プロンプトを捨て、システムを導入したらゲームにフルダイブしたお話 作:並木 新
漆黒の空間。光と闇の2つのデータストリームが中央へ収束していく。
虚空に半透明のシステムウィンドウが浮かび上がり、無機質な文字が展開された。
【System:メインプロセス終了。エンディングプロトコルへ移行します】
【※プレイヤー(あなた)のローカルフォルダから、一番お気に入りのBGMを脳内でバックグラウンド再生します】
システムが強制実行した、気の抜けた陽気なリズム。
先ほどまでの血みどろで重苦しい空気を完全にぶち壊すそのBGMの中で、創造神たるたいらは気怠げに息を吐いた。
「デバッグも、こんなもんか……」
――その直後だった。
神聖で壮大なメタ空間のテクスチャが、唐突に「プツッ」とフリーズした。
『……たいらー? お昼ごはんできてるわよー』
脳内で流れるお気に入りBGMに乗せて、パタパタというスリッパの足音と、カチャカチャと食器が鳴る現実の生活音がカットインしてくる。
『ちょっと、聞いてるの? ……って、ちょっと待って! あんたの画面に映ってるこのゲームのヒロイン、なんで私とあんの声なの!!?』
『……肖像権および音声権の侵害です。ゲームばっかりやってないで、いい加減にしなさい』
――ビーッ! ビーッ! ビーッ!
メタ空間に無機質な警告音が鳴り響き、システムが強制的にシャットダウンされる。画面は一瞬にしてブラックアウトした。
現実の薄暗い自室。
デスクチェアに深く腰掛けていた青年は、「はぁ」と面倒くさそうに息を吐きながら、頭に被っていたVRデバイスを外した。
「……バレたか」
彼はボヤきながら立ち上がり、リビングへと向かう。
そこには、先ほどまで彼が「世界」を創り上げてまで見守っていた精霊たちと瓜二つの――しかし、もっと口うるさくて生活感に溢れた、現実の友人である「あい」と「あん」が腕を組んで仁王立ちしていた。
「勝手に声使わないでよね! 恥ずかしいじゃない!」
「事後承諾は犯罪と同意義です。さあ、冷める前に食べなさい」
文句を言う二人に小突かれながら、あらたは渋々ダイニングテーブルにつき、お昼ごはんのオムライスを口に運んだ。
あれほど壮大で、血みどろで、命のやり取りを繰り広げたファンタジー世界との、圧倒的な温度差。
けれど、この他愛もなく、鬱陶しくて、泥臭い「究極の日常」こそが、彼が世界をハッキングしてでも肯定したかったものだった。
――昼食後。
再び薄暗い自室に戻ってきたたいらは、PCモニターの前に立った。
システムが強制実行したエンディングBGMが、未だに脳内と、彼の足元で微かに流れ続けている。
青白い画面には、ゲームのタイトルコマンドが静かに表示されていた。
――ピッ。
無機質なシステムSEと共に、カーソルが下に動く。それと同時に、カメラの視点がモニターからゆっくりと引いていく。
▶ニューゲーム
ロード
(カメラが引く)
ニューゲーム
▶ ロード
(さらに引く)
ニューゲーム
ロード
▶ 強くてニューゲーム
カメラが完全に引ききった瞬間、画面全体に一瞬、激しいグリッチノイズが走った。
本来のゲームプログラムには絶対に存在しないはずの「ルート権限」の最下段が、システムの壁を突き破るようにして出現する。
ニューゲーム
ロード
強くてニューゲーム
▶ 次の夢を描く
カーソルが、一番下の『次の夢を描く』に合った瞬間。
モニターの青白い光に照らされた、怠惰で面倒くさがりな青年の顔が。
宇宙の理すらも盤上の遊戯として弄ぶ「創造神」の、底知れぬ不敵な笑みへと変わった。
「……次は、どんな夢を描こうか」
――ターンッ!!
たいらの指が、『Enterキー』を重厚な音と共に叩きつける。
(同時に全画面ブラックアウト)
(一切のBGMが途切れ、完全な無音の中――終幕)
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ここまで読んでくださったプレイヤーの皆様、本当にありがとうございました!
極限まで最適化された「最大の正義」と、無自覚にバグを起こす「最小の悪」。
二つの魂が交差する物語、楽しんでいただけたなら最高に嬉しいです!
さて、次はどんな夢をプレイしていただけるだろうか。
次の夢で皆様とお会いできるのを楽しみにしています!