らぶみーとぅー!~NTR性癖の幼馴染を満足させるため、僕は真実の愛を探す~ 作:大豆亭きなこ
彼女の家は僕の家とは反対方向にバスに揺られ、二十分くらいの場所にあった。そのバス停からも少し歩くらしい。
ここいらは山間に近い場所で、少し行くと小さい自然公園とダムがあるだけで、ほかに主だったものはないので、一応地元の範疇だがあまり来たことなかった。
田んぼとその間にぽつぽつと建つやけに新しい家々を見ながら、じめじめしてるなぁなんて思いシャツをパタパタさせていると、
「ここですよ」
彼女が指したのは、病院や公民館と言った公共の建物のような雰囲気を持つ、控えめな意匠が施された、やけに白い大きな建物だった。
門にかかっている立て札には、
『大日信連崇条教 東ノ宮本支部』
「え?」
「ああ、うち家業の渡世が宗教屋さんなんですよ。ほら、実家が神社的な」
つばめちゃんは事も無げにあっけらかんと言い放つ。
「別に先輩はそんなこと気にしませんよね。──と言うか、気になりますよね。ちょうど礼拝の時間がもうすぐですから、見ていきますよね? いえ、見ていってもらいます。私も出るんです。いつか言った私の本気も見れますよ」
「へぇ、宗主の娘となると巫女的な?」
「おっ、はいそうです。だから学校ではあまり目立たないようにって……。あっ、母が呼んでるので行ってきますね、準備してきます。先輩はあの一番大きな、尖塔のある建物、礼拝所に行っていてください。話は通しておきましたので、何も言われませんよ」
と、早口に言って、深緑の作務衣を着た女性(多分つばめちゃんの母)の方に走り去っていってしまった。
山間の新興宗教、そういえば聞いたことある。と言うか駅の方で説教と布教をしているのをよく見かける。張り付いた笑顔と、皆ベージュのカーディガンのようなものを着ていたのが頭に残っている。その時、瞳子は何て言っていたっけ? ああ、そうだ、まるでばばあの見本市だねって言っていたんだ。その時大爆笑してしまったのをすこし後悔する。つばめちゃんの実家だったとは。
そうか、つばめちゃんのご実家が運営してらしたのか、彼女がよく民俗学や神学、民間信仰の本を読んでいたのを思い出す、合点がいった。
僕が門の近くに突っ立って、いろいろ思案していたらクラクションを鳴らされる。振り返るとミニバスだった。中にはやはり一様にベージュのカーディガンを羽織った人間がぎゅうぎゅうに詰まっていた。
邪魔にならないように端に避け、もっとよく観察する。
バスには老若男女多種多様な人間が乗っていた。若い人らはみんな暗い顔をしている、二世信者だろうか、生まれたころから信仰を決められるのはかわいそうだなと同情しかけたが、キリスト教や仏教も似たようなもんなので思い直す。僕かて何も考えずクリスマス楽しんでいるしなぁ。
バスから信者たちが下りていき、ぞろぞろと礼拝所に入っていったので僕も後に続く。
礼拝所の中は、仏教的な畳張り、板張りではなく、キリスト教の礼拝所のような石造りで、長い椅子が規則的に並んでいた。
僕は、流されるままに真ん中あたりに座り、あたりを見回す。
信者たち、主にご高齢の女性たちは歓談に励んでおり、若者たちは一か所に集まって、ぼそぼそとささやき合っている。一人でいる中年男性や老人たちは、分厚い本(聖典的な物だろうか)に一心不乱に目を通している。
別に信者たちは目がキまっていたり、据わっていたりするわけじゃなく、どちらかと言えば普通の、どこにでもいる人たちのように見えた。
前方に目をやると仏像があった。
仏像と言っても日本のお寺にあるような、木造の穏やかそうで神々しいものではなく、なんだかギザギザとしており、厳めしい、そんな仏像だった。石造りでガンダーラとか、西洋の彫刻様式を思わせる。
と言うか本当にあれは仏像なのか? 仏? 何より仏像の種類が特定できない、螺髪でも宝冠をかぶっているわけでもないし、あれは宝剣か? 戟か? なら、明王か天かなのだが、いろんな特徴がないまぜになっておりよくわからない。オリジナル仏だろうか? まぁそんなこと新興宗教に問うても無意味なのかもしれないが。
あとでつばめちゃんに聞いてみよう。
それから、入り口で配られていた崇条教を紹介するリーフレットを読んでいると、ライトが消えた。それまでざわざわしていた信者たちも水を打ったように静まり返る。
舞台袖からカツカツと音がして、深緑の巫女服を着た若い女性が登場する。
ん? あれ? ……あっ! つばめちゃんじゃん!
目を凝らしてみるとその若い女性は阿布都乃比つばめ、その人だった。
一瞬彼女に気付けなかったのには訳がある、あまりにも普段の彼女の雰囲気とは違ったのだ。眼鏡をかけておらず、薄く化粧をしており、目元、口元には紅が引かれている。いつもの癖っ毛は簡単に一つくくりにされており、何より目に力があった。
──まるきり別人じゃないか!
神々しさすら感じるその姿に周りの人間も息をのむ。
そして、彼女は宣教台に立ち、恭しくゆっくりとあたりを見回した後(僕と一瞬目がった後、少し口角が上がった気がしたが、これはアイドルが自分にウインクをしてくれたと思うファン心理のようなものだろうか)、聖典を開き、小さいながらもよく通るきれいな声で、一説を読み上げる。
それは聖典の最初の方の文章だったらしく、この宗教の成り立ちや目的、協議の芯のようなものがリーフレットの内容と合わせて、ぼんやりとだが理解できた。
ゾロアスター的な善悪二元論を基礎とし、仏教的エッセンス、日本の民間信仰(神道的なアニミズム、つまり八百万の神的な信仰に近い)が混ざった、キメラみたいな宗教であった。
何より特徴的なのは、死後、来世、輪廻転生によって救われるというより、今世で救われるといった即物的な救いが中心にあったことだ。
なるほど、合理的だな。
などと考えていると、いつの間にかつばめちゃんは壇上から姿を消しており、代わりに彼女の母が宣教台に立っていた。
現在の社会情勢と教義を絡めて話した後、連絡事項を伝え解散となった。
信者たちが規則正しく後ろの人から礼拝所を出ていく。僕はすごいものを見たなと余韻に浸っていると、後ろから声がかかる。
「時田様、巫女様がお待ちですので」
顔に険がある、長身の痩せた男であった。
◇
「あ、どうでしたか先輩?」
男に連れられ、事務所を抜けた先にある、控室のような畳張りの部屋に通されると、巫女服姿のつばめちゃんがいた。
「ああ、面白かったし興味深かったよ。つばめちゃんにも迫力があった。馬子にも衣裳だね」
「そうでしょう、そうでしょう。先輩ならこれを見ても引かないと思っていました。あ、先輩制服の上着預かりますよ」
「え、良いよ別に」
別に暑くなかったし(どちらかと言えば肌寒い)、必要性も感じなかったのだが、つばめちゃんは「いいから、いいから」と言って無理やり脱がしてくる。その制服を彼女は先ほどの痩せた男に渡す。──ああ、僕の制服……。
「そうだ、先輩時間大丈夫ですか? 不意打ちみたいなことしたお詫びにうちの食事を召し上がってもらおうと思って」
「ああ、いいよ。手料理?」
「まさかぁ、でもきっと先輩気に入りますよ」
事務所がある棟の二階に上がると、西洋づくりの長机がある食堂があった。
イメージとしてはマフィアの会食や貴族の会食に使われるような部屋だ。机の短辺には家父や長、ボスが座るのだろう。
つばめちゃんの案内によって、短辺に最も近い場所に座らされる、その向かいに彼女は座った。机の上にはすでに料理が準備されており、想像していたよりおいしそうだ。こういった閉鎖的な環境においてはヴィーガン食や自給自足で作られた質素な食事かと思っていたが、大皿に盛られたパスタや、ペルシャ絨毯の模様のように盛り付けられたサラダ、丸焼きのターキー、多種多様なシャルキュトリなどと豪華だった。ワインクーラーに入ったシャンパンまで用意されている。かなり儲かっているのだろうか。
つばめちゃんと歓談していると、奥の扉から彼女の母親がやってくる。
宣教台に立っていた時は遠めなので気づかなかったが、こうして近くで見ると、つばめちゃんとよく似ている。美人なのは美人なのだが、陰惨とした幸が薄そうな雰囲気がある。
その彼女が、誕生日席に座らず、つばめちゃんの右隣りへと座る。
──どういうことだ? 彼女が長なのではないのか?
疑問に思い、短辺の方に視線をやっているとそれに気づいたつばめちゃんが、
「あの席は、簡単に言うと私たちの神様の席なんですよ。だから誰であろうと座ることはありません」
ああ、なるほど。
納得して、ほかに同じような規則があった宗教がなかったかを思案していると、
「では、食事を始めましょうか」
つばめちゃんの母親が冷たく言い放つ。僕のことを歓迎していないのだろう。その証拠にこの部屋に入ってきたときに一瞥をくれたきり、僕の方を見ようとしない。
「あれ? 三人だけですか」
部屋の面積、机のでかさ、料理の量的にもっと多くの人が来ると思ったが、それに父親はどうしたのだろう。
「ああ、私に父親なんて人はいませよ」
「つばめ」
つばめちゃんの母親が真正面を見ながら、冷たく制す。──がそんなことを一切気にせず、
「いや、どこが出まだ生きているのかもしれませんがね。……先輩ここで私の出生の秘密をお教えしましょう」
つばめちゃんはにやにやとして、楽しそうだ。
それに対し彼女の母親は、
「つばめ!」
と勢いよく立ち上がり、こめかみに青筋を浮かべながらつばめちゃんを怒鳴りつけた。
僕はどうしていいかわからず、二人の顔を交互に見るが、怒り心頭の母とは違い、娘の方は涼しい顔だ。怒鳴られたことなど全く意に介していない。
「私の種はですねぇ、精子バンクから買われたものなんですよ。母親はこの人ですがねぇ、どこかの高知能で健康な男が父親なんですよ、顔も見たことないんです」
……へぇ、そういうのもあるのか。
僕はおなかが減っていたので、手を合わせ小さくいただきますを言った後、目の前にあった生ハムをパンにのせて食べる。うん、うまい。
「ははっ、いいですね先輩」
つばめちゃんは何が楽しいのか僕の顔を、目を細めてジロジロと見た後、慣れた手つきでシャンパンの栓を抜き、オリーブのオイル漬けをつまむ。
その様子を彼女の母は、目を見開いて、この世のものでないものを見るように見ていた。
「んでね、ここからが傑作なんですけど。この人、ヴァージンなんですよ。人工授精ですからね、性交する必要ないのです。当時二十歳そこいらの女がよく決断したもんですよ、正気の沙汰じゃない! 男性嫌悪も行きつくとこまで行くとことこうなるわけです、あはは。ほら先輩、この状況何かに似てません?」
つばめちゃんはシャンパンを自身のグラスに注ぎながら楽しそうに言う。──宗教、処女、妊娠。僕は思い当たるものがあった。
「ああ、聖母マリアか」
「そう! まるきり処女受胎なんですよ! そんで生まれた娘を巫女として、新興宗教で祭り上げる。あははっ、傑作ですよ。これ以上のジョークはありませんよ」
つばめちゃんは手を叩いて笑っている。
「つばめ……」
母親の方は、そんな娘の様子を見て、ひどく憔悴している。その目には涙まで浮かべていた。
きっとこのことは秘密だったのだろう、そして他人に、つまり僕に聞かせるのは今日が初めて。つばめちゃんの母親のうろたえぶりは、そういった事情を推測させるにはあまりある様子だった。
「なんで……」
力なく、椅子にぺしゃりと座り、どこを見るともなく漏れだすように呟く。
「なんでって、これはあんたの罪でしょう。私との共犯ではない、あんたが秘密にするのは分かるけど、私にそんな義務はない、義理もない。知って欲しい人に知ってもらう、自身の情報を開示するのは人と仲良くなる基本でしょうが」
つばめちゃんは攻め立てるように言う。肉親に向ける口調ではない、流石に僕でもそれは分かる。しかし、特に咎める気も起きなかった。だって、そうだろう彼女の心情は察するに余りある。きっと、どこかでチャンスをうかがっていたのだ。母親の鼻を明かすチャンスを。それに僕は別にそんな生まれのどうこうは気にしない。大切なのは今、つばめちゃんといて、話していて楽しいか、それだけだ。
「う、うぅ……」
彼女の母親は、机に突っ伏してさめざめと泣く、さっきの宣教台に立っていた勇ましい姿からは想像できない女々しさである。
「いいの?」
僕は、つばめちゃんからシャンパンを注いでもらいながら問う。僕も目の前で自分の母親に泣かれたら困る。
「ん? いいですよ。先輩には知って欲しかったんです。お互いいろんなことを知りあってこそ、対等な関係でしょう、友人関係でしょう? 私は先輩と対等な友人になりたいんです」
「でも、僕は君にあまり自分のことをしゃべっていないよ?」
「ああ、それについても説明しなきゃなりませんね。……私他人の考えが読めるんです」
へぇ。なんだか瞳子みたいだなと思っていると、
「まぁ、上川先輩のような天性のものではないですがね」
おお! 本当に考えが読まれた。少し振り返って考えてみると、つばめちゃんにはやけに勘のいい時があった。それはこういう仕組みだったのかと合点がいく。
「私のは、まぁ、両親からの遺伝によった知能ってのもありますが、どちらかと言えば後天的に訓練で会得したものです。そこの母にいろいろ仕込まれてですね」
「興味深いね、どういう原理なの?」
「ええと、詳しいやり方、習得法なんかは巫女だけの秘密なので言えないんですが、簡単に言うと、その人からできるだけ多くの情報を拾って、それを高速で処理する感じですね。知ってましたか先輩、人間の表情パターンってそんなに種類ないんですよ」
「へぇ」
「とにかくですね、私はただ生きてるだけでその人の性質とか秘密とかを知ってしまうんですよ、不幸ですよ、だからあんまり人と関わりたくないんですよ。だけど先輩と話すのは存外楽しくてですね、私にも対等な友人が欲しいと思ってしまったんです。そのためには先輩に私の情報を多く知っていてほしいのです。今日、ここに招いたのはそのためです」
おお! それは素直に感激だった。彼女の考えには賛成だった。僕は友愛に目覚めたのだ。
「あ、グラスが空になってますね。もっと飲んでくださいよ、おいしいでしょこのシャンパン、まぁまぁな値段しますよ。あ、大丈夫です。帰りは送らせますから、いくら飲んでくれてもいいですよ。こんなとこで良ければ、泊っていってくれてもいいですよ」
つばめちゃんは僕のグラスにシャンパンをなみなみ注ぎながら楽しそうに言う。おっとっと。こぼれそうになったのを口から迎えに行く。塩気が欲しいのでサラミをつまむ。……幸福だ!
「うぅ……、つばめぇ……」
「うるさいなぁ、早く出て行ってくれればいいのに」
そうして僕たちはアルコールを適度に楽しみながら、歓談した。
初めて酒と言うものを飲んでみたが、なかなかにいけるなと思った。それに口も回るようになる。つばめちゃんアルコールには強いらしく、顔色や言動、表情が一切変わらない。普段はしない混み入った話も笑いながらした。
友人との食事とはこうも楽しいものであったのか。瞳子と一緒にご飯を食べるのとはまた少し違った楽しさだった。
◇
「じゃあ、先輩。また来週学校で! いつでもここに遊びに来ていいですからね!」
つばめちゃんが玄関まで見送りに来てくれる。彼女が手配した黒い車におぼつかない足取りで乗り込みながら、彼女に向かって手を振る。
自動で扉が閉まり、車が発進する。電気自動車かハイブリットカーなのか、エンジン音はほとんどせず静かに走る。黒塗りのセダンだ。やくざ映画なら僕はここで殺されるのだろう。
田舎道なのでかなり揺れるかと思ったが、そんなことなく道はきれいに舗装されており、揺れも少ない。
これは助かった、泥酔はしていないものの多少の気持ち悪さは感じていたのだ。アセドアルデヒドが脳を侵しているのだ。だが、あれだけ楽しかった会話の代償としては安いものに思える。
酔い覚ましがてら、外の風景を何の気なしに眺めていると、
「兄ちゃん、あんた、巫女様とどういう関係なんだ?」
運転手は、僕らより少し年上のチャラい大学生風であり、短い金髪で鋭い目つきをしていた。
警戒心や嫉妬心が含まれているかなとも思ったが、そういうわけでもなさそうで、親戚の兄ちゃんが年下のいとこの恋愛事情を聴くといったような気やすい感じであった。
「図書委員の先輩後輩ですよ」
「あれ? 恋人じゃないの?」
「違います、何かと問われれば友人です」
「ふぅん、巫女様があんなはしゃいでんの初めて見たからさ、ああしてみると巫女様もただの年ごろの娘だな」
ふふふと笑いながら、上機嫌に言う。
「巫女ってどんな仕事するんですか?」
「そうだなぁ。……今日みたいな集会での説教と、あとは相談だな。信者の悩みを聞いて解決方法を示すのさ。俺も何度か相談したことがあるが、ありゃあすげえよ。巫女様は心を見抜く、そして今どうすればいいのかを明確に導いてくれるのさ」
さっき言ってたやつか。それなら瞳子にもできそうだな、儲かっている様子だったし、あとで瞳子に勧めてみるか。ここで第二の巫女として雇ってもらってもいいのかもしれないな。
「あんたも機会があると相談してみるといいぜ。心が楽になるし、何より巫女様の言うとおりにするとほんとに問題が解決してしまうんだ」
男の目が爛々と輝いているのが、バックミラー越しにもわかる。
「ええ、気かがあれば是非」
しまった。飲み会の誘いをうまくかわすアイドルみたいなことを言ってしまった。僕は本当に相談を受けてみたいと思ったのに……! ディスコミュニケーション!
男は気にする様子もなく、その後もつばめちゃんの凄さを喧伝することは僕の家に着くまで続いた。
RESULT:友情点プラス十点(マックス)、尊敬点プラス五点、好感度プラス八パーセント。