ちなみに私はバイオハザードは恐すぎてプレイできないので、プレイ動画見る専です。
まずは救急用品を集める。
消毒液。
包帯。
ガーゼ。
止血帯。
鎮痛剤。
解熱剤。
棚に残っていた物を、近くにあったスポーツバッグへ手際よく詰めていく。
次に飲料水の棚へ向かった。
五百ミリリットルのペットボトルが十数本。
全員分を考え、持ち運べる範囲だけを選んでバッグへ入れる。
さらに栄養補助食品、ビスケット、チョコレートなど、保存が利き、すぐ口にできる物も回収した。
懐中電灯を見つける。
手で光を覆いながらスイッチを入れると、小さく灯りが点いた。
予備の乾電池も忘れずバッグへ入れる。
一通り店内を見回し、必要な物がないか確認する。
その時だった。
レジカウンターの奥から、小さな雑音が聞こえてきた。
ザーッ……。
ザーッ……。
古い携帯ラジオだった。
次郎は周囲を警戒しながら近付き、音量を最小まで下げる。
ゆっくりと周波数を合わせると、雑音の中から男性の声が聞こえてきた。
『――こちらラクーンシティ災害対策本部』
途切れ途切れの放送だった。
『市民の皆さんは落ち着いて行動してください』
『現在、市警察および関係機関が事態の収拾に当たっています』
次郎は黙って耳を傾ける。
『不要不急の外出は控え、自宅、または安全な建物へ避難してください』
思わず苦笑が漏れた。
「……もう、その段階じゃない」
街はすでに崩壊している。
自宅も、安全な建物も、もはや存在しない。
やがて放送は大きなノイズに遮られた。
『ザーッ……』
すると別の声が割り込む。
今度は切迫した男性の声だった。
『こちらラクーン市警!』
『市内各地で警察官が応戦中!』
『生存者は武装した警察官の指示に従って避難してください!』
激しい銃声が混じる。
『ぐあっ!』
『西口が突破された!』
『応援を――』
通信は悲鳴と銃声を最後に途絶えた。
店内には再び雑音だけが残る。
次郎は静かにラジオの電源を切った。
十分だった。
警察も各地で追い詰められている。
誰かの救助を待つ状況ではない。
自分たちで生き残るしかなかった。
スポーツバッグを肩へ担ぐと、入口へ向かう。
ガラス越しに外を確認する。
異常はない。
次郎は静かに店を出て、待機していた店長たちへ小さく手を振った。
「もう大丈夫だ」
店長は安堵したように息を吐き、一行を連れて駆け寄ってきた。
店長はスポーツバッグの中を覗き込み、小さく息を吐いた。
「こんなに集められたのか」
「いや、必要そうな物だけだ」
次郎はバッグを地面へ下ろす。
「まずは水を配る」
ペットボトルを一本ずつ手渡していく。
「一人一本」
「全部飲み切らないで。必ず残しておいてくれ」
客たちは静かに頷き、水を受け取った。
次に栄養補助食品やビスケットを配る。
「空腹でも、一度に食べないでくれ」
「少しずつ食べた方が体力が持つ」
続いて救急用品を店長へ渡した。
「包帯、消毒液、ガーゼ、止血帯」
「応急処置なら何とかできる」
店長は中身を確認しながら頷く。
「助かる」
次郎は表情を引き締めた。
「でも……噛まれた傷だけは別だ」
その一言で空気が重くなる。
誰もマークの最期を忘れてはいなかった。
店長も静かに目を伏せる。
「……ああ」
次郎は全員を見回した。
「みんな、よく聞いてほしい」
「転んでもいい」
「荷物を落としてもいい」
「でも、一人だけ離れるのは絶対に駄目だ」
「列が乱れたら、それだけ生き残れる可能性が下がる」
客たちは力強く頷いた。
店長も一歩前へ出る。
「アリスの言う通りだ」
「全員で生きて、この街を出る」
「勝手な行動だけはするな」
その言葉に、不安に満ちていた客たちの表情へ、わずかな決意が戻る。
次郎は店の入口横に設置されていたラクーンシティの案内地図へ目を向けた。
現在地を確認する。
警察署。
市庁舎。
病院。
いずれも人が集まる場所だった。
危険かもしれない。
だが、このまま当てもなく歩き続けるよりは、生存者と合流できる可能性が高い。
次郎は静かに顔を上げた。
「警察署を目指そう」
店長は頷く。
「ああ」
誰も反対しなかった。
今は、その選択に賭けるしかないのだから。
次郎は案内地図を頭の中へ焼き付けると、静かにスポーツバッグを担ぎ直した。
「ここから警察署までは、それほど遠くない」
「でも、大通りはできるだけ避ける」
店長が頷く。
「ああ」
「裏路地を使って行くんだな」
「そうだ」
次郎は地図を指差した。
「この細い道を抜ければ、警察署の南側へ出られる」
「遠回りだけど、人通りは少ないはず」
客たちも地図を覗き込み、小さく頷いた。
今は次郎の判断を信じるしかない。
店を出る前に、次郎はもう一度だけ周囲を見回す。
静かだ。
さっきまで聞こえていた唸り声も近くにはない。
「行こう」
一行は再び裏路地を歩き始めた。
十分ほど進んだ頃だった。
遠くから、複数の銃声が聞こえてくる。
パンッ!
パンッ!
パンパンパンッ!
続いて、誰かの叫び声。
「撃て! 撃てぇ!」
そして、人とは思えない複数の咆哮が重なる。
店長が立ち止まった。
「警察か……?」
次郎は耳を澄ませる。
銃声は警察署の方角から聞こえていた。
断続的に続いている。
「急ごう」
その一言で、一行は歩く速度を速めた。
しかし、無闇に走ることはしない。
角へ差しかかるたびに次郎が先に周囲を確認し、安全を確かめてから全員を進ませる。
そうして慎重に進み続けた先で、次郎は右手を上げた。
「止まれ」
一同がその場で足を止める。
建物の角から、ゆっくりと大通りの様子を窺う。
道路の先には、ラクーンシティ警察署へ続く大きな坂道が見えた。
そして、その坂の下には――。
横転したパトカー。
炎上する乗用車。
路上へ倒れた数人の警官。
無数の血痕。
店長が息を呑む。
「これは……ひどいな」
次郎も表情を曇らせる。
だが、ゾンビの姿は見当たらない。
今なら通れる。
「警察署まで、あと少し」
そう呟いた直後だった。
ガシャァンッ!!
近くの建物の窓ガラスが激しく割れる音が響いた。
全員が反射的に音のした方を振り向く。
割れた窓から、一人の青年が勢いよく飛び出した。
警察学校を卒業したばかりと分かる紺色の制服。
金髪。
手には拳銃が握られている。
着地と同時に体勢を立て直し、背後へ銃口を向けた。
ガラスの割れた窓から二体のゾンビが這い出してくる。
「くそっ!」
青年は迷わず引き金を引いた。
パンッ!
一体目の頭部が砕け散る。
だが、もう一体が間髪入れず飛び掛かってきた。
青年は横へ転がってかわす。
立ち上がりざまに照準を合わせるが、距離が近すぎる。
その瞬間だった。
パンッ!
次郎のリボルバーが火を噴く。
マグナム弾はゾンビの頭部を吹き飛ばし、その場へ倒れ込ませた。
青年は驚いたように振り返る。
次郎は周囲を警戒したまま、静かに声を掛けた。
「怪我はあるか?」
青年は息を整えながら首を横に振る。
「ありません」
「助かりました」
そう言って警察手帳を取り出す。
「レオン・S・ケネディです」
「今日付でラクーン市警へ配属されました」
次郎も軽く頷く。
「有栖次郎」
「こっちは店長と、生き残った人たちだ」
店長も一歩前へ出る。
「よろしく頼む」
レオンは客たちの姿を見て表情を引き締めた。
「皆さんも無事だったんですね」
「警察署へ向かってるんですか?」
店長が答える。
「ああ」
「無線で、生存者は警察署へ集まれって聞いた」
レオンは真剣な表情で頷いた。
「俺もそのつもりです」
「知り合いとはぐれてしまって……」
「警察署で落ち合う約束をしています」
次郎はレオンの顔をじっと見つめた。
恐怖はある。
それでも目は死んでいない。
状況を冷静に判断しようとしている。
(まだ新人なのに、よく踏みとどまってる)
その時だった。
遠くから低いうなり声が聞こえてくる。
「ガァァ……」
坂道の下。
物陰から数体のゾンビが姿を現した。
さらに、その後ろにも人影が続く。
レオンは拳銃を構えた。
「ここで立ち話をしている場合じゃないですね」
次郎もリボルバーを構え、小さく頷く。
「警察署まで一気に行こう」
こうして、有栖次郎たちはレオン・S・ケネディと合流し、ラクーンシティ警察署へ向けて駆け出した。
――Chapter2・完――
本日の投稿はここまでとさせていただきます。