あれは嘘だ
車を出して何分ほど経っただろうか。いつの間にか「王立陸軍士官学校」の大門前に着いた。車は大門の前に止まり、エンジンも切ったのか、小刻みな音と振動が消える。窓を見ると、恐らく衛兵による検問だろう。学校とは言え、仮にも軍事施設ということもあり、許可のある者のみが敷地内に入れる。
衛兵が俺のいる方の窓を指でノックした。俺は窓を下げる。
「これより先は民間人統制区域となる。要件を申し出よ」
一人がこうやって聞いており、もう一人が警戒している様子だ。
「今年度より、王立陸軍士官学校に赴任したゲルハルト・フゥルスト・フォン・レットウ=フォルべックだ。証明書がカバンの中にある。取り出しても良いか」
「許可する」
許可をもらった俺はそっと鞄から白い封筒を取り出し、衛兵にそれを渡す。
それをもらった衛兵は証明書を読んでおり、一通り読んだのか、紙を封筒に入れ直して、俺に返した。
「ゲルハルト中佐殿、確認が取れましたので中までお進みください。ご協力ありがとうございます」
「ご苦労」
そうとだけいい、運転手に合図して車を出した。
大門を潜って二分ほど経ったか、士官学校の本館らしき建物に到着した。運転手がドアを開けたため、俺は荷物を持って「ご苦労」と言って、車を出た。
建物の中に入ると、受付らしき場所に着く。というよりも、目の前に受付があった。
「王立陸軍士官学校でございます。本日はどのような御用件でしょうか」
俺は受付嬢に先程の旨を伝え、証明書も渡した。どうやらここでも照合をしているらしく、証明書と違う書類を交互に見ている。
「ゲルハルト中佐殿、確認が取れました。本館三階の学校長室にて、パウル准将殿がお待ちです」
新たに赴任してきた教授と面談をするのだろうか。
「了解した」
そう言って、俺は三階に向かう。
にしても便利だな、この体。さっきから結構軍人ぽいよ?俺が全部操作するパターンだったらどうなっていたことか。
そんなことを考えていると、すぐに学校長室に着いた。軽くノックをし、返答があるまでまつ。
「誰だ」
中から、かあなり渋い声がきた。
「ゲルハルト・フゥルスト・フォン・レットウ=フォルベックです。パウロ学校長殿、お呼びでしょうか」
にしても長いなあ、名前。いちいち言うのが面倒だな。
「入れ」
しっぶい声で許可が出たため、俺は丁寧な所作で中に入る。
「ゲルハルト中佐、だね?」
「はっ、左様でございます」
「まぁまぁ、座ってくれ」
失礼しますとだけいい、そーっと座る。
「ゲルハルト中佐、今年度より本校、王立陸軍士官学校の教授として務めるよう。期待している」
「若輩者ではございますが、全力を尽くしたいと思います」
そう答えると、満足げな表情をしてくれたパウロさん。こんなんでいいのかな?
「うむ。よろしく頼む」
おぉ、おっけーおっけー。頷いてくれた。多分大丈夫だろう。まぁ面談つっても、そんな大したことはしないだろう。精々小話でも…
「にしても、久しいではないか、ゲルハルト中佐。士官学校に在学していた頃以来か?」
…うむ。よし。はい。
(誰だよジジイーー!)
「左様でございます」
やっべぇ、どうしよ。え、何?俺この人知ってるの?本当に言ってる?ねぇ。そんな、ねぇ?え?
「どうだ、元気にしていたか」
(さっきまでは超うきうきで元気だっだよお!そんな爆弾発言さえなければ俺だって今も元気だったよお!)
「お陰様で、なんとか」
やっべぇ、どうしよ。どう返答すればいい?ねぇ。アドリブ?アドリブでいいの?キャラ崩壊とかしない?俺もう設定集の内容とか知らんよ?最後にプレイしたの結構前だよ?ねぇ。え、これ顔には出ていないよね。そうだよね。そうだと言って?ねぇ。
「それは何より」
「パウロ学校長殿は如何お過ごしでしょうか」
「幸いにも、元気だな」
大丈夫?いっつおーけ?いすでぃすおーけー?えむあいおーけー?ぷりーず、ぷりーずびーおーけー。
「しかし、ゲルハルト中佐。少し変わったかね?」
(んだとてめぇ!おらぁ何も変わっとらんぞおお!俺は至って普通じゃい!ちゃんとゲルハルトじゃい!)
「変わったか、ですか?」
おいジジイ、もう黙れ。俺を帰せ。帰らせてくれ。頼む。何?変わったかって?そんな、ね?大して、ね?変わったりしてないですよ?精々中に入っている人が?中の人が?変わったとか?ゲルハルトの人格の代わりに?坂上秀清(さかうえしゅうせい)の人格が?入っているくらいかな?(突如出てくる主人公の本名)
「そうだな…あ」
(なんじゃ?!なんの“あ”じゃ?!バレた?え、まさかね。そんな、人格入れ替わるとか、憑依とか、すぐに見抜けるとか、ね?ちゃうよね?)
「さては、ゲルハルト中佐。痩せたな?」
(…)
…
「…」
「なんだ?違うか?…あ」
(何?!今度は何?!あぁもおお!さっきそうですって言えばよかったじゃん!もう、なんだよ今度は!)
「さては、女だな?」
(…)
…
「…」
「目の輝きが違う。そう、まるで、恋に落ちたような目をしている。どうだ、あってるか?」
(…)
…
「…」
「なんだ、違うのか?…あ」
(何?今度は何?何に気づいたかはわからんけど、多分大丈夫だな、これ)
「ゲルハルト中佐、さては、ゲルハルト中佐ではないな?」
(…)
…
「…」
…えぇぇぇ?!“ゲルハルト中佐ではないな?”?!何?なんでわかったの?え、バレた?!どこで?!どこにバレる要素あった?!ねぇ?!!教えて、ねぇ!
「…なんだよ、ちょっとくらい笑ってくればいいじゃんな。折角のジョーク。むっかしから釣れない生徒だったけど、変わらんな、全く。ジョーク全部、スルーするのも、変わらんな」
(…)
…
「…」
「ちょっとくらい、付き合ってもいいじゃんな。久しぶりにあったんじゃし、な」
(…なんだよこのジジイ!何拗ねてやがる!なんだ?え?ジョーク?冗談?そんな冗談あってたまるか!笑わせる気ないじゃん!ねぇ。さっきから感情のシャトルランさせやがって!)
「話は以上ですか?」
「…うん。悪かったね。出ていいよ」
そう言われたので、俺は丁寧に部屋を出た。
…何ションボリしてんの?
もう続かない