ソバは巡る   作:モンです

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揚羽ちゃんは悟る その1

 皆さんは、雨は好きだろうか。ぽつぽつと優しく包む小雨、ザーザーと洗い流す大雨。特に夜にあめ音を聞くと、気分が落ち着いてよく寝れると思う。と言うわけで俺は雨が好きだ。まあだからと良いって毎日雨が良いってわけでもないし、今みたいに台風のような雨はちょっと遠慮したいんですがね。

 

「傘の霊圧が……消えた……?」

 

 風が強すぎて傘がその命を終えて十分。必死にバイト先から自宅へかける俺はさながらドラマで警察からの追手を振り切ろうとする犯人のようで、ここでドラマの主人公と想像できない俺は謙虚だなと自画自賛する。よし、そろそろ家に着くし、気をそらすのも終わりだ!

 

「さあ、雄也選手あと200mを切りました、ラストスパートです! 自動販売機の釣銭を華麗に確認しつつゴミ捨て場に倒れている人を飛び越します! そのままマンションへ、いけるかいけるか入ったーっ雄也選手ゴールしました、見事優勝です!」

 

 そのままマンション一階の踊り場で一心地つく。今日はひどい目にあった。早く風呂に入って寝るのが吉かもしれんね、いやそうに違いない。大体いきなり土砂降りとか聞いてないよ、傘は新品からゴミに変わるしつり銭はなかったし人は倒れてるし――

 

 ん?

 

「なんなんだぁ今のは(驚愕)」

 

 

 

 ゴミ捨て場前に戻ってきました。

 

「……おい、大丈夫ですかー」

 

 うつぶせで倒れている学生服を着た少女に話しかけてみるが、反応がない。というか俺どんだけ必死だったんだよ、最初に気づけよ。

 

「救急車呼んだ方が良いのかね……」

 

「……ぃらない」

 

 ぼそりと返答する彼女。とても辛そうに声を震わせている。

 

「意識あったのか。どったの?」

 

「放っておいて」

 

「だが断る。誘拐します」

 

「っえ」

 

 拒否する彼女を肩に担いで自分の家へ。いつから拒否権があると錯覚していた……?

 

「離して、変態ッ」

 

「へへへ変態ちゃうわっ! ただ女の子の体をフキフキしたいだけだもんっ」

 

「なお悪いわよ! はな、離して、や、ちょっと!」

 

「ここが俺の家だよ」

 

「はやっ! え、今いつ階段あがったの、軽くホラー体験しちゃったよ!?」

 

「これが俺の紳士ぱぅわーだぜ。そしてお風呂にドーン!」

 

 なんか元気そうだし寝かせるより先にお風呂で体を清めた方がよいと判断しました。予約でお風呂を沸かしておいてよかった。

 

「濡れた衣服はそこの洗濯籠の中に入れて、さっさと入って。俺はその間に着替え用意しておくから」

 

「…………」

 

 呆然としている女の子を置いて着替えを取りに行く。確か妹のものがあったはずなんだが……あったあった。というかあの子下着が派手すぎないか。赤とか引くわー。まあ普通の色もあるようですけど。別に物色しているわけではない(真顔)

 

「着替え用意したぞーって……まだ入ってないんかーい」

 

「はうっ」

 

 いまだ呆けている女の子の脳天にチョップ。こうかはばつぐんだ! 女の子はこちらを恨めしそうに睨みつけ、うぅ~と唸っている。おどれは小動物か。かわいいなちくしょう。

 

「はえっ! ってちがう! いきなり男の人の家に連れて行かれて素直に従うとでも思っ」

 

「シャワー汁ブシャー」

 

「ひやあああああ! 何してるの、脱衣所びしゃびしゃじゃない!」

 

「いや、早く体を暖めようと思って。それとも一緒に入りたかった?」

 

「そんなことしたら警察に通報するからね! 絶対入ってこないで!」

 

 そういって脱衣所から追い出されました。なにあの子面白い。

 ご立腹な彼女はさておき、とりまストーブで部屋を暖めつつタオルで体をふき着替える。冬はやっぱり石油ストーブだよね。電気ストーブは邪道。こたつは出れなくなるので買ってません。

 晩御飯は残っているカレーがあるのでそれでいいかな。もう少し何かいるかね。カレーに醤油トッピングしたら喜んでくれるだろうか。あれ俺天才じゃね? ためしにちょっとかけてみよう。

 

「ヴォォォォォ」

 

「なにやってるの……」

 

 涙目で醤油風カレーを食べていると風呂上がりの彼女がジト目で見てきた。

 

「座りなさい。そしてカレーを食べなさい。さすれば体重が増えるでしょう」

 

「わざわざ嫌な言い方しないでよ」

 

 食べるけど、と座る彼女は何かを諦めたような感じでした。いったい彼女に何があったんだろう。

 

「だいたいあなたのせいなんだけど」

 

「知ってる」

 

「全部あんたのせいなんだけどッ!」

 

「そしてこの顔であ……いひゃいいひゃい。ほおがちひれる」

 

 ドヤ顔したら報復を受けた。意外と握力強くて痛かったでござる。

 じゃれ合いつつ食べ終わると時刻はすでに夜9時になった。これは送り狼フラグ立った?

 

「ないわ」

 

「そこまで冷静に言われると来るものがあるね」

 

 男としての矜持が傷つきます。

 

「矜持っておいしそうな名前だよね。餃子みたいな」

 

「あんたの矜持って餃子と同レベルなの……」

 

「なにいってんだこいつ」

 

 無言の腹パンは痛い。口から醤油が出そうだった。

 

「で、どうするの? 家帰る?」

 

「…………」

 

「じゃあお泊り決定。ウィーフィットやろうず」

 

「……えっ? そんなに簡単な問題? というかなによそのチョイスは」

 

 座禅がクリアできないんだよね。3分動いたらダメとか無理ゲー。あとスノーボードも苦手でごわす。

 

「体重が出るから嫌。別のにして」

 

「んー。絶対に絶命な都市でもやる?」

 

「……まあ、それならいいわ」

 

「んじゃこれコントローラーね。俺は見てます」

 

「見てるだけなの? 暇でしょう」

 

「大丈夫、ちょっかいかけるから」

 

「やめなさい」

 

 その握力でアイアンクローは反則だと思います。跡が残りそうなくらい痛かった。

 そのままぽちぽちゲームを進める彼女。そういえば名前なんだろう。雨に打たれていたし雨子でいいか。

 

「揚羽よ」

 

「?」

 

「私の名前。島崎揚羽。間違っても雨子じゃないわ」

 

「よぉ雨子」

 

「殴られたいようね」

 

「違います」

 

 揚羽ちゃんに睨みつけられると本当に防御が下がりそうで怖い。これでメガトンパンチされたら瀕死になりそうなので自重しよう。

 

「俺は金本雄也。よろしくたのもう」

 

「……うん」

 

 この後きりの良いところまでやって寝ました。布団が二枚あって良かった。

 

 

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