本日一度目の投稿。
扉を抜けて進んだ先。
二人の眼下を、大型バスが走り抜けていた。
「飛ぶわよ!」
エイダが躊躇なく飛び降りる。
次郎も続いた。
二人は走行中のバスの屋根へ着地する。
激しい風圧が身体を叩く。
屋根が大きく揺れる。
「……随分と派手な移動をするな」
「あなたも人のことは言えないでしょう?」
エイダが笑う。
その直後だった。
――ドゴォンッ!
背後から巨大な影が飛び込んできた。
「……!」
次郎の全力によって吹き飛ばされたはずのチェーンソー男。
全身を煤と血と泥で汚しながらも、まだ動いている。
そして、そのままバスの屋根へ着地した。
「本当に、しつこいわね……!」
エイダがクロスボウを構える。
次郎もアサルトライフルを構えた。
「仕方ない。今度こそ止めるぞ!」
ダダダダダダッ!
矢と銃弾が一斉に飛ぶ。
次郎は風に煽られながらも、正確に射撃を続ける。
エイダもクロスボウを連射する。
しかし――。
チェーンソー男は怯まなかった。
身体に銃弾と矢を受けながらも、ただ真っ直ぐ二人へ向かってくる。
チェーンソーが唸りを上げる。
「来るぞ!」
チェーンソー男が大きく腕を振り上げた。
そして――。
「!」
エイダは即座にフックショットを撃ち出した。
ワイヤーが周囲のビルへ伸びる。
身体が宙へ浮き上がった。
ズガァンッ!!
背後でチェーンソーが屋根へ振り下ろされた。
エイダはバスの屋根を離れ、そのまま車体の側面を回り込み、再び屋根へ着地する。
「危ないわね」
一方――。
次郎は逃げなかった。
狭い屋根の上。
左右には逃げ場がない。
迫るチェーンソーの刃を、紙一重で身体を捻って躱す。
刃が肩先を掠めるが、次郎はその瞬間を逃さない。
懐へ踏み込む。
「舐めんな!」
次郎が叫ぶ。
腰を落とし、身体を回転させ、拳がチェーンソー男の顔面へ叩き込まれた。
ドゴッ!
巨体が大きくよろめく。
しかし――。
チェーンソー男の刃がバスの屋根へ突き刺さる。
ギャリギャリギャリッ!!
金属を削る激しい音が響き渡る。
その時だった。
バスの運転手があまりの音に気づいて、バックミラー越しに屋根の上を確認した。
そこにいるのは、巨大なチェーンソーを振り回す怪物。
「ひ、ひぃっ!」
恐怖に駆られた運転手が、反射的にブレーキを踏み込んだ。
キィィィィィッ!!
タイヤが激しく路面を擦る。
バスが猛烈な勢いで減速した。
「――っ!」
「くっ!」
次郎とエイダの身体が、前方へ投げ出されそうになる。
二人は咄嗟に屋根へ手を伸ばし、縁へしがみついた。
だが――。
「!?」
チェーンソー男は踏ん張ることができなかった。
急停止の勢いをまともに受け、その巨体が屋根から浮き上がる。
そのまま――。
ドゴォンッ!!
道路へ投げ出された。
チェーンソー男の巨体が何度も地面を転がっていく。
「……やったかしら?」
エイダが屋根へ這い上がる。
「いや」
次郎が後方を見る。
道路へ転がったチェーンソー男が、ゆっくりと身体を起こそうとしていた。
「……あの頑丈さだ、多分また動くぞ」
「言っておいて何だけど、私もそんな気がしてきたわ」
エイダが苦笑する。
バスは急停止したまま、道路上に停まっている。
「ここから降りるぞ」
「ええ」
二人はバスの屋根から飛び降りた。
地面へ着地した次郎が、周囲を見渡す。
すぐ近くを線路が走っている。
「線路か、使えるな」
「あそこへ誘い込むのね」
二人は線路へ向かって駆け出した。
そして――。
背後から、あの音が響いた。
ブォオオオオンッ!!
「本当にしつこいわね……!」
エイダが振り返る。
道路の向こうから、チェーンソー男が再び追ってきていた。
次郎がアサルトライフルを構える。
ダダダダダッ!!
至近距離から銃弾を浴びせる。
しかし、チェーンソー男は止まらない。
銃弾を受けながら、一直線に突っ込んでくる。
そして、右腕を大きく振り上げた。
「アリス!」
エイダが叫ぶ。
次郎は逃げなかった。
迫る腕に――。
両腕を伸ばす。
「……!」
凄まじい衝撃が腕を伝う。
次郎はチェーンソー男の右腕、刃が回転していない部分を素手で受け止めた。
チェーンソー男の左手が添えられた右腕と、次郎の両手。
力と力が真正面からぶつかり合う。
チェーンソーが二人の頭上で唸り続ける。
ギャアアアアアアッ!!
次郎の足が、線路を踏み締める。
「……舐めるなぁッ!」
次郎が咆哮を上げた。
全身へ力を込める。
T-ウイルス適応者としての怪力。
それを支える強靭な体幹。
両脚で地面を踏み締め、腰を落とす。
「おおおおおおッ!!」
次郎が押し返す。
チェーンソー男の腕が、少しずつ持ち上がっていく。
巨体がよろめく。
「――ッ!」
次郎はさらに力を込めた。
そして――。
完全に押し勝った。
チェーンソー男の身体が大きく傾く。
その瞬間。
次郎は腕を振り払い、一歩踏み込んだ。
腰を回す。
全身のバネを一気に解放する。
そして――。
ドゴォンッ!!
渾身の蹴りが、チェーンソー男の腹部へ炸裂した。
巨体が吹き飛ぶ。
線路の上へ叩きつけられた。
ガシャァンッ!!
チェーンソー男の身体が線路上を転がる。
その時だった。
――ピィィィィィィィッ!!
けたたましい警笛。
正面から、電車が猛スピードで迫ってくる。
「……!」
次郎とエイダが同時に前方を見る。
巨大なヘッドライトが、二人を照らした。
「電車が来るわよ!」
エイダが叫ぶ。
「屋根へ!」
「分かってる!」
二人は同時に線路を跳んだ。
エイダがフックショットを撃ち出す。
ガシュッ!
ワイヤーが上空の高架へ突き刺さった。
そのまま身体を引き上げる。
迫り来る電車の屋根を、エイダが一気に飛び越える。
そして――。
走行する電車の屋根へ着地した。
一方、次郎は――。
フックショットを持っていない。
迫り来る電車との距離。
速度。
自分が跳ぶ位置。
それらを瞬時に見極め、地面を蹴った。
走り高跳びの要領で身体が宙を舞う。
電車が通過する。
その速度に合わせるように身体を調整し――。
屋根へ着地。
ドンッ!
次郎はそのまま身体を低くして、走行する電車の屋根へと着地した。
凄まじい風圧が二人を襲う。
「……」
次郎が後方を見る。
線路上に倒れたチェーンソー男。
電車は容赦なく、その巨体を轢き潰していった。
やがて、チェーンソーの音も完全に聞こえなくなる。
「……今度こそ終わったな」
次郎が息を吐く。
「ええ」
エイダもようやく肩の力を抜いた。
「それにしても……」
エイダが次郎を見る。
「あなた、さっきどうやって飛んだの?」
「普通に跳んだだけだ」
「普通の人間は、走ってくる電車の屋根には飛び乗らないわよ」
「……そうだったか?」
次郎は本気で分かっていないような顔をする。
エイダは呆れたように笑った。
「本当に、あなたって規格外ね」
「お互い様だろ。お前もフックショットで電車に飛び乗ってるじゃないか」
「私は道具を使ってるもの」
「結果は同じだろ」
「すごい暴論ね」
二人は短く笑う。
その瞬間だった。
――ゴォォォォォォォォッ!!
会話を掻き消すような凄まじい爆音が響き渡った。
「……何?」
エイダが空を見上げる。
次郎も同時に顔を上げた。
夜空を覆う巨大な影。
「飛行機……?」
一機の大型旅客機が、異常な低空を飛んでいた。
機体は大きく傾いている。
片方のエンジンからは、激しく火の粉が吹き出していた。
黒煙が夜空へ長く伸びている。
しかも――。
高度が低すぎる。
電車の屋根を掠めるような高さを、旅客機が異常な角度で滑空していく。
「……おいおい」
次郎が目を細める。
「完全に制御を失ってるぞ」
エイダも機体を凝視する。
「あれは、墜落するわね」
旅客機は、そのまま中国の街並みへ向かっていた。
誰も止められない。
軌道を変えることもない。
ただ、巨大な機体が街へ突っ込んでいく。
「……!」
二人が息を呑む。
次の瞬間――。
ドゴォォォォォォォン!!
街の一角で、巨大な爆炎が巻き上がった。
炎が建物を飲み込み、黒煙が夜空へ噴き上がる。
凄まじい爆風が周囲へ広がっていく。
次郎とエイダは、走る電車の屋根の上から、その光景を見つめていた。
「……最悪ね」
エイダが呟く。
「何が起きてる?」
次郎が尋ねる。
「飛行機に何が積まれていたのか……それが問題なのよ」
エイダは炎上する街を見つめる。
「私の予想だけど、C-ウイルス」
「……!」
「これから、この街はもっと酷いことになるわ」
次郎は何も言わなかった。
ただ、遠くで燃え上がる街を見つめる。
炎。
黒煙。
逃げ惑う人々。
そして――。
その中へ広がっていく、目に見えない災厄。
「……また、始まったか」
次郎が低く呟く。
ラクーンシティで始まった悪夢。
これまで幾度となく目にしてきた光景。
それが今度は、この中国の街で繰り返されようとしていた。
電車は何事もなかったかのように、炎上する街の脇を走り抜けていく。
その屋根の上で――。
次郎とエイダは、並んで燃え上がる街を見つめていた。
チェーンソー男の腕を受け止めるQTEは原作エイダ編で実際にあります。