本日二度目の投稿です。
Re4の季節は秋ですが、サブタイトルはあくまでイメージなので許してください。
夜の島を、二人の女が歩いていた。
エイダ・ウォン。
そして、その隣を歩くエレン・クロフォード。
島全体が混乱へ陥っている。
遠くから銃声が響き、時折、教団員たちの怒号が聞こえてくる。
それでも二人は足を止めなかった。
当初の予定では、このまま島南側の脱出地点へ向かい合流することになっていた。
そこには教団が使用している脱出用の水上バイクがある。
それを利用して島を離れる。
エイダにとっても、次郎にとっても、それが最も安全な選択だった。
「この先を抜ければ、脱出地点へ向かえるわ」
「そこでアリスと合流する」
「はい」
エレンは頷く。
ようやく終わる。
アリスも生きている。
自分も救出された。
あとは、この島を離れるだけ。
そう思った。
しかし。
「……っ」
突然、エレンの足が止まった。
「どうしたの?」
エイダが振り返る。
「いえ……」
エレンは胸元を押さえる。
「少し……気分が」
「座って」
「でも……」
「いいから」
エイダはエレンの腕を取り、近くの壁際へ移動させる。
エレンは壁へ背を預けた。
呼吸が荒い。
顔色も明らかに悪くなっていた。
「いつから?」
「さっきからです」
「他に症状は?」
「身体が熱くて……」
その時だった。
「ごほっ……!」
エレンが激しく咳き込む。
「エレン!」
口元を押さえた手の隙間から、赤い血が零れた。
「ごほっ……!」
さらに血を吐く。
床へ落ちた血液。
その中に、黒い粘液のようなものが混じっている。
エイダの目が細くなる。
「……プラーガ」
「え……?」
エレンの表情が強張る。
エイダはすぐにエレンの首筋へ目を向けた。
皮膚の下で、何かが僅かに蠢いている。
「いつ寄生されたの……」
「分かりません」
エレンは震える声で答えた。
「監禁されていた時……だと思います」
エイダは短く息を吐いた。
次郎が教団に捕らえられた時。
自分もエレンも、教団の施設へ収容されていた。
その時に寄生されたのだろう。
「予定変更」
「え?」
「脱出地点には行かない」
エレンが不安そうに顔を上げる。
「じゃあ……どこへ?」
「研究施設」
エイダは即答した。
「仲間が使っていた研究室がある」
「そこにプラーガを除去する装置が残っているはず」
エレンの顔から血の気が引く。
「……取れるんですか?」
「成功例はある」
エイダはエレンを見る。
「ただし、あまり時間はない」
エレンは自分の胸元へ手を当てる。
身体の奥で、何かが蠢いている。
「……ではお願いします」
エイダはエレンへ手を差し出した。
「行きましょう」
二人は進路を変更した。
脱出地点ではない。
目指すのは、島の研究施設。
そこに残されたプラーガ除去装置だった。
研究施設最深部。
エイダとエレンは、警備の薄くなった地下通路を進んでいた。
先ほどまで厳重に警備されていた施設も、今では教団員の姿がほとんどない。
島各地で戦闘が発生している。
そして、その中心にいるのは――有栖次郎。
教団の警備網そのものが崩壊しつつあった。
やがてエイダが一つの扉の前で足を止める。
「ここよ」
端末を取り出し、電子ロックへ接続する。
画面へ数字が高速で流れる。
数秒後。
カチッ。
ロックが解除された。
扉が開く。
その先には、かつてルイス・セラが使用していた研究室があった。
大量の研究資料。
実験器具。
そして、部屋の中央にはプラーガ除去用の装置。
エイダはすぐに装置の状態を確認する。
「まだ使える」
エレンは不安そうに装置を見る。
「これで……」
「ええ」
エイダは頷く。
「プラーガを除去する」
そして、エレンは静かにベッドへ横たわる。
「お願いします」
「分かった」
固定具が身体を固定する。
エイダが装置を操作する。
「始めるわ」
低い駆動音。
白い光が研究室を満たしていく。
「……っ!」
エレンの身体が震えた。
身体の奥から何かを引き剥がされるような激痛。
歯を食いしばる。
「もう少し」
エイダが声を掛ける。
「耐えて」
「……!」
装置の出力が上がる。
エレンの首筋が大きく痙攣する。
やがて。
「……反応が弱くなった」
エイダは装置の数値を確認する。
「もう少しよ」
エレンは目を閉じ、ひたすら耐える。
そして――。
装置が停止した。
静寂。
「終わったわ」
エイダが固定具を外す。
エレンは荒い呼吸を繰り返した。
「……取れたんですか?」
「ええ」
エイダは確認する。
「プラーガの反応は消えている」
エレンは目を閉じた。
「……よかった」
その瞬間だった。
研究室の外から足音が響く。
エイダの表情が変わる。
すぐに銃を抜いた。
足音は一つではない。
重い。
誰かを抱えているような、不規則な足音。
扉が開いた。
「……エイダ?」
レオン・S・ケネディだった。
そして。
その腕には一人の少女が抱きかかえられていた。
金色の髪。
青ざめた顔。
力なくレオンの胸へ身体を預けている。
アシュリー・グラハム。
プラーガによる侵食が進み、自力で歩くことすら難しい状態だった。
「レオン……」
エイダが銃を下ろす。
レオンも室内を確認する。
「エイダ」
それ以上の言葉を交わす余裕はなかった。
レオンの腕の中で、アシュリーが苦しそうに身じろぎする。
「う……」
「もう大丈夫だ、アシュリー」
レオンが声を掛ける。
「あと少しだ」
エレンはベッドから身体を起こし、二人を見る。
そしてベッドから降りると、研究室の隅へ移動した。
自分が邪魔にならないように距離を取る。
アシュリーが僅かに目を開ける。
視線が一瞬だけ交わった。
しかし、互いに言葉を交わすことはなかった。
今は自己紹介をしている場合ではない。
エイダがすぐに動いた。
「そこへ寝かせて」
「ああ」
レオンはアシュリーを慎重にベッドへ寝かせる。
アシュリーの呼吸は荒い。
身体にもほとんど力が入っていない。
エイダが状態を確認する。
「かなり進行しているわね」
「除去できるか?」
「やるしかないでしょう」
エイダは装置を再起動する。
レオンはアシュリーの傍らから離れない。
アシュリーは苦しそうに目を開けた。
「……レオン」
「ここにいる」
「もう大丈夫だ」
それだけだった。
アシュリーは再び目を閉じる。
エイダが装置を操作する。
「始めるわ」
白い光が再び研究室を満たした。
アシュリーの身体が大きく震える。
「……っ!」
レオンが拳を握る。
だが、手を出すことはできない。
ここで止めれば、アシュリーは助からない。
「頑張れ」
それだけを繰り返す。
長い時間が過ぎた。
やがて。
「……終わったわ」
エイダが装置を停止する。
アシュリーの身体から力が抜けた。
「アシュリー!」
レオンが必死に呼びかける。
「大丈夫」
エイダが制する。
「眠っているだけ」
レオンは安堵したように息を吐く。
「……そうか」
だが。
「次はあなたよ。レオン」
エイダがレオンを見る。
「分かってる」
レオンは頷いた。
自分の身体にもプラーガがいる。
アシュリーと同じように除去する必要がある。
レオンはもう一台のベッドへ横たわった。
アシュリーの処置が終わった直後だったこともあり、身体には疲労が蓄積している。
「早速始めるわ」
「ああ」
エイダが慣れた手つきで操作すると装置が作動する。
レオンの身体が震える。
「ぐっ……!」
歯を食いしばる。
エイダは数値を確認しながら慎重に操作する。
時間が過ぎていく。
やがて。
「……反応消失」
エイダが装置を停止した。
「終わったわ」
レオンは荒い呼吸を繰り返す。
「……終わったか」
「ええ」
レオンは安心したように目を閉じた。
極度の疲労。
そこへプラーガ除去による負担が重なった。
意識が急速に遠のいていく。
「レオン……」
アシュリーが弱々しく声を漏らす。
「大丈夫だ」
レオンは何とか答える。
「少し……休むだけだ」
その直後。
レオンの意識が途切れた。
「レオン!」
アシュリーが身を起こそうとする。
しかし、まだ身体に力が入らない。
エイダが肩を押さえる。
「無理しないで」
アシュリーは再びベッドへ横たわり、自然と眠りにつく。
それから数分。
研究室の入口から足音が響いた。
エイダとエレンが同時に振り向き、エレンの表情が変わった。
「……アリス」
黒いスーツ姿の男が、静かに研究室へ入ってくる。
有栖次郎だった。
「無事だったみたいだな」
「ええ」
エレンは頷く。
次郎はエレンの身体を一瞥する。
「怪我は?」
「大丈夫よ」
「そうか」
短い会話。
それだけで十分だった。
次郎は研究室内を見渡す。
眠っているレオン。
その隣のアシュリー。
そしてエイダ。
「レオンは?」
「プラーガの除去が終わったところ」
「今は眠っているだけよ」
「そうか」
次郎は頷いた。
エイダが尋ねる。
「あなたは?」
「周辺の教団員は全員片付けた」
「この区域へ来る奴はいない」
エイダは小さく頷く。
「相変わらずね」
次郎は返事をしない。
その時。
「……う」
ベッドから声がした。
レオンがゆっくりと目を開く。
「ここは……」
「おはよう、レオン」
次郎が呼び掛ける。
「……アリス?」
レオンはぼんやりと次郎を見る。
「ありがとう。さっきは助かった」
「気にするな。助けられてるのはお互い様だ」
レオンは苦笑する。
「それにしても……本当に化物だな、お前」
「崖では殺されるかと思った」
「それもお互い様だ」
短いやり取り。
それを見ていたエレンは、ようやく肩の力を抜いた。
アリスが生きている。
レオンも生きている。
そして、自分のプラーガも除去された。
ようやく、最悪の状況から抜け出せた。
だが。
まだ島を脱出したわけではない。
最初に口を開いたのはレオンだった。
「……島の状況は?」
レオンはゆっくりと身体を起こす。
まだ顔色は完全には戻っていない。
それでも意識ははっきりしている。
エイダが答える。
「かなり酷いわ」
「通信施設は破壊された」
「武器庫も制圧されている」
「教団の警備網はほぼ機能していない」
レオンは眉を寄せる。
「誰がやった?」
エイダは次郎へ視線を向ける。
次郎は淡々と答えた。
「俺がやった」
「……どこまで?」
「島の西側から中央部にかけて」
「遭遇した教団員は、ほとんど片付けた」
レオンは一瞬、言葉を失った。
「ほとんど?」
「残っている奴もいる」
「サドラーとかな」
「だが、まともに動ける戦力はかなり減っているはずだ」
レオンは苦笑する。
「相変わらず無茶苦茶だな」
「そうか?」
「ああ」
レオンは周囲を見回す。
これまで自分が突破してきた施設も、島全体も、すでに大きく状況が変わっている。
「じゃあ……」
レオンが静かに呟く。
「残る敵は、サドラーだけか」
エイダが頷く。
「そういう事」
レオンはベッドから立ち上がった。
まだ身体に僅かな疲労は残っている。
それでも拳を握り、状態を確かめる。
そこで次郎がレオンを見る。
「サドラーを倒すなら、手を貸そうか」
レオンは一瞬だけ次郎を見つめた。
その申し出に驚いた様子はない。
むしろ、少しだけ苦笑する。
「気持ちはありがたいが、断る」
「理由は?」
「俺はアシュリーを救出するために来た」
レオンは隣で眠るアシュリーへ目を向ける。
「その目的は、もうすぐ達成できる」
「だから最後くらい、自分で片付けたい」
次郎は黙って聞いている。
レオンは続けた。
「それに、お前にも護衛対象がいるだろう」
エレンへ視線を向ける。
「彼女を安全な場所まで連れていってやってくれ」
「サドラーは俺が倒す」
次郎はしばらくレオンを見つめた。
そして。
「……分かった」
静かに頷いた。
「ここは任せる」
「ああ」
レオンも頷き返す。
その時だった。
エイダが立ち上がった。
「私も行くわ」
レオンが振り返る。
「脱出か?」
「いいえ、私には私の目的がある」
エイダはそれ以上を語らない。
何を目的としているのか。
それが何なのか。
誰から依頼されたのか。
いずれも説明するつもりはなかった。
レオンも、それ以上追及しない。
「……そうか」
「ええ」
エイダは腰のホルスターを確認する。
「回収するものが残っているの」
次郎もエイダを見る。
だが、何も尋ねなかった。
エイダが自分の目的を他人へ詳しく話すような人間ではないことは、ラクーンシティの頃から知っている。
そして研究室の出口へ向かう。
「それじゃあ」
短く言い残し、エイダは部屋を出ていった。
残された四人。
レオン。
次郎。
エレン。
そして、眠っているアシュリー。
次郎もエレンへ視線を向ける。
「それじゃあ、俺たちも行こうか」
「はい」
エレンが立ち上がる。
次郎は研究室の出口へ向かって歩き出した。
だが。
扉の前で足を止める。
「……レオン」
「ん?」
レオンが振り返る。
次郎は少しだけ沈黙した。
そして静かに口を開く。
「言い忘れていたが」
「機会があれば、また会おう」
レオンは一瞬だけ目を見開いた。
やがて口元へ小さな笑みを浮かべる。
「ああ」
そして肩を竦めた。
「ただし今度は、事件以外で会いたいもんだ」
次郎も僅かに笑う。
「違いない」
二人はそれ以上何も言わなかった。
お互いに軽く手を上げる。
それだけで十分だった。
次郎はエレンとともに研究室を出ていく。
レオンはその背中を見送った。
ラクーンシティと今回のスペイン。
いつも事件の最中にしか会わない男。
今度こそ。
何も起きていない場所で会えたら。
そんなことを考えながら、レオンは眠るアシュリーへ視線を戻した。
「さて……」
拳を握る。
「最後の仕事だ」
残された敵は一人。
オズムンド・サドラー。
レオン・S・ケネディの最後の戦いが、始まろうとしていた。
プラーガに感染してから発症するまでは個人差があるそうです。
都合によりルイスの鍵がルイスのカードキーに変更されました。