元殺し屋がバイオ事件に巻き込まれる話   作:オッパッピー

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サブタイトルはバッハの『トッカータとフーガ』から命名しています。
本日一度目の投稿。
前半はシェリーとジェイクの視点で始まります。


Chapter3 逃亡者と追跡者 Part1

 海へ落下したチェーンソー男、ウビストヴォはまだ死んではいなかった。

 

 暗い海中を漂いながらも、その肉体は蠢いて変異していく。

 

 やがて――。

 

 水路へ流れ込んだ巨体が、岸へと這い上がった。

 

 濡れた身体を引きずりながら、再び地上へ姿を現す。

 

 そして。

 

 その先にいたのは、シェリーとジェイクだった。

 

「……まだ来るのか!」

 

 ジェイクが振り返る。

 

 そこは艀の上。

 

 逃げ場はない。

 

 ウビストヴォが、ゆっくりと二人へ向かって歩き出す。

 

「ジェイク!」

 

「分かってる!」

 

 二人は武器を構えた。

 

 しかし――。

 

 ウビストヴォは止まらない。

 

 チェーンソーの駆動音が、夜の水路に響き渡る。

 

 その時だった。

 

 遠くから、別の音が聞こえてきた。

 

 ローターの回転音。

 

「……何だ?」

 

 ジェイクが空を見上げる。

 

 シェリーも振り返った。

 

 夜空の彼方から、一機の攻撃ヘリがこちらへ接近してくる。

 

「そんな……」

 

「ヘリ、ネオアンブレラのか?」

 

 ジェイクが警戒する。

 

 だが、そのヘリは二人を狙っている様子がない。

 

 機体が大きく旋回する。

 

 そして――。

 

 ガンナー席のハッチが開く。

 

「アリス、行けるわよ」

 

「ああ」

 

 次郎が身を乗り出す。

 

 眼下に、ウビストヴォの巨体が見えた。

 

「……今度こそ終わらせる」

 

 次郎がミニミ軽機関銃を構え、照準を合わせる。

 

 ――ダダダダダダダッ!!

 

 凄まじい掃射が、ウビストヴォへ降り注ぐ。

 

 肉体が次々と撃ち抜かれ、巨体が大きく揺れる。

 

 ウビストヴォは苦しげに身をよじる。

 

 だが――。

 

 次郎は射撃を止めない。

 

 ――ダダダダダダダッ!!

 

 さらに銃弾が叩き込まれる。

 

 ウビストヴォの身体から大量の血飛沫が上がり、ついにその動きが止まった。

 

「アリス」

 

「分かってる」

 

 次郎はミニミから手を離す。

 

 エイダが操縦桿を操作する。

 

 攻撃ヘリが大きく旋回し、ウビストヴォへ機首を向ける。

 

「終わらせるわ」

 

「ああ」

 

 エイダがミサイル発射装置を操作する。

 

 ――シュゴォォォッ!!

 

 放たれたミサイルが、ウビストヴォへ一直線に飛んでいく。

 

 そして――。

 

 ――ドゴォォォォン!!

 

 凄まじい爆発が艀を包み込む。

 

 ウビストヴォの巨体が吹き飛び、そのまま艀へ叩きつけられた。

 

 チェーンソーの回転が止まる。

 

 身体も動かない。

 

 今度こそ――。

 

 完全に沈黙した。

 

「……終わったのか?」

 

 ジェイクが呟く。

 

 シェリーもウビストヴォを見つめる。

 

「……ええ」

 

 二人はゆっくりと空を見上げた。

 

 低空を飛ぶ攻撃ヘリ。

 

「一体、誰の援護だ?」

 

 ジェイクが呟く。

 

 機体は暗闇に紛れている。

 

 操縦席の人物までは見えない。

 

 ただ――。

 

 ガンナー席から、誰かが身を乗り出している。

 

 その姿を。

 

 シェリーは見た。

 

「…………」

 

 目を見開く。

 

 遠い。

 

 それでも。

 

 忘れるはずがなかった。

 

 十五年前。

 

 ラクーンシティで、レオンと共に自分を守ってくれた男。

 

 記憶の中のものと、ほとんど変わらない姿。

 

「……アリス……?」

 

 声が震える。

 

 そして。

 

「アリスさん!!」

 

 シェリーが叫んだ。

 

 大きく手を振る。

 

「アリスさん!」

 

 満面の笑みを浮かべながら、何度も手を振った。

 

 その声は、ローター音の中でも次郎の耳へ届いた。

 

「……!」

 

 次郎が地上を見る。

 

 そして――。

 

 シェリーの姿を見つけた。

 

「…………シェリー」

 

 十五年ぶり。

 

 あの時はまだ幼かった少女が、今は一人の女性としてそこに立っている。

 

 シェリーは、今もこちらへ向かって手を振っている。

 

 次郎は静かに目を細めた。

 

 口元に、柔らかな笑みが浮かぶ。

 

 そして――。

 

 ゆっくりと手を上げる。

 

 シェリーへ向けて、優しく手を振り返した。

 

 シェリーの笑顔が、さらに明るくなる。

 

「……」

 

 エイダは操縦席から、その様子を見ていた。

 

 そして、小さく笑う。

 

「……随分と優しい顔をするのね、アリス」

 

「……そう見えるか?」

 

 次郎は地上から目を離さない。

 

「ええ、本当に良い顔よ」

 

 エイダの声には、からかうような響きがあった。

 

 けれど――。

 

 その表情は、どこか温かかった。

 

「でも、もう行かないとね」

 

「ああ、分かってる」

 

 次郎は最後にもう一度だけ、シェリーを見る。

 

 シェリーもまた、こちらを見上げている。

 

 今の次郎には公安の任務がある。

 

 ここでヘリを降りて再会を喜ぶわけにはいかなかった。

 

 それでも――。

 

 互いの姿を確認できただけで十分だった。

 

「……元気でな」

 

 次郎が小さく呟く。

 

 その声が地上へ届くことはない。

 

 だが。

 

 シェリーは、最後まで笑顔で手を振っていた。

 

「アリスさん……!」

 

 エイダが操縦桿を操作する。

 

 攻撃ヘリがゆっくりと機首を上げた。

 

 高度が上がっていく。

 

 シェリーの姿が、少しずつ小さくなる。

 

 次郎は最後まで視線を外さなかった。

 

 やがて――。

 

 攻撃ヘリは夜空へ消えていった。

 

 シェリーは、その姿が見えなくなっても、しばらく空を見上げていた。

 

 十五年ぶりの再会。

 

 それはほんの僅かな時間だった。

 

 それでも。

 

 シェリーにとって、その時間は確かなものとして残った。

 

 

 ◇

 

 

 攻撃ヘリは、夜の蘭祥上空を飛んでいた。

 

 操縦席ではエイダが前方を見据え、ガンナー席では次郎が周囲を警戒している。

 

 しばらくして、次郎が口を開いた。

 

「……なあ、エイダ」

 

「何?」

 

「今回の事件について、そろそろ知っていることを話してくれ」

 

 エイダは前方を見たまま答える。

 

「私も、まだ分からないことが多いわ」

 

「それでもいい」

 

「この街で私の偽物がバイオテロを指揮している。そして、その背後にはアメリカ政府の高官――ディレック・C・シモンズがいる」

 

「まさかの大統領補佐官か……大物だな」

 

「ええ」

 

 次郎は黙って考える。

 

 シモンズが背後にいる。

 

 それだけでも十分に重大な話だった。

 

「偽物の目的も、まだ確証はないわ。ただ……」

 

「ただ?」

 

「私には、世界を巻き添えにした自滅を狙っているように思える」

 

「……自滅?」

 

「ええ。自分だけが死ぬつもりじゃない。世界そのものを巻き込んで、すべてを壊すつもりなんじゃないかしら」

 

 次郎の表情が険しくなる。

 

「……それは、流石に放っておけないな」

 

「そう思う?」

 

「日本まで巻き込まれる可能性があるなら、放置する訳にはいかない」

 

 次郎はエイダを見る。

 

「俺も、この件に介入する」

 

「そう」

 

 エイダは短く答えた。

 

「それで、俺たちはこれからどこへ向かう?」

 

「蘭祥の港よ」

 

「港?」

 

「ええ。そこから、ネオアンブレラの巨大空母へ向かうつもり」

 

「分かった」

 

 次郎は前方へ視線を戻した。

 

「なら、そこまで付き合おう」

 

「助かるわ」

 

 ヘリの中に、再び静かな時間が流れる。

 

 

 その時――。

 

 次郎のインカムから通信音が入った。

 

『アリス』

 

「霧島か」

 

『ああ。現在地は?』

 

「蘭祥上空。これから港へ向かう」

 

『何かあったのか?』

 

「この街で起きているバイオテロについて、追加情報を得た」

 

 次郎はエイダから聞いた情報を霧島へ伝える。

 

 ただし――。

 

 誰から聞いたのかだけは伏せた。

 

『……了解した』

 

 霧島の声が低くなる。

 

『絶対に阻止しろ』

 

「ああ」

 

 次郎は即答する。

 

「分かってる」

 

『頼んだぞ、アリス』

 

「了解」

 

 通信を切る。

 

 次郎は再び前方へ視線を戻した。

 

 攻撃ヘリは、そのまま蘭祥の港へ向かっていく。

 

 やがて――。

 

 二人はヘリを降りた。

 

 港の船着き場を歩いていると――。

 

「止まれ!」

 

 前方から声が響いた。

 

 次郎とエイダが足を止める。

 

 銃を構えた二人の男が、こちらへ向かってくる。

 

「……BSAAか」

 

 次郎が呟く。

 

 先頭に立つ男。

 

 その顔には、隠しきれない怒りが浮かんでいる。

 

 クリス・レッドフィールド。

 

 その隣には、ピアーズ・ニヴァンス。

 

「見つけたぞ、エイダ・ウォン!」

 

 クリスが銃口を向ける。

 

「よくも……!」

 

 エイダは冷静に答えた。

 

「人違いよ」

 

「ふざけるな!」

 

 クリスの怒声が港に響く。

 

 次郎は二人の間へ歩み出た。

 

「こう言っているが?」

 

 クリスの銃口が、次郎へ向けられる。

 

 次郎は動じない。

 

 そして、隣にいるエイダへ視線を向けた。

 

「因みに、こいつは誰だ?」

 

「クリス・レッドフィールドよ」

 

「……そうか」

 

 その名前を聞いた瞬間。

 

 次郎の脳裏に、一人の女性の顔が浮かんだ。

 

 クレア・レッドフィールド。

 

 知り合いの顔だった。

 

(話に聞くクレアの兄か)

 

 次郎は心の中だけで呟く。

 

(……殺すのは、まずいよな)

 

 だが、その感情を表情には出さない。

 

 プロのエージェントとして。

 

 次郎は不敵な笑みを浮かべた。

 

「ラクーンシティ事件の英雄か」

 

 クリスの表情が僅かに変わる。

 

「……何?」

 

「まるで、同窓会みたいだな」

 

 その言葉に、クリスとピアーズが一瞬だけ動きを止める。

 

 次郎は二人を見据えたまま、エイダへ告げた。

 

「エイダ」

 

「何?」

 

「先に行け」

 

「……分かったわ」

 

 エイダは迷わなかった。

 

 次郎がこの二人を相手に時間を稼ぐ。

 

 それだけで十分だと理解している。

 

 エイダが後退する。

 

 クリスが銃口を向け直す。

 

「待て!」

 

 しかし――。

 

 次郎が一歩前へ出る。

 

「悪いが、お前たちの相手は俺だ」

 

 クリスとピアーズの前に立ちはだかる。

 

 その隙に――。

 

 エイダがフックショットを放った。

 

 ガシュッ!

 

 ワイヤーが高所へ伸びる。

 

 エイダの身体が宙へ舞う。

 

「じゃあね、アリス」

 

 そのまま夜の港へ消えていく。

 

「逃がすか!」

 

 クリスが追おうとする。

 

 だが。

 

「行かせると思うか?」

 

 次郎が不敵に笑う。

 

 クリスが銃を構える。

 

 ピアーズも即座に照準を合わせた。

 

 ――ダダダダダダッ!!

 

 二人が一斉に引き金を引く。

 

 銃弾が次郎へ殺到する。

 

 しかし――。

 

 次郎の身体が僅かに揺れた。

 

 紙一重。

 

 弾丸が次郎の身体を掠めることすらなく、次々と背後へ飛んでいく。

 

「なっ……!」

 

 クリスが目を見開く。

 

 次郎はそのまま一気に距離を詰め、懐へ潜り込む。

 

「くっ!」

 

 クリスが銃を振る。

 

 次郎はそれを躱し、腰の刀へ手を伸ばした。

 

 抜刀する必要はない。

 

 鞘ごと振り抜く。

 

 ――ゴッ!!

 

「ぐっ!」

 

 クリスの腕を打ち据える。

 

 そのまま身体を回転させ、柄でピアーズの銃を弾き飛ばす。

 

「く、速い……!」

 

 ピアーズが後退する。

 

 次郎は追う。

 

 拳。

 

 蹴り。

 

 肘。

 

 そして刀の鞘。

 

 次郎の攻撃が次々と二人へ襲いかかる。

 

 クリスは必死に防御し、ピアーズも援護に入ろうとする。

 

 だが――。

 

 二人の動きが、次郎には手に取るように見えていた。

 

 銃を向ければ懐へ潜り、拳を振れば、その軌道を紙一重で躱す。

 

 反撃を繰り出そうとした瞬間には、すでに次郎の攻撃が叩き込まれている。

 

「くそっ!」

 

 クリスが渾身の拳を繰り出す。

 

 次郎は僅かに身体を逸らした。

 

 拳が空を切る。

 

 その瞬間――。

 

 次郎の掌底がクリスの胸へ叩き込まれた。

 

「ぐあっ!」

 

 クリスの身体が後方へ吹き飛ぶ。

 

「隊長!」

 

 ピアーズが駆け寄ろうとする。

 

 しかし、次郎が先に回り込む。

 

「なっ……!」

 

 ピアーズの腕を掴み、捻る。

 

 そのまま背中へ回り、関節を極める。

 

「ぐっ……!」

 

 ピアーズが膝をつく。

 

 次郎は力を抜いた。

 

 殺すつもりはない。

 

 あくまで足止め。

 

 それだけで十分だった。

 

 クリスが立ち上がる。

 

 荒い息を吐きながら、次郎を睨みつける。

 

「……お前は……何者だ……?」

 

 次郎は答えない。

 

 ただ、不敵な笑みを浮かべている。

 

 その表情、態度。

 

 そして、先ほどの言葉。

 

『ラクーンシティ事件の英雄か』

 

『まるで、同窓会みたいだな』

 

 そして――。

 

 人間離れした動き。

 

 銃弾すら見切る身体能力。

 

 クリスの脳裏に、最悪の記憶が蘇る。

 

 ラクーンシティ。

 

 ロックフォート島。

 

 そして――。

 

 火山。

 

 あの男。

 

 アルバート・ウェスカー。

 

「…………」

 

 クリスの目が大きく見開かれる。

 

 荒い呼吸。

 

 震える手で、再び銃を構える。

 

「……まさか、蘇ったのか」

 

 次郎が眉を動かす。

 

「……?」

 

 クリスは銃口を次郎へ向けた。

 

「蘇ったのか、ウェスカー……!」

 

 決死の覚悟で叫ぶ。

 

「今度は何が目的だ!」

 

 次郎は困惑した。

 

「……ウェスカー?」

 

「とぼけるな!」

 

「今度こそ本当に神になるつもりか!」

 

「…………」

 

 次郎はクリスを見る。

 

 あまりにも話が噛み合わない。

 

 だが、クリスは止まらない。

 

「また世界を巻き込むつもりか!」

 

「…………」

 

 次郎は冷静に状況を分析する。

 

(こいつ……完全に人違いをしているな)

 

 それ以外に考えられない。

 

 だが、訂正する必要もない。

 

 そもそも――。

 

 エイダを先に行かせている。

 

 あまり彼女を待たせるわけにはいかなかった。

 

 次郎は小さく息を吐く。

 

「……勝手に言ってろ」

 

 構えを直す。

 

 クリスとピアーズが身構える。

 

 次郎は一歩踏み込んだ。

 

「悪いが、あまり時間がない」

 

 次の瞬間、次郎が刀を鞘から抜き放つ。

 

「手加減はここまでだ」

 

 再び、戦闘が始まった。

 

 




クリスからすれば銃弾を避ける + ラクーンシティ同窓会メンバー = アルバート・ウェスカーという数式が脳に焼き付いているので仕方がない勘違いです。
この場でクリスを止めるべきピアーズも隊長が警戒する人物として次郎を見ています。
正直、この勘違いを書きたいが為にバイオ5を飛ばしました。
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