パチンコチェーン店「ゴールド」の2階フロアは、異様な静寂に包まれていた。
すべての出入り口は武装した男たちに封鎖され、島々の間には血の匂いが漂っている。
謎の組織が主催する「パチンコ・デスゲーム」。ルールは残酷だった。
無作為に拉致された家族の父親が代表となり、軍資金は一万円。それ以内にヂャグラーで当たりを引けなければ、
背後に拘束された妻と子供がショットガンで撃ち殺される。
「次、145番の家族、前へ」冷徹な声に促され、一台の『マイヂャグラー』の前に二組の家族が並べられた。
一人目は、汚れた作業着を着たドカタの父親、佐藤(42歳)だった。
「ねえ、しっかりしてよ! あんたのせいで死にたくないんだからね!」
「パパ、怖いよぉ……!臭いよぉ……背後から妻の罵声と子供の泣き声が響く。
普段から家庭内で「給料が安い」「泥臭い」と見下され、粗大ゴミのように扱われてきた佐藤。
しかし、パチスロの前に座った瞬間、彼の目つきが変わった。
「フン、ヂャグラーなら俺の庭だ。見てろ」
佐藤は得意げな顔でニヤリと笑うと、最初の一千円札をサンドに投入した。
手慣れた手つきでメダルを3枚掛けし、レバーを叩く。トントン、と小気味いいリズムでリールを止めていく。
そして投資わずか数百円、3回転目だった。
――ペカッ。左下のGOGO!ランプが、美しく紫色の光を放つ。
「よしきた!」佐藤は一切の無駄なく、リール配列を脳内で完璧に捉え、一発で赤7を中段に揃えた。
ファンファーレが鳴り響く。ビッグボーナス確定。
「クリアだ。下がりな」主催者の声に、佐藤は勝ち誇った顔で胸を張り、
自分を軽蔑していた妻と子供を見下ろした。
妻は腰を抜かし、ただ唖然と夫を見上げている。
「次、146番」次に座らされたのは、誰もが羨む東大卒、一部上場企業の部長であるエリート父親、高橋(45歳)だった。
高級スーツに身を包んだ高橋の背後では、プライドの高そうな妻と、名門私立の制服を着た息子が怯えていた。
「あなた! さっきの底辺労働者にもできたのよ!? あなたにできないはずがないわ!」
「パパ、僕、塾に行かなきゃいけないんだ、助けて!」
「分かっている! 私を誰だと思っているんだ!」高橋はエリートのプライドを懸け、震える手で一万円札を投入した。
しかし、彼はパチスロなど一度も触ったことがない。レバーを叩くタイミングも、ボタンを押すリズムも滅茶苦茶だった。
千円、二千円、五千円……。またたく間に一万円の限界が近づく。
「くそっ、なぜだ! なぜ当たらない!」高橋の額から油汗が吹き出る。
そして投資9,000円目。――ペカッ。奇跡的にGOGO!ランプが点灯した。
「光った! 当たったぞ!」高橋は歓喜の声を上げた。
だが、主催者が冷酷に告げる。
「ルールだ。一万円の予算内に、ボーナス絵柄を揃えて払い出しを開始させろ。あと猶予は1,000円分、46枚だ」
「な、何っ!?」高橋は慌ててボタンを押すが、リールは無情にも通り過ぎていく。
ドカタにできて、この私にできないはずがない! 私は東大卒だぞ!
焦れば焦るほど、赤7は見えているのに指が追いつかない。
「あなた! 早くしてよ! 7を狙うのよ!」
「パパ! ボク塾に行かなきゃ!!」
「うるさい! 分かっている! 止まれ! 止まってくれえええ!」ガシャ、ガシャ、ガシャ。
無情にも最後の3枚が吸い込まれ、液晶のクレジットは「0」になった。
「……タイムアップだ」
「待ってくれ! 当たりは引いている! ランプは光っているんだ!」
高橋が絶叫した瞬間、背後で二発の轟音が響いた。ドンッ! ドンッ!
「ひっ……あ、あああ……!」
高橋が振り返ると、そこには頭部をショットガンで吹き飛ばされ、床に崩れ落ちる妻と息子の無惨な姿があった
。一瞬で家族を失い、血の海の中で高橋は狂ったように叫び声を上げ、床を掻きむしった。
その傍らを、佐藤の家族が通り過ぎていく。
佐藤はポケットの特殊景品をジャラジャラと言わせながら、
自分を本物の漢(オス)して見つめるメス顔の妻を引き連れ、優越感に浸りながら換金所へと歩いていった。
そしてぐちゃぐちゃになった肉のかたまりとなった高橋の家族を見て決めた。
「へっ!今夜は焼肉だ」