一ノ瀬の流儀
世間の人間、特に「ゴールド」の新人店員あたりは、パチンカス一ノ瀬のことを
「常に台をぶん殴っている凶暴な野生動物」だと思っているかもしれない。
だが、それは大きな間違いだ。
彼には彼なりの、確固たる「マイルール」が存在する。
まず、一ノ瀬が台に暴力を振るうのは、確率分母以上にはめ込んだ時だけと決めている。
例えば1/319の新台を打っているなら、319回転まではどれだけ激アツを外そうがジェントルマンを貫く。
しかし、320回転目に突入した瞬間、一ノ瀬の中で「暴力解禁」のゴングが鳴るのだ。
そこからは乱数の変換を起こすための、神聖な物理対話(ドツキ)が始まる。
だからこそ、まだ一万円しか突っ込んでいない分際で、100回転そこらで台をポカポカ叩いている青二才を見ると、
一ノ瀬のパチンカスとしてのプライドが黙っていない。
そんな時、一ノ瀬はおもむろにターゲットの後ろに立つ。
そして、本人の耳にバッチリ届く絶妙なボリュームで、朗々と歌い出すのだ。
それは、彼が考案した「台パンマンの歌」である。
「台パぁーンチ! スリー! ツー! ワン! ゴー!♪」
「だぁーいパーン! だぁーいパーン! 限界まっで叩っけぇぇー!!♪」
ただの強烈な煽りである。
だが、一万円の投資で理性を失っているお猿さんは、一ノ瀬の濁りきった眼光と、背後から響くテンポの良い
「台パンマンの歌」のプレッシャーに気圧され、恥ずかしそうに手を止めるしかなくなる。
そして、音量に対するルールも徹底している。
当然、一ノ瀬自身は台のボリュームをMAXになんてしない。
耳が死ぬし、台の機嫌(モード)を損ねるからだ。
だが、世の中には色んな奴がいる。もちろんボリュームをMAXにして、平気で島を爆音で支配しようとする不届き者がいる。
そんな時、一ノ瀬は自分で直接文句を言いに行ったりはしない。
すっと手を挙げて店員を呼びつける。
そして、音量を爆音にしている隣の奴の目の前で、あえて店員を激しく叱りつけるのだ。
「おい店員!! 台がうるせーからどーにかしろ!! こっちはな、台と命がけの対話をしてんだよ! 雑音で台の呼吸が聞こえねえだろうが!!」
店員はアセアセと怯え、気まずくなった隣の奴は、一ノ瀬の圧倒的な凶悪顔に怯えてすぐに音量を下げる。
直接揉めずにシステムを利用して敵を排除する、
これが一ノ瀬流の洗練された立ち回りだった。
最後の一つのルールは、勝利の際の「美学」についてだ。
一ノ瀬は、奇跡的にラッシュに入って万発を出したとき、絶対に「即ヤメ」をして帰るような無粋な真似はしない。
「パチンコの神様、そしてゴールド。今日もパチンコをさせてくれてありがとう」
そんな感謝の印として、必ず出玉の一箱分はそのまま台に飲ませることにしている。
これは無駄な投資ではない。
次に座る後任者が「お、この台ちょっと前に出て少し回って香ばしい台だな」
と気持ちよく打ち始められるようにするための、一ノ瀬なりのホールと社会への深い配慮なのだ。
今日も一ノ瀬は、ルール無用のサファリパークと化したゴールド島の中で、
自らの「マイルール」という名の美学を胸に、静かに、そして気高ハンドルをで握りしめるのだった。