元殺し屋がバイオ事件に巻き込まれる話   作:オッパッピー

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本日一度目の投稿。


Chapter2 夜のガスパール Part1

 扉を抜けて進んだ先。

 

 二人の眼下を、大型バスが走り抜けていた。

 

「飛ぶわよ!」

 

 エイダが躊躇なく飛び降りる。

 

 次郎も続いた。

 

 二人は走行中のバスの屋根へ着地する。

 

 激しい風圧が身体を叩く。

 

 屋根が大きく揺れる。

 

「……随分と派手な移動をするな」

 

「あなたも人のことは言えないでしょう?」

 

 エイダが笑う。

 

 その直後だった。

 

 ――ドゴォンッ!

 

 背後から巨大な影が飛び込んできた。

 

「……!」

 

 次郎の全力によって吹き飛ばされたはずのチェーンソー男。

 

 全身を煤と血と泥で汚しながらも、まだ動いている。

 

 そして、そのままバスの屋根へ着地した。

 

「本当に、しつこいわね……!」

 

 エイダがクロスボウを構える。

 

 次郎もアサルトライフルを構えた。

 

「仕方ない。今度こそ止めるぞ!」

 

 ダダダダダダッ!

 

 矢と銃弾が一斉に飛ぶ。

 

 次郎は風に煽られながらも、正確に射撃を続ける。

 

 エイダもクロスボウを連射する。

 

 しかし――。

 

 チェーンソー男は怯まなかった。

 

 身体に銃弾と矢を受けながらも、ただ真っ直ぐ二人へ向かってくる。

 

 チェーンソーが唸りを上げる。

 

「来るぞ!」

 

 チェーンソー男が大きく腕を振り上げた。

 

 そして――。

 

「!」

 

 エイダは即座にフックショットを撃ち出した。

 

 ワイヤーが周囲のビルへ伸びる。

 

 身体が宙へ浮き上がった。

 

 ズガァンッ!!

 

 背後でチェーンソーが屋根へ振り下ろされた。

 

 エイダはバスの屋根を離れ、そのまま車体の側面を回り込み、再び屋根へ着地する。

 

「危ないわね」

 

 一方――。

 

 次郎は逃げなかった。

 

 狭い屋根の上。

 

 左右には逃げ場がない。

 

 迫るチェーンソーの刃を、紙一重で身体を捻って躱す。

 

 刃が肩先を掠めるが、次郎はその瞬間を逃さない。

 

 懐へ踏み込む。

 

「舐めんな!」

 

 次郎が叫ぶ。

 

 腰を落とし、身体を回転させ、拳がチェーンソー男の顔面へ叩き込まれた。

 

 ドゴッ!

 

 巨体が大きくよろめく。

 

 

 しかし――。

 

 チェーンソー男の刃がバスの屋根へ突き刺さる。

 

 ギャリギャリギャリッ!!

 

 金属を削る激しい音が響き渡る。

 

 その時だった。

 

 バスの運転手があまりの音に気づいて、バックミラー越しに屋根の上を確認した。

 

 そこにいるのは、巨大なチェーンソーを振り回す怪物。

 

「ひ、ひぃっ!」

 

 恐怖に駆られた運転手が、反射的にブレーキを踏み込んだ。

 

 キィィィィィッ!!

 

 タイヤが激しく路面を擦る。

 

 バスが猛烈な勢いで減速した。

 

「――っ!」

 

「くっ!」

 

 次郎とエイダの身体が、前方へ投げ出されそうになる。

 

 二人は咄嗟に屋根へ手を伸ばし、縁へしがみついた。

 

 だが――。

 

「!?」

 

 チェーンソー男は踏ん張ることができなかった。

 

 急停止の勢いをまともに受け、その巨体が屋根から浮き上がる。

 

 そのまま――。

 

 ドゴォンッ!!

 

 道路へ投げ出された。

 

 チェーンソー男の巨体が何度も地面を転がっていく。

 

「……やったかしら?」

 

 エイダが屋根へ這い上がる。

 

「いや」

 

 次郎が後方を見る。

 

 道路へ転がったチェーンソー男が、ゆっくりと身体を起こそうとしていた。

 

「……あの頑丈さだ、多分また動くぞ」

 

「言っておいて何だけど、私もそんな気がしてきたわ」

 

 エイダが苦笑する。

 

 バスは急停止したまま、道路上に停まっている。

 

「ここから降りるぞ」

 

「ええ」

 

 二人はバスの屋根から飛び降りた。

 

 地面へ着地した次郎が、周囲を見渡す。

 

 すぐ近くを線路が走っている。

 

「線路か、使えるな」

 

「あそこへ誘い込むのね」

 

 二人は線路へ向かって駆け出した。

 

 そして――。

 

 背後から、あの音が響いた。

 

 ブォオオオオンッ!!

 

「本当にしつこいわね……!」

 

 エイダが振り返る。

 

 道路の向こうから、チェーンソー男が再び追ってきていた。

 

 

 次郎がアサルトライフルを構える。

 

 ダダダダダッ!!

 

 至近距離から銃弾を浴びせる。

 

 しかし、チェーンソー男は止まらない。

 

 銃弾を受けながら、一直線に突っ込んでくる。

 

 そして、右腕を大きく振り上げた。

 

「アリス!」

 

 エイダが叫ぶ。

 

 次郎は逃げなかった。

 

 迫る腕に――。

 

 両腕を伸ばす。

 

「……!」

 

 凄まじい衝撃が腕を伝う。

 

 次郎はチェーンソー男の右腕、刃が回転していない部分を素手で受け止めた。

 

 チェーンソー男の左手が添えられた右腕と、次郎の両手。

 

 力と力が真正面からぶつかり合う。

 

 チェーンソーが二人の頭上で唸り続ける。

 

 ギャアアアアアアッ!!

 

 次郎の足が、線路を踏み締める。

 

「……舐めるなぁッ!」

 

 次郎が咆哮を上げた。

 

 全身へ力を込める。

 

 T-ウイルス適応者としての怪力。

 

 それを支える強靭な体幹。

 

 両脚で地面を踏み締め、腰を落とす。

 

「おおおおおおッ!!」

 

 次郎が押し返す。

 

 チェーンソー男の腕が、少しずつ持ち上がっていく。

 

 巨体がよろめく。

 

「――ッ!」

 

 次郎はさらに力を込めた。

 

 そして――。

 

 完全に押し勝った。

 

 チェーンソー男の身体が大きく傾く。

 

 その瞬間。

 

 次郎は腕を振り払い、一歩踏み込んだ。

 

 腰を回す。

 

 全身のバネを一気に解放する。

 

 そして――。

 

 ドゴォンッ!!

 

 渾身の蹴りが、チェーンソー男の腹部へ炸裂した。

 

 巨体が吹き飛ぶ。

 

 線路の上へ叩きつけられた。

 

 ガシャァンッ!!

 

 チェーンソー男の身体が線路上を転がる。

 

 その時だった。

 

 ――ピィィィィィィィッ!!

 

 けたたましい警笛。

 

 正面から、電車が猛スピードで迫ってくる。

 

「……!」

 

 次郎とエイダが同時に前方を見る。

 

 巨大なヘッドライトが、二人を照らした。

 

「電車が来るわよ!」

 

 エイダが叫ぶ。

 

「屋根へ!」

 

「分かってる!」

 

 二人は同時に線路を跳んだ。

 

 エイダがフックショットを撃ち出す。

 

 ガシュッ!

 

 ワイヤーが上空の高架へ突き刺さった。

 

 そのまま身体を引き上げる。

 

 迫り来る電車の屋根を、エイダが一気に飛び越える。

 

 そして――。

 

 走行する電車の屋根へ着地した。

 

 一方、次郎は――。

 

 フックショットを持っていない。

 

 迫り来る電車との距離。

 

 速度。

 

 自分が跳ぶ位置。

 

 それらを瞬時に見極め、地面を蹴った。

 

 走り高跳びの要領で身体が宙を舞う。

 

 電車が通過する。

 

 その速度に合わせるように身体を調整し――。

 

 屋根へ着地。

 

 ドンッ!

 

 次郎はそのまま身体を低くして、走行する電車の屋根へと着地した。

 

 凄まじい風圧が二人を襲う。

 

「……」

 

 次郎が後方を見る。

 

 線路上に倒れたチェーンソー男。

 

 電車は容赦なく、その巨体を轢き潰していった。

 

 やがて、チェーンソーの音も完全に聞こえなくなる。

 

「……今度こそ終わったな」

 

 次郎が息を吐く。

 

「ええ」

 

 エイダもようやく肩の力を抜いた。

 

「それにしても……」

 

 エイダが次郎を見る。

 

「あなた、さっきどうやって飛んだの?」

 

「普通に跳んだだけだ」

 

「普通の人間は、走ってくる電車の屋根には飛び乗らないわよ」

 

「……そうだったか?」

 

 次郎は本気で分かっていないような顔をする。

 

 エイダは呆れたように笑った。

 

「本当に、あなたって規格外ね」

 

「お互い様だろ。お前もフックショットで電車に飛び乗ってるじゃないか」

 

「私は道具を使ってるもの」

 

「結果は同じだろ」

 

「すごい暴論ね」

 

 二人は短く笑う。

 

 その瞬間だった。

 

 ――ゴォォォォォォォォッ!!

 

 会話を掻き消すような凄まじい爆音が響き渡った。

 

「……何?」

 

 エイダが空を見上げる。

 

 次郎も同時に顔を上げた。

 

 夜空を覆う巨大な影。

 

「飛行機……?」

 

 一機の大型旅客機が、異常な低空を飛んでいた。

 

 機体は大きく傾いている。

 

 片方のエンジンからは、激しく火の粉が吹き出していた。

 

 黒煙が夜空へ長く伸びている。

 

 しかも――。

 

 高度が低すぎる。

 

 電車の屋根を掠めるような高さを、旅客機が異常な角度で滑空していく。

 

「……おいおい」

 

 次郎が目を細める。

 

「完全に制御を失ってるぞ」

 

 エイダも機体を凝視する。

 

「あれは、墜落するわね」

 

 旅客機は、そのまま中国の街並みへ向かっていた。

 

 誰も止められない。

 

 軌道を変えることもない。

 

 ただ、巨大な機体が街へ突っ込んでいく。

 

「……!」

 

 二人が息を呑む。

 

 次の瞬間――。

 

 ドゴォォォォォォォン!!

 

 街の一角で、巨大な爆炎が巻き上がった。

 

 炎が建物を飲み込み、黒煙が夜空へ噴き上がる。

 

 凄まじい爆風が周囲へ広がっていく。

 

 次郎とエイダは、走る電車の屋根の上から、その光景を見つめていた。

 

「……最悪ね」

 

 エイダが呟く。

 

「何が起きてる?」

 

 次郎が尋ねる。

 

「飛行機に何が積まれていたのか……それが問題なのよ」

 

 エイダは炎上する街を見つめる。

 

「私の予想だけど、C-ウイルス」

 

「……!」

 

「これから、この街はもっと酷いことになるわ」

 

 次郎は何も言わなかった。

 

 ただ、遠くで燃え上がる街を見つめる。

 

 炎。

 

 黒煙。

 

 逃げ惑う人々。

 

 そして――。

 

 その中へ広がっていく、目に見えない災厄。

 

「……また、始まったか」

 

 次郎が低く呟く。

 

 ラクーンシティで始まった悪夢。

 

 これまで幾度となく目にしてきた光景。

 

 それが今度は、この中国の街で繰り返されようとしていた。

 

 電車は何事もなかったかのように、炎上する街の脇を走り抜けていく。

 

 その屋根の上で――。

 

 次郎とエイダは、並んで燃え上がる街を見つめていた。

 

 

 




チェーンソー男の腕を受け止めるQTEは原作エイダ編で実際にあります。
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