もはや何番煎じかもわからぬオーブ指導者層転生物 作:シチシチ
「イサリ様、入港いたします」
「えぇ、最後まで、よしなに願います」
ヘリオポリス。
オーブ連合首長国が保有する資源衛星コロニー。
暗い宇宙を背景に、尾部を小惑星に接続された巨大な円筒形のコロニーがゆっくりと回転している。
L3宙域に浮かぶそれは小国にして島国のオーブにとっての貴重な鉱石資源の自活手段であり、拠点である。そのため、コロニーそのものは国有だが、中央シャフトと接続された資源衛星の大半は、国内最大の企業であるモルゲンレーテ社の工場区が占め、地表部には工業大学のカレッジや居住区が広がる。コロニーの就航部から見える姿は学園都市の模型と言われても通じるだろう。
そんなヘリオポリスへ向け、オーブ船籍の中型クルーザーが一隻、頂部ベイエリアへの接舷軌道を進んでいた。
船体には社章が描かれ、目立つカラーリングが所々に施される。発されているのも民間の船舶識別信号。実際、この船はモルゲンレーテ社が運用する長距離資材貨物運搬船であり、表向きは人目を引くような船ではない。
ただし今日に限っては、その船室に、貨物目録へ記載できないV,I,Pが一人いた。
イサリ・マヤ・アスハ。
オーブの意思決定を担う五大氏族、その中心に位置するアスハ家の次期当主と目される一人である。
「これより接舷いたします。下船できるようになるまで、まだ一時間ほどかかります。どうぞ、まだお部屋でお休みください」
「そういうことでしたら、お言葉に甘えます。ここにいて、皆さんのお仕事を邪魔してはいけませんから」
「そのようなことは決して!」
慌てて否定する船員へ、イサリは小さく笑ってみせた。
「お気になさらず。少し意地悪を言いました」
恐縮しきった様子で頭を下げる船員を横目に、床を蹴り、通路部へ身をひるがえす。
すれ違う窓から外のヘリオポリスへ目を向ける。
なぜ、国の重要な立場にある彼女がここを訪れたのか。
なぜ、公式の視察団も護衛艦も伴わず、密入国でもするかのように企業の貨物船へ乗り合わせるという選択をしたのか。
(やだなー。始まっちゃうなー。原作)
これに尽きる。
彼女、イサリ・マヤ・アスハは転生者である。彼女を製造したオーブ連合首長国は別に悪の秘密結社ではないがまぁ類似項くらいではある。
そんな国のトップの姪として生を受けたが、それはつまりこの世界、――『機動戦士ガンダムSEED』とそのシリーズ世界の原作崩壊を生まれたその時から意味していた。
オーブ連合首長国はキャラの所属勢力が二転三転するこの作品群において、主人公陣営が腰を落ち着ける国*1。その理由の一つに登場キャラクター「カガリ・ユラ・アスハ」があるのは間違いない。
彼女はこのオーブという国の意思決定を、司る五大氏族の長*2*3、アスハ家の一粒種であり、作中にて父「ウズミ・ナラ・アスハ」が派手に松永久秀*4して以降は、若くして実質的な国家代表を務め、主人公たちの強力な後ろ盾となった。
そう、一粒種。
「イサリ・ユラ・アスハ」などというキャラクターは原作に存在しない。
五大氏族は特に血筋そのものにこだわりはなく、家を単位としてその存続を図る。そのため各家は優秀な子を見出し養子を迎え、その者へ家督を継がせることが多い。そしてこの世界、人間をトウモロコシよろしく遺伝子的に品種改良した存在「コーディネイター」と従来の「ナチュラル」が旧来の人種的、宗教的差別を脇へ押しやってまでガチ殺し合うほど憎みあっている世界。
まぁ、当然養子を取るとなれば誰しも優秀な子を望むわけで。無事、「遺伝子改変禁止に関する協定」をブッチして各一族が次世代の建造を始めた。
本来の
この世界で違ったのは先行した同じ五大氏族のサハク家に続くようにして、アスハ家も二番手での後継者製造に踏み切ったこと。そして、それをウズミの直接の子ではなく弟ホムラの子としたことである。
所謂家系ロンダリング。平安の世から続く貴族の御家芸である。
実子・妻ともにいないウズミに代わり、弟の作った子、姪を養子として引き取ったとして世間に公表するのがアスハ家としての当初のプランニングであった。いかな五大氏族が実力主義ならぬ能力主義とは言え、血縁があるに越したことはない。姪、というぎりぎりの妥協ラインを養子とすることで名高い”オーブの獅子”としてのネームバリューも受け継がせようとした計画だった。
だが、ここですべてをひっくり返したのが情に厚いウズミ。
先に生まれ、次期当主となる既定路線を歩んでいた子供。
現当主が突如として迎え入れ、長女として戸籍へ登録した子供。
どちらがアスハ家を継ぐのか。
当時のオーブ政界・財政界は、まあ、盛大に混乱した。
そしてそれは当の本人もだった。
(うーん困った。原作どうなるんだこれ?)
周囲が大人同士でわっちゃわっちゃやってる中、渦中の人の、そのまた中の人もわっちゃわっちゃだった。
彼女にはこの世界の、いや、この世界の未来についての知識があった。結果としてこの世界が辿る道とそれがいかに綱渡りの連続であり、破滅を免れたのであったかを。
なんせこの世界大量破壊兵器には事欠かない。基地ごと人間電子レンジ*7*8なんてかわいいもので、地球丸ごとチン♪*9や大都市を、ジュッやスパッ*10といくようなものから最強コンピューターウイルス*11まである。そしてそれらを扱う悪の組織にも事欠かない。
そして、そのすべてに、オーブという国は無関係ではいられない。
アスハ家の当主、すなわち国を代表する首長の座も、大きく関わってくる。自分は生まれながらにしてその座に就くことを望まれ、物心つく頃には同じ座に就くことを望まれた子がもう一人できてしまった。
うんうん悩むこと早3日。kgにも満たない脳酷使した。
そうして最後に行き着いた最終的に行き着いた問題は一つ。選択肢は、二つだった。
(縮こまって原作がなぞられることを祈るか)
(あるいは死ぬ気で飛び込み舵取りするか)
一つ目は、原作頼み。
原作の展開は、現時点でイサリが知るなかでは、最もましな結末へ到達した世界線といえる。自分という異物が混じっていても、どうにか同じ道筋が現実になると祈る。そのためには、本当に邪魔な異物とならないよう、限界まで存在感を消さなければならない。
もう一つは、積極的な介入。
原作では、すべてがうまくいったわけではない。介入すれば、より良い未来へ近づくかもしれないし、逆に悪化させるかもしれない。だが、自分という異物がすでに存在している以上、何もしなくても原作どおりになる保証などない。
ならばいっそ、自分の手で良い結果を引き寄せにいくべきではないか。
選択したのは後者。
(縮こまっていて、もし本当に取り返しのつかない事態となったら、何もできないンナ*12……。気配の無かったボッチが急に声を上げたって誰も動きやしないだろう)
積極的にしろ消極的にしろ介入するには力がいる。何しろこの世界はガンダム。戦争と政争のお話なのだ。身に着けるべき力が武力なのか影響力なのかはまた違った話だが、少なくとも無力で激流に身を任せて同化しているようではこの世界、いざ自ら流れを変えたいとなっても遅いのだ。
故に彼女は決断し、物心ついてからは積極的に動いた。とはいえ、アスハ家の当主を狙っていると思わせるような行動を、積極的に取ったわけではない。彼女が見据えていたのは原作の始まりであり、必要な時期に、必要な場所へ影響を及ぼせる立場を確保することだった。
選んだのは工学系。オーブという国の原作での立ち位置は技術立国。関連するエピソードもまた技術的な関わりが大きい。
軍部に進むという道もあった。原作カガリのように士官学校へ進み*13、軍部に影響力を持つという選択。しかし、それでは力を及ぼせる範囲がオーブ国内に限定される。
何より、一つ年下の妹と同じ道を歩くことになる。
カガリは遺伝子調整を受けていないナチュラルだ。真正面から同じ土俵で競えば、一国のトップとなることを目的に最初から作られた、この女体化キング・ブラッドレイ(偽)*14に軍配が上がる可能性が高い。
そしてイサリは、ぶっちゃけ国のトップになど、そんなになりたくなかった。できることなら、なるべくなりたくない。
自由もプライバシーもない生活が、生後数か月だけで終わるならまだ耐えられる。大人になった後まで続くのは、断固として御免だった。彼女の性根は小市民で培われているのだった。
ここに、積極的介入の意思決定とその第一号である「原作に積極的に介入できる影響力を確保しつつ、将来的な国のトップはカガリへ押しつける案」がイサリ脳内議事堂で満場一致での可決を得たのだった。
物心ついて以降、カガリとは机を並べ、多くを学んだ。ただし、姉妹の距離は微妙に距離感のある間柄だった。直情的な性格の彼女にはどうにもついていけないところがあり、どうしても一歩引いたところから眺める、眺めてしまう。
周囲の大人たちはイサリの成長が早いからだと好意的に解釈するが、いい年して子供らしく振舞えないだけでもあった。互いに自意識の確かになる歳のころにはカガリはオーブ軍士官学校へ自分は工学系に強い国立大学へ。
イサリが積極的に動き出したのはこの頃。望まれた進路をたどりつつ、足を延ばして別学部の教室を冷かしては教授と面談、面会、を繰り返し話した内容を父ホムラへキラーパス*15。そうして引き出した予算や、解決した事情でもって恩を売り、いろいろな方面へと顔を売って回っていた。
そうして時が経ちC.E.70年。
無事に原作、というか戦争はスタート。スナック感覚で人が死にまくりシティ。開戦4か月ちょっとで地球人口の1割10億人が餓死・凍死。戦死がその他でくくられるレベル。コーディネイターの国家(未承認)・プラント*16は独立を宣言と同時に地球連合に対して徹底抗戦を宣告。宇宙でぽこじゃが人が死んだかと思えば今度は地上でドンパチ派手にやるときた。
あまりの国力差*17に誰しもが秒で鎮圧されて終わると考えた戦いが続いているのはプラント側が打ち出したモビルスーツなる人型機動兵器とニュートロンジャマーの二本柱があったから。少なくとも連合は2度の戦いに第一~第三艦隊と第五、第六艦隊を投じたが敗戦しているくらいに無法な強さをしている。
ニュートロンジャマーの方は当時の主要エネルギー源である原子力が使えなくなるもので、地上のエネルギー施設が軒並み死に絶えた。1割が餓死・凍死の原因。副次効果で電波の阻害効果も持ち、通信、レーダーに障害が生じる。これも相まって核兵器と長距離探知、誘導を封じられた連合は近接先頭を強いられモビルスーツにそれはもうぼっこぼこにされた。
そうした姿を見たことで、無事、オーブ国内にもこのままでいいのか、どげんかせんといかんの意見が有識者*18と有識者(笑)*19の間で沸き上がり始めた。
その結果、軍事を担当する五大氏族サハク家と、オブザーバーとして加わったイサリ・マヤ・アスハの主導により、一つの計画が動き出した。
国家元首であるウズミには極秘。
国内最大の企業モルゲンレーテ社と、特に同盟関係でもない地球連合軍部による共同開発。
モビルスーツ開発計画――通称「G計画」。
なお、この直前にウズミは全世界に対してオーブはいかなる事態でも中立であることを貫くと宣言している。その一方、ヘリオポリスでは何も知らない学生や一般人の足元や頭上で戦争当事国の最新秘密兵器を建造している。おまけで地球連合軍の技術を盗用して自分たち用の機体も作っている。*20
イカれてんのかこの世界。イカれてたねこの世界。
窓の向こうで、ヘリオポリスが少しずつ近づいてくる。
接舷誘導灯が等間隔に明滅し、クルーザーの船体へ微かな振動が伝わり始めた。ガントリーロックに船体が接続された揺れだ。
イサリは、これから原作の始点へ降り立つ。
自分が介入を選んだ結果を確かめるには、もう逃げ場のない距離だった。
内心のどんよりを顔に出さないよう、いつか独裁者になるような血筋の者フェイスを引き締め、小市民メンタルを押し込める。
イサリ・マヤ・アスハは自分の見の保身の為にコズミックイラの脅威と戦うのだ!
プラント人口:二千万~三千万人。
イサリ・ユラ・アスハ
オーブ連合首長国代表ウズミ・ナラ・アスハの弟、ホムラの子
年齢:17歳(C.E.70時)
誕生日:C.E.53年12月31日
人種:コーディネイター
容姿:金髪薄紫目
ほっぺがもちもちしている
どこかの偽連邦生徒会長似
出身地:オノゴロ島先端生殖医療研究センター・特別管理区画8号培養槽
最終学歴:オーブ国立工科大学工学部・機械知能システム学科宇宙機システム工学専攻
自分が世界の遺物であるという自認があるが、この世界で生きるつもりではあるため、自身に危害を加えうる事象への対処が目的。
でもあんまり責任を負う者にはなりたくないのでうまいことフェードアウトしてそこそこのポストに落ち着きたい俗物。
白い服とベレー帽を好んで着用する。
やる気があったら更新されます。