大講義室を埋め尽くす100人以上の学生たちの前で、壇上の教授は眼鏡のブリッジを指先でクイと押し上げた。
黒板には、チョークで綺麗に描かれた四階建てのビルの図。それぞれの階層には、パチンカスなら誰もが知る「数字」と「文字」が書き込まれている。
「さて、諸君。今日は『いいパチンコ屋の見分け方』について、建築構造学および行動経済学の観点から講義を行う」
教授は手にした指示棒で、黒板の一階部分をピシャリと叩いた。
「まず、私が現時点で最も評価しているのは、このような構造を持つ【四階建てのパチンコ屋】だ。
上層階から下層階にかけて、配置されているレートが明確に区別されている。一階に4円パチンコ、二階に20円スロット、三階に5円スロット、そして最上階の四階に1円パチンコだ」
学生たちから、微かに私語が漏れる。教授は構わず、ホワイトボードにデータをプロットし始めた。
「昨今の市場動向を見たまえ。データが示す通り、現在スロットを打つ客は増加傾向にあるが、パチンコを打つ客は著しく減少している。
つまり、ホールにとって『4円パチンコを打つ客』とは、絶滅危惧種であり、同時に最も手厚く保護すべき【最重要顧客(VIP)】なのだ」教授は歩き回りながら、講義室全体を見渡した。
「では、なぜ一階が4パチコーナーなのか。理由はシンプルだ。『もし火事になったとき』、この希少かつ高価値な4パチの客を、真っ先に、1秒でも早く屋外へ逃がすためである。
一階であれば、正面入り口から直通で生存ルートが確保できる。店舗側が客の命、もとい、店の利益の源泉をいかに大切に思っているかという『誠意の現れ』なのだ。これこそが良いパチンコ屋の絶対条件である」
その時、最前列に座っていた学生が、おずおずと手を挙げた。
「あの……教授。質問です。一階と二階の理由は分かりますが、なぜ三階が5スロで、四階が1パチなんですか? 換金レート的には同じはずでは……?」
教授はフッと鼻で笑い、指示棒を教卓に置いた。
「えっ? なんで5スロが三階で、四階が1パチかって?」教授はゆっくりと教卓に両手をつき、前かがみになって学生を睨みつけた。
「そんなの決まってんだろ!」講義室が静まり返る。教授は吐き捨てるように言った。
「玉は4円。1円なんてありえねぇんだよ。あんなものはパチンコじゃねえ。ただの暇つぶし、遊戯の皮を被ったボランティアだ」教授は再び黒板の『四階:1パチ』の文字を冷徹に指さした。
「つまり、火災が発生した際、生存率が最も低くなるのは物理的に最上階である四階だ。有毒ガスが充満し、階段が炎に包まれる絶望のフロア。
そこに配されているのが、1パチを打っている連中だ。……まあ、そうゆうことだ。店側も『1パチの養分どもなら、まぁ最悪……』と、ビジネスライクに割り切っている証拠だ。
冷酷だが、これほど経営資源の選択と集中が徹底されている店こそが、我々『本物のパチンカー』にとって勝てる優良店なのだ」
チャイムが鳴り響く。教授は教科書をパタンと閉じ、最後にこう締めくくった。
「諸君、4階に1パチがある店を見つけたら、迷わず1階の4パチに座りたまえ。そこには店側の『生かそう』という強い意志(期待値)がある。今日の講義はここまで」
教授が足早に去った後、講義室には、あまりにも合理的で狂気に満ちた「パチンコ生存戦略」に圧倒された学生たちの、呆然とした沈黙だけが残されていた。