戦火のカイゼル   作:多御中劍二

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続く気がしない


第四話

 この時代の騎兵は、役割がそれなりに限定されてきている。人々は主に、機関銃の弾丸に哀しく倒れていく一次大戦の騎兵を思い出すかも知れないが、それよりも前に、縮小が始まっている。

 勿論、騎兵の力は確かに存在し、戦術的な価値が未だ強く残っていた時代だ。足の速さはどこにいくこともなく、その脚力を用いて斥候に出したり、機動戦を繰り広げたりする。また、騎兵の心理的圧迫も無視できない。大馬に乗った奴がこっちに向かって猛スピードでやってきている。己の足じゃ逃げられず、そのまま殺される仲間でも見てみろ。怖いぞ、多分。

 後は、騎兵とぶつかった時に生まれる衝撃も大きく、役割が縮小されてきているとはいえ、未だ必要とされる兵科だ。

 さて、この世界の騎兵は主に、各師団及び旅団隷下の騎兵連隊に、若しくは師団及び旅団直属の部隊に配属されるか、騎兵師団及び旅団に配属されるかだ。後は部隊によって、騎兵を用いた斥候隊を使ったりもする。

 機動戦を主に行う兵科は、歩兵より先回って目標地点に行って支援兵力が来るまで堪えたり、夜間奇襲でズタボロにする。敵の横を突いて混乱を招いたりもするし、あとは縦深突破(前線の先鋒に立って敵の防御線を破る)と、戦果拡大(味方が到着するまでなるたけ敵を減らす)も機動を得意とする戦車などの機甲兵の役目だ。

 これは、俺の知っている機動戦術の主な内容。いや、戦術でもない。簡単な役目についてた。騎兵も同じく機動を得意とする兵科だと考えた俺は、これらの内容につながるようなものを期待して、本を開いたわけだ。

 で、肝心の中身を要約すると、こうだ。

 

敵がいる→突撃する

 敵がいない→探して突撃する

 敵の正面が固い→回って突撃する

 圧倒的に敵が強い→玉砕精神で突撃する

 

 脳筋にも程がある。敵が居れば突れ!居なければ探して突れ!アホちゃうか?

 と思ったが、仕方ない部分もある。

先ず、この世界ではまだ機関銃や連発式銃の威力をフルに使った総力戦が発生していない。基本的に、機関銃などが発明されたお陰で防御側が優位に立つようになったのだが、それよりも以前は基本的に攻撃側が優位に立つという認識が強かった。城に篭っても砲撃でなんとかなるし、防御陣地を固めても、あるのは単発式の銃。真っ当な防御手段がない相手の注意を引きつけ、その横に騎兵でも突撃させたら、いや、単純に敵が対応しきれないほどの兵力を投入すれば、勝てる。そのため、動員可能な兵力を全て投入し、先に勝機を握って、勢いをつけた方が勝つ、いわば会戦が主流だったのだ。

 一方、機関銃等が登場すると、話はぐるっと変わる。防御陣地に設置された機関銃の前に突撃するのは、自殺にも等しい。高い機動性を持つ騎兵で回るとしても、騎兵戦力は高価で限られる。そもそも敵がきそうな場所は警戒するのが当たり前だ。そこに自分の兵力を投入してみろ。敵に損失一つ与えず負けることになる。砲撃を利用するにも、昔は精密な砲撃はできないのだ。それに塹壕を掘れば、大多数に砲撃も当たらない。知っている人は知っているドイツ帝国軍の突撃大隊俗に言うストームトルーパー(stormtrooper/Stoßtruppen)は不足する戦車の代わりに敵前線を崩壊させるために作られたものだ。

取り敢えず、機関銃にも耐えられる戦車などが登場するまでは、防御側は圧倒的な優位に立つこととなる。無論、一概には言えない。

要するに、これから必要な戦術はなく、これから使ったら明らかに死ぬ戦術しかないっていうことだ。

 

「どうしろってんだよ」

 

 このままだと絶対死ぬ。それも意味なく。ちゃんとした戦術なしに敵に立ち向かうわけにはいかない。しかし、戦術が出た頃には俺は絶対に死んでいる。「このままじゃ不味いですっ!」って上層部に言ってみるか?ポイされるだけだろ。いくら貴族出身とは言え、俺は一介の士官に過ぎない。独立した部隊を持っている訳でもない、士官学校の教授。全国津々浦々から我こそはと有望な人材が集まる、出世軌道間違いなしの超名門士官学校の騎兵担当教授でしかない。実権と言えば、関連戦術を自由に研究する権利とか、陸軍本部の担当上官にカリキュラム検討用の資料を提出したり、討議したり、審査なしでも、ある程度独立したカリキュラムを実験的に導入したりしかできない。

 

 (…あれ? 俺が研究して?戦術作って?カリキュラムに組みこんで?教育して?戦術を広めるとか?できなくはない?)

 

 俺は一度考えてみた。自分で研究して、戦術練って、教育。期限は二年。教育は兎も角、戦術が完成していないといけない。

 

 (いやぁでも、ねえ。一から勉強やり直して、二年間で戦術は勿論教育まで終わらせるとか、無理だって。後面倒だしねぇ。もっとこう、ね。ほら、別の選択肢があるはず。きっと)

 

 一方、それ以外選択肢が見えない俺は、半分諦めながら夕食を取りに行った。

 




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