ゴールド旗艦店の創業記念日今年で30周年、御年30歳。
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年に一度の激アツ生誕イベントの日。有名格闘家の来店、更にはテレビ取材も入る力のいれよう。
強い日差しが照りつける中、一ノ瀬とタカシは開店待ちの長い列に並んでいた。
開店まであと30分。
周りのパチンカスたちも暇を持て余し、タバコを吸ったり談笑したりしている。
手持ち無沙汰になったタカシは、ポケットからスマホを取り出すと、お気に入りのソシャゲの画面を開いてデイリーイベントの周回をこなし始めた。
それを見た一ノ瀬は、フッと鼻から深いため息を吐き出した。
「軟弱だなぁタカシは」
一ノ瀬はソシャゲの類をいっさいやらない。
時間と金をドブに捨てる、無理・無駄・ムラの極みだと思っているからだ。
もちろん、パチンコの通常時を回しているときもスマホなんかいじらない。
液晶の派手な演出にすら目をくれず、常にチャッカー(入賞口)だけを凝視し続け、打ち出される一球一球に
「ポキュれ!当たれ……ッ!」と命の念を込め続けるのが、一ノ瀬という本物のパチンカスだった。
開店10分前。ホールのスタッフが拡声器で声を張り上げる。
「整理券番号50番までのお客様、前へお詰めくださーい!」
列が少しだけ動き出す。
しかし、自分たちの入場まではまだもう少し時間がかかりそうだ。
ふとタカシが隣を見ると、ソシャゲを全否定していたはずの一ノ瀬が、
スマホの画面を真剣な顔で見つめ、せわしなく指をスワイプさせているのが見えた。
「アレアレ〜? 一ノ瀬く〜ん? 人のこと軟弱とか言っといて、自分もソシャゲやってるんじゃないの〜?」
ここぞとばかりにニヤニヤしながら、タカシが翔のスマホの画面を横から覗き込んだ。
しかし、そこに映っていたのはきらびやかなゲーム画面ではなかった。
薄暗い割れた液晶画面に表示されていたのは、このホールに設置されている機種配置が表示された『店内マップ』だった。
一ノ瀬は縮小された画像を器用にピンチイン・ピンチアウトし、通路の幅や景品カウンターの位置を執拗にチェックしていた。
それを見た瞬間、タカシは急に恥ずかしくなった。
(……俺はなんて浅はかだったんだ。この男がソシャゲなんていう軟弱な娯楽に染まるわけがない。
開店直後、ライバルたちを全員ぶち抜いて最短ルートで狙い台を確保するために、こうして事前にシミュレーションを重ねていたんだ……!)
翔のプロフェッショナルすぎるパチンコへの情熱に、タカシはいたく感動した。
「ごめんね、しかける……。変な勘違いしちゃってさ。お前はやっぱり本物の勝負師だよ」
タカシがしみじみと謝ると、翔はスマホから目を離さずに、不審そうに眉をひそめた。
「ん? 何がだ?」
一ノ瀬は画面の『非常口』のマークを冷酷な目で見つめたまま、平然と言い放った。
「俺は今日もし負けた時に備え、灯油をまくための最短ルートの動線の確認をしてただけだぞ」
「……え?」
「受付から入って、この角を曲がれば死角になる。島(シマ)の端から一気に撒いて火を放てばハッピーバースデーだ」
その言葉を聞いた瞬間、タカシの脳内に衝撃が走った。
恐怖や困惑ではない。あまりの純度の高い「覚悟」に、魂が震えたのだ。
「か……かっ、かっけー……!!! さすが兄貴だ!!!」
タカシは目を輝かせ、心からのリスペクトを込めて拳を握りしめた。
負けた時の対応策を準備してホールと対峙しようとするその意識の高さ。
ソシャゲのスタミナ消化に追われていた自分が、いかに矮小な存在だったかを思い知らされた。
「おい、声がデカい。並びから外されるぞ」
一ノ瀬は呆れたように言いながらスマホをポケットにしまった。
チリンチリンと開店を告げる冷徹な鐘の音が響く。
「行くぞ、タカシ。命を燃やす準備はいいか」
「はい! 兄貴の背中に、一生ついていきます!」
最悪のイメトレを完璧に終えた一ノ瀬と、その狂気に完全に心酔したタカシ。
二人のパチンカスは、ギラギラとした目を輝かせながら、いよいよ運命の自動ドアへと足を踏み入れた。