次郎はレオンの隣まで歩いてくる。

 

 「心配をかけた」

 

 短く、それだけ告げる。

 

 レオンは言葉を失った。

 

 次郎の身体には、瀕死だった痕跡がほとんど残っていない。

 

 『爆破まで、残り七分』

 

 冷たい機械音声が響く。

 

 レオンは我に返る。

 

 「アリスさん! 時間が!」

 

 次郎は視線をスーパータイラントから外さない。

 

 「そうだな」

 

 「だから、もう終わらせよう」

 

 その静かな一言に、レオンは息を呑む。

 

 スーパータイラントは低く唸り声を上げると、再び巨大な鉤爪を構えた。

 

 そして今度は、標的をレオンではなく――覚醒した次郎ただ一人に定めた。

 

 スーパータイラントは巨大な鉤爪を構え、咆哮とともに突進した。

 

 「グォォォォォォッ!!」

 

 その巨体からは想像もできない速度だった。

 

 しかし――

 

 次郎は動かない。

 

 攻撃の寸前にほんの一瞬、スーパータイラントの肩が沈む。

 

 その僅かな予備動作を見切った次郎は、半歩だけ身体をずらした。

 

 ブォンッ!!

 

 鉤爪は空を切る。

 

 「なっ……!」

 

 レオンは目を疑った。

 

 これまで誰一人として完全には避けられなかった一撃を、次郎は最小限の動きだけでかわしたのだ。

 

 次郎はそのままスーパータイラントの懐へ潜り込む。

 

 肘打ち。

 

 ドゴッ!!

 

 巨体がわずかによろめく。

 

 続けざまに掌底が心臓へ叩き込まれる。

 

 ドンッ!!

 

 スーパータイラントが一歩後退する。

 

 なおも次郎は止まらない。

 

 回し蹴りが膝関節を正確に捉える。

 

 ゴキィッ!!

 

 体勢が大きく崩れた。

 

 「グォォォォッ!!」

 

 怒り狂ったスーパータイラントが巨大な腕を振り回す。

 

 だが、当たらない。

 

 次郎はまるで、次に来る攻撃を知っているかのように、一撃一撃を紙一重で見切っていく。

 

 かわす。

 

 打つ。

 

 かわす。

 

 打つ。

 

 拳。

 

 肘。

 

 膝。

 

 掌底。

 

 流れるような体術が、一方的にスーパータイラントを追い詰めていく。

 

 レオンは思わず呟いた。

 

 「凄い……」

 

 スーパータイラントが咆哮を上げ、渾身の右腕を振り下ろす。

 

 「グォォォォォォォッ!!」

 

 その瞬間。

 

 次郎は右腕を掴み、勢いを利用して巨体を大きく前方へ流した。

 

 ドゴォォォォンッ!!

 

 スーパータイラントは自らの勢いのまま床へ叩き付けられる。

 

 研究所全体が揺れた。

 

 スーパータイラントは床へ叩き付けられ、その巨体が大きく跳ねる。

 

 辛うじて片膝をつき、起き上がろうとする。

 

 露出した心臓を上下させながら荒々しく息を吐く。

 

 

 次郎は腰から予備ナイフを素早く引き抜いた。

 

 鋼の刃が赤い警告灯を鋭く反射する。

 

 逆手に握り直す。

 

 スーパータイラントの胸部では、露出した巨大な心臓が激しく脈打っていた。

 

 ドクン。

 

 ドクン。

 

 ドクン。

 

 今度はいけるという確信がある。

 

 次郎は一気に踏み込む。

 

 

 

 「グォォォォォッ!!」

 

 スーパータイラントが片膝をついたまま咆哮を上げる。

 

 残された力を振り絞り、巨大な鉤爪を横薙ぎに振るう。

 

 ブォンッ!!

 

 空気を切り裂く一撃。

 

 次郎は鉤爪が視界を横切る寸前、膝を折るように身体を沈めた。

 

 巨大な鉤爪は髪先を掠めるように頭上を通過した。

 

 攻撃を躱した次郎は、そのまま踏み込みを止めない。

 

 全身の体重を乗せ、逆手に握ったナイフを振り下ろす。

 

 ズブッ!!

 

 刃は露出した心臓へ深々と突き刺さる。

 

 「グォォォォォォォォォッ!!」

 

 スーパータイラントが絶叫する。

 

 だが、次郎は止めない。

 

 「チェックメイトだ」

 

 「散れ!」

 

 ナイフをさらに深く押し込み、下へ大きく抉った。

 

 グチャァッ!!

 

 心臓が大きく裂け、大量の黒い血液が噴き出す。

 

 スーパータイラントは最後の咆哮を上げながら激しく痙攣し、その巨体はゆっくりと力を失って床へ崩れ落ちた。

 

 ズシィィンッ!!

 

 静寂が訪れる。

 

 警報だけが、研究所に虚しく鳴り響いていた。

 

 




第一章完結まで、残すところあと2話です。
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