本日二度目の投稿。
炎上する街を、次郎とエイダは走行する電車の屋根から見つめていた。
だが――。
「ここにいても仕方がないわね」
エイダが立ち上がる。
「先に行って待ってる」
エイダはフックショットを取り出した。
狙いを定める。
ガシュッ!
ワイヤーが、近くに建つ高層ビルの屋上へ突き刺さった。
エイダの身体が、一気に宙へ引き上げられる。
そのまま、ビルの屋上へと飛び移った。
次郎は屋上へ上がったエイダを見上げる。
「……無茶言ってくれるな」
そして、走行する電車の屋根から地上へ飛び降りた。
着地と同時に周囲を確認する。
次郎は高層ビルの入口へ向かって駆け出した。
ビルの内部へ入り、周囲を警戒しながら非常階段を見つける。
扉を開け、次郎は一気に階段を駆け上がった。
階段を何段も飛ばしながら、驚異的な速度で上階へ進んでいく。
やがて――。
最上階へ到達する。
扉を開け、屋上へ出る。
「遅かったわね」
エイダが振り返った。
「仕方ないだろ、お前と違ってこっちは生身だ」
次郎は息一つ乱していない。
「あらそうなの、それにしては早かったわね?」
「急いだからな」
次郎は気にした様子もなく、街へ視線を向けた。
「それより、街の状況を確認しよう」
「ええ」
二人は屋上から街を見渡した。
遠くまで広がる市街地。
至る所から火の手が上がり、黒煙が夜空へ伸びている。
道路では人々が逃げ惑い、各所で戦闘も起きていた。
エイダが双眼鏡を取り出す。
レンズを覗き込み、街の様子を確認していく。
しばらくして――。
「……あら」
エイダの声が僅かに変わった。
「どうした?」
「見知った人間がいるわ」
エイダは双眼鏡越しに、少し離れた場所にある道路へ視線を向けていた。
そこには、一組の男女がいる。
「……あれは、シェリー・バーキンね」
「……何?」
その名前を聞いた瞬間。
次郎の表情が変わった。
「シェリー……?」
次郎はエイダの見ている方向へ顔を向ける。
そして――。
Тウイルスで強化された肉眼で、その姿を捉えた。
遠く離れた場所にいる、一人の若い女性。
記憶の中に残っている少女の面影が、確かにあった。
ラクーンシティ。
あの事件以来――。
次郎は、彼女と会っていなかった。
「……15年ぶりか、随分大きくなったな」
次郎が呟く。
その隣には、一人の青年がいる。
エイダが青年へ視線を移す。
「……となると、隣にいるのがC-ウイルスの抗体を持つ男かしら」
「抗体?」
「ええ。詳しいことは後で話すわ」
エイダは再び双眼鏡を覗く。
その時だった。
「……!」
次郎の目が動く。
シェリーたちのいる場所。
その背後に、人影が現れた。
巨大なチェーンソーを手にした男。
「……また、あいつか」
次郎が呟く。
恐らく別個体のチェーンソー男が、シェリーたちへ襲いかかろうとしている。
その姿を、次郎は肉眼で正確に捉えていた。
「エイダ」
エイダが双眼鏡を下ろす。
「助けるの?」
「当然だ」
次郎は即座にアサルトライフルを構えた。
高層ビルの屋上から見渡す街。
標的までは、かなりの距離がある。
通常なら、アサルトライフルで正確に狙うことなど難しい距離だった。
だが――。
次郎の眼には、標的がはっきりと見えていた。
呼吸を整える。
銃口を固定。
肉眼で捉えたチェーンソー男の頭部へ照準を合わせる。
「……!」
次郎の指が引き金を引いた。
――ダアンッ!
乾いた銃声が夜の街に響く。
遠く離れた場所。
チェーンソー男の頭部が弾けた。
「……!」
エイダが目を見開く。
狙撃。
しかも――。
アサルトライフルによる狙撃だった。
「狙撃もできるのね」
エイダが次郎を見る。
「しかも、アサルトライフルで」
「訓練すれば誰でもできるようになる」
次郎は淡々と答えた。
「……誰でも?」
「そんな訳ないでしょ」
エイダが呆れたように呟く。
その時――。
「!」
遠くの道路で、チェーンソー男が僅かに動いた。
倒れた身体を起こそうとしている。
次郎は一瞬も迷わなかった。
再び照準を合わせる。
――ダアンッ!
二発目。
正確な弾丸が、チェーンソー男の頭部を再び撃ち抜いた。
今度こそ、巨体が地面へ崩れ落ちる。
「……」
エイダはしばらく双眼鏡越しに、その場所を見つめた。
そして、隣にいる次郎へ視線を向ける。
「……本当に、規格外ね」
次郎は答えなかった。
ただ、遠くにいるシェリーたちを見つめていた。
次郎はアサルトライフルを構えたまま、僅かに銃口を動かした。
遠く離れた地上。
チェーンソー男は、再びシェリーたちへ向かって動き出そうとしている。
「……本当に頑丈な奴だな」
次郎が呟く。
次郎は照準を微調整する。
「エイダ」
「何?」
「狙撃に集中したい。命中確認を頼む」
エイダが次郎を見る。
「私にスポッターをやれってこと?」
「そういうことだ。頼めるか?」
「指示出しは必要?」
「必要ない」
次郎は即答した。
「命中したかどうかだけ伝えてくれ」
「……了解」
エイダは双眼鏡を覗き込む。
「準備できたわ」
次郎は再び標的へ照準を合わせた。
――ダアンッ!
「右脚。命中」
続けて――。
――ダアンッ!
「左脚。命中」
チェーンソー男の動きが僅かに鈍る。
しかし、それでもシェリーたちを追おうとする。
次郎は狙いを変えた。
――ダアンッ!
「頭部。命中」
弾丸が頭部を捉える。
それでもチェーンソー男は倒れない。
次郎は構わず次の射撃へ移る。
――ダアンッ!
「右肩。命中」
チェーンソー男の動きが乱れる。
その隙に、シェリーとジェイクが距離を取る。
次郎は二人の動きを確認しながら、再び標的へ照準を戻す。
――ダアンッ!
「左肩。命中」
チェーンソー男がよろめく。
シェリーとジェイクは、その隙を逃さず海側へ向かって走る。
次郎は二人の逃走を妨げないよう、チェーンソー男の身体へ正確な射撃を続けていく。
手足。
肩。
そして時には頭部。
次郎は必要な箇所だけを撃ち抜き、チェーンソー男の動きを鈍らせていった。
「右脚。命中」
エイダの報告。
――ダアンッ!
「頭部。命中」
続けて――。
――ダアンッ!
「左腕。命中」
それでもチェーンソー男は倒れない。
「……本当に化け物ね」
エイダが呟く。
「ん、どっちがだ?」
次郎は淡々と尋ねる。
「どっちもよ」
その間にも、シェリーとジェイクは海側へ向かって走っている。
チェーンソー男は二人を追おうとするが、次郎の射撃によって何度も動きを止められる。
二人はその隙を利用し、少しずつ距離を広げていった。
やがて――。
二人は海に面した船着き場へと近づいていく。
チェーンソー男も、シェリーたちを追って海沿いの足場へ踏み込んだ。
「……今よ」
エイダが双眼鏡を覗いたまま告げる。
「ああ」
次郎は静かに頷いた。
そして――。
照準を合わせる。
チェーンソー男の右腕。
チェーンソーと一体化したことで露出している心臓。
その一点へ。
次郎は僅かな狂いもなく銃口を固定した。
「……」
引き金を絞る。
――ダアンッ!!
放たれた弾丸が、遥か彼方から一直線に飛翔する。
そして――。
心臓を正確に撃ち抜いた。
「……!」
強烈な衝撃を受けたチェーンソー男の身体が、大きく仰け反る。
完全に均衡を失った。
唸りを上げるチェーンソーを振り回しながら、巨体が足場の端へよろめいていく。
そして――。
ドボォォォン!!
激しい水しぶきを上げ、チェーンソー男が海へ真っ逆さまに転落した。
その姿が、暗い海の中へ消えていく。
「……落ちたわね」
エイダが双眼鏡を覗いたまま告げる。
「シェリーたちも無事みたい」
「そうか」
次郎はようやくアサルトライフルの銃口を下げた。
エイダも双眼鏡を収める。
「これで終わりね」
「ああ」
二人は顔を見合わせる。
遠く離れた場所で、シェリーとジェイクは何が起きたのかも理解できないまま、迫っていた危機から逃れていた。
そして――。
シェリーたちが海へ逃れたことを確認すると、エイダはすぐに動き出した。
「じゃあ、私は次の目的地へ向かうから」
エイダがフックショットを取り出す。
ガシュッ!
ワイヤーが近くの建物へ伸びる。
「おい、待て」
「待たないわ」
エイダは軽く笑う。
そのまま夜の空中へ飛び出した。
「……やっぱり、お前だけ楽してるだろ」
次郎は苦笑する。
そして――。
アサルトライフルを背負い直し、屋上の縁へ向かって走った。
次の瞬間。
跳ぶ。
隣のビルへ着地。
そのまま屋上を駆け抜け、別の建物へ飛び移る。
階段を探すことすらせず、建物の段差を利用して高度を下げていく。
壁を蹴り、手すりを飛び越え、路地へ降りる。
地上へ降りても速度は落ちない。
車両を飛び越え、障害物を躱し、道路を横切る。
次郎は、エイダが向かった方向を見失うことなく走り続けた。
やがて――。
目的地が見えてくる。
複数のジュアヴォが周囲を巡回しているヘリポート。
その死角となる建物の陰へ、エイダが静かに着地した。
「遅かったわね」
エイダが振り返る。
ほぼ同時に、次郎もその場へ到着した。
「……さっきから思っていたが、お前だけずるいぞ」
「何が?」
「フックショットで楽してるだろ」
次郎は冗談めかして言う。
エイダは口元に笑みを浮かべた。
「あら。私の身体に抱きつきたいなら、相応の金額を請求するわよ?」
「誰が抱きつきたいなんて言ったよ」
「ちがうの?」
エイダが楽しそうに笑う。
「断じて違う」
次郎も苦笑した。
だが――。
次の瞬間。
二人の表情から笑みが消えた。
視線の先。
武装したジュアヴォたちが、駐機された攻撃ヘリの周囲を警備している。
次郎が消音拳銃を抜く。
エイダもクロスボウを構えた。
合図は必要なかった。
次郎が物陰から飛び出し、一番近いジュアヴォの背後へ回り込み、頭を掴んで捻る。
声を上げる間もなく、地面へ沈める。
別の兵士が振り返った。
――パスッ。
消音された銃声。
額を撃ち抜かれた体が、その場に崩れ落ちる。
さらに一人。
次郎が懐へ潜り込み、腕を捻り上げる。
そのまま悲鳴をあげる暇もなく、地面へ顔を叩きつけた。
同時に、偶然近づいてきた別の兵士をエイダが処理する。
次郎が前を。
エイダが後ろを。
互いの死角を補いながら、二人は一切の無駄なく警備兵を無力化していく。
警報は鳴らない。
増援も来ない。
気づいた時には、攻撃ヘリの周囲から敵の姿が消えていた。
「……終わったな」
次郎が周囲を確認する。
その時――。
倒したジュアヴォの腰に、次郎の視線が寄る。
「……ん?」
次郎がしゃがみ込み、日本刀を手に取る。
鞘から僅かに抜いて刃を確認する。
「頑丈そうで、よく切れそうだな」
次郎は首を傾げる。
「なんでこんな奴が、こんな物を持ってるんだ?」
疑問に思いながらも、そのまま腰のベルトへ刀を挟んだ。
「そんなのも、使えるの?」
エイダが尋ねる。
「さあな」
次郎は刀を見下ろす。
「昔、達人が使ってるのを間近で見たことがある」
「それだけ?」
「だから多分、使える」
「……随分と曖昧ね」
「実際に使ったことはないからな」
次郎はそう言って、攻撃ヘリへ目を向ける。
「それより、これを使うんだろ?」
「ええ」
「……そっちこそ、ヘリの操縦なんてできるのか?」
次郎が操縦席へ向かうエイダを見る。
「もちろんよ」
エイダは当然のように答えた。
「なら任せる」
二人はヘリへ向かって歩き出した。
エイダが機体のハッチを開く。
手慣れた動作で操縦席へ滑り込んだ。
「ほら、乗って」
「分かってる」
次郎は先ほどまでの文句が済んだことで満足したように笑い、ガンナー席へ乗り込む。
ハッチが閉じられる。
エイダが操縦系統を確認する。
エンジンが始動した。
――ヴォン……。
低い駆動音。
やがてローターが回転を始める。
――ババババババッ!!
回転速度が上がる。
風圧がヘリポートを激しく吹き抜ける。
「行くわよ」
「ああ」
攻撃ヘリがゆっくりと浮上する。
そのまま高度を上げ――。
二人を乗せた攻撃ヘリは、夜の中国の街へ飛び立っていった。
――Chapter2・完――
アサルトライフルで狙撃というのは、ゴルゴ13のデューク東郷がやっていることそのままです。
第四章で平野の狙撃を見て、生還後に訓練した事で修得しています。
日本刀に関しては第四章で毒島の動きを見ているので、DMCで例えるならバージルではなくダンテが刀を持った感じです。
逆に次郎はヘリの運転はできません。