地球滅亡まで、あと365日。
宇宙の深淵から迫り来る、人類の歴史を完全に終わらせるほどの巨大隕石。
それを発見したNASA(アメリカ航空宇宙局)から緊急報告を受けた大統領をはじめ、ホワイトハウスは文字通りひっくり返るほどの大パニックに陥っていた。
アメリカ政府はプライドもなりふりもすべてかなぐり捨て、緊急の対応策を検討し始めた。大陸間弾道ミサイルに核兵器をこれでもかと搭載して宇宙空間で爆破するか、あるいは映画のように命知らずの専門家を隕石へ送り込んで内部から破壊するか。
一刻の猶予も許されない中、世界中から「その道の権威」と呼ばれるプロフェッショナルたちの強制招集が始まった。
高名な天体物理学者であるジェームズ教授は、お気に入りの高級モールで妻と穏やかなショッピングを楽しんでいた。
だがその時、キィィィとけたたましいブレーキ音を響かせて黒塗りの高級車が突っ込んできた。
車内から現れた大柄な黒服の男たちが、有無を言わさぬ態度でジェームズを取り囲む。
「ジェームズ教授。国家、いえ、地球の危機です。すぐにワシントンまで同行してください」
同じ頃、日本の関東某所。パチンコ屋『ゴールド旗艦店』の裏路地にある薄暗い景品交換所で、一ノ瀬は手に入れた金色の特殊景品を現金へと換金していた。
「まいど」と数万円の札束を掴み取ったまさにその瞬間、一ノ瀬の背後にも、音もなく黒塗りの高級車がピタリと停まった。
中から現れたサングラスの黒服が、仰々しく頭を下げる。
「ミスター一ノ瀬。世界の危機です。ご協力していただきます」
「あ? 誰だてめぇ。ん?10万円のお仕事だと!!」
ワシントンD.C.の最深部に存在する、最高機密の地下大会議室。世界中から拉致同然に集められた「その道のプロ」たちが、熱心な、しかし完全に方向性の狂った大議論を交わしていた。
「そもそも、NASAが提示したこの衝突モデルの地球はなんだ! 丸いじゃないか! 地球は平らだぞバカヤロー!!」
地球平面説(フラットアース)のプロフェッショナルが、ホワイトボードを叩いて激怒する。
その隣では、世界的な宗教学者が机にツバを吐き散らしながらまくしたてた。
「これぞ聖書に予言されたアルマゲドンだ! 神の意志に背くことなどできん! 人類はこのまま厳かに滅びを受け入れるべきなのだ!!」
核物理学者、軍事の天才、果てはオカルトの大家までがあーだこーだと怒号を飛び交わせる中、
政府が「何かに使えるかもしれない」と片っ端から声をかけた末端のプロ――プロのパチンカスである一ノ瀬が、退屈そうに鼻をほじりながら片手を挙げた。
「おい、お前ら。そもそも、そのクソデカい石ころが地球に衝突する確率ってのは、一体どのくらいあるんだ?」
尋ねられたNASAの最高責任者が、重々しく首を振ってモニターの数値を指し示した。
「……驚くな。計算上、その確率は1/319だ」
「オーマイガー……!!」
ジェームズ教授が頭を抱えてその場に膝をついた。
会議室にいた各界のプロたちが、一瞬にして絶望の表情を浮かべてお互いに顔を見合わせる。
「1/319だと!? 終わった……地球は終わったわ!!」
「なんて高確率なんだ! 逆転劇が起こせない確率じゃないか!!」
パニックになりかけたエリートたちを見下ろし、一ノ瀬はフッと哀れみの冷笑を浮かべた。
「落ち着け、雑魚ども。――そんなにビビってるなら、まずは俺が日本の『ゴールド』から米軍の輸送機を使って無理やり空輸させた、このパチンコ台を打ってみろ」
会議室の中央に、厳重に梱包された最新のパチンコ実機e宇宙戦艦ムサシ(大当り確率1/319)が設置される。
訳も分からぬまま、世界最高峰の頭脳を持つ学者たちが、一ノ瀬に言われるがままに1人ずつハンドルを回し始めた。
ガササササ……と玉が盤面を流れていく。しかし、何回やっても、何人が交代してまわしても、1回転目で大当りなどするわけがなかった。
「……あれ? 当たらないな」
「不思議だ。1/319なら、すぐに当たってもおかしくないはずなのに」
緊迫していた会議室の空気が、「あれ、案外隕石って平気なんじゃね?」という妙に楽観的なムードに包まれかけた、まさにその時だった。
ジェームズ教授が何気なくハンドルを握り、液晶を見つめた瞬間――。ドゴォーーン!!!筐体から心臓をぶち抜くような赤いフラッシュと、お馴染みの凄まじい「先バレ音」が鳴り響いた。
「な、なんだこれは!?」
「発生した! 1/319の奇跡の兆候だ!!」
会議室のプロたちが一斉にモニターの前に群がり、手を合わせ、神に祈りを捧げ始める。液晶画面の中でド派手なCGリーチが展開され、誰もがドキドキと心臓の音を響かせた。
……数秒後。画面は何事もなかったかのように静かにハズれ、通常画面へと戻った。
一ノ瀬はそれを見て、タバコに火をつけながら深く椅子にもたれかかった。
「な? 安心しろ。そうそう319なんて当たらねぇんだよ。先バレが鳴ったところで大半はただのハズレだ」
その言葉を聞いたジェームズ教授をはじめ、世界各国の天才たちは、一斉にホッとしたように胸をなでおろした。
「……そうだよな! 1/319なんて心配しすぎたな!」
――と、全員が完全に油断した次の瞬間。死んだはずの画面が突然画面を突き破るように激しくクラッシュし、黄金の役物が爆音を立てて落下してきた。
『復活演出大当り』である。
ピカピカピカピカ!!! レインボーの光がホワイトハウスの地下を虚しく照らす。
「「「…………」」」
会議室のプロたちの視線が一斉に動き、信じられないほどの殺意を込めて一ノ瀬をキッと睨みつけた。
「おい……当たるじゃねえかバカヤロー!!」
「すまんすまん、まぁ確率だしな」
一ノ瀬は慌てて話をそらすように、NASAの職員に向けて真顔で問いかけた。
「おい、そもそもこの隕石が地球にぶつかるとして、具体的にどんな被害が出るんだ?」
NASA職員が冷や汗を流しながらタブレットのデータを読み上げる。
「は、はい……。確率50%で海に落下して、その場合は被害なし。残りの50%の確率で、このワシントンD.C.に直撃します」
「1/2か。分が悪いな。んじゃ、ワシントンに落ちたらどのくらいの被害が出るんだ?」
「ホワイトハウスが確実に消し飛ぶのはもちろんですが、そこから高さ3メートルの衝撃波が、毎時100メートルの速さで周囲に拡散します」
「ほうほう、その衝撃波ってのは時間の経過で減衰しないのか?」
「えーと……毎時90%の確率で、衝撃波の高さが1メートル低くなります。継続率10%、ストックは3つ(3メートル)です」
一ノ瀬の脳細胞が、パチンカスの前頭葉特有の超高速計算を止めて、立ち上がった。
「なるほど……って、そんなパチスロみたいな計算が天体力学であるわけねーだろーが!! お前、一体どこの大学出てるんだ!?」
一ノ瀬の強烈なツッコミに、NASA職員はモジモジしながら頭を掻いた。
「だ、大学なんてとてもとても……。自分、中卒です。」
「中卒がNASAでシミュレーションのデータ作ってんじゃねぇよバカヤロー!!」
一ノ瀬はあきれ果てて机を叩くと、大統領や学者たちに向かって言い放った。
「おい、対策は決めてやったぞ。今すぐNASAの予算をアホみたいに増やしてやれ。中卒の代わりに、ちゃんと計算をできる奴を雇わせろ!」
こうして一ノ瀬の適当なアドバイスの元、国家予算をジャブジャブと注ぎ込まれた新たに雇われた偉い学者さんたちが最新のスーパーコンピューターで計算を最初からやり直したところ――。
「あ、すみません!よく確認したところ そもそも軌道計算がインチ単位でズレてて、地球には衝突しないとの判断に達しました!」
という結論が出た。再計算された衝突確率は、奇跡の「1/8192」。
「なんだ、1/8192か! なら絶対当たらんわ!」
「スロカスなら誰でも知ってる引けない確率だな!」
完璧な納得と安心感を得た人類の最高頭脳たちは、隕石の破壊工作をすべて白紙に戻し、笑顔で自宅へと帰っていった。
――それから、365日後。宇宙の彼方から迫り来た巨大隕石は、人類の甘い見通しを嘲笑うかのように、1/8192というプレミアムな確率を完璧に一発で引き当てやがった。
「いそまるレバーオン!!」
ホワイトハウスのど真ん中へ、隕石が轟音と共に直撃する。激しい爆炎の中、ホワイトハウスは木っ端微塵に消し飛び、初期ストック3つを持った継続率10%の衝撃波が、世界に向けて力強く拡散し始めるのだった。