画面越しの焦燥
「クソッ、必要な情報が全然入ってこねえ……!」
深夜2時。ゴールドのフリーWi-Fiを拾いながら、一ノ瀬はマクドナルドの前のベンチでスマホの画面を睨みつけていた。
画面に映っているのは、有名パチスロYouTuberによる新台の実践動画。
明日の朝イチ、なけなしの軍資金を握りしめて新台を打ちに行く予定の一ノ瀬にとって、この動画は重要な予習になるはずだった。
ヒキが強いことで有名な演者だから、見どころは多い。
だが、一ノ瀬のイライラは数分前から限界に達していた。
「これもかよ! カメラアングルが悪すぎるんだよ!!」
画面は液晶の派手な演出や、ドヤ顔を決める演者の顔ばかりを大アップで映し出している。
一ノ瀬は画面に向かって、中指を立てんばかりに毒付いた。
「演者の顔なんてどうでもいいんだよ! 演者の手元(レバーオン)を映せよ!! 今日の実践機種は俺も明日打つのにさぁ!!」
一ノ瀬のスロット攻略は、基本的に「設定1前提」で成り立っている。
ゴールドのような遠隔ホールに、設定4、5、6などの宝物が落ちているわけがない。
どうせ全台、最低最悪の設定1だ。
確率通りに打てば100%負ける。
なら、データや設定判別などという生ぬるい綺麗事ではなく、それ以外の「独自の勝ち筋」を見つけるしかない。
レバーの叩き方も、そのうちの重要なひとつだった。
「メーカー毎、機種毎、もっと言えば同じメーカーでも開発チーム毎。レバーの叩き方が最重要なんだよ……!
左右どちらのアームで叩くのか、角度、強さ、マックスベッドをおしてからのタイミング! 45度の角度から手首のスナップを利かせて強打するのか、
それとも液晶が明滅した瞬間に優しく撫でるように叩くのか。それをどう調整するかで、レバーON時の乱数の拾い方が変わるんだ!」
動画のカメラマンは、その最重要パーツである「演者の手」を完全にフレームアウトさせていた。
これでは、演者がどちらの手で、どの角度と強さで乱数をねじ伏せたのか、全く参考にならない。
スロはダメだ。
一ノ瀬は動画を一時停止し、次はパチンコの実践動画へと切り替えた。
こちらもまた、一ノ瀬にとっては不満の嵐だった。
「パチンコの場合はな、実践中の時間を画面の端につねに表示してほしいんだよ」
なぜ時間が必要なのか。一ノ瀬クラスのパチンカスなら、すでにホールの「闇」にまで到達していた。
「あきらかにおかしい、あんな『遠隔当たり』を動画で堂々と見せつけるならさぁ、その店がスイッチを入れる遠隔時間帯を教えろって話だ。
当たる時間帯さえ分かれば、こっちだって有利に立ち回れるんだよ」
やはりスロか。
一ノ瀬は確信に満ちた目でスマホの画面をタップした。
レバーの叩き方、遠隔の時間帯、そして最後にもう一つ、一ノ瀬が命より大切にしているオカルトがあった。
それは、台の「機嫌」だ。
「台の電源オン・オフによる、機嫌の変わり方も重要なんだ」
ゴールドの店長はケチだ。設定変更なんていう面倒なことはせず、基本的には設定1の「据え置き」で放置している。
だが、だからといって諦めるのは素人だ。
設定1の据え置きでも、前日の電源オフから当日の電源オンの流れ、その瞬間に台の機嫌がどう傾くかで、参照乱数の偏りによっては大勝ちが期待できる。
そしてその機嫌は、台と向き合えばすぐに看破できる。
「最初の300ゲーム回せばすぐに分かる。機嫌がいい台はレア小役の落ち、CZ突入率がダンチで違うんだよ」
マイスロのデータがどうだの、AT確率が1/400だの、そんなものは3000ゲーム回した後の結果論に過ぎない。
機嫌の良い設定1は、最初の300ゲームでスイカや強チェリーをこれでもかと落として、ATで爆発する。
台が「今日はやれるぞ」と一ノ瀬の右手に語りかけてくるのだ。
動画の演者はそんな台の「機嫌」を全く言葉にしない。
だから必要な情報が入ってこないのだ。
深夜の静寂の中、スマホの画面から漏れる電子光が、一ノ瀬の濁りきった目を怪しく照らす。
「チッ、どいつもこいつも素人動画ばかり作りやがって。」
一ノ瀬はスマホをポケットにしまい、夜の街へと力強く歩き出すのだった。