脳が五十メートル走を二十往復やらされたくらい疲れたが(それ疲れんの体じゃね?)、まぁなんとか乗り越えた。次に、俺は職場も視察を行った。入校式まで後一日。それまでに教官室とか、講義室とか、あと教員用寮。この学校は、生徒は勿論、教員も寮生活となる。無論、生徒とは違って休日とかは家に帰りたければ許可を取って帰れる。ちゃんと確認しないとな。
ということで、俺は取り敢えず学校中を見回った。一応軍服ということで、あまり怪しまれたりはしていないらしい。最悪証明書見せればいいか。後ちょいちょい出会う学生さんが敬礼してくる。最初は結構(心の中で)困惑したが、もう慣れた物だな。
教員用寮の中は、存外広かった。あの屋敷と比べれば小さいが、少なくとも前の世界で住んでいたワンルームの数倍広い。ありがたい。おそらく前の自分が前もって整理したであろう荷物がある。そこには幾つかの本が置いてあった。今後使う教材であろう。同じものを屋敷でちらっとみた気がする。背には「騎兵戦術理論」と書いてある。
知っておくべき部屋の大体の位置が把握できたところで、俺は駐車場で待っていた車に戻って、帰宅した。
にしても焦ったな、あれは。パウロさん、もっとウケそうな冗談しようよ。大体困惑するじゃんね?あんなん。
それよりも、先ずは脳内作戦会議だ。なんの作戦かって?無論講義のことだ。俺は前世(?)、それなりにミリタリーを極めていたわけで、銃器に関する知識はそれなりにあるし、実際銃も所持していたものだから、他人よりは知っているつもりだ。が、一方で、だ。俺が今体を乗っ取っているゲル君は、騎兵だ。正確には胸甲騎兵だっけ?竜騎兵だっけ?まぁそこらへんだ。まぁ現代で言う機械化歩兵とか、車両化歩兵当たりになる。簡単に言えば、足が速い且つ色々持っている軍人みたいな感じ、なのかな?現代においては、儀仗隊が騎兵を用いたり、部隊名に騎兵が入ったりと、騎兵を継承しているものはあるが、騎兵自体はないに等しい。
俺自身、騎兵に関しては、全くと言っていいほど無知だ。機甲戦略や機動戦略などは雀の涙程度は知っているが、騎兵戦略となると、かなり怪しい。俺の持っている知識が少しでも対応できたりすればまだいいが、まだわからない。そもそも、俺の持っている知識が使えるのかすらわからない。なにせ、現代の戦略・戦術は、無線やGPSなどの科学技術を前提に成り立っているが、ここは近代。電話はおろか、電信でもあれば嬉しい。伝書鳩とかがバリバリ現役だし、伝令兵とかも普通に存在する、そんな世界だ。つまり、詳しい戦場の情報を把握できないのだ。そんな中で、戦場の情報を把握することが前提で成り立つ前略・戦術は、果たしてどれくらい有効だろうか。
無論、俺は知らなくとも、この体は知っているだろうから、さっきまでみたいに、なんとかなるかもしれない。でも、断言はできない。流石に専門知識となると、習慣や癖の領域から離れるからだ。
「到着しました」
「ご苦労」
いつの間にか到着していたため、俺は鞄を持って車から降り、屋敷に帰った。
まぁ要するに、俺にはやることができたわけだ。俺はすぐさま書斎に行き、机に置いてある本の一つを手に取った。
「…あった。騎兵戦術理論」
やることとは、勉強だ。まさか、大学を卒業して五年も経った今になって、勉強を、しかも全く新しい学問を学ぶことになるとは、想定していなかった。しかし、仕方ない。備えあれば憂いなしってやつだ。個人的な興味もあるし、流石に教授たるものが何も言えなかったらだめだからな。
というわけで、俺は今日の就寝前まで書斎に閉じこもる気だ。メイドにはご飯の時以外は呼ばないようお願いした。そう言えば昼食をとっていなかったか。まぁいい。取り敢えず勉強だ。飯は後からでも遅くはない。
続かない