パチンコ・スロット100物語   作:しこ太

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アウトレイヂ 一ノ瀬 翔(いちのせ しかける)

 

所持金1000円

誰か助けてください

 

 

 

「兄貴、マジで一銭もないっす。もうタバコもパチンコも我慢の限界っす……」

弟分のタカシが、干からびたカエルのような声でパチ屋の裏路地にへたり込んでいた。

 

「ガタガタ抜かすな。俺だって今、脳内からパチンコのファンファーレが消えなくて発狂しそうなんだよ馬鹿野郎…」

一ノ瀬もまた、空っぽの財布を睨みつけていた。

 

二人の目的は一つ。「とにかくパチンコが打ちたい」。

ただそれだけだった。

 

 

思考が完全にギャンブル一色に染まった二人は、SNSで見つけた怪しい高収入バイト――

すなわち「闇バイト」の募集に、一縷の望みを託して応募した。

 

 

面接指定されたのは、薄暗い雑居ビルの一室にある貸し会議室だった。

長机の向こうには、黒い帽子を深くかぶった、いかにも裏社会の人間といった風貌の面接官が座っている。

 

「じゃあ、さっそく手続きね。そこに二人のスマホの電話番号を書いて。それから身分証明書を出して。こっちの複合機でコピーとるから」

 

面接官の事務的で穏やかな声に、一ノ瀬は面倒くさそうに頭を掻いた。

「いや、あのよ。俺たちのスマホ、半年前から料金滞納で契約が切れてんだ。今はコンビニとかパチ屋のフリーWi-Fiでしか使えねえんだわ」

 

 

「……え?」

面接官の手がピタリと止まる。

 

 

「あと、身分証明書も持ってねえ。代わりにこれならあるぞ」

一ノ瀬とタカシが同時に長机に叩きつけたのは、プラスチック製の薄いカードだった。『パチンコ・ゴールド 会員カード』

「それとバイト代は先払いで今すぐくれ」

 

 

 

さっきまでの柔らかい態度から180度、面接官の態度が急変した。

「……あ?」

 

バン!!

「お前ら、なめてんのか!!」面接官が机を激しく叩いて立ち上がった。

 

 

裏組織にとって、逃亡を防ぐための身分証と連絡用のスマホは絶対条件だ。

それすら用意できない底辺(想定外)の存在に、男の怒りが爆発した。

 

しかし、一ノ瀬も負けてはいなかった。

パチンコを打ちたい一心でメンチを切り返し、低く凄みのある声で言い返す。

「舐めてなんかいねえよ。馬鹿野郎!!ファンファーレが鳴り止まねえんだよ!帰るぞタカシ」

 

一ノ瀬が踵を返そうとしたその時、面接官が懐から黒光りする拳銃を抜き出し、銃口を二人へ向けた。

「おい、誰が帰っていいって言った」

 

緊迫する貸し会議室。

 

 

しかし、一ノ瀬の目は一切泳いでいなかった。

死線を潜り抜けてきた男の目――いや、銀玉を見つめ続けて濁りきった目が、銃口を真っ向から睨みつける。

「やってみろ。パチンコも打った事が無い三下が。早く打てよ」

 

 

「あぁ!? 撃つぞコラ!!!」

面接官が引き金に指をかける。

「撃つ(射撃)」と「打つ(遊技)」の、あまりにもスレ違った怒号が狭い部屋に響き渡った。

 

奇妙なその刹那、横から限界を迎えたタカシが叫びながら飛び出した。

「うああああああああ!!!」バリバリバリ!!

 

タカシは自分の財布から、クシャクシャになった紙幣を狂ったように口で引っ張り出し、

面接官の構える拳銃の銃口へ向けて勢いよく吐き出した。

「ペッ!!これでいいんでしょ!!!」

 

それは、タカシが最後の最後に残していた、今日以降の飯代のための生活費――たった1000円だった。

 

「パチ屋ゴールドの玉くらい、俺たちでとってやりますよ!!!」

ハァハァと荒い息を吐きながら、タカシは涙目で面接官に吠えた。

 

「この1000円を元手に、軍資金を100倍にしてやるよ! だから俺たちは『打つ(パチンコ)』俺たちにやらせろ!! 」

吐き出されたクシャクシャの千円札と、パチ屋の会員カード。そして、失うものが何も無い無敵の二人の、あまりにも純粋で狂気じみたパチンコ愛。

 

裏社会のプロであるはずの面接官は、その圧倒的なバカの熱量に完全に気圧され、構えた銃をゆっくりと下ろすことしかできなかった。

 

 

「よし、行くぞタカシ! 新台の抽選に遅れちまう!」

「うっす、兄貴! この千円、絶対に万発にして見せます!!」

銃口を向けられながらも、奇跡の生還(?)を果たした二人は、唖然とする面接官を置き去りにして、雑居ビルを出た……

 

 

 

 

 

「ゴクゴク……スパァァァ」

雑居ビルの裏口にある、薄暗い喫煙所。

プラスチックの灰皿に灰を落としながら、染み渡るような息を吐き出した。

手にあるのは、タカシが自販機で買ってくれた冷たい缶コーヒー。そして、格安のタバコ。

 

「やっぱコーヒーとタバコうめぇなタカシ! ゴチになるぜ!」

 

「はい! 兄貴!」

タカシもまた、嬉しそうに自分のタバコに火をつけた。「スパァ」と吐き出した白い煙が、どんよりとした夕暮れの空に溶けていく。

 

クシャクシャの千円札が100円玉に変わり果て、本来の目的を見失いつつある二人。

 

 

どこからともなく声が聞こえたきがした。

 

「ジュース飲んでんじゃねえよハゲ!!」

 

 

 

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