らぶみーとぅー!~NTR性癖の幼馴染を満足させるため、僕は真実の愛を探す~ 作:大豆亭きなこ
『CASE4:恋』
その日は珍しくヒカリの誘いに乗って、放課後に駅前まで遊びにやってきていた。
僕はつばめちゃんと仲良くなって、友愛に目覚たのだ。
真実の愛は友人関係の先にあるかもしれないと思っていた。
汝、隣人を愛せよ。
別にヒカリとの仲を深めたとて瞳子の脳を破壊することはできないだろうが、僕はとにかく友情と言うものをもっと知りたかった。そのためには今現在、つばめちゃん以外唯一友人と呼べるヒカリともっと仲良くなろうと思ったのだ。
ヒカリのプランではゲーセンで遊んだ後、一緒にラーメンを食べるらしい。なんと友人らしい不毛な時間の過ごし方なんだ! いいねっ(心のサムズアップ)!
つばめちゃんの家に遊びに行った後、どこで番号を知ったのか彼女の母親が電話をかけてきた。内容としては、二度と娘に近づかないでくれ。
どうにも、話を聞く限り、僕がつばめちゃんをそそのかして、あんな態度をとらせたと思い込んでいるらしかった。
なんだかぁと思い、つばめちゃんに報告、そしたらその日のうちにつばめちゃんが母親を連れ、山吹色のお菓子が入ってそうな手土産(本当に現ナマが入ってた(さすがに返した))をもって、謝罪しに僕の自宅に来たのだ。
遊びに行った時も思ったが、すごい親子関係だなぁ。
「──でだな、気になって調べたんだけど、幼いころ虐待されてたらしいんだよ」
僕はヒカリとUFOキャッチャーを物色しながら、雑談をしていた。
「つまり、ほら幼いころの苛烈な体験によって性癖がねじ曲がった、もしくはストックホルム症候群的なさ、だからあの暴力行為は彼女にとってセックスの代替行為なんだよ」
僕らは、エレナさんについての話をしていた。エレナさんと話さなくなって約ひと月、僕の口から出る断片的な情報と状況が気になって、ヒカリはいろいろと調べていたみたいだ。
ヒカリはミステリ小説が好きで、進路調査票に探偵と大真面目に書くくらいのワナビだった。今回のことも探偵ごっこの一環なのだろう。
「えぇ~」
僕は彼の推理に懐疑的だった。
確かに納得できる部分はあるが、幼少期の体験いかんによってそんなに性格、性質が変わるかは疑わしかった。だってそれが本当ならば、僕と瞳子の性格はもっとまともだったはずだ(瞳子の両親は名家の出だし、僕の家庭はそれなりに裕福で夫婦仲も悪くない、教育についてもはっきりと方針がある)。
「まあ、何にせよお前と海老原は一回話し合うべきだ。……それにお前は一度関わったのなら、最後まで責任を取れ」
彼女の生い立ちを勝手に調べ、勝手に同情しているらしいヒカリはやけに語気が強い。
「そんなペットみたいな……。エレナさんは強い人だから、僕なんていなくても平気だよ。……というか、もう僕とは話してくれないと思う」
ヒカリは僕にこいつマジかと言う顔をして、何かを言いあぐね、少し言葉を選んだあと、
「……俺は教室の後ろだから分かるんだけどよォ、海老原、授業中お前のことチラチラ見て気にしてるぞ。廊下とかですれ違った後も悲しそうな顔してるし、最初の頃みたいにお前がしつこく話しかければまだチャンスあるって」
「そうなんだ……」
全然気づかなかった。
「それにな、今だって」
ヒカリが振り返り、入り口の方に目を向ける。
彼の視線を追うと、視界の端になにか動くものが写ったが、それ以外は何もなかった。
「?」
「まあ、いいや。……てか、あっちいな! じめじめする! 死ねよ梅雨!」
僕らは汗だくだった。夏の始まりっていうこともあるが、それよりもさっきまでしつこいくらいエアホッケーをしていたことが主因だろう。僕は運動音痴だが、昔からエアホッケーだけは異様に強いのだ。初戦でヒカリをボコボコにしてやると、元野球部エースのプライドが刺激されたのか、エンドレスもう一回が始まったのだった。
僕が体力切れで負けてしまうと、それで満足したのか、ヒカリは勝ち逃げした。
「ラーメン後にして先風呂いこう風呂! このあたりにいいとこ知ってんだ」
「え?」
僕は思案する、そして彼の姿を眺める。サラサラの長い金髪にスカート。
「どっちに?」
つまるところ、男湯に入るか女湯に入るのか、それが問題だった。
ヒカリはニヤリとして、肩をぐるりと回しながら僕に背を向け、ゲームセンターの出口の方へと歩き出す。
──どっちだよ。
◇
駅前には西口と東口がある、
西口はでかいショッピングモールと接続しており、ロータリー、バス停、タクシー乗り場などがある。東口には自転車置き場と、明らかにショッピングモールができた影響でさびれている商店街があり、僕らはそっちの方に向かっていた。どうにもその商店街に、ヒカリが野球部の時から贔屓にしている銭湯があるらしい。
半分がシャッターのしまった商店街は何とも不気味で、昭和の嫌なところを集めたような雰囲気だった。つまり、非効率的で古臭いというわけだ。瞳子が見たら嫌がるだろうなぁと思いながら、素直な感想をヒカリに伝えると地雷だったらしく、ノスタルジーや昭和文化、人情の良さを熱弁し始める。
ヒカリの話が手作り冷し飴の素晴らしさに差し掛かった時であった。
「……」
あれだけ早口でいろいろとまくし立てていたヒカリが急に黙り込んだ。
「いて」
僕は電柱の方とかを見ていたので、急に止まったヒカリにぶつかってしまう。
ヒカリの視線は一点に固定されたまま、
「おい、あれ」と前方を指さす。
その方向を見ると、同じ学校の制服を着た女子生徒がガタイのいい三人組の男に、路地裏の方へと無理やり連れていかれている場面だった。
その女子生徒はつばめちゃんだった。
彼女の口は声が出せないようにハンカチでふさがれ、両腕をがっちりホールドされており、抵抗むなしく引きずられるようにして路地裏へと入っていく。
つばめちゃんの顔が塀によって見えなくなる寸前、彼女は僕たちを発見する。
そして、目は口ほどにものを言うというが、ほとんどテレパシーと言っても過言じゃないくらい、はっきりとその目は、
『助けて』
と言っていた。
「治安悪いなぁ、どうする? 人呼んで……おいっ!」
僕は走り出していた。
ほとんど無意識だった。
僕自らが助けようと考えてはいなかった、その方法も思いついていなかった。
走っている今でも思う、きっともっと合理的な方法があるはずだ。
例えば、僕よりも運動神経がいいヒカリの方が助けられる可能性が高いだろうし、二人で軽く作戦を立ててからでもよかっただろう。
そんなのも今はもう遅い、興奮した今の脳では正常な判断はできない。
可能性も疑問も置き去りにして、走る、走る。
ただ、あの僕の前ではいつも明るい、つばめちゃんを悲しませたくなかったのだ。
つばめちゃんが連れていかれた路地裏に入る。
この時点で僕の息は切れ切れ、こんな様子で僕はどうすんだよ。
──いた。
かつては飲食店の勝手口、ごみ置き場であっただろう薄暗い路地裏だ。高圧洗浄機でもきれいにするのに難儀するであろう、黒く汚れた壁に口を塞がれ、追い詰められているつばめちゃんがそこにいた。
彼女は三人の男たちから口々に怒鳴られ、罵られている。
「うちの母親を騙しやがって!」
「お前のせいで破産だ!」
「金返せ、責任をとれ!」
要約するとこんな感じ。
一人の男がこぶしを振り上げる。まずいな。急ぎ僕はその男をドロップキック。ヘロヘロの助走だったがそれでも勢いはつく。不意打ちは成功。男が顔面から倒れこんだ。
「いだ」
僕も着地ができずに倒れこむ。ああ、かっこ悪い。
「誰だてめぇ」
ほかの二人が振り返り、僕を睨みながらそう言った。
「……先輩」
つばめちゃんが蚊の鳴くような声で呟く。
心配しないでくれ、きっと僕が助けてみせるよ的なことを言おうと思ったが、背中が痛かったのと、気障な真似をすると嘔吐してしまう持病のせい(嘘)で声が出なかった。
倒れていた男が立ち上がる。鼻血は出ているがあまりダメージは入っていないらしい。鬼のような形相で僕を睨んでいる。雉とか仲間にしておくべきだったかな。
僕も立ち上がり、つばめちゃんを庇うようにして男たちの前に立つ。
そして、すぅーっと息を吸うと、
「あんたら、事情かは知りませんがねぇ、こうは思わないんですか? 今の俺たち悪者っぽいなぁとか。ねぇ? 思うでしょう? だって大の男三人が一人の女の子囲んでるんですよ? それに大声でギャアギャアわめきたてて。こんなの悪者ですよ、悪役。噛ませ犬ですよ。漫画とかアニメならボコボコですよ、ボコボコ。特殊な力に目覚めたばかりの主人公の強さの指標のためと活躍のため、ボコボコにやられるんですよ、あなたたちは。そういう役回りなんですよ。そう考えたらどうでしょう? 今の行為がむなしくなりませんか? なりましたよね、ならやめましょう。すぐやめましょう」
「ぶふっ」
僕のセリフの途中から、両手で口を押えカタタカ震えていたつばめちゃんが噴き出す。
「なんだ、こいつ」
「さぁ?」
「知り合いか? まぁ何でもいいか、見られたからには、なぁ?」
「ああ」
「そうだな、見られてんだもんな」
男たちは、言葉少なになにかを決定らしく、じりじりと僕の方へ近づいてくる。
「野郎ども、やるぞ」
野郎どもやるぞだって。ははっ、まるきり悪役じゃん。海賊じゃないんだから、野郎どもって。彼らは負けたら、野郎どもズらかるぞ、覚えていやがれ! とか言うのだろうか。面白っ。きっと彼らも言うはずだ、挿入の前に先っちょだけだからと! じゃあ僕の仲間じゃん。テンプレ騎士団。
ここで三人の男たちの、特徴を簡潔に紹介しておこう。
右からハゲ。グラサン。ヒゲ。以上!
さぁ、囲まれてしまいました。
逃げることも、説得も、かといって喧嘩で勝つこともできそうにない。グラサンが僕の視界から消える。何か手は。顎に衝撃。足が一瞬宙に浮く。
「先輩⁉」
足のばねを使ったアッパーを食らったのだ。慣れてんなぁ、何かやってた? ボクシングとか。
僕は再び地面に伏す。
グラサンがつばめちゃんに手を伸ばす。
僕は急いで立ち上がり、その手に噛みついた。
「なっ! こいつ」
ボディ、ボディ、ボディ。
僕の体がくの字に曲がる。だがまだ離さない。根性だ。執念だ。ヒゲからヤクザキックを脇腹に食らい、その衝撃で僕は吹っ飛んでしまう。
「この野郎っ、やりやがった!」
グラサンの右手から赤い液体がどくどくと流れていく。ははっ、噛みちぎってやった! 口の中にある皮膚を吐き捨てる。
「おい、血ぃ止めとけ、先こいつやるぞ」
僕は再び立ち上がる。
先手必勝、ヒゲの腰にタックルをかます。が、あまり効果はなく、一、二歩あとずらせることはできたが、すぐに止まってしまう。大岩か? こいつ。
首筋に空手チョップを食らう。
「かはっ」
一瞬息が止まる。気が遠くなる。死んだと思った。
髪を掴まれ、頬をぶん殴られる。今のどっちだ? 右? 左? もう一方も差し出さないと。同じ場所を今度は角度と勢いをつけられ殴られる。
殴られた勢いで多分三回転半くらいする。そして、また倒れこむ。
十点! 十点! 十点!
心の中の審査員が全員十点の札を上げた!
やったー、満点だ。次のオリンピックじゃきっと僕が金メダル! トリプルアクセルはプロでも難しいのだ。
倒れている僕のみぞおちを、つま先で蹴られる。
空えずき、喉の奥からよだれが止まらない、涙が出る。
僕はカメのように丸まって身を守る。
蹴られる。蹴られる。蹴られる。
ドンドンドンと絶え間なく振動が僕の内側まで響いてくる、
なんとみっともない!
バキで初めて寂海王を見た時、僕はなんだこいつと笑ってしまったが、今の僕がまさにそれだった。
彼の言葉を思い出す、背中は強い。まさにその通り!
そもそも動物ってのは本来は四足歩行なのだ、内臓は弱点なのだ。人間のように脳を大きくしたいばっかりに二足歩行になって、馬鹿みたいに弱点をさらしている方がおかしいのだ。
でも、顔を殴られたりするよりはましだった。ごめんね寂さん、そしてありがとう。
相手が列海王じゃなきゃ、これで多分しのげる。
「もういいだろ」
男たちが僕を蹴り飽きたのか、どこかに歩き出す。
あ、まずい。
僕は今、つばめちゃんを守っているのだ。頭に浮かんでいる寂海王の顔がつばめちゃんの顔に変化する。違う違う、つばめちゃんに髭は生えていないだろ。僕は自分の脳に突っ込みを入れる。……こんなことをしている場合じゃない。ふざけている場合じゃない。
僕はヒゲの足に縋りつく。振り払われる。顔面を蹴られる。口の中が切れる。鼻血が噴き出る。地面が冷たい。夏はここで寝よう、きっと気持ちいいだろう。
僕はふらふらと立ち上がる。視界がぼんやりとする。腕が上がらない。
つばめちゃんの方に向かって行くハゲの腕につかみかかる。髪を掴まれる、みぞおちを数発殴られ、最後に鼻っ柱を殴られる。ごしゃりと嫌な音が脳内に響く。
倒れながらも、ハゲの服の裾を掴みながら、立ち上がる。
「…………」
と言うか、なんで僕はここまでしてるんだ?
つばめちゃんは瞳子ではない、それにさっきの怒号の内容を思い出すに、彼女のせいでもあるのだ。男たちは何らかの形での彼女の宗教の被害者なのだろう。なら、僕がこんなになってまで体を張る理由は?
つばめちゃんの方を見る、彼女は泣いている。ああ、そんな顔しないでくれ。
僕は君の楽しそうに笑っている顔が好きなのだ。また、映画の話をしよう、小説の話をしよう、哲学の話をしよう、皮肉を言いおう、おすすめのライトノベルもあるんだ。今度はきっと気に入ると思うよ。
楽しいんだ、最近僕は。
楽しいんだ、君と話していて、君は友達だから。
あぁ、友達、そうか……。
僕はまた殴られる。どうにか起き上がって縋り付く。
ハハッ、ドラえもん最終回かよ。
それなら、もう少ししたら彼らは呆れて自ら敗北を認めるな。
帰ったら、押し入れを探してみよう、置き土産の秘密道具が隠されているかも。
僕は殴られる。
視界がチカチカする。後頭部に衝撃を感じる。立ち上がろうとするが力が入らない。
汗だか血だかで滲んだ視界には、建物と電柱、電線で区切られた空が写る。
梅雨にしては珍しい、胸のスカッとする快晴だった。
「サダツネ!」
「時田!」
ヒカリが駆け寄ってくる。もっと早く来てくれればいいのに。あ、エレナさんもいるじゃん。なんで? 彼女は一瞬僕の方に心配そうな顔を見せた後、すごい速さで男たちの方へ向かって行く。
ヒカリが、僕の上半身を起こし、壁にもたれさせてくれる。そしてエレナさんが、逃げていく男たちを追う姿が狭い視界に写った。
「あ、君! サダツネ……、えぇとこの男を少し見といてくれ。あっちに交番があるから、警察を呼んでくる。あと、救急車も」
ヒカリも路地裏から出ていった。
「先輩」
つばめちゃんが、僕の隣にしゃがみ込む。
「ボコボコじゃないですか。……なんで? 何でそうまでして守ってくれたんですか?」
彼女は顔を肘にうずめているらしく、声がこもっている。
「……なんでだろう? 友達だから?」
うまく喋れない。声がかすれている。頭がぼーっとする。
「そんなの、納得できませんよ。普通の友達ならここまでしませんよ」
「……そうなの? 僕はほとんど友達がいないからわかんないや」
しばしの沈黙。
もう限界だ。無性に眠い。
「ずるいですよ、先輩。こんなにボロボロになって、体張って」
つばめちゃんが顔を上げる、どんな表情をしているかは僕のぼやけた視界じゃわからない。
「あ~あ、ずるいなぁ。こんなの。……惚れちゃうに決まってるじゃないですか」
その言葉を最後まで聞き終わる前に、僕の意識は途切れてしまった。