元殺し屋がバイオ事件に巻き込まれる話   作:オッパッピー

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本日二度目の投稿。


Chapter3 逃亡者と追跡者 Part2

 夜の海を、水上バイクが切り裂いていく。

 

 エイダは周囲を警戒しながら、巨大空母へと接近していた。

 

 やがて艦体の一角に設けられたドックを発見する。

 

 速度を落とし、警備の隙を突いて内部へ侵入。

 

 水上バイクを隠すと、エイダはそのまま艦内へと足を踏み入れた。

 

 内部は静かだった。

 

 しかし、油断はできない。

 

 銃を手にした警備兵の目を掻い潜り、監視カメラの死角を縫うように進んでいく。

 

 何度も足を止め、警備の動きを確認する。

 

 慎重に。

 

 確実に。

 

 そうして進んだ先で、エイダは一枚の重厚な扉に行く手を阻まれた。

 

「……随分と厳重ね」

 

 扉の横に設置された電子パネルを確認する。

 

 画面には、三つのパスコードを要求する表示。

 

 一つではない。

 

 三つすべてを入力しなければ開かないらしい。

 

「さて……どうしたものかしら」

 

 エイダは周囲を見回す。

 

 パスコードの手掛かりを探すため、周辺の端末や壁面を調べようとした。

 

 その時だった。

 

 ――コツ。

 

 背後から、足音が響いた。

 

「……!」

 

 エイダは即座に振り返り、銃を構える。

 

 暗い通路の向こう。

 

 そこから、一人の男が歩いてくる。

 

「撃つな」

 

「……アリス?」

 

 現れたのは、次郎だった。

 

「随分と早かったわね」

 

「港にもう一台、水上バイクが残っていたからな」

 

 次郎は何事もなかったかのように答える。

 

「クリスたちは?」

 

「ああ。適当にあしらってきた」

 

「……」

 

 エイダは思わず次郎を見る。

 

 先ほどまでクリスたちと戦っていたはずなのに、もうここまで追いついてきた。

 

 その行動力には、呆れるより先に感心してしまう。

 

「あなた、意外と執念深いわね」

 

「そうか?」

 

「ええ」

 

 次郎は気にした様子もなく、セキュリティ扉へ歩み寄った。

 

「それより、これか」

 

「三つのパスコードが必要みたい」

 

「なるほど」

 

 次郎はパネルを調べる。

 

 入力欄。

 

 認証装置。

 

 そして、そのすぐ近くに。

 

「……あった」

 

「何が?」

 

「おそらく整備用かな、USBの挿入口だ」

 

 エイダが目を向ける。

 

 確かに、パネルの隅に小さな端子が設けられていた。

 

 次郎は懐から一本のUSBメモリを取り出す。

 

 公安が対特殊テロ任務のために用意した、専用のハッキングツールだった。

 

 次郎はインカムを起動する。

 

「霧島、聞こえるか」

 

『聞こえている』

 

「USBを使う。ハッキングを頼む」

 

『了解』

 

 次郎はUSBメモリを端子へ差し込む。

 

 カチッ。

 

 深くまで押し込む。

 

 直後、パネルの表示が切り替わった。

 

『接続を確認。こちらから侵入する』

 

「頼む」

 

 日本。

 

 公安本部の情報分析班では、専用端末へ送られてきたデータの解析が始まっていた。

 

 高性能サーバーによる演算処理。

 

 そこへ霧島配下のハッキングチームがアクセスし、空母のセキュリティシステムへ侵入していく。

 

 電子ロックの構造を解析。

 

 認証プログラムを特定。

 

 続いて、内部の制御コードを書き換えていく。

 

 エイダは隣で、その様子を黙って見ていた。

 

 やがて――。

 

 ピッ。

 

 一分もしない内に電子音が鳴る。

 

 画面に表示されていたロック状態が変化した。

 

『認証システムの書き換え完了』

 

 次郎がUSBを抜く。

 

 そして。

 

 ――ガコン。

 

 重々しい音を響かせ、セキュリティ扉が開いた。

 

「……開いたわね」

 

「ああ」

 

 あまりにもあっさりした突破だった。

 

 エイダは開いた扉を見る。

 

 もし次郎がいなければ。

 

 三つのパスコードを探すため、この巨大な空母の中を隈なく調べる必要があっただろう。

 

 警備を避けながら。

 

 端末を探し。

 

 手掛かりを集め。

 

 一つずつ謎を解いて。

 

「……」

 

 エイダは小さく息を吐いた。

 

「……ずるいのはどっちよ。こっちは苦労して潜入したのに」

 

「何か言ったか?」

 

「何でもないわ」

 

 エイダは肩をすくめる。

 

 そして、開いた扉の向こうへ歩き出した。

 

「行きましょう、アリス」

 

「ああ」

 

 二人は巨大空母のさらに奥へと進んでいった。

 

 

 ――ズルズルズル……。

 

 不気味な音が、前方から聞こえてくる。

 

「……何かいるわね」

 

「ああ」

 

 暗い通路の奥から、何かが這いずってくる。

 

 やがて姿を現したのは、人間の形をした無数のヒルの集合体だった。

 

 異形の肉塊が蠢きながら、通路を塞ぐように広がっている。

 

 ラスラパンネ。

 

 その数は一体ではない。

 

 複数の個体が、二人を取り囲むように迫ってくる。

 

「面倒ね」

 

 エイダが銃を構える。

 

 しかし、次郎は一瞬だけラスラパンネを見て、すぐに判断した。

 

「相手をする必要はない」

 

「同感ね」

 

 二人は同時に動いた。

 

 エイダがフックショットを天井へ向けて撃ち込む。

 

 ――ガシュッ!

 

 フックが天井に食い込む。

 

 ワイヤーが張り詰めると同時に、エイダの身体が宙へ舞った。

 

 ラスラパンネの頭上を飛び越える。

 

 その横では、次郎が壁へ足を掛けた。

 

「――ッ!」

 

 一度、壁を蹴る。

 

 そのまま反対側の壁へ飛び移り、さらにもう一度蹴り返す。

 

 人間離れした跳躍力で、ラスラパンネの包囲を軽々と飛び越えた。

 

 着地。

 

 二人は一度も攻撃することなく、そのまま通路の奥へ駆け抜けていく。

 

 背後では、ラスラパンネが二人を追おうと蠢いていたが、すでに二人の姿は通路の先へ消えていた。

 

 さらに奥へ進む。

 

 その時――。

 

『安心して。殺しはしないわ』

 

 艦内スピーカーから、女の声が流れ始めた。

 

 二人が足を止める。

 

『ただ……永遠に変異し続けるだけよ』

 

 エイダの表情が変わった。

 

 この声には聞き覚えがある。

 

 自分の名を騙り、バイオテロを指揮している偽エイダ。

 

『元から人でなしのあなたには、お似合いの末路ね』

 

 憎悪と執念が滲んだ声。

 

 エイダは黙ってスピーカーを見上げる。

 

「……この声は、ネオアンブレラのエイダね」

 

「偽物か、随分と似た声だな」

 

「ええ。顔も似ているから困っているのよ」

 

 次郎も周囲を警戒する。

 

 この艦内で、何かが進行している。

 

 そして、その中心が近い。

 

「急ぎましょう」

 

「ああ」

 

 二人は再び歩き出す。

 

 しかし、警戒は先ほどよりも強くなっていた。

 

 何が待ち受けているのか分からない。

 

 その時だった。

 

 二人が通路を進んでいると、正面にエレベーターが見えてきた。

 

 その手前、左手側には重厚な水密扉が設けられている。

 

 次郎が水密扉へ歩み寄り、ハンドルに手を掛ける。

 

 ――ウィィィン……。

 

 正面のエレベーターが動き出し、停止した。

 

 扉が開く。

 

 そこから姿を現したのは、クリスとピアーズだった。

 

「……!」

 

 クリスが次郎とエイダを見つける。

 

「止まれ、ウェスカー!エイダ!」

 

 銃口を向けながら、クリスが怒鳴る。

 

 またしても人違いだ。

 

 次郎には、クリスが誰と勘違いしているのか分からない。

 

 だが、わざわざ説明している時間は惜しかった。

 

 次郎はクリスを無視し、水密扉を開く。

 

「行くぞ、エイダ!」

 

「ええ!」

 

 二人は水密扉を通り抜けると同時、勢いよく水密扉を閉め直す。

 

 そして振り返ると、さらに奥へ続く通路があった。

 

 しかし――。

 

 通路の奥では、重厚な隔壁が警報音とともに下降している。

 

 ――ゴゴゴゴゴ……!

 

「……急いで!」

 

「分かってる!」

 

 二人は全力で駆ける。

 

 隔壁は容赦なく下降していく。

 

 残された隙間は、急速に狭まっていた。

 

 エイダが身を低くする。

 

 次郎も同時に身体を沈める。

 

 二人は床を滑るようにして、閉まりかけた隔壁の下へ飛び込んだ。

 

 背後では、クリスたちが水密扉をこじ開ける音が響いた。

 

「待て、ウェスカー!」

 

 クリスの怒声が迫るが、もう遅い。

 

 ――ガンッ!

 

 直後、隔壁が完全に閉じる。

 

 クリスたちの追跡は、そこで遮断された。

 

 エイダが立ち上がり、次郎を見る。

 

「なんとか、間に合ったわね」

 

「ああ」

 

 次郎は閉ざされた隔壁を一瞥する。

 

 

 隔壁が完全に閉じたことを確認すると、エイダは次郎へ視線を向けた。

 

「それにしても、随分と怒っていたわね」

 

「ああ」

 

「しかも、あなたのことをウェスカーと呼んでいたわ」

 

 次郎は一瞬だけ黙った。

 

「知らん、誰だそれ」

 

「知らないの?」

 

「知らんものは知らん、人違いだ」

 

 次郎はそれだけ言って、再び歩き始める。

 

 エイダはその背中を見つめる。

 

 クリスがなぜ次郎をウェスカーと呼んだのか。

 

 詳しい理由までは分からない。

 

 ただ、あれほど激昂していたことを考えれば、次郎の何かが、クリスの記憶にあるウェスカーと重なったのだろう。

 

「……まあ、何となく勘違いの理由は分かるけど」

 

「何か言ったか?」

 

「何でもないわ」

 

 エイダはそれ以上追及せず、次郎の後を追った。

 

 二人はそのまま、空母のさらに奥へと進んでいった。

 

 

 

 そして二人は艦内を抜け、広大な空母の甲板へと出た。

 

 夜の海風が吹き抜ける甲板には、ネオアンブレラの兵士たちが巡回している。

 

 完全武装した兵士。

 

 そして、上空を照らす無数のサーチライト。

 

 光が甲板を縦横に走り、わずかな動きさえ見逃さない。

 

 さらに、上空には戦闘ヘリが待機していた。

 

 サーチライトに発見されれば、機銃掃射を受けることになる。

 

「……厄介ね」

 

 エイダが呟く。

 

「別々に行こう」

 

「分かったわ」

 

 二人はその場で分かれた。

 

 エイダはフックショットを取り出す。

 

 ――シュッ!

 

 フックが上方のキャットウォークへ突き刺さる。

 

 ワイヤーが張ると同時に、エイダの身体が宙へ舞った。

 

 サーチライトの死角を縫うように、上空の足場を軽やかに移動していく。

 

 一方、次郎は地上を進む。

 

 コンテナや艦載機の陰を利用しながら、闇の中を進んでいく。

 

 巡回する兵士の背後へ接近。

 

 気配を完全に消し、相手が振り返るよりも早く無力化する。

 

 一人。

 

 また一人。

 

 声を上げる暇すら与えない。

 

 国家最高峰の対テロ要員として磨き上げられた技術。

 

 それを駆使し、次郎は警備網を静かに抜けていった。

 

 やがて、事前に決めていた合流地点へ到着する。

 

 次郎が周囲を確認した、その時だった。

 

「アリス」

 

 物陰から、エイダが姿を現した。

 

 何事もなかったかのように、次郎のもとへ歩み寄ってくる。

 

 しかし――。

 

 次郎は一歩も動かなかった。

 

 腰の拳銃を抜く。

 

 そして、目の前の女へ銃口を向けた。

 

「……誰だ、お前」

 

 声には一切の感情がない。

 

 銃口も微動だにしない。

 

 女の足が止まった。

 

 エイダ・ウォンと寸分違わぬ姿。

 

 服装も。

 

 声も。

 

 表情さえも。

 

 完璧に本物を再現している。

 

 それでも。

 

 次郎は迷わなかった。

 

 女――カーラは目を見開く。

 

「……なぜ分かったの?」

 

 次郎の口元に、僅かな笑みが浮かぶ。

 

 銃口は揺れない。

 

「昔から双子を見分けるのは得意だった」

 

 次郎は目の前の女を真っ直ぐに見据える。

 

「単に、俺の目が節穴じゃないだけだ」

 

 傲岸とも取れる余裕を滲ませながら、そう言い放った。

 

 

――Chapter3・完――

 

 




影武者を見抜く能力といえば分かりやすいですかね。
五等分の花嫁の中野姉妹を多分次郎は初見で見分けられます。本人にとっては当たり前すぎて誇ることすらない、なんてことの無いただの特技です。

次郎の才能は戦闘、暗殺に特化しています。
平和な環境では恐らく開花しなかった才能です。
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