元殺し屋がバイオ事件に巻き込まれる話   作:オッパッピー

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本日一度目の投稿。


Chapter4 英雄 Part4

 しばらくして、鞠川が老婦人の元から戻ってきた。

 

「処置は終わったわ」

 

 小室たちが一斉に顔を上げる。

 

「大丈夫なんですか?」

 

「ええ。赤血球製剤も間に合ったし、今は落ち着いているわ」

 

 鞠川は安堵したように息を吐いた。

 

「もう危険な状態は脱したと思う」

 

「よかった……」

 

 小室が胸を撫で下ろす。

 

 宮本も静かに頷いた。

 

「助かったのね」

 

「ええ」

 

 鞠川が微笑む。

 

 その近くでは、ありすも嬉しそうに笑っていた。

 

「おばあちゃん、助かったんだね」

 

「そうよ」

 

 鞠川がありすの頭を優しく撫でる。

 

「みんなが頑張ってくれたおかげね」

 

 ありすは嬉しそうに頷いた。

 

 その少し離れた場所では、次郎が一人で机に向かっていた。

 

 手にしているのは、血で汚れたトマホーク。

 

 水で乾いた血を洗い落とし、砥石を使い、刃を丁寧に研いでいる。

 

 一定の動作を繰り返しながら、刃の状態を確認していく。

 

 やがて研ぎ終えると、次郎は刃を光にかざした。

 

 問題はない。

 

 砥石を片付け、トマホークの刃と机を布で丁寧に拭う。

 

 続いて柄を確認する。

 

 緩みもない。

 

 手入れを終えたトマホークをケースへ収めた。

 

 そこへ、中岡が近づいてきた。

 

「次郎さん」

 

「ん?」

 

「さっきは、ありがとうございました」

 

 次郎は手を止めて中岡を見る。

 

「お互い様だ」

 

「それでも……」

 

 中岡は少し笑った。

 

「助けてもらったのは事実ですから」

 

「そうか」

 

 次郎は頷いた。

 

 中岡は、ケースに収められたトマホークへ目を向ける。

 

「……本当に、頼りになりますね」

 

「俺だけの力じゃない」

 

「そういうところも含めて、です」

 

 中岡が微笑む。

 

「……これからも、頼りにしてもいいですか?」

 

「ああ。俺にできることなら」

 

 中岡は嬉しそうに頷いた。

 

 それからしばらくして、次郎はモール内の状況を確認して回った。

 

 必要な物は揃っている。

 

 武器。

 

 食料。

 

 水。

 

 最低限の装備は、いつでも持ち出せる状態になっていた。

 

 小室と平野も、それぞれの装備を確認している。

 

「佐藤さん」

 

 小室が声を掛ける。

 

「ん?」

 

「さっきの病院……助かりました」

 

「気にするな。俺だけの力じゃない」

 

 次郎は答える。

 

「三人の援護があったから、死なずに済んだ」

 

「それでも、あの数を相手にして生き残ったのは凄かったですよ」

 

 小室が苦笑する。

 

「俺だったら、途中で弾がなくなった時点で死んでます」

 

「その時は、覚悟を決めてトマホークを使えばいい」

 

 次郎は小室の腰を見る。

 

 そこには、以前渡したトマホークが収まっている。

 

「もう使い慣れたか?」

 

「まだまだですけど、使いやすいです」

 

「なら、そのまま使え」

 

「はい」

 

 平野もライフルを確認する。

 

 弾薬を確認し、銃剣がしっかり固定されていることも確認した。

 

 そこへ宮本がやってきた。

 

「孝」

 

「ん?」

 

「準備は?」

 

「終わった」

 

 小室が答える。

 

「もう、いつでも動けるようにしてある」

 

「そう」

 

 宮本は頷いた。

 

 その視線が、モールの奥へ向く。

 

 そこでは生存者たちが、それぞれ休んでいる。

 

「……ここを出る時は、どうするの?」

 

「みんなを連れていくわけにはいかないだろ」

 

 小室が答える。

 

「分かってる」

 

 宮本は小さく息を吐いた。

 

「ただ……置いていくのも、気分がいいものじゃないわね」

 

「そうだな」

 

 小室もそれ以上は言わなかった。

 

 次郎は二人の会話を聞きながら、静かに荷物を閉じた。

 

 ここに残るつもりはない。

 

 それは最初から決めている。

 

 あとは、いつ出るか。

 

 そして――。

 

 中岡がどうするか。

 

 次郎は少し離れた場所にいる中岡へ目を向けた。

 

 中岡は生存者たちの様子を見ながら、一人で考え込んでいる。

 

 次郎は声を掛けなかった。

 

 答えを急かす必要はない。

 

 中岡自身が決めることだからだ。

 

 しばらくして、中岡がモール内を巡回していた時のことだった。

 

「……あれ?」

 

 先ほどまでいたはずの老夫婦の姿が見えない。

 

 中岡は周囲を確認する。

 

 ベンチにもいない。

 

 寝具店にもいない。

 

 近くの生存者たちに声を掛ける。

 

「すみません。あの老夫婦を見ませんでしたか?」

 

「あ? 老夫婦?」

 

「そう言えば、いねえな」

 

 生存者の一人が答える。

 

「ああ。さっき屋上へ行くって言ってたぞ」

 

 別の生存者が続ける。

 

「屋上……?」

 

「景色を見に行くってさ」

 

 中岡の表情が固まった。

 

「……そうですか」

 

 嫌な予感がする。

 

 中岡はすぐに屋上へ向かった。

 

 階段を上り、屋上へ出る。

 

「……」

 

 風が吹く屋上には、誰もいなかった。

 

 中岡は辺りを見回した。

 

 そして、屋上の端に何かが置かれていることに気づく。

 

 靴だった。

 

 それも二組。

 

 きちんと並べられている。

 

「……嘘」

 

 中岡の足が止まった。

 

 その意味を理解するまで、それほど時間は掛からなかった。

 

 老婦人は助かった。

 

 それなのに――。

 

「……どうして……」

 

 中岡はその場に立ち尽くした。

 

 拳を握る。

 

 警察官として、これまで何人もの人間を見てきた。

 

 だが、目の前の現実を受け入れることができない。

 

「助かったのに……」

 

 声が震える。

 

「せっかく……助かったのに……」

 

 中岡の目から涙がこぼれた。

 

 その時、背後から足音が聞こえた。

 

「あさみさん」

 

 中岡は振り返らなかった。

 

「……次郎さん」

 

 次郎が隣まで歩いてくる。

 

 そして、並べられた二組の靴を見るが、何も言わなかった。

 

 中岡も俯いたまま、涙を拭う。

 

「私……助けたかったんです」

 

「ああ」

 

「助けられたと、思ったのに……」

 

 声が震えている。

 

「どうして……」

 

 次郎は答えなかった。

 

 ただ、中岡の肩へ手を置く。

 

 中岡は堪えていた涙を抑えきれなくなった。

 

「……ごめんなさい」

 

「謝ることじゃない」

 

「でも……私がもっと早く……気づいていれば……」

 

「君のせいじゃない」

 

 次郎は静かに言った。

 

「誰にも、どうすることもできなかった」

 

「……でも」

 

「君は十分やったよ」

 

 その言葉に、中岡の目からさらに涙が溢れた。

 

 次郎はしばらく中岡を見ていた。

 

 そして、そっと抱き寄せる。

 

「……泣きたい時は泣いていいんだ」

 

「……次郎さん」

 

「今は、無理に我慢しなくていい」

 

 中岡は次郎の胸元に顔を埋めた。

 

 肩を震わせながら泣き続ける。

 

 次郎は何も言わず、その身体を抱きしめていた。

 

 しばらくして、中岡の嗚咽が少しずつ小さくなる。

 

 それでも次郎は離れなかった。

 

 中岡が泣き止むまで、静かに抱きしめ続けた。

 

 ようやく中岡が落ち着きを取り戻した頃だった。

 

 階下から、悲鳴が響いた。

 

「――ぎゃああっ!」

 

 次郎が顔を上げる。

 

「……今度は何だ?」

 

 次郎と中岡はすぐに屋上の出入口へ向かった。

 

 二人が階下へ戻ると、生存者たちが一か所に集まっていた。

 

 その中央で、一人の男が床に倒れている。

 

 腹部から血が滲んでいた。

 

「動くな!」

 

 その傍らでは、別の若者が数人に押さえ込まれている。

 

「離せよ!」

 

「俺は悪くない!」

 

 若者が叫ぶ。

 

「こいつが先に――」

 

「静かにしてください!」

 

 中岡が駆け寄る。

 

「何があったんですか?」

 

「こいつが……」

 

 生存者の一人が倒れている男を指差す。

 

「急にあいつを刺したんだ!」

 

 中岡はすぐに倒れている男へ近づく。

 

 しかし、その場にはすでに鞠川がいた。

 

「傷は確認したわ」

 

 鞠川が答える。

 

「深くはない。奇跡的に急所は外れているわ」

 

「命に別状は?」

 

「今のところ大丈夫」

 

 鞠川は傷口を押さえながら続ける。

 

「ただし、しばらくは絶対安静ね」

 

「分かりました」

 

 中岡は頷いた。

 

 その時だった。

 

 ――カサ……。

 

 天井の方から、微かな音が聞こえた。

 

 次郎が顔を上げる。

 

 ――ズ……ズズ……。

 

 何かを引きずるような音。

 

 ダクトの中を何かが這い回っている。

 

 次郎の表情が変わった。

 

「……静かに」

 

 声を潜める。

 

 周囲の人間が次郎を訝しげに見る。

 

「声を出すな」

 

 次郎は天井を見上げた。

 

 音が止まった。

 

 次郎はポケットへ手を入れる。

 

 取り出したのは、以前ありすが見つけた花火だった。

 

 音の出るタイプの花火。

 

 次郎はその一本を取り出すと、ライターで火をつける。

 

 そして、音が響く前に廊下の奥へ投げた。

 

 花火が床を転がる。

 

 数秒後――。

 

 大きな破裂音が連続で響いた。

 

 その瞬間。

 

 ――ガシャァンッ!

 

 天井のダクトが破壊され、何かが勢いよく落下してくる。

 

「――ッ!」

 

 全身の皮膚が剥がれ落ち、脳や赤い筋肉組織がむき出しになった異形の怪物。

 

 リッカーだった。

 

 床へ着地すると同時に、花火へ向かって飛びかかる。

 

 鋭い爪が床を削り、長い舌が伸びる。

 

 だが、リッカーは花火へ意識を集中させていた。

 

 次郎が動く。

 

 気配を殺し、足音を立てずにリッカーの背後へ回り込む。

 

 そして――。

 

 トマホークを振り下ろした。

 

 刃が露出した脳へ食い込む。

 

 リッカーが身体を震わせる。

 

 次郎は刃を引き抜き、もう一度振り下ろす。

 

 さらに一度。

 

 確実に動きを止めるため、何度もトマホークを振り下ろす。

 

 リッカーの身体が大きく痙攣する。

 

 最後の一撃。

 

 トマホークが深々と脳へ食い込んだ。

 

 リッカーの身体から力が抜ける。

 

 床へ崩れ落ちた。

 

 次郎はゆっくりとトマホークを引き抜く。

 

 周囲には、誰も声を出す者はいなかった。

 

 誰も、すぐには動けなかった。

 

 床に倒れているリッカー。

 

 その異様な姿を、全員が見つめている。

 

「……何だよ、あれ」

 

 小室が呟く。

 

「俺、あんな化け物見たことない……」

 

 平野もライフルを構えたまま、言葉を失っていた。

 

 宮本も顔を強張らせ、毒島だけは冷静にリッカーの死体を観察していた。

 

 その中で、高城が次郎へ視線を向ける。

 

「佐藤さん」

 

「何だ?」

 

「あなた、あの化け物の倒し方に詳しいみたいね」

 

 次郎はリッカーへ目を向ける。

 

「……ああ」

 

「なら、教えてくれる? いろいろと」

 

 高城の問いに、次郎は少しだけ考えた。

 

「別に隠していたわけじゃない」

 

 次郎は静かに口を開いた。

 

「俺は、ラクーンシティ事件の生き残りだ」

 

「……え?」

 

 小室が目を見開く。

 

「ラクーンシティって……八年前の?」

 

 宮本も驚いた表情を浮かべる。

 

「佐藤さんが……?」

 

 次郎は頷いた。

 

「ああ」

 

 周囲にざわめきが広がる。

 

「じゃあ、あの化け物も……」

 

「そう。ラクーンシティで遭遇した」

 

 次郎はリッカーを見る。

 

「だから、どうすれば倒せるのか知っている」

 

「そして、こいつが出てきたことで、俺は今回の感染がTウイルスによるものだと確信した」

 

 高城が眉を寄せる。

 

「……確信した?」

 

「ああ」

 

「今までは違ったの?」

 

「確信までは持てなかった」

 

 高城が尋ねる。

 

「なぜ?」

 

 次郎は少し間を置いた。

 

「ラクーンシティで発生したゾンビは、目が見えていた」

 

「目が?」

 

「そうだ」

 

 次郎は続ける。

 

「少なくとも、俺が遭遇した連中は視覚を使っていた。こちらを見つければ追ってきた」

 

 高城がリッカーへ視線を戻す。

 

「でも、今回のゾンビは……」

 

「目が見えていない」

 

 次郎が言葉を継ぐ。

 

「どいつも目が白く濁っている。視覚を失っているように見えた」

 

 小室が思い返す。

 

「確かに……目の前にいても、音を立てなきゃ気づかれない」

 

「だから、今まではTウイルスだと断定まではできなかった」

 

 次郎はリッカーの死体を見る。

 

「だが、こいつが出てきた」

 

「……どういうこと?」

 

 高城が尋ねる。

 

「ラクーンシティでは、Tウイルス感染者の一部が時間の経過でこいつになった」

 

 次郎はリッカーを指す。

 

「感染が進んで肉体が変異し、視覚を失う代わりに聴覚などの感覚が発達する」

 

 高城が考え込む。

 

「つまり……外にいる奴らも、同じように?」

 

「可能性はある」

 

 次郎は少し考えてから続ける。

 

「今回のウイルスは、ラクーンシティで使われたものと完全に同じじゃないのかもしれない」

 

「もしかして、改良されている?」

 

「ああ」

 

 次郎は周囲を見回す。

 

「感染者が最初から視覚を失っているのは、こいつに近い性質を持たせるためじゃないかと思う」

 

「これになりやすくするために?」

 

「そうだ」

 

 次郎の声が低くなる。

 

「ウイルスそのものが、変異しやすいように改良されている可能性がある」

 

 誰も口を挟まなかった。

 

 その推論を聞き、周囲の空気が重くなる。

 

 その時だった。

 

「――きゃああああっ!」

 

 遠くから悲鳴が響いた。

 

 全員が振り返る。

 

 離れた場所にいた生存者たちが、何かから逃げている。

 

 その後ろの壁を、別のリッカーが這い回っていた。

 

「逃げろ!」

 

 誰かが叫ぶ。

 

 だが、その声に反応したリッカーが壁を蹴った。

 

 人間とは思えない速度で、生存者の一人へ飛びかかる。

 

「ぎああああっ!」

 

 悲鳴が響く。

 

 リッカーの爪が生存者の身体を深く切り裂いた。

 

 別の生存者が逃げようとする。

 

 だが、もう一体が天井から降りてきた。

 

「二体も……!」

 

 平野が息を呑む。

 

 次郎は目を細めた。

 

 先ほどの推論が、目の前の光景によって裏付けられようとしていた。

 

 次郎は、襲われている生存者たちへ視線を向けた。

 

 助けてやりたい気持ちはあるが、リッカーを正面から二体同時に相手にするのは難しい。

 

「平野くん」

 

「援護を頼めるか」

 

 平野がライフルを構える。

 

「分かりました」

 

 次郎はポケットから花火を取り出した。

 

「作戦は簡単だ」

 

「これで二体を引きつける」

 

 花火を見せる。

 

「俺が一体を引き受ける。もう一体を頼む」

 

「了解です」

 

 次郎は花火を手にしたまま、生存者たちのいる場所へ向かった。

 

 平野も狙撃できる場所へ移動する。

 

 ――。

 

 しばらくして、次郎と平野は二階へ戻ってきた。

 

 リッカーの姿は、もうない。

 

 襲われた生存者たちも、動ける者は二階へ集められていた。

 

 だが――。

 

 その直後だった。

 

 階下から、激しい物音が響いた。

 

「今度は何だ?」

 

 次郎が振り返る。

 

 続いて、複数の呻き声が聞こえてくる。

 

 何かを押しのけて進むような音が、階下から響いてきた。

 

 次郎が音のした方向へ目を向ける。

 

「……非常口か」

 

 先ほどまでいた一階の非常口がある方向だった。

 

 その直後、階下から大量の足音と呻き声が重なった。

 

「侵入されたな」

 

 次郎が言う。

 

 小室が顔をしかめる。

 

「まさか……」

 

 先ほどリッカーに襲われた生存者たちが逃げた方向を思い出す。

 

「……逃げた生存者が、非常口を開けたのか」

 

「その可能性が高い」

 

 次郎が答える。

 

 階下から、さらに大きな物音が響く。

 

 ゾンビの群れが一階へ流れ込んでいる。

 

「馬鹿野郎……!」

 

 小室が吐き捨てる。

 

 次郎は周囲を見回した。

 

 ここから先は、時間との勝負だった。

 

「ここでの生活は、もう終わりだ」

 

 生存者たちがざわめく。

 

「そんな……」

 

「じゃあ、どこへ行けばいいんだ?」

 

「俺たちはどうすれば……」

 

 次郎は落ち着いた声で答えた。

 

「ここから出るか、屋上へ移動するかだ」

 

「屋上?」

 

「ここに残るなら、屋上で立てこもれ」

 

 次郎は階下へ視線を向ける。

 

「一階はもう奴らで埋まっている。もうじき二階にも登ってくるだろう」

 

「でも、屋上に逃げ場なんて……」

 

「少なくとも、今いる二階よりは安全だ」

 

 次郎は続ける。

 

「屋上へ続く出入口を塞いで、階段を監視しろ。食料と水を運んで、救助を待つんだ」

 

 生存者たちは互いに顔を見合わせる。

 

 そして、次郎は中岡へ向き直った。

 

「一緒に行こう」

 

 次郎は中岡へ手を差し出す。

 

 中岡はその手を見つめる。

 

 少し迷った後、ゆっくりと手を伸ばした。

 

「……はい」

 

 中岡が次郎の手を握る。

 

 二人が並んで立った。

 

 それを見ていた生存者の一人が声を上げる。

 

「じゃあ、俺たちはどうすればいいんだ!」

 

 小室が振り返る。

 

「知ったことじゃない」

 

「なっ……!」

 

「残るなら屋上へ行け。出るなら自分で決めろ」

 

 小室は冷たく言った。

 

「俺たちは、自分たちのことで精一杯なんだ」

 

 別の生存者が中岡を見る。

 

「あんた、警察官だろ! なんとかしろよ!」

 

 中岡は静かに微笑み、その男を見返した。

 

「……警察官は、もうやめです」

 

 男が言葉を失う。

 

 中岡は次郎の手を握ったまま続ける。

 

「私は、自分で決めました」

 

 次郎たちは生存者たちから少し離れた場所へ移動した。

 

 階下から、絶え間なく呻き声が聞こえてくる。

 

「正面は無理そうね」

 

 高城が階下の方角へ目を向ける。

 

「ああ」

 

 次郎が頷く。

 

「一階はもう奴らで埋まっている。正面から抜けるのは難しい」

 

 小室が周囲を確認する。

 

「非常階段なら?」

 

「ああ。そこを使う」

 

 次郎は以前まとめておいたカバンを取り出した。

 

 ファスナーを開け、中身を確認する。

 

 音の出る花火が大量に入っている。

 

 次郎はカバンを閉じると、ありすへ歩み寄った。

 

「ありす」

 

「なに?」

 

 次郎はカバンを差し出した。

 

「これを持っていてくれ」

 

「使い方は後で教える」

 

「うん」

 

 ありすは両手でカバンを受け取った。

 

 次郎は皆へ向き直る。

 

「花火を使って、奴らを非常階段から引き離す」

 

 高城が頷く。

 

「その間に移動するのね」

 

「ああ」

 

 毒島が静かに口を開く。

 

「音が消える前に、できるだけ距離を稼ぐ必要があるな」

 

「そういうことだ」

 

 小室がショットガンを確認する。

 

「戦闘になったら?」

 

「最小限にする」

 

 次郎が答える。

 

「道を塞がれた時だけ排除して素早く移動する」

 

 宮本もライフルを確認する。

 

「分かったわ」

 

 中岡は次郎の隣に立った。

 

「私も準備できています」

 

「ああ」

 

 次郎が頷く。

 

 下から、また呻き声が響いた。

 

 次郎は階段の方へ目を向ける。

 

「行こう」

 

 全員が頷いた。

 

 脱出の準備は整った。

 

 

――Chapter4・完――

 

 




リッカーは本来、ゾンビが捕食をし続けて数日から一週間程度で変異します。
因みにRe2で出てきたリッカーは研究所から逃げ出した奴だと言われています。

次回はターニングポイントです。
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