パチンコ・スロット100物語   作:しこ太

48 / 48
ドローン

 

 

 

かつてパチンコ業界の頂点に君臨し、ブイブイ言わせていた大手パチンコチェーン店、「害悪グループ」。

 

しかし、その栄華も長くは続かなかった。老舗勢力である「ゴールド」の猛追を受け、害悪は完全にその勢いを失っていたのだ。

 

 

ゴールドのやり方は冷徹だが、まだ愛嬌があった。

噂される“遠隔操作”を注入するにしても、時には客を大勝ちさせて脳汁を出させる「出す遠隔」が存在した。

 

だが、害悪のそれは違った。

彼らの遠隔は基本的に「無抽選」一択。ただひたすらに客からすべてを搾り取ることしか頭になかった。

 

 

そんな斜陽の害悪上層部、経営会議の席で社長が机を叩いて宣言した。

「我が社が金融とパチンコ事業だけで食っていくのはもう限界だ。これからは、軍事産業に進出する!」

 

社長の号令のもと、全国の潰れた害悪の店舗は瞬く間に改造され、不気味な煙を上げる秘密の軍事工場へと変貌した。

 

そこで製造されたのは、最先端の自爆型ドローン兵器。それもただの機械ではない。

人間の脳を組み込んだ、高度な自律型AI?搭載ドローン

――コードネーム『カレンデバイス』。

 

その脳の供給源は、皮肉なものだった。消費者金融も営んでいる害悪は、自社の無抽選パチンコで借金まみれになり、首が回らなくなった哀れな多重債務者たちを片っ端から拉致。

 

その頭蓋を割り、脳を取り出してドローンに搭載したのである。

 

「やっべぇ、すげー儲かるぞコレ!」

量産された最初のロットが自衛隊に高額で納入され、害悪社長はオフィスで札束を数えながら狂喜乱舞した。

 

 

そして迎えた、その年の富士総合火力演習。広大な演習場の上空で、新型ドローンたちの実演お披露目が始まった。

 

カレンデバイスたちは、機械特有の直線的な動きではなく、まるで生き物のように有機的で、不規則な動きでビュンビュンと飛び回る。

 

 

ドローン指揮所からその様子を双眼鏡で眺めていた自衛隊高官は、感心したように呟いた。

「すごいな……あの変幻自在のランダム性なら、敵が撃ち落とすのも一苦労だ」

 

高官がその優れた回避性能に所感を述べていた、その時だった。静まり返る指揮所に、大音量でスマホの着信音が鳴り響いた。

 

曲は、パチンコ業界でもあまりに有名なアニソン――

『残酷なテーゼの天使』。

 

そのエバのメロディがスピーカーから空へと木霊した瞬間、それまで激しく飛び回っていたドローンたちの動きが、ピタリと一斉に停止した。

 

ドローンの中に眠る、元パチンカスたちの脳が激しく覚醒する。

(ここはドコだ……? 今、エバの曲が聞こえた……。エバぁが、咆哮が、俺を呼んでいる。打ちたい! 打ちたい! ウチタイ!!!)

 

 

狂気的なパチンコへの執念が、軍事用プログラムを完全に上書きした。ドローン群は自衛隊の制止を振り切り、一斉に陣形を組んで街の方向へと飛び去っていく。

 

 

「何が起きた!?」高官が叫ぶ。

 

「アンコントロール! 制御不能です!」部下が悲鳴を上げる。

 

「暴走か……!?」

 

 

街へと飛来したドローンたちは、吸い込まれるように害悪の店舗へと次々に侵入していった。店内に響き渡る轟音のなか、ドローンたちはそれぞれの台へと取り憑く。

 

「ウチタイ……ウチタイ……」

だが、悲しいかな。彼らはドローン。一応マニュピュレーター(作業用アーム)は付いている。それでハンドルを握ることはできても、彼らの腹の中に持ち合わせの現金など一円も入っていなかった。

 

 

小さなプラスチックの器に収まった脳みそが、必死で考える。

「確率ゼロに等しい。だが、いちるの望みに懸けるしかない」

 

ドローンたちは手持ちの手段を総動員し始めた。自機の備え付けのサーチライトを眩しく液晶に照射し、プレミア演出を誘発させようとする。

 

あるいは、超高速で回転する自機のプロペラを台枠に直接擦り付け、おカルト打法のごとく振動を与えてみる。

 

しかし、無情にも液晶は静まり返ったままだ。当然、下皿から玉が出てくる気配など微塵もない。

 

「ブンブン! ブンブン!(怒)」

ドローンたちは激怒し、羽の音を荒々しく立てて威嚇するようにホールの天井を旋回する。

 

 

だが、その怒りの感情がマックスに達した瞬間、脳の記憶の底から大切な事実が呼び起こされた。

(!!待てよ……。そもそも俺たちがパチンコを打てなくなったのも、脳みそだけにされたのも……全部この『害悪』の無抽選と、汚い借金のせいじゃねえか!!!)

 

 

標的が決まれば話は早かった。すべての元凶は、自分たちをこんな姿にした害悪という存在そのもの。

「ウチタイ」という欲望は、一瞬にして「ブッ潰す」という純粋な殺意へと昇華した。

 

 

ドローンたちは一斉に旋回し、腹に抱えた軍用爆弾の起動スイッチを『ON』にする。

 

「逃げねーよ・・・今度こそ逃げねぇ・・・これは・・・

オレ達の人生の最後のリベンジだ!」

 

 

その頃、自衛隊のドローン指揮所には、パニック状態のオペレーターたちを通じて凄まじい無線報告が飛び込んできていた。

 

『――コチラ、ドローン弐号機! 害悪本社とエンゲージ(交戦開始)!!』

 

『フォックスフォー(自爆ドローン突撃)!!!』

ドッカァァァン!!!

 

無線から響く爆発音と同時に、指揮所のモニターに映る害悪本社ビルのHDカメラ映像が一瞬大きく揺れた。

ビルの中層階から炎と黒煙が噴き出す。

 

『フォックスフォー!』

 

『フォックスフォー!!』

次から次へと、ひっきりなしにドローンたちから決死の報告が上がり、彼らは吸い込まれるように害悪本社ビルへと突っ込んでいき自爆する。

 

 

「や、やめろぉぉぉ! 我が社の自慢の自社ビルがぁぁ!」

最上階の社長室で、モニター越しに迫り来るドローン群を見た害悪社長が絶叫する。

 

しかし、多重債務者たちの怨念が詰まったカレンデバイスの勢いは止まらない。

 

『フォックスフォー!!!』

最後の無線報告が鳴り響くと同時に、超高層の害悪本社ビルは、自らが売り払ったドローンたちの容赦ない突撃を受け、眩い光の渦の中に崩壊していった。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。