パチンコ・スロット100物語   作:しこ太

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力の使い方 一ノ瀬 翔(いちのせ しかける)

 

その日の一ノ瀬 翔(しかける)は、無敵だった。

 

対峙しているのは、一撃5万発も視野に入る爆裂マックスタイプ。

普通なら胃がキリキリと痛む鉄火場だが、今日の俺の胸ポケットには、

昨日大勝ちして手に入れた【20枚の諭吉】が控えている。

 

名付けて、最強無敵の「20個艦隊」。

この圧倒的な資金力の前には、1000回転程度のハマりなどさざなみに等しい。

等しいのか?。

 

ふと、角台に目を向ける。

そこには、魂の抜けた顔をしたドカタのおっさんが座っていた。

データカウンターは――1500回転。

(1500はまり……。10個艦隊(10万円)は確実に全滅しているな)

戦争なら即時撤退、あるいは全滅判定が下されるレベルの壊滅的状況だ。

へっ無能な指揮官は有能な部下を殺すってか。

 

だが、運命の1501回転目。おっさんの台から、鼓膜を震わせるようなけたたましい確定音が鳴り響いた。

「よっしゃあああ! やった、やったぞぉぉお!!」

おっさんは狂喜乱舞し、液晶のレインボーの光に照らされながら叫んだ。

 

「黄泉の国から、俺の戦士たちが帰ってきたぞ!」

とばかりに、失った諭吉たちが大当りという形で蘇る事を確信している。

台はそのまま、最高位のST(ロング確変)へと突入。

 

ここからがおっさんの反撃のターン――のはずだった。

しかし、おっさんは何を血迷ったか、店員を呼んで【食事休憩】の札を台に立て、席を離れていきやがったのだ。

 

俺は、去りゆくおっさんの背中を、哀れみの目で見つめた。

(そりゃあ―― 悪手だろ…)

普通に考えてみろ。10個艦隊を文字通り全滅させたクソ台が、自力ですぐに当たるわけがねぇ。

 

今、あの台には、ホルコンから光ファイバーを通して、確実に『ナニか』が注入された。

それなのに、その満たされた最強のパワーを即座に解放せず、食事休憩で放置するだと……?あり得ねぇ。

見えてねえのか。あの台から、行き場を失ってドバドバと【ほとばしる光の奔流(ほんりゅう)】が。

 

「現在の戦線を放棄する」

俺はすぐさま自分の台を捨て、おっさんの台の【すぐ横の台】へと電光石火の移動を敢行した。

溢れ出しているパワーを、掠め取るんだ。

隣の台から漏れ出るエネルギーの余波を、俺の台にアースさせる!

 

胸ポケットから無敵の20個艦隊の生き残りの予備戦力を引き抜き、サンドに叩き込む。

ハンドルを握る手に力を込めた、投資わずか数百円。ガガガガガッ!

俺の台が何の前触れもなく激しく震え、最短ルートで確定画面へとすっ飛んだ。

 

「くっ、来るぞッ……!!盤面から溢れ出す光の奔流(ほんりゅう)!狙い通りだ。

おっさんの台から溢れたパワーを、俺の網が見事にハッキングした。

そこからはもう、脳汁の乱気流だった。当たれば連チャン、即当り、即当たり。止まらない。終わらない。

液晶が壊れたかのように大当り画面が積み重なり、気づけば破竹の【18連チャン】。

 

ドル箱のタワーがそびえ立ち、俺の元へ、さらなる大軍勢となった諭吉の戦士たちが呼び集められていく。

 

 

「げっふぅ、食った食った」

 

そこへ、満足げに口を拭きながらドカタのおっさんが食事休憩から戻ってきた。

おっさんは俺の台に積み上がったドル箱の山を見て、一瞬【渋い顔】をしたが、

すぐに気を取り直したようにウキウキの笑顔で自分の席に座り、満を持してハンドルを捻りSTを消化し始める。

 

だが、哀れ。

おっさんがどれだけ念を込めようが、台の液晶は何の熱い演出もなく、静かにスルーへと向かっていく。

 

当然だ。

 

おっさんの台にあったはずの「当たりパワー」は、さっき俺がすべて隣から吸い尽くしてしまったのだから。

「――チッ、スルーかよ、ありえねぇ!」

液晶が非情な通常画面に戻った瞬間、おっさんがガタッと椅子を引いて立ち上がった。

その顔は怒りに満ちており、鋭い眼光で俺の顔を正面から睨みつけてくる。

 

「おめぇ……俺の力を、ぎり(盗み)やがったな」

 

「……あ?」

 

「すっとぼけるんじゃねえ。食事前、おれの台の周りで、キラキラと輝きながら浮遊していた【キレイな粒】が、どこを探しても見当たらねぇんだよ。……おい、てめぇの台から、かすかにその『残り香』がしてんだよ!」

 

おっさんは、ただの素人ではなかった。エネルギーを視覚と嗅覚で感知できる下級戦士だったのだ。

激昂するおっさんを前に、俺は18連チャンの余裕を崩さず、ふっと鼻で笑ってみせた。

 

「なんだ、最低限『力の奔流(ほんりゅう)の残滓(ざんし)』は見える程度のレベルはあったか」

 

「何だと……!?奔流?残滓??」

 

「だが、そんな満たされたパワーの奔流(ほんりゅう)を放置して飯を食いに行くなんて、まだ『力』の扱い方がなっちゃいねえな、おっさん」

 

「おっさんじゃねぇ!佐藤だ!」

それが貴様を倒すものだと

血走った目が語っている。

 

 

 

俺は下皿から溢れそうなジャラジャラとした銀色の玉を愛おしそうに撫でながら、

格の違いを見せつけるように言い放った。

 

「いいぜ!外に出ろよおっさん!決着をつけようぜ!!」

 

「吠えるな若造!先に待ってるぞ」

ズカズカと外に出ていくおっさん

 

俺はそれを見送って

またハンドルを握り19連チャン目を打ち始めた。

 

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