パチンコ・スロット100物語   作:しこ太

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デジタル 一ノ瀬 翔(いちのせ しかける)

 

一ノ瀬 翔(いちのせ しかける)の指先が、ノートPCのキーボードを静かに叩いた。

『エバンゲリオン』でストレート10万円という、あからさまな「無抽選モード」を喰らった夜。

翔は監視カメラを睨みつけるのをやめ、別の角度からマイホールの店長を攻略することに決めていた。

 

翔は店長の妻が匿名で運用しているSNS裏アカウントを特定した。

そこには、大宮の高級マンションのベランダや、子供の通う幼稚園の行事など、プライベートな写真が大量にアップロードされていた。

 

「へえ、エッチな下着つけてるじゃん」翔はそれらの画像をダウンロードすると、最新の生成AIツールを立ち上げた。

店長の妻、そして幼い子供の顔データを学習させ、プロンプトを入力する。

『薄暗い室内。椅子に座らされ、太い麻縄で全身を強固に縛られて監禁されている一組の親子。恐怖に怯える表情。リアルな質感の写真』

数秒のプロセスの後、画面に映し出されたのは、本物の拉致監禁事件としか見間違うことのできない、極めて精巧で生々しい「偽造画像(ディープフェイク)」だった。

 

翔はそれをスマホのローカルフォルダに保存し、不敵に笑った。

「よし。追い詰められた人類が何をするか見せてやるよ」。

 

翌日、翔は再び『ゴールド』の自動ドアをくぐった。

昨日と同じ台に座り、貸出ボタンを押す。しかし、ホールの空気は今日も最悪だった。

100回転、300回転、500回転。回せども回せども、液晶はただ無機質に図柄をスクロールさせるだけ。

 

激アツの満月背景も、レバブルも、まるで最初から存在しないかのように静まり返っている。

台の内部から伝わってくる「当たる気配の完全な拒絶」。投資はすでに5万円を超え、財布の中身が限界に近づいていた。

「やっぱり今日もやってやがるな……」

翔はゆっくりと席を立つと、シマの天井に設置されている高精細な監視カメラの真下へと移動した。

 

遠隔室のモニターの前で、店長がコーヒーを飲みながら自分のハマリ履歴を笑っている姿が目に浮かぶ。

翔はポケットからスマホを取り出し、昨日生成したあの「監禁画像」を画面いっぱいに表示させた。

そして、スマホの画面をしっかりと監視カメラのレンズに向けて、見せつけるように突きつけた。

 

翔は一切の言葉を発しなかった。

ただ、レンズの向こう側を真っ直ぐに見つめ、唇の動きだけで、はっきりと口パクした。

(は・や・く・解・除・し・ろ)言葉による脅迫は一切していない。

ただ、自分の家族が縛られている画像を見せつけただけだ。

 

ホールの最奥にある防音の「遠隔室」では、文字通りのパニックが起きていた。

「て、店長! 大変です! 255番台の一ノ瀬が、カメラに向かって何かを……!」

主任の木村が悲鳴を上げる。

 

コーヒーを片手にモニターを覗き込んだ店長は、翔のスマホに映し出された光景を見た瞬間、持っていたカップを床に落として粉々に砕いた。

「な……なんだこれはァ!? 玲子! 拓海!!」

画面の向こうで、我が子が縄で縛られ、涙を流して監禁されている。

そして、それを持つ男がカメラに向かって冷徹に「解除しろ」と微笑んでいるのだ。

本物の拉致事件だと完全に誤認した店長の顔から、みるみるうちに血の気が引いていく。

 

「店長、どうしますか!? 警察に――」

「バカ言え! 通報したら命がない! いいから早く、あいつの台の設定を書き換えろ! 最大出力だ!!」

店長はガタガタと震える手で、ホールの管理コンピュータのマスターキーを差し込み、翔の座る台のデータを書き換えた。

 

【強制無抽選モード:解除】【割数調整:限界突破・モード反転強制Vフラッシュモード:通称裏コードビースト起動】

 

監視カメラの前から自分の台へと戻った翔は、何食わぬ顔で残りの千円札をサンドに入れた。

カチリ、とハンドルをひねった、まさにその1回転目。チュドォォォォン!!!台のスピーカーが爆音で鳴り響き、枠全体のLEDがレインボーに激しくフラッシュした。

ボタンを押すまでもなく、画面中央に【777】の確変図柄が堂々と揃い踏みする。

 

「へへ、注入されたか」そこからは、まさに「神の領域」の連チャンだった。

右打ちを開始した瞬間から、10R大当りの大波が押し寄せる。

10連、20連、30連――。データランプの出玉カウンターはみるみるうちに「4万発」を超え、通路には翔の出玉を計数する電子音が鳴り響き続けた。

 

遠隔室では、店長が泣きながらスマホで妻に電話をかけていた。『玲子!? 無事か!? 今どこにいるんだ!?』

『え? 今近所のママ友の佐藤さんの旦那の上で腰振ってるけど、どうしたの急に?』

『……え?』

妻がNTRれた事に気づいた頃には、時すでに遅し。

 

 

翔は大量の特殊景品をポケットに収め、換金所へ。出口へ向かう途中、インカムを耳につけたまま呆然と立ち尽くす店長とすれ違う。

店長はすれ違いざま、翔にだけ聞こえるような小さな声で、耳元で囁いた。

「俺の目をぬすみやがったな…」

 

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