エプロンは彼から借り、粗方の準備を終わらせた。手元の材料はジャガイモ、レタス、ニンジン、後はカゴの底に隠れていたカブ、ってところか。
「期待しておきますよ、シェフ?」
「言っておくが、これで作れるのは精々スープだ。期待は捨てておいてくれ」
スープくらいだよな、作れるのは。それにブイヨンだってないのだから、塩胡椒で味付けは決定だ。
味気ないスープになりそうだが、その分工程は楽だ。皮剥いて塩胡椒して煮込めば終わる。まぁこんなものか。
俺はパッとジャガイモの皮を剥き、火の入りやすいサイズに切ってポットに入れ、ニンジンとカブも同様だ。レタスは出来上がるちょっと前に入れて食感を活かそう。
合間に使った道具を洗いながら、適当なレタスも投擲して待つこと二十分、多分出来上がっている。
ポットの蓋を開けると、白い湯気と共に野菜と塩の優しい香りが俺の顔を覆う。
これは案外上手くいったのかもしれない。俺は皿二つにスープをよそってスプーンと共に食堂へと向かう。
男は少々期待している顔で俺のことを待ち受ける。
「期待は捨ててくれと言ったはずだ。塩味の野菜スープに求めすぎるでない」
そう言って彼の前にスープと皿を置く。その向かいに俺の物も置き、座った。
「いただこう」
別に誰に言おうとしたわけではないが、つい習慣ででてしまう。まぁ良いか。どうやら彼も不思議がってなさそうだし。
俺はスープをスプーンで掬って、口に入れた。真先に来るのは優しい野菜の甘さ。大元の塩が甘さを引き立たせているのだろう。優しい味に温かい温度が俺の口内を和ませる。少しばかり胡椒がスパイシーな風味で飽きにくくする。悪くない。いや、これはこれで良い。野菜もいい感じに崩れ、特にレタスはスープを多く含んでヒタヒタだ。噛むたびにスープの風味が口の中を踊る。いいじゃないか、いいじゃないか。これだよ。豪華なコース料理もいいが、こういうのでいいんだよ。スープがグングン進む。うぉおん。今の俺はまるで、人間水力発電所だ。
俺がそうやってある程度満足していると、そういえば評価者がいることに気づく。そう思って俺は彼に顔を向ける。彼の顔も口角が少し緩んでいる。悪くないのであろうか。
「お味の方はいかがで、シェフ?」
「美味しいですよ。ベースに敷かれている塩が邪魔することなく、野菜を引き立たせていて、胡椒の辛さも丁度良く、次の一口を呼ばせます。野菜も口の中で柔らかく解れて、レタスもいい感じにスープを含んでいる。素朴ですが、それがまたいい。体の芯に届く、優しい味です」
わお。かなり評価が良さそうではないか。なんか照れるな。彼の顔も気持ちよく解れ、優しい顔になっている。
「それは何よりで」
そうやってスープを食べ終え、皿を洗って後始末をした。最後にエプロンを彼に返す。
「色々辱い」
「いえ、大丈夫ですよ。良いスープも頂きましたから」
「そうか」
「そういえば、食堂はご利用なされないんですか?」
俺は返答に困った。不味そうだから、っていうべきか?彼は恐らく学食担当だからあそこの料理には関与していないと思うが、少しばかり考えてしまう。でも、黙っていても仕方がない。俺は率直に告げることにした。
「すまないが、あそこの料理はとてもではないが、美味しそうではなかった。食べている人の表情も、ちょっと」
そう言うと、彼は納得したような顔になった。
「あぁー、それは、すみません。今あそこ人が足りないんですよ」
「人が足りない?それは何故だ」
話を聞くと、どうやら寮食堂の料理人達の多くがあたったたらしい。賄いに出したクリームパスタのクリームが原因とのこと。それで人が足りなくなり、飛ばしながら仕事をしていると。
「情けない話ですよ、料理人が食中毒なんて」
全くもってそうだ。俺だって食うものはよく確認する(尚、土がついている虫害だらけの大根をそのまま食べていた高校時代)。
「まぁ、補充もすぐ来ますから、後少しだけ経つと大丈夫です」
「ならば良いのだが」
きっと普段は悪くない料理を出すのだろう。
「取り敢えず感謝する、その」
「あぁ、ハンスです。ハンス・マルクスです。大丈夫ですよ。使ってない時に、またここを使ってください、えっと」
「ゲルハルト・フォン・レットウ=フォルベック、騎兵担当教授だ」
俺がそういうと、彼は少し何故だか固まってしまう。
「…フォン?」
「あぁ。これでも貴族だ」
今度は尚固まった。おいおい、折角の爽やか顔面が台無しではないか。
すると、彼はそのまま一歩身をひき、猛スピードで片膝をついて顔を床に着ける勢いで頭を下げた
「申し訳ございませんでした!」
そしてまぁでかい声でそんなことを言う。うるさ。
新人賞の準備します・・・
マジで続きません・・・