本日一度目の投稿です。
ダクトからリッカーが現れて数分後。
異形の怪物は床に倒れ伏していた。
巨体は微かに痙攣しており、その頭部には銃弾による損傷がある。
首筋には深々とナイフで付けられた傷があり、次郎はその傍らに立っていた。
右手にはリボルバー、左手にはコンバットナイフ。
呼吸は僅かに乱れている。
クレアも壁へ手をつき、息を整えている。
拳銃にはまだ硝煙が残っていた。
エレンは少し離れた場所に立っていた。
ランタンを持つ手が、僅かに震えている。
通路には凄惨な光景が広がっていた。
床には何本もの深い爪痕。
壁には銃弾の跡。
破壊された換気ダクトの金属片が散乱し、床には大量の血が流れている。
さっきまで激しい戦闘が繰り広げられていたことは、見れば分かった。
だが、もう動くものはない。
次郎はリッカーの身体へ視線を落とした。
僅かに痙攣していた身体も、やがて完全に動かなくなる。
次郎はナイフの血をハンカチで拭い、鞘へ収める。
クレアがようやく口を開いた。
「……今のは、さすがに危なかったわね」
次郎は周囲を見回した。
「ああ。トドメを刺すのに苦労したな」
クレアは壁に残った深い爪痕へ目を向ける。
「一匹だけで、これ……」
次郎は答えず、リッカーの死骸を確認した。
完全に絶命している。
それを確認してから、周囲へ視線を向ける。
「もういないようだな」
クレアが銃を下ろす。
「そう願いたいわね」
エレンは倒れたリッカーから目を逸らし、深く息を吐いた。
次郎はその様子を一瞥すると、緊急脱出口へ視線を向けた。
「行こう」
クレアが頷く。
「ええ」
三人は再び歩き始めた。
その先には、大きな金属製の扉があった。
扉の上には、
EMERGENCY EXITの文字が刻まれている。
次郎が扉へ近づく。
取っ手へ手を掛ける。
ギィィ……。
重い金属扉が軋みながら開いていく。
その先には、地上へ続く鉄階段が伸びていた。
次郎が懐中電灯を向ける。
光が長い階段を照らす。
「ようやく出口だ」
クレアが階段を見上げる。
「やっとね……」
エレンも階段の先を見つめた。
三人はそれ以上言葉を交わさず、階段を上り始めた。
長い階段を上り切る。
頭上には木製の板があった。
次郎が金具へ手を掛け、ゆっくりと押し上げる。
ギィ……。
板が持ち上がった。
その先は、小さな木造の小屋だった。
古びた農具。
積み上げられた木箱。
埃を被った棚。
地下施設への出入口が隠されているとは、とても思えない。
次郎が先に地上へ上がり、周囲を確認する。
異常はない。
「大丈夫だ」
エレンが続いて上がる。
最後にクレアが小屋へ出た。
次郎は床板をゆっくりと閉じる。
板は元の位置へ収まり、地下への入口は完全に姿を消した。
クレアが小屋の扉へ近づく。
僅かに開き、外を窺う。
しばらくして、クレアが振り返った。
「……出られそうね」
次郎が頷く。
エレンも二人の後に続く。
冷たい夜気が頬を撫でる。
長い地下施設から、ようやく地上へ出た。
小屋を出ると、森は不気味なほど静まり返っていた。
風が木々を揺らし、葉擦れの音だけが耳に届く。
先頭を歩く次郎はリボルバーを構えたまま、周囲へ視線を巡らせる。
クレアもハンドガンを構え、エレンを挟むようにして歩いていた。
しばらく進んだ、その時だった。
遠くから、茂みを掻き分けるような音が聞こえた。
三人の足が止まる。
次郎が音のした方向へ顔を向けた。
森の奥。
まだ姿は見えない。
だが、何かがいる。
――ガサッ。
また音がした。
今度は、先ほどより近い。
クレアが銃口を向ける。
「……何かいるわ」
次郎は答えない。
音の方向だけを見つめている。
――ザッ。
――ガサッ。
木々の間を何かが猛スピードで進んで、こちらへ向かっている。
足音が近づくたびに、枝を折る音が大きくなっていく。
「アリス……」
クレアが小声で呼ぶ。
次郎は片手を上げ、制した。
そして、森の奥へ銃口を向ける。
音は止まらなかった。
むしろ速度を増している。
――ガサッ!
――ザザッ!
木々が左右へ激しく揺れる。
何かが一直線にこちらへ向かってくる。
「来るぞ!」
次郎が叫ぶ。
直後、森の奥から一人の女が飛び出してきた。
血まみれのメイド服。
返り血で赤黒く染まったエプロン。
右手には、大きな包丁。
充血した瞳は、一直線にエレンだけを見据えていた。
「アアアアアアアアッ!!」
獣の如き咆哮が森へ響く。
次の瞬間、凄まじい勢いで地面を蹴った。
次郎とクレアは同時に引き金を引く。
乾いた銃声が連続して森へ響いた。
しかし。
このメイドは普通の感染者とは違った。
感染した事によって得た人間離れした反射速度と瞬発力。
そこに天性の反射神経と打たれ強さが加わる。
紙一重で避けた銃弾が頬を掠める。
肩や太ももを撃ち抜くが、それでも止まらない。
痛みなど存在しないかのように、急所だけを避け、速度を落とすことなく一直線に駆け続ける。
「速い!」
クレアが思わず声を上げる。
さらに一発。
次郎の弾丸が脇腹へ命中する。
血と肉片が飛び散る。
それでも彼女は一切怯まない。
視線の先には、エレンしか映っていなかった。
「ガアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
あと数歩。
止められない。
次郎は瞬時にそう判断した。
地面を蹴り、エレンの前へ飛び出す。
「アリス!」
クレアの叫びと同時だった。
包丁が一直線に突き出される。
鈍い音とともに刃が次郎の腹部へ深々と突き刺さった。
「ぐっ……!」
鮮血が溢れる。
だが、次郎は後退しなかった。
腹筋に力を入れて、左手でメイドの手首を万力の様な力で掴み、そのまま身体を引き寄せる。
互いの距離はゼロになり、リボルバーがメイドの胸へ押し当てられた。
引き金を引く。
轟音。
至近距離から放たれた弾丸が心臓を貫き、その衝撃でメイドの身体が大きくのけ反る。
それでもなお、包丁を握る手は離れない。
「……っ……」
次郎は腹部の激痛に耐えながら、彼女の手首を強く押し返した。
メイドの身体がぐらりと揺れ、力が抜けると地面へ仰向けに倒れた。
次郎も膝をつき、腹部へ突き刺さった包丁を見下ろした。
「アリス!」
クレアとエレンが駆け寄る。
しかし次郎は苦笑を浮かべるだけだった。
「……大丈夫だ」
その時だった。
倒れたメイドの身体が、わずかに動いた。
「……っ……ぁ……」
か細い声。
囁きにも満たない、誰にも聞き取れない息の音。
次郎たちは反射的に銃を向ける。
しかし、彼女はもう起き上がれなかった。
胸から血を流しながら、地面に横たわったままにただ、エレンの方へ手を伸ばそうとしていた。
指先は震え、空を掴むように宙を彷徨う。
その声は、言葉になっていなかった。
意味を持たない。
ただの壊れた感情の残響。
この場の誰にも聞き取れていない。
しかし、エレンを見つめる瞳だけは、確かに何かを求めていた。
メイドの唇がもう一度だけ動こうとして止まる。
そのまま、指先が地面へ落ちた。
瞳から光が消える。
森に静寂が戻った。
メイドが動かなくなった事を確認した後に、次郎はゆっくりと包丁を引き抜く。
傷口から血が溢れ出すが、Тウイルスの適応能力ですぐに再生が始まる。
傷は問題ない。
「……っ!」
しかし、傷口へ視線を落とした瞬間に次郎の表情がわずかに曇った。
腹部を濡らす鮮血。
その中に混じるように、メイドの返り血がべっとりと付着していた。
次郎の瞳が僅かに見開かれる。
「これは、まずいかもな……」
その一言に、クレアの表情が凍り付く。
「どうしたの?」
エレンも不安そうに次郎を見つめる。
「そんなに傷が深かったの?」
次郎はゆっくりと首を振った。
「違う」
「返り血だ……多分、傷口に入り込んだ」
その意味を理解した瞬間、クレアの顔色が変わる。
「それって、まさか……!」
エレンも息を呑んだ。
「感染したの?」
次郎は静かに頷く。
「その可能性が高い」
エレンの顔から血の気が引いた。
「そんな……私を庇ったせいで……」
「気にするな。護衛対象を守るのは当然の事だ」
次郎は短く言い切ると、リボルバーのグリップをクレアへ向けた。
「悪いが、介錯を頼む」
クレアは信じたくないと言いたげにリボルバーを見つめ、震える手で受け取る。
「俺が感染者に変わる前に……一思いにやってくれ」
「そんなこと……嫌よ!」
「頼む」
「駄目!」
エレンが思わず叫んだ。
「私のせいでアリスが死ぬなんて、そんなの嫌!」
「エレン」
次郎は穏やかな口調で彼女を見つめた。
「もし俺が理性を失えば、真っ先に狙われるのは君たちだ」
エレンは唇を震わせながら俯く。
何も言い返せなかった。
クレアは涙を堪えながら頷く。
「……わかったわ」
「ああ。ありがとう」
その直後だった。
「ぐっ……!」
次郎が膝をつく。
全身の筋肉が痙攣し、激しい熱が身体を駆け巡る。
「「アリス!」」
クレアとエレンが同時に駆け寄ろうとする。
しかし次郎は片手を上げて二人を制した。
「来るな……!」
次郎の怒声が森へ響く。
クレアとエレンは思わず足を止めた。
次郎は苦しげに膝をつき、全身を震わせる。
筋肉が痙攣し、額から大量の汗が流れ落ちる。
腹部の傷口から焼けるような熱が全身へ広がっていく。
「ぐっ……ああぁ……!」
苦悶の声が漏れる。
呼吸は荒く、血管が浮き上がり、身体中が小刻みに震えていた。
レイジウイルス。
感染から発症まで二十秒にも満たない凶悪なウイルス。
その猛威が、次郎の身体を容赦なく蝕んでいく。
クレアは震える手でリボルバーを構えた。
銃口の先には、苦しみ続ける次郎。
引き金に指を掛ける。
だが、その指は震えたまま動かない。
「撃たなきゃ……」
小さく呟く。
「もしここで撃たなきゃ……みんな死ぬ」
頭では理解している。
感染した者は助からない。
これまで何度も見てきた現実だった。
それでも。
「そんなこと……できるわけないじゃない……」
照準の先にいるのは化け物ではない。
自分たちを命懸けで守ってくれた仲間だった。
涙が次々と頬を伝う。
その横でエレンも震えていた。
苦しむ次郎を見つめ、唇を強く噛み締める。
屋敷で見てきた光景が脳裏によみがえった。
感染した使用人たち。
警備員たちの断末魔。
笑顔だった人々が、わずかな時間で化け物へ変わっていった。
あの時、自分は何もできなかった。
だから分かってしまう。
現実は、あまりにも残酷だということを。
次郎もきっと助からない。
そう考えた瞬間、胸が締め付けられた。
「アリス……」
震える声が漏れる。
次郎は苦しみに耐えるように地面へ手をつき、荒い息を繰り返していた。
「ぐっ……あぁっ!」
全身が大きく痙攣する。
それを見たクレアの指先に力が入った。
リボルバーの撃鉄が静かに起きる。
その音に、エレンははっと顔を上げた。
「駄目よ、クレア!」
咄嗟にクレアの腕へしがみつく。
「撃たないで!」
「エレン!」
「お願い……まだ撃たないで!」
涙をこぼしながら必死に首を横へ振る。
「まだ助かるかもしれないわ!」
クレアの声も震えていた。
「ごめんなさい」
「アリスが理性を失ったら、撃つしかないの」
エレンは苦しそうに俯く。
「分かってる……」
その言葉が正しいことくらい、自分でも分かっていた。
それでも。
「それでも……アリスまで失いたくない!」
クレアは唇を強く噛み締める。
視線は苦しむ次郎から逸らせない。
理性を失う兆候はないか。
目は赤く充血していないか。
飛び掛かってくる気配はないか。
仲間としてではなく、生存者として冷静に見極めようとする自分がいる。
それが何よりも辛かった。
「お願いだから……」
エレンは涙を流しながら呟く。
「アリスを撃たないで……」
その時だった。
「あああああっ!!」
次郎の絶叫が森に響き渡る。
全身が大きく仰け反り、筋肉が限界まで収縮する。
クレアは反射的にリボルバーを構え直した。
引き金に掛けた指へ、ゆっくりと力が入っていく。
少しでも理性を失った様子を見せれば撃つ。
そう覚悟を決めた、その瞬間――。
突然、次郎の痙攣が止まった。
森を満たしていた荒い呼吸も、苦悶の呻きも消える。
静寂。
クレアはリボルバーを構えたまま、一瞬たりとも照準を逸らさない。
「アリス……?」
クレアが小さく呼び掛ける。
返事はない。
次郎は俯いたまま微動だにしなかった。
エレンはクレアの腕を掴んだまま、息を呑む。
嫌な沈黙だった。
もし今、顔を上げた次郎の瞳が赤く染まっていたら。
もし獣のように飛び掛かってきたら。
その時は――。
クレアは震える指に力を込める。
「お願い……」
誰に向けた言葉なのか、自分でも分からなかった。
その瞬間。
「……ふぅ」
次郎が深く息を吐いた。
ゆっくりと肩の力が抜けていく。
そして顔を上げた。
その瞳は少し充血してはいたが、理性の光は失われていない。
クレアは目を見開く。
「アリス……?」
「悪いな」
次郎は苦笑を浮かべた。
「心配をかけた」
「もう大丈夫だ」
震えていたエレンの肩から、ようやく力が抜ける。
「良かった」
クレアは涙を拭いながら近付いてきた。
「適応したの?」
次郎は自分の身体を確かめるように拳を握り、ゆっくりと開く。
全身を巡っていた灼熱感は消え、代わりに身体の奥底へ新しい力が宿っているのを感じた。
「ああ」
静かに頷く。
「Tウイルスに適応した時と同じ感覚だ」
腹部の傷へ目を落とし、ゆっくりと言葉を続ける。
「ただ、今回は少し違う」
クレアとエレンが真剣な表情で耳を傾ける。
「今回のウイルスは発症までが極端に速い。その影響で、俺の適応も異常な速度で進んだんだろう」
クレアはようやく完全にリボルバーを下ろし、大きく息を吐いた。
「撃たなくて済んで、本当に良かった……」
次郎はクレアからリボルバーを受け取り、静かにシリンダーを閉じる。
「約束を守ろうとしてくれてありがとう」
クレアは首を横に振った。
「感謝なんてしないで。あのまま理性を失ってたら……私は、本当に撃ってた」
次郎は真っ直ぐクレアを見つめ、小さく頷く。
「だからこそ、君に任せて良かった」
その答えに、クレアは何も言い返せなかった。
重苦しい沈黙が三人を包む。
森を吹き抜ける風だけが、木々を揺らしていた。
最初に口を開いたのはエレンだった。
「……アリス」
次郎の服をぎゅっと掴んだまま、小さく呟く。
「本当に、もう平気なのよね?」
「ああ」
次郎は微笑みながら頷いた。
「少なくとも理性を失う心配はなさそうだ」
その言葉を聞き、エレンはようやく安堵の息を吐いた。
だが、クレアの表情だけは晴れない。
次郎はその様子に気付き、静かに声を掛けた。
「クレア」
「……何?」
「君には悪いことをした」
「すまない」
クレアはすぐには答えられなかった。
視線を落とし、握った拳を震わせる。
「本当に怖かったわ」
ようやく絞り出した声はかすれていた。
「アリスが感染するのも怖かった。でも、それ以上に……」
そこで言葉が詰まる。
「私がアリスを撃つことになるのが、一番怖かった」
次郎は黙って聞いていた。
「ラクーンシティでは何人も撃った」
クレアは遠くを見るように呟く。
「感染した人を助けられないことも知ってる」
「だから、もしアリスが感染したら撃つって決めてた」
涙が一筋、頬を伝う。
「でも……いざその時になったら、全然引き金が引けなかった」
次郎はゆっくりとクレアへ歩み寄る。
「十分だ」
「え?」
「撃つ覚悟を決めただけで十分だ」
次郎は穏やかに笑う。
「本当に理性を失っていたら、躊躇わず撃ってくれれば良かった」
クレアは目を閉じ、小さく首を振った。
「そんな簡単に言わないで」
「……そうだな」
次郎も苦笑する。
「すまない」
その空気を破るように、エレンが次郎の腕を軽く叩いた。
「もう!」
涙で赤くなった目のまま睨みつける。
「アリスは自分の命を軽く考えすぎ!」
「そうか?」
「そうよ!」
エレンは頬を膨らませる。
「私を助けるためだからって、何でも一人で抱え込まないで」
「次はちゃんと相談して」
「……善処する」
「善処じゃない」
即座に返され、次郎は肩をすくめた。
そのやり取りを見たクレアは思わず吹き出す。
「ふふっ」
張り詰めていた空気がようやく和らいだ。
しかしその笑みも長くは続かなかった。
次郎の表情が不意に引き締まる。
耳を澄ませ、森の奥へ視線を向けた。
「どうしたの?」
クレアが尋ねる。
「すぐにここを離れよう」
短く言い切る。
「さっきの銃声と叫び声だ」
「もうすぐ感染者が集まってきてもおかしくない」
クレアもすぐに周囲を見渡した。
森は静かだ。
だが、その静けさが逆に不気味だった。
「確かに……ここに留まる理由はないわね」
エレンも頷く。
「早く行こう」
三人は倒れたメイドへ最後に目を向けると、その場を離れ、森の奥へ歩き始めた。
しばらく進み、安全を確認してから次郎が口を開く。
「進む先を決めよう」
クレアが真剣な表情になる。
「またロンドン市街へ向かうの?」
次郎は首を横に振った。
「いや」
少し考え込んでから続ける。
「目的地は米軍基地だ」
「米軍基地?」
クレアが聞き返す。
「イギリス軍じゃ駄目なの?」
「駄目だ」
次郎は即答した。
「今の俺はウイルスに感染した事実がある」
自分の腹部へ視線を落とす。
「適応したと言っても、イギリス軍にはそんな前例はない」
「感染した人間が近付いてきた」
「そう判断された瞬間、問答無用で射殺される可能性が高い」
クレアもその考えに納得した。
未知のウイルスを前にした軍隊なら、最悪の事態を想定して動く筈。
危険を排除する選択をするのは当然だった。
「でも、米軍なら違うの?」
エレンが尋ねる。
次郎は静かに頷く。
「ラクーン事件のあと、俺がTウイルスへ適応した時の血液データと検査記録は、アメリカ政府へ提出されている」
「少なくとも軍の上層部には記録が残っているはずだ」
クレアの目が見開かれる。
「つまり……」
「ああ」
「基地へ着いて事情を説明すれば、本部へ照会してもらえる可能性がある」
「俺の身元と過去のデータが確認できれば、敵ではないと判断されるかもしれない」
エレンの表情に希望が戻る。
「じゃあ、基地まで行ければ助かる可能性があるわね!」
「可能性は大いにある」
次郎は冷静に答えた。
「もちろん保証はできない」
「基地へ着くまでに感染者を突破しなければならないし、向こうが通信できる状態とも限らない」
「それでも」
次郎は二人を見渡す。
「今ある選択肢の中では、一番生存率が高い」
クレアは力強く頷いた。
「なら決まりね」
エレンも次郎の隣へ並ぶ。
「ええ。行きましょう」
次郎は小さく笑うと、リボルバーを握り直した。
「いざ、米軍基地へ」
三人は新たな目的地――米軍基地を目指し、深い森の中を歩き始めた。
――DAY14――
次回は屋敷編の解答編が犯人視点で描かれます。
ちなみにゲーム的な視点で言いますと、クレアが次郎を撃つか撃たないかの場面でムービーからクレア操作に切り替わり、本当に撃つとエレンの悲鳴が聞こえて画面が暗転するバッドエンドです。
撃たない事が正解というバイオプレイヤー泣かせな仕様です。