元殺し屋がバイオ事件に巻き込まれる話   作:オッパッピー

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前半は某テレビ番組。
後半はそれを見たある家族の反応。


第四章 東京バイオテロ事件
Prologue 天国と地獄


 『世界不思議見聞録』

 

 2006年放送回

 

 

---

 

 【スタジオ・オープニング】

 

 軽快なオープニングテーマが流れる。

 

 画面いっぱいに番組タイトルが映し出された。

 

  世界不思議見聞録

 

 

 

 映像がスタジオへ切り替わる。

 

 中央には司会の芝野。

 

 その隣には解答者の白柳と西村が座っている。

 

 芝野がカメラへ向かって微笑む。

 

 「さあ、始まりました『世界不思議見聞録』。司会の芝野です」

 

 「白柳さん、今回の舞台は、あの未曾有の悲劇から四年。奇跡の復興を遂げつつある国です」

 

 白柳が静かに頷く。

 

 「まあ、あそこね」

 

 「本当に大変な事件でしたものねえ」

 

 「私、お友達があの国にたくさんいて、一時は本当に心配いたしましたのよ」

 

 すると西村がすぐに口を挟む。

 

 「いやいや白柳さん、心配どころじゃないですよ!」

 

 「ウイルスで国が一つ消えかけたんですから!」

 

 白柳が西村を見る。

 

 「まあ、そうですけれど」

 

 西村も白柳を見る。

 

 「しかも感染者がものすごい勢いで襲ってくるんですよ?」

 

 「よく四年でここまで戻しましたよね」

 

 芝野が頷く。

 

 「ええ」

 

 「今回私たちが訪ねるのは、2006年のイギリス」

 

 「アメリカの全面的な支援を受けながら、大規模な復興を進めている現在の姿です」

 

 画面に現在のイギリスの映像が映し出される。

 

 再建された道路。

 

 修復された建物。

 

 営業を再開した商店。

 

 街を行き交う人々。

 

 芝野が語る。

 

 「事件によって大きな被害を受けたイギリスは、どのようにしてここまで復興したのでしょうか」

 

 「そして、あの事件を乗り越えた国には、現在どのような社会が築かれているのでしょうか」

 

 芝野がカメラへ手を差し出す。

 

 「それでは早速、呼んでみましょう」

 

 「現地のエミさーん!」

 

 

---

 

 【イギリス・ロンドン】

 

 画面が切り替わる。

 

 青空の下、ロンドンの街並みが映る。

 

 修復された建物。

 

 新しく舗装された道路。

 

 再開した商店。

 

 そして、その通りを歩く市民たち。

 

 カメラがゆっくりと進んでいく。

 

 その先にミステリーハンターのエミが立っている。

 

 「はーい!」

 

 「芝野さーん、白柳さーん、西村さーん!」

 

 「こちらイギリス、ロンドンです!」

 

 エミの背後には、活気を取り戻した街並みが広がっている。

 

 「ご覧ください!」

 

 「こちらでは現在、大規模な復興工事が進められています」

 

 「事件から四年が経った現在、街には少しずつ人々の生活が戻ってきています」

 

 カメラが街を映す。

 

 バス。

 

 商店。

 

 カフェ。

 

 公園で遊ぶ子供たち。

 

 「しかし、ここまでの道のりは決して平坦なものではありませんでした」

 

 エミの表情が少し引き締まる。

 

 「四年前、この国では一体何が起きたのでしょうか?」

 

 画面が切り替わる。

 

 

---

 

 【レイジウイルス事件】

 

 当時の記録映像。

 

 封鎖された道路。

 

 軍用車両。

 

 避難する市民。

 

 防護服を着た兵士。

 

 荒廃した市街地。

 

 画面には当時の英国各地の映像が映し出される。

 

 ナレーションが流れる。

 

 「2002年」

 

 「イギリスで発生した、レイジウイルスによる感染事件」

 

 「感染者は極度の興奮状態に陥り、他者を発見すると猛烈な勢いで襲い掛かりました」

 

 「感染は急速に拡大」

 

 「英国政府は軍を動員し、国内各地の封鎖を開始しました」

 

 映像には道路を封鎖する軍。

 

 避難所へ向かう市民。

 

 そして無人となった街。

 

 「事件によって、英国の社会機能は大きく損なわれました」

 

 「しかし、ここで一つの問題が生じます」

 

 画面が暗転する。

 

 

---

 

 【感染者はどうなったのか?】

 

 エミが森の中に立っている。

 

 「実は、レイジウイルスの感染者には、他の感染症とは大きく異なる特徴がありました」

 

 「感染者は、極度の興奮状態を維持するために大量のエネルギーを消費します」

 

 「そのため、食料や水を確保できなければ、時間とともに衰弱していきます」

 

 当時の資料映像。

 

 徐々に人影が減っていく街。

 

 「つまり、理論上は感染者が餓死していくことで、感染そのものが自然に終息する可能性があったのです」

 

 スタジオへ切り替わる。

 

 西村が質問する。

 

 「じゃあ、軍は何もしなくてもよかったんですか?」

 

 芝野が答える。

 

 「感染者そのものについて言えば、時間が解決する可能性はありました」

 

 「しかし英国政府は、別の選択をしました」

 

 画面が再び現地映像へ。

 

 

---

 

 【英国軍・掃討作戦】

 

 軍用車両が道路を進む。

 

 兵士が建物を一軒ずつ確認していく。

 

 ナレーション

 

 「英国軍は、感染者が自然に消滅するのを待つのではなく、国内各地で掃討作戦を実施しました」

 

 「感染者を発見すれば排除する」

 

 「感染地域を封鎖する」

 

 「安全を確認した地域から復旧作業を開始する」

 

 「これを繰り返していったのです」

 

 エミが軍関係者へインタビューする。

 

 「感染者が自然に餓死していく可能性があったにもかかわらず、なぜ掃討作戦を行ったのでしょうか?」

 

 軍関係者は答える。

 

 「国民に安全を示す必要がありました」

 

 「感染者がいつか消えるから待つ、というわけにはいきません」

 

 「軍が国内から脅威を排除した」

 

 「その事実が、復興を始めるために必要だったのです」

 

 エミが頷く。

 

 「なるほど」

 

 

---

 

【スタジオ】

 

 西村が納得した顔をしている。

 

 「なるほどなあ」

 

 「ただ待っているだけだと、いつまで経っても安心できませんもんね」

 

 白柳が続く。

 

 「街を取り戻すためにも、区切りが必要だったんでしょうね」

 

 芝野が頷き、カメラを見る。

 

 「ええ」

 

 「そして、英国復興を大きく後押ししたのが、もう一つの存在でした」

 

 

---

 

 【第1問】

 

 画面に問題が表示される。

 

   英国復興を大きく後押ししたものとは?

 

 

 

 A 新型戦車の大量配備

 

 B レイジウイルス・ワクチンの完成

 

 C 海外からの大規模な移民受け入れ

 

 西村が即座に札を上げる。

 

 「B!」

 

 白柳も札を上げる。

 

 「私もBです」

 

 芝野が笑う。

 

 「果たして正解でしょうか?」

 

 

---

 

 【レイジウイルス・ワクチン】

 

 VTR。

 

 研究施設。

 

 白衣を着た研究員。

 

 顕微鏡。

 

 薬品を扱う研究員。

 

 ナレーション

 

 「レイジウイルスに対するワクチンの開発」

 

 「その研究を進めていた企業の一つが、ウィルファーマ社でした」

 

 画面に企業資料。

 

  WILPHARMA

 

 

 

 ナレーション

 

 「ウィルファーマ社は、レイジウイルスだけではありません」

 

 「過去のTウイルス事件に対するワクチンや抗ウイルス剤の研究でも大きな成果を上げていました」

 

 画面に資料。

 

  T-VIRUS

 

 VACCINE

 

 ANTIVIRAL

 

 

 

 さらに、

 

  RAGE VIRUS

 

 VACCINE

 

 ANTIVIRAL

 

 

 

 ナレーション

 

 「Tウイルスとレイジウイルス」

 

 「二つの危険なウイルスに対するワクチンと抗ウイルス剤を開発した企業」

 

 「それがウィルファーマ社です」

 

 

---

 

 【スタジオ】

 

 西村が驚く。

 

 「これは凄い会社ですね」

 

 白柳も感心している。

 

 「二つとも人間を大変な状態にしてしまうウイルスでしょう?」

 

 芝野が真剣な顔をする。

 

 「そうです」

 

 「しかし、ウィルファーマ社には大きな転機が訪れます」

 

 

---

 

 【2005年・ウィルファーマ社】

 

 画面が切り替わる。

 

 新聞記事。

 

 企業資料。

 

 株価情報。

 

 

 そしてナレーション

 

 「2005年」

 

 「ウィルファーマ社は経営破綻」

 

 「その後、同社はトライセル社によって買収されました」

 

 画面に巨大な企業ロゴが映る。

 

  TRICELL

 

 

 

 ナレーション

 

 「研究施設」

 

 「研究データ」

 

 「特許」

 

 「研究者」

 

 「そして医薬品の製造・供給網」

 

 「ウィルファーマ社が築き上げた事業の多くが、トライセル社へ引き継がれました」

 

 

---

 

 【トライセル社の研究施設】

 

 現在の研究施設が映る。

 

 正門。

 

 警備員。

 

 巨大な建物。

 

 その壁には、 TRICELLの文字。

 

 

 エミが施設の前に立っている。

 

 「こちらが、現在レイジウイルスのワクチンと抗ウイルス剤の研究・供給を行っているトライセル社の施設です」

 

 「実は、この施設には少し意外な歴史があります」

 

 エミの背後に、古い資料写真が表示される。

 

  WILPHARMA

 

 

 「もともと、この施設を使用していたのはウィルファーマ社でした」

 

 「しかし2005年の買収によって、現在はトライセル社の施設となっています」

 

 研究施設内部。

 

 研究員がワクチンを製造している。

 

 「現在ここでは、ウィルファーマ社から引き継いだ研究成果を基礎として、レイジウイルスに対するワクチンや抗ウイルス剤の研究・製造が行われています」

 

 

---

 

 【第2問】

 

 スタジオ。

 

 芝野が問題を読み上げる。

 

  ウィルファーマ社を買収したトライセル社とは、一体どんな企業なのでしょうか?

 

 

 

 A 英国政府の国営企業

 

 B 世界各地で事業を展開する巨大企業

 

 C 英国の小規模な製薬会社

 

 西村が札を上げる。

 

 「これはBでしょう!」

 

 白柳が続く。

 

 「私もBだと思います」

 

 芝野が口を開く。

 

 「正解は――」

 

 間が開く。

 

 「Bです」

 

 

---

 

 【巨大企業・トライセル】

 

 世界各地のトライセル関連施設。

 

 製薬研究所。

 

 病院。

 

 物流施設。

 

 港湾施設。

 

 エネルギー関連施設。

 

 ナレーション

 

 「トライセル社は製薬会社という枠には収まりません」

 

 「医療」

 

 「物流」

 

 「エネルギー」

 

 「農業」

 

 「インフラ」

 

 「世界各地で幅広い事業を展開する巨大企業です」

 

 西村が驚愕する。

 

 「ええっ!」

 

 「そこまでやってるんですか?」

 

 芝野が頷く。

 

 「そうなんです」

 

 「そして現在の英国にとって、トライセル社は非常に重要な存在となっています」

 

 

---

 

 【アメリカの支援】

 

 VTR。

 

 アメリカ軍の輸送機。

 

 港に到着する物資。

 

 医療品。

 

 建築資材。

 

 発電設備。

 

 ナレーション

 

 「そして英国復興を語るうえで忘れてはいけないのが、アメリカによる支援です」

 

 「レイジウイルス事件は、英国だけの問題ではありませんでした」

 

 「感染症が国外へ拡大すれば、アメリカ自身も重大な被害を受ける可能性があります」

 

 「そのためアメリカは、英国への支援を積極的に行いました」

 

 エミが港を歩く。

 

 「アメリカから送られてきた物資は、医療だけではありません」

 

 「発電設備」

 

 「建築資材」

 

 「食料」

 

 「輸送車両」

 

 「そしてワクチン研究への支援」

 

 「さまざまな分野で英国復興を支えています」

 

 

---

 

 【ワクチン実験】

 

 研究施設。

 

 レイジウイルスの資料。

 

 ワクチンの試験。

 

 ナレーション

 

 「アメリカが英国を支援したもう一つの理由」

 

 「それは、このワクチンの有効性を確認することでした」

 

 「自国にとっても脅威となり得るレイジウイルス」

 

 「英国で実際に使用することで、ワクチンの効果を確認する」

 

 「これはアメリカにとっても重要な意味を持っていました」

 

 研究員がインタビューで語る。

 

 「英国での接種と経過観察によって、多くのデータを得ることができました」

 

 「そのデータは今後の感染症対策にも役立つでしょう」

 

 

---

 

 【英国軍のワクチン接種】

 

 VTR。

 

 兵士たちが列を作る。

 

 一人ずつ接種を受けていく。

 

 ナレーション

 

 「英国では、ワクチン完成後、軍関係者への接種が優先されました」

 

 「感染地域へ入る兵士を守るためです」

 

 接種を終えた兵士たちが装備を整える。

 

 装甲車が出発する。

 

 ナレーション

 

 「そしてワクチン接種を済ませた部隊による掃討作戦が行われました」

 

 「感染者を国内から排除し、安全を確保する」

 

 「その後、道路や電力、水道などの復旧が進められていきました」

 

 

---

 

 【ロンドン復興】

 

 VTR。

 

 道路工事。

 

 水道管の修復。

 

 電線の復旧。

 

 住宅の再建。

 

 商店の営業再開。

 

 エミがロンドンの街を歩く。

 

 「こちらでは、現在も復興作業が続いています」

 

 「一度失われたインフラを取り戻すのは、簡単なことではありません」

 

 「それでも、少しずつ以前の生活が戻ってきています」

 

 市場で買い物をする市民。

 

 子供たちが学校へ向かう。

 

 「こうした日常が戻ってきたことこそ、復興の証なのかもしれません」

 

 

---

 

 【もう一つの復興問題】

 

 エミがワクチン接種所を訪れる。

 

 そこには英国人だけでなく、外国人の姿もある。

 

 「しかし、復興が進む一方で、新たな問題も生まれています」

 

 「その一つが、ワクチン接種をめぐる問題です」

 

 

---

 

 【英国のワクチン政策】

 

 ナレーション。

 

 「英国政府は感染症の再流入を防ぐため、国民へのワクチン接種を進めています」

 

 「一般の英国国民には自己負担による接種を求める一方」

 

 「国内に滞在する移民や外国人に対しては、感染症対策の一環として無料接種を行う政策を進めています」

 

 接種会場。

 

 無料接種を受ける外国人。

 

 その一方で、料金を支払う英国人。

 

 ナレーション

 

 「政府の説明では、国籍に関係なく感染者を増やさないための措置」

 

 「しかし――」

 

 街頭インタビュー。

 

 英国人男性が語る。

 

 「自分たちはお金を払っているのに、なぜ無料なんだ?」

 

 彼とは別に英国人女性も語る。

 

 「感染を防ぐことが重要なのは分かります」

 

 「でも納得できない人がいるのも当然だと思います」

 

 

---

 

 【スタジオ】

 

 西村が険しい顔をする。

 

 「これは揉めるでしょうね」

 

 白柳も続く。

 

 「感染症ですから、外国人だから接種しなくていいというわけにもいきませんし……」

 

 芝野が頷く。

 

 「まさに難しい問題です」

 

 「復興した社会では、以前とは違う新しい問題も生まれているということですね」

 

 

---

 

 【移民政策】

 

 VTR。

 

 外国人向けの住宅。

 

 語学教室。

 

 職業訓練施設。

 

 ナレーション

 

 「さらに英国政府は、復興後の労働力不足などを背景として移民政策を推し進めています」

 

 「国内へ人を呼び込み、経済を再建する」

 

 「その一環として、外国人への医療支援も拡大されています」

 

 エミが街を歩く。

 

 「復興によって生まれた新しい英国」

 

 「そこには、かつての英国とは違う社会が形成されつつあります」

 

 

---

 

 【第3問】

 

 スタジオ。

 

 芝野が問題を出す。

 

  復興した英国で今、最も重要になっているものは?

 

 

 

 A 事件以前と全く同じ社会を取り戻すこと

 

 B 事件後の新しい社会をどう作るか

 

 C 海外との交流を完全に断つこと

 

 西村が答える。

 

 「B!」

 

 白柳も答える。

 

 「私もBですね」

 

 芝野が頷く。

 

 「その通りです」

 

 

---

 

 【トライセル社の存在感】

 

 再びトライセル社の映像。

 

 ワクチン。

 

 物流。

 

 医療。

 

 インフラ。

 

 ナレーション

 

 「そして、この新しい英国社会で存在感を増している企業があります」

 

 「トライセル社です」

 

 「ウィルファーマ社を買収したことで、レイジウイルス・ワクチンの供給元となったトライセル社」

 

 「英国は、その企業を国内から簡単に排除することができません」

 

 エミがトライセル社の施設を見上げる。

 

 「ワクチンを必要とする英国」

 

 「ワクチンを供給するトライセル社」

 

 「復興を支える巨大企業」

 

 「両者は切っても切れない関係になっています」

 

 

---

 

 【エンディング】

 

 夕暮れ。

 

 テムズ川。

 

 復興したロンドン。

 

 街灯が一つずつ点灯していく。

 

 人々が帰宅していく。

 

 ナレーション

 

 「四年前」

 

 「英国は、未曾有の感染事件によって大きく傷つきました」

 

 「しかし今」

 

 「街には再び人々の声が戻っています」

 

 「ワクチン」

 

 「軍による掃討」

 

 「アメリカの支援」

 

 「そして英国自身の復興への努力」

 

 「多くのものが、この国を再び立ち上がらせました」

 

 映像がゆっくりとロンドンの全景へ引いていく。

 

 ナレーション

 

 「しかし、復興とは過去へ戻ることではありません」

 

 「新しい社会を作ること」

 

 「そして、その過程では新たな対立や問題も生まれます」

 

 「英国は今、その新しい時代へ歩み始めています」

 

 

---

 

 【スタジオ】

 

 スタジオへ戻る。

 

 芝野がカメラを見る。

 

 「いかがでしたでしょうか」

 

 「今回は、あの悲劇から四年」

 

 「復興を続けるイギリスを訪ねました」

 

 白柳が静かに頷く。

 

 「大変なことがあった国ですけれど、こうして人々が戻って生活している姿を見ると、本当に良かったと思いますね」

 

 西村も頷く。

 

 「それにしても、四年でここまで戻すというのは凄いですね」

 

 「もちろん、まだ問題は残っているんでしょうけど」

 

 芝野が頷く。

 

 「ええ」

 

 「復興が進む一方で、ワクチン政策や移民政策など、新たな社会問題も生まれています」

 

 「そして、その復興を支える巨大企業の存在も見逃せません」

 

 芝野が少し意味ありげに微笑む。

 

 「英国の復興は、まだ始まったばかりなのかもしれません」

 

 白柳も頷く。

 

 「そうですね」

 

 芝野がカメラへ向き直る。

 

 「それでは、今夜はこの辺で」

 

 「また次回、『世界不思議見聞録』でお会いしましょう」

 

 西村がカメラへ向く。

 

 「さようなら!」

 

 白柳もカメラへ向く。

 

 「ごきげんよう」

 

 画面下にエンドロールが流れる。

 

 そして番組は終了した。

 

---

 

 【放送終了後】

 

 番組が終わり、テレビ画面がCMに切り替わる。

 

 時刻は夜。

 

 東京の、とある家庭。

 

 リビングでは、日本人の女子高生と、その両親が先ほどまで『世界不思議見聞録』を見ていた。

 

 父親がリモコンを操作してテレビの電源を切る。

 

 「いやあ……凄い話だったな」

 

 「四年前に、あんなことがあったんだな」

 

 女子高生はソファに座ったまま、手にしていたガラケーを閉じる。

 

 「イギリスって大変だったんだね」

 

 「でも、もう復興してるんでしょ?」

 

 「ああ。番組を見る限りじゃ、かなり戻ってきてるみたいだな」

 

 母親は少し考え込むように、消えたテレビ画面を見る。

 

 そして、ふと思い出したように口を開いた。

 

 「そういえば……」

 

 「Tウイルスとレイジウイルスのワクチン、どうする?」

 

 父親が振り返る。

 

 「ワクチン?」

 

 「この前、病院で案内されてたでしょう?」

 

 「二種類とも受けられるって」

 

 「ああ……」

 

 父親は少し考えた。

 

 そして、首を横に振る。

 

 「でも、一種類二万円だろ?」

 

 「二種類受けたら四万円だぞ」

 

 母親も少し困った顔になる。

 

 「そうなのよねえ……」

 

 女子高生も会話に加わる。

 

 「四万円?」

 

 「それだけあったら、旅行に行けるじゃん」

 

 「そうだろ?」

 

 父親が頷く。

 

 「Tウイルスもレイジウイルスも、今の日本で流行ってるわけじゃない」

 

 「イギリスで大変なことになったのは分かるけど、わざわざ四万円払ってまで受ける必要があるのか?」

 

 「うーん……」

 

 娘はガラケーを開き、画面を眺めながら考える。

 

 「私もいいかな」

 

 「四万円あったら、友達と旅行に行けるし」

 

 「北海道とか沖縄とか行きたいな」

 

 「ほらな」

 

 父親が笑う。

 

 母親も苦笑する。

 

 「そうよねえ……」

 

 「もう少し安くならないかしら」

 

 「一種類一万円くらいだったら、まだ考えるんだけど」

 

 「それでも合計で二万円か」

 

 父親が腕を組む。

 

 「ちょっと考える値段だな」

 

 三人の間に、しばし沈黙が流れた。

 

 先ほどまでテレビに映っていたのは、四年前に地獄と化した英国だった。

 

 感染者に襲われる人々。

 

 封鎖された都市。

 

 軍による掃討。

 

 そして、ワクチンによって少しずつ取り戻されていった日常。

 

 そのワクチンが、今では日本でも接種できる。

 

 Tウイルス。

 

 レイジウイルス。

 

 どちらも一度感染すれば、命を失う可能性がある危険なウイルスだ。

 

 その感染を防ぐワクチンが、一種類二万円。

 

 二種類で四万円。

 

 命の値段と考えれば、決して高くはない。

 

 むしろ破格と言ってもいい。

 

 しかし――。

 

 日本で暮らす彼らにとって、英国で起きた事件は遠い国の出来事だった。

 

 「まあ、必要になったら受ければいいだろ」

 

 父親が立ち上がる。

 

 「今すぐ必要ってわけでもないんだし」

 

 「そうね」

 

 母親も頷く。

 

 女子高生はガラケーを閉じる。

 

 「じゃあ、旅行の方がいい!」

 

 「お父さん、夏休みどこか連れてってよ」

 

 「四万円全部旅行に使う気か?」

 

 「だってワクチンより思い出が大事じゃん」

 

 「お前なあ……」

 

 父親が呆れたように笑う。

 

 母親もつられて笑った。

 

 テレビの向こうでは、英国がようやく復興への道を歩み始めている。

 

 そして日本では――。

 

 今日も変わらない日常が続いていた。

 

 海の向こうで起きた悪夢は、彼らにとってまだ、「テレビで見る外国の事件」に過ぎなかった。

 

 

 

――東京バイオテロ事件・序章――

 

 




Chapter1のサブタイトルで何のクロスか明かします。

作中で家族が「2万円のウイルスワクチンは高い」と拒否するシーンは、現実の「人間用狂犬病ワクチン」を参考にしています。
狂犬病は発症すれば致死率ほぼ100%の恐ろしい病気ですが、日本では長年発生していないため、多くの人が「海外の他人事」だと捉えています。
また、予防接種は保険適用外で必要回数接種すると約2万円かかります。
「命がかかっているのに、平和ボケと目先の出費のせいで他人事にしてしまう」という、現実の日本にはびこるリアルな空気感をバイオハザードの世界に落とし込みたくて、この設定にしました。
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