らぶみーとぅー!~NTR性癖の幼馴染を満足させるため、僕は真実の愛を探す~ 作:大豆亭きなこ
知
ら
ぬ、天井
見知らぬ、天井、だ。
くぅ~、これやってみたかったんすよね~。
でも『見知らぬ天井』と言えば、白く無機質な天井のはずだ。
僕の視界にあるのは、シックな木の枠でかたどられた間接照明のあるおしゃれな天井。シャンデリアとはいかないまでも豪華な照明もある。それに個室だ、まるで高級ホテルの一室のような。
僕は多分、殴られ過ぎて気絶したのだ。
右腕には点滴の針が刺さっている。つまりここは病院。なんでこんないい病室に僕はいるのだろうか。普通は六人部屋とかの大部屋に入れられるはずだ。
上半身を起こし、あたりをきょろきょろと見回すと、傍らには瞳子がいた。
無表情でじっとこっちを見ている。
「やあ、サダ。おはよう、調子はどうだい?」
いつもの調子の明るい声色。
僕は肩を回し、体の痛みを認識する。頬はジンジンするし、体のあちこちはチリチリと熱をもって痛むが動かせないほどではない。
僕は瞳子に向かって頷くと、彼女は相好を崩し、
「そうか」
と言った。
そんな彼女を見ていると何故だか罪悪感がわく。瞳子からジャスミンと白檀の香りがした、安心する香りだ。
「骨折はしてなかったらしいよ、良かったね。不幸中の幸いだ。サダはどこまで覚えてる?」
なんか医者みたいだな。というか僕が目覚めたのだから、ナースコールなどで人を呼ばなくていいのか? ……いいんだろうな、瞳子だしな。僕はとりあえず質問に答えることにする。
「う~ん、つばめちゃんと話しているところ」
「つばめちゃん?」
「ああ、そうだ。つばめちゃんは僕の図書員の後輩なんだ。最近とても仲良くなってね、僕の友達でもある」
「…………」
瞳子は僕の言葉を聞いた後、怪訝な表情をしながら顎に手を当て思案する。膝のあたりを人差し指でトントンしている。
これは瞳子の幼いころからの癖で、複数の情報を並列思考で処理するときによくみられる癖だ。
「瞳子は事情をどこまで知ってるの?」
「……ある程度は。でも、サダの口から直接聞きたいな」
瞳子は僕に向かってにっこりと微笑む。その笑顔は少し引きつっていた。
僕は、つばめちゃんが路地に連れ込まれたのを見て、助けに行き、ボコボコにやられたことを簡潔に説明した。その間、瞳子は表情を動かさず、前のめり気味に僕の顔を見ながら、せわしなく眼球だけを動かしていた。
「なぁ、サダ。そのつばめちゃん? は君がそこまでする相手だったのか?」
「うーん、どうだろ……」
「やるにしても、こうして病院に運ばれるくらいまで殴られる必要ななかったはずだ、君ならもっとクレバーな方法で解決できただろう?」
「そうかもしれないけど、あの時は勝手に体が動いてしまったんだ。頭に血が上ってしまって、冷静に判断ができなかった」
「なんで?」
「それはさ、僕も考えていたのだけれど、多分……」
「多分?」
「つばめちゃんが僕の友達だから」
瞳子が目を大きく見開く。
その表情は今まで彼女と長いこと一緒にいて初めて見る表情であった。言葉にすると、多分、自信はあまりないんだけど──怒り、なのだと思う。
「なぁ、サダ。私じゃ不足か?」
「え?」
「ほら、友達だよ。今まではいなくても平気だっただろ? それに私がいる。なっ、別にいらないだろ? これからはさ、もっと君との時間を増やすよ。部活はやめたっていい。君が友達としたいことは私とすればいいじゃないか」
「え? ……え?」
瞳子は何を言っているんだ。
その早口でまくしたてられるような喋りに、寝起きの僕はついていけない。
「それに、聞くところによると、君が助けたあの娘、山間にあるカルトの巫女様だそうじゃないか、危ないよ。良い噂を聞かないよ。今回のことも加害者はカルトの被害者でもあったんだろう? ほら、だめだ。自業自得だし、君が傷つくことはなかった。ああ、これは私の責任でもあるな、私が君を追い詰めたのもあるな、エビ何とかもカルト巫女も普通なら関わらないものな。……切羽詰まっていたのだろう。すまない、責任はとるからさ、とりあえずもう関わるのはやめよう」
「…………いやだ」
僕は心臓を握り潰されるんじゃないかって痛みに耐えながら絞り出すように言った。
理性はやめろやめろと言っている。だけども、それでも僕の心は友情と言うものを知りたがっている、欲しがっている。
「つばめちゃんは、初めて、ちゃんと、まともにできた友達なんだ。いくら瞳子に言われたからって……」
「サダ」
彼女の瞳が僕の瞳を覗き込む。近い。虹彩に僕が写っているのが分かる。諭すような声色。僕は瞳子に手をぎゅっと両手で包み込むように握られる。
「──あれ? 時田さん、お目覚めになったんですか? 先生呼んできますね」
声の方向を見ると看護師さんがいた。やっぱり、呼ばなきゃだめだったんじゃないか。
看護師さんがスリッパをパタパタと鳴らし、去っていくのを僕らは呆然と眺める。
瞳子はふぅと息を吐き、
「話し合いの場はまた別の機会に設けよう、サダ、私の言ったことよく考えておいてくれ」
最後に力強く手を握ると、病室から出ていった。
◇
その後医者が来て、いろいろ質問してきた。
それから僕は診察を受け、看護師さんが包帯やガーゼを変えてくれた。
ガーゼをはがすときは、傷口に張り付いていて、とても痛かったけど、我慢した。
けがの数は多いが、それぞれは大したケガじゃないので、すぐに退院できるらしい。
昼には母親が来て、すごく心配された。
夕方になると学校が終わったのか、ヒカリとつばめちゃんが来てくれた。
この豪華な部屋はつばめちゃんが用意してくれたものらしい、それに対して僕がお礼を言うと、つばめちゃんは涙を浮かべ、こっちのセリフですよと言った。
加害者の三人は、エレナさんに捕まり、警察に連行されていったらしい。僕がヒカリになんで近くにエレナさんがいたのかを問うと、自分で聞けと言われてしまった。退院したらお礼を言いに行かねばならない。
そして、夜。
空調のブゥウンといった音が広い部屋を支配する。あとは僕の布ずれの音と、月明かり。孤独な夜だ。窓の外を覗いても瞳子の家はない。
消灯時間は二十一時、僕はたっぷり寝たのと、そもそも二十一時は全然寝る時間じゃないので全く眠くならなかった。かといって、スマホを見る気にもなられないので、ぼ―っと天井を見ながら、いろいろなことを考えていた。
僕の性質のこと、学校のこと、今までの人生のこと、つばめちゃんやエレナさん、ヒカリのこと、友情のこと、愛のこと、そしてさっき瞳子に言われたこと。
僕の枕の横には、「幼馴染が多すぎる!」の初版特典本があった。
つばめちゃんがプレゼントしてくれたのだ。
彼女があの時、あのほとんどシャッターのしまったさびれた商店街にいた理由はこの本にある。母親に会いたくないので家に帰らず駅前をふらふらしていた彼女はふと僕が言っていたことを思い出す。それはコレクター魂と初版本のレアリテティを熱弁した時のことだった。そこで彼女は駅の東の方の商店街には古い本屋があったと思い出した。思惑通り、初版特典本を買った帰りに襲われたというわけだった。
つばめちゃんが僕のために行動し、身銭を切ってこの本を手に入れてくれたことを思うと、心がとても温かくなる。僕も彼女に何かをしてあげたい気持ちになる。見舞いに来てくれたのもうれしかった。僕はまだまだ彼女と関わりたかった。
瞳子が言うのだから、きっと正しいのだろう。瞳子はギフテッドで賢いし、瞳子の言うとおりにすると大抵のことはうまくいく。
ああ、僕はどうすればいいのだろう。
この感情を、友情を、友人を失いたくはなかった。