ソバは巡る   作:モンです

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頑張れレオン君 その4

 自分の部屋に入ってみるとクマえもんがベットを占領していました。

 

「お、きたね。とりあえずゆっくりしていってよ」

 

「ここはおれのへやじゃないの?」

 

「そうだよ?」

 

「ならどいてほしいのですが。ねむいのです」

 

「嫌だよ?」

 

「……ゆかでねろということか。かけぶとんくらいほしかった」

 

「だめだよ! 聞きたいことがあるからまだ寝ちゃダメ!」

 

 ねむいよぅ。

 

「……ん。じゃ、てみじかに」

 

「君はいったい何者だい?」

 

「くわたれおん」

 

「そうじゃなくて! どうして希望ヶ峰学園の入学生じゃない君がここに居るのかとか、そういう事を聞いてるの!」

 

「しらん。かみかくしかも。すきまようかいがおくってきたとか」

 

「しらばっくれるつもりかな?」

 

「ゆかりん、おれはおこだよー。としをとりすぎてわかいひとへのしっとがまっはなの?  やーいやーいくそばば」

 

《ぶち殺すわよ》

 

「大変申し訳ありませんでした」

 

 一瞬で目が覚めた。ゆかりんの殺意の波動で鳥肌がすごい。というか今の本物?

 

「今の聞こえた?」

 

「……うん」

 

「クマえもんのせいじゃないよね?」

 

「……うん」

 

「クマえもんであってほしかった」

 

 幻想郷はほんとにあったんだ!

 

「ともかく。俺は桑田レオン、フリーターです。多分神隠しに会って希望ヶ峰学園に来ました」

 

「うん。なんかもうそれでいいや」

 

「あれ、投げやりだね。自暴自棄になっちゃだめよ」

 

「頑張る」

 

 去っていくクマえもんの背中は、なぜだかいつもより小さく見えました。

 

「目が覚めてしまった。責任……とりなさいよ」

 

 頬を染めて言ってみるも反応はない。基本不干渉を貫くスタイルなのかな。いろいろと聞きたいことがあるけど無理くさい。でも悪口には反応したしなぁ。

 

「ゆかりん、実際霊夢さんの胸ってつるぺったんなの? むしろえぐれて」

 

《夢想封印》

 

 あっきれいなひかりが――

 

 

 

「生きてた」

 

 目が覚めたらもう朝でした。言い訳だけど、ゆかりんだけが聞いてると思ったんです。そしてこの話題だったら食いついてくれると妙な自信にあふれてたんです。

 

「うん、会ってもない人にあれはないよね。すいませんでした」

 

《許さない》

 

 これはもうだめかもわからんね。朝食まで土下座決行しよう。

 

「わしの土下座は百八式まであるぞ」

 

 一時間経過。

 

「まだだ! まだ終わらんよ!」

 

 二時間経過。

 

「俺たちの冒険は、まだ始まっ」

 

 ピンポーン

 

「はいさー……どしたの?」

 

「あの。ちょっとお話が……」

 

 ドアを開けるとそこにはうつむいた舞園さん。とりあえずあがってもらうことにする。机を挟んでご対面です。

 

「お茶とかなくてごめんね」

 

「お構いなく……」

 

 おおう、シリアスさんこんにちは。少なくともさっきまで土下座をしていたなんて間違っても言えない空気だ。落ち込んだ雰囲気を醸しだす彼女。なにがあったんだろう。

 

「…………」

 

 すごく言いにくそう、というか迷っているのか。

 

「時間はあるし、ゆっくりでいいよ」

 

「……えっと、ですね。桑田君って、落ち着いてますよね。それが、なんでかなって」

 

「ん、こんな状況でって事?」

 

「はい。知りたいんです。ずっとここで軟禁生活を強いられて、もしかしたら殺されるかもしれないのに、どうしてそんなに自然体でいられるのかを」

 

 まっすぐな目で俺を見る彼女は、少し危ないような気がした。

 

「そだね。生きたいからかな」

 

「生きたいから?」

 

「うん。別に恐怖を感じてないわけじゃない。むしろ怖い。一人で行動するときとか、クマえもんと話すときとかは特に。でも、それ以上に生き延びたい。この学園から逃げ出したい」

 

 なら、何をすればいいか。

 

「俺は運動もできなければ頭もよくない。たぶん男の中で一番殺されやすいと思う。だから、良い考えが少しでも出るように、冷静に。怖がるのも、恐れるのも、後で。某旅小説の師匠の言葉を馬鹿のように実践してる」

 

「…………」

 

「そして、できればみんな一緒に生き残りたい。殺したくない。ハッピーエンドがほしい。そのために、今も落ち着き続けてる」

 

「……強いんですね」

 

「そうかな。でも、耐え切れそうになかったら弱音吐きまくる。2Lくらい」 

 

 もうそろそろ誰かに吐き出したかったし。ちょうどいいタイミングでした。

 

「今度弱音聞いてくれるとありがたい」

 

「はい。それくらいでしたらいくらでも」

 

「ありがとう。他に用はありますか?」

 

「…………」

 

 再びの沈黙。本題は別にある様子。

 

「さっきも言ったけど、ゆっくりでいいよ。いくらでも待つから」

 

「……いえ、今言わないとうやむやにしてしまいそうなので」

 

 ゆっくりと深呼吸をすると、気弱な目をこちらに向ける。

 

「私は、父子家庭なんですけど、幼い頃、お父さんが夜遅くまで働いていることが多かったんです。家に帰ったらいつも一人ぼっち。……仕方がないって分かっていても、寂しかった。そんな時に元気づけてくれたのが、テレビで活躍しているアイドルでした。歌って踊って、笑いかけてくれて。寂しさを吹き飛ばしてくれました」

 

「そっか。だからアイドルに?」

 

「そうです。いつかそんなふうにみんなを元気づけられるアイドルになりたいって。そう、思うようになったんです」

 

「……すごいね」

 

 どれほどの努力をしたのか想像もつかない。

 

「……はい。ダンス、ボイスレッスンとか、美容とか。アイドルになりたくて、今まで何でもしてきました」

 

「何でも?」

 

「はい、嫌なことも含めて、本当に何でも……」

 

「……」

 

 いつのまにか舞園さんは、ここではないどこかを見つめてぼんやりとしていた。

 

「私には、幼いころからアイドルになるという夢がありました。その夢を追い続けて、アイドルになれたんです。夢は追い続ければいつかきっと叶う。私は、そう思います」

 

「そうだね」

 

「でも、その為にはずっと夢を見続けなくちゃいけないんです。それが悪夢でも。起きていても、寝ていても。夢をかなえるためには、ずっと夢を見続けなくちゃならないんです。あの世界では、少しでも気を緩めれば、置いていかれちゃう……」

 

「うん」

 

「苦しいし、辛いし、やめたいと思った時もあります。でも、楽しくないというわけじゃない。楽しいんです、すごく」

 

「そうなの?」

 

「そうなんです。だから、怖い」

 

「毎日が楽しい。同じグループのみんなもいい友達であり、いいライバルでもあり、本当に素敵な仲間たちなんです。みんながいなかったら、私はとっくに夢を諦めていたと思います」

 

「大切なんだね」

 

「はい。そんなみんなと一緒に夢をかなえて、一緒に仕事で来て、今は本当に幸せです」

 

「そっか」

 

 

「だから、恐ろしい」

 

 

「いつか、世間に飽きられてしまったとき、私たちはどうなってしまうのか」

 

「私が希望ヶ峰学園に入学したのも、そのためです。ここを卒業すれば、間違いなく成功できると聞いたから。そうしたら、大切なグループの仲間とずっと一緒に活躍し続けられると思ったから」

 

「そう……思っていたのに……。それなのに」

 

「こ、こんな場所に閉じ込められて……出られないなんて……。きっと仲間も待ってるのに」

 

 

 

「こうしてる間にも……忘れられていく」

 

 

 

「どんどん私たちが消えていく」

 

 

 

「それなのに」

 

 

 

「どうしてっ」

 

 

 

 

「私にはっ! こんなことをしている余裕はないのにッ!!」

 

 

 

 

 それは。彼女の心から鳴り響く悲鳴だった。

 

「そっか」

 

 だからといって慰めの言葉は思いつかない。俺にできるのは相槌を打つくらいだった。

 

「……ごめんなさい。誰かに聞いてほしかったんです。感情を抑えきれなくて……」

 

「いや、いいよ。むしろ愚痴なら何でもバッチコイです」

 

「すみません……」

 

 さっきの熱が冷めたのか、意気消沈の舞園さん。むしろ聞かせてくれてうれしかったのだけれど。それだけ信頼されてきたって事なのだろうし。

 

「謝らなくていいって。この学園だとむしろそういう不満をため込む方が危険。どうでもいい愚痴とかお前の息臭いから喋んなとか、言ってもらえたほうが俺としては安心だよ」

 

「そういうものですか?」

 

「そういうものです」

 

 爆発したら大変だからね。

 

「そうですか……」

 

 そのあとしばしの静寂タイムがはじまる。さっきまであった沈黙と違って居心地がよかった。まるでファブリーズを部屋一面に使ったかのようだ。

 

「そういえばファブリーズって除霊効果があるんだって」

 

「いきなり何を言い出してるんですか」

 

 舞園さんがジト目で見つめてくる。確かに唐突だったけども。

 

「やっぱり一緒に居るんだったらお喋りしたいでござる。だめですか?」

 

「……もうちょっとあの静かな空気に浸っていたかったんですけどね。はぁ。分かりましたよ。仕方ありませんね、この子は」

 

 まるで出来の悪い弟を見ているような温い眼差しだ。誠に遺憾である。

 

「弟ですか。そんな感じかもしれません」

 

「なぜわかった」

 

「エスパーですから」

 

「!?」

 

 この後むちゃくちゃお喋りした。たのしかったです(小並感)

 

 

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