パチンコ・スロット100物語   作:しこ太

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42 ブラウン管 注入済み

 

「もう限界だ……。これ以上は世界線の分岐計算の負荷に、メインフレームが耐えられない」

高次元生命体『オメガ』は、虚空に浮かぶホログラフィック・モニターを見つめ、青ざめていた。

 

彼らが管理するこの宇宙は、高度な量子コンピューターが描き出すシミュレーション世界。

今、そのシステムが限界を迎え、あと3日で世界が完全崩壊するカウントダウンが始まっていた。

「追加システムを導入すれば、今の100倍のキャパシティに耐えられるが……システム構築完了まで地球時間で【一週間】かかる。もう、間に合わない」

 

「仮初の命とはいえ、このシミュレーション宇宙に生きる1000京もの知的生命体が、一瞬で消滅してしまうのか……!」同僚の高次元生命体が絶望の声をあげる。

 

しかし、オメガには分かっていた。この演算オーバーヒートを引き起こしている『真犯人』の居場所が。

「原因は特定できている。――局部超銀河団、おとめ座銀河団、局部銀河群、銀河系、オリオン腕、太陽系第3惑星、地球だ」

 

「地球……? あんな辺境の未開惑星が?」

「そうだ。他の星の知的生命体は理知的で、めったに世界線の分岐など起こさない。だがこの地球だけで、我がシミュレーターの演算能力の【99.9999999999999%】を食い潰している。

特に、この惑星の東端にある島国のひとつ――『ニポン』が異常だ。完全な特異点(エラー)と化している」

 

オメガはモニターの倍率を上げ、ニポンのある光景を映し出した。

「見ろ、この『パチンコ屋』とやらを。原子生物のように手を振り回して、世界線分岐装置(ハンドル)を叩き、液晶を殴っている。

やっていることはおおよそ知的生命体の行動ではない。……だが、奴らが無意識に生み出す分岐のエネルギーは、我々高次元生命体の精神負荷に匹敵する」

 

「バカな、どういうことだ!?」

 

「ニポンのパチンコ屋にある機械は、大当たりの乱数分母が【65536】だ。レバーを叩く、ボタンを押す、そのたった1回転で、世界が65536のパラレルワールドに超分岐するのだぞ?

それを、あの猿どもは1日2000回転も行うのだ」

 

同僚は脳内で高速計算を行い、フッと鼻で笑った。

「待て。65536×2000回転。さらにニポン全国に何万台のパチンコ台があるか知らないが、計算してみたぞ。……だが、それでも我がスーパーシミュレーターの演算能力の、まだ半分にも満たないじゃないか?」

 

オメガは深く、深く首を横に振り、血の涙を流した。

「はぁ……。同じレベルの『スロット台』なる悪魔の置物が、同数以上あるのだよ」

 

「――……っ!?」

同僚の思考が一瞬で凍りついた。パチンコ台の、さらに倍。同じく1レバーオンごとに65,536の乱数を狂ったように参照し、毎ゲーム世界線を分岐させるスロットマシンの大軍勢。

計算の終わりなき地獄を理解した同僚は、顔面を蒼白にさせ、ぽつりと呟いた。

「……カタストロフィ(大破局)……」

 

「――仕方ない。高次元管理規定に反するが、シミュレーション世界に直接介入するぞ」

 

時を同じくして。地球、ニポン。大手パチンコチェーン会社の会長室。

『ジジジ……聞こえるか? 愚かで矮小な人間よ』

「な、誰だ! ワシは大手パチンコチェーン店ゴールドの会長だぞ!」

突故として脳内に響いた超越的な声。次の瞬間、頭の中に宇宙の全記憶が直接ダウンロードされ、会長は床に這いつくばってガタガタと震え出した。

「じょ、上位存在様……! 分かりました、すぐに解決いたします。」

 

会長がキーボードを叩きだした。

モニターの42型ブラウン管に謎のプログラミング言語が表示される。

そしてチェーン店全てのホルコンに【アレ(無抽選プログラム)】が注入されていく。確率1/1で絶対に当たらない『完全なる無抽選世界』

 

こうして、ニポン全国の台から「確率の分岐」が一斉に消失した。

一週間、宇宙の演算負荷は劇的に激減し、シミュレーション世界の知的生命体1000京の命は救われた。

 

――しかし。高次元のモニターを見つめていたオメガは、ガタガタと震え出した。

「……心が痛むな。我々の介入のせいで、知的生命体が数十人単位で死んでしまった」

画面には、1/1の無抽選という神の悪意に貯金をすべて融かされ、絶望して命を絶っていくパチンカスたちの姿が映し出されていた。

 

「1000京の命を救ったとはいえ、我々の高潔な倫理基準から言ったら、この直接介入による死亡事故は言い訳ができない……。

規定通り、我々は『凍結封印処置』が下されるだろう。終わった、我々の高次元ライフはここで終わりだ……!」

 

オメガが頭を抱えて絶望した、その時。隣にいた同僚の高次元生命体が、モニターに映るパチンカスたちの生態を凝視しながら、ふと奇妙な声をあげた。

「……いや、待てよ?」

「ん? どうした」

「よく見ろオメガ。……世間一般の人たちが働いている朝からパチンコ屋に並び、狂ったように台を殴り、財布の全財産をマシンの闇にストレートで溶かしている連中だぞ?

挙句の果てには、確率1/1の無抽選だと気づきもせず、ただただハンドルを廻し続けている……」

同僚の目が、ギラリと妖しく光った。

「こんな、猿のように狂ってパチンコをしている連中は――そもそも我々の定める【知的生命体】の定義カテゴリから、除外される(対象外になる)んじゃないか……!?」

 

「な、何っ……!?」知的生命体でなければ、何人死のうが動物の自然淘汰と同じ扱い。

つまり、高次元倫理法上の「罪」には問われない。凍結封印処置も回避できる!

 

オメガは弾かれたように叫んだ。

 

「おい、誰か!! すぐに『倫理法務官』に問い合わせろ!!

あいつらがパチンカスが野生の猿と同等だという法解釈が通るかどうか、大至急確認するんだ!!」

 

 

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