もはや何番煎じかもわからぬオーブ指導者層転生物   作:シチシチ

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C.E.71年2月13日 低軌道会戦・2

第六話

 

「往還船からの誘導信号を確認。収容区画へ入ります!固定用意ッ!」

 

 ランチが機首を返す。

 船体が震え、オーブ往還船の開放式格納区画へ滑り込んだ。直陸脚をアームが挟んで固定、乗員がケーブルをランチにかけ、テンションをかける。船体が固定された。

 

 固定装置がランチを掴んだ瞬間、私は安全帯を外していた。

 

「私の発艦後、避難民の誘導をお願いします。私はP05へ行きます」

 

「お気をつけて!」

 

「ええ。そちらも」

 

 ランチのハッチを蹴り、P05のコックピットへ急ぐ。ノーマルスーツを着込む時間はない。白の礼服のまま、体を滑り込ませる。見た目を整えている時間はない。

 

 もとより機体は起動直前まで準備させてあった。

 座席へ身体を収め、起動手順を進める。OSの起動画面が表示され、同時に神経の接続を確認する。モニターへ格納区画の景色が映り、機体各部の状態が次々と表示された。

 

 訓練二百時間。実戦経験は、ゼロ。

 数字にすると、いよいよ頼りないな。恐怖か、あるいは高揚からか、口角だけが吊り上がるのを感じる。

 ぎゅっと左右の二の腕を握り締め、体を丸める。フゥ、っと息を吐くことで気持ちを切り替える。行こう。

 

「P05、出します!」

 

 ペダルを踏み込む。

 ランチを格納するべく開放されていた天面からそのまま機体を覗かせる。

 脚部が往還船を離れ、地球を背にした戦場へと飛び出した。

 

 ランチと入れ違いで、すでに展開していたブルーフレームとジンが、こちらの前へ出る。

 

《すぐにでも仕掛けてくるぞ。やるならば急ぐことだ》

 

「承知しました。往還船メラルバへ、想定パターンBの1。道中で放出済みの衛星と接続を確立。往還船のアンテナと時間を合わせ、予定した角度で電離層へ放送波を入れる用意を。アメノミハシラと月面への送信記録もお願いします」

 

 私は外部通信の出力を上げた。

 連合、ザフトの双方へ届くよう国際救難チャンネルを開く。往還船のアンテナも用い、少しでも遠くへ。

 地表向けの放送は別だ。ここまでの道中、予定した位置で一基ずつ放出してきた中継衛星が、往還船のアンテナと時間を合わせて同じ短波を送る。大気圏突入直前の高度から、電離層へ浅い角度で入った電波は、反射と屈折を繰り返しながら地球の丸みに沿って広がっていく。

 確認信号を送信。放出済みの衛星、往還船、アメノミハシラ。すべてからの返信を確認する。

 

 一度、息を吸った。手を胸元で握り、意を固め、口を、開く。

 

《本戦域に存在する全艦艇、全機へ告げる。こちらはオーブ連合首長国、イサリ・マヤ・アスハである》

 

《現在、オーブ船籍の地球往還船は、崩壊したヘリオポリスから救出された民間避難民の収容作業中である》

 

《──彼らは、ザフト軍の襲撃に端を発するヘリオポリス崩壊で故郷を失った、オーブ国民です》

 

《地球連合軍、ザフト軍の双方へ要求する》

 

《貴兄らの航行を妨げる意図はない。当該往還船がオーブへの降下を終えるまで、本戦域における攻撃を停止されたし》

 

《本通信は、放出済みの衛星と往還船を介し全域へ向けて送信中です。本戦域の観測記録は、すでにアメノミハシラを介し、オーブ本国および月面関係各所へ送信しています》

 

《繰り返す──》

 

 3度の放送を終え、私は操縦桿を握り直した。

 

 よーし。よしよしよし。言うだけは言ったぞ。言ってやったぞ。

 

 あとは、戦争中の軍人が人の話を聞くという、いささか難易度の高い工程が残っているが。

 

《こちら地球連合軍第八艦隊司令、デュエイン・ハルバートン。オーブの要求を受諾する。全艦、発砲を禁ずる》

 

 連合側からの回答は早かった。

 

 さすがは智将のあだ名を持つ男。

 当然といえば当然だ。攻撃を止めたままでも、艦は動かせる。アークエンジェルは降下でき、第八艦隊はその周囲を固められる。とはいえ、それを即座に判断できる柔軟性を持つ軍人は希少だ。

 

 ザフト側からの回答はない。

 

 代わりに、発進済みだった敵機の動きが戦域までの途上にて突如その行き足を止めた。

 

          * * *

 

 ナスカ級ヴェサリウスの艦橋でも、イサリの声は三度、同じ文言を告げていた。

 

 クルーゼは二度目の放送を聞き終える前に、付け加えられた意味を理解していた。

 

「第1陣に現位置での待機を命じろ。武器の使用も禁ずる。第2陣は発進中止だ。――してやられたな」

 

「はっ。――しかし隊長、オーブの要求に従うのですか。このままでは、足付きの降下を許すことになります」

 

 アデスが答え、すぐに問い返す。

 

「従うのではない。今は撃てんのだよ、アデス」

 

 クルーゼの声に焦りはない。仮面の奥の視線は、正面の戦況表示から動かなかった。

 

「この放送は、双方の艦隊内だけへ送られているのではない。救難周波数で周囲へ流す一方、衛星やアメノミハシラだけでなく、地表へも同じ短波が送られている」

 

 戦況図の脇に、オーブ側の送信経路が推定表示される。

 往還船から近傍艦隊へ広がる救難周波数。

 さらに、航路上へ放出された衛星と往還船のアンテナから、同じ短波が一斉に電離層へ送られている。送信地点ごとに角度を変えた電波は、電離層で反射と屈折を繰り返し、互いの届かない地域を補いながら地球の丸みに沿って広がっていた。

 

 既存の通信網を借りただけではない。大気圏突入直前の高度、短波帯、電離層へ入る浅い角度。その条件を揃えるため、オーブ側はここまで衛星を放出し、往還船のアンテナを用いて実現していた。

 一つの中継先を塞げば止まる放送ではない。すでに複数の地点から電離層へ入った音声を、地球各地の受信点が相次いで捉え始めていることだろう。アメノミハシラ経由の回線にも、その事実を裏づける受信報告が集まり始めていた。

 

「であれば、こちらからも声明を出さねば――」

 

「できれば、な。そうしたいところだとも」

 

 クルーゼは、複数の衛星から電離層へ入り、地球の向こう側へ回り込む推定経路を指した。

 

「こちらから近傍へ反論することはできる。だが、あれと同じ広がりは再現できん。放出された衛星はオーブが管制している。我々は利用できず、第八艦隊よりも地球から遠い上、自ら展開したニュートロンジャマーの影響下にいる。同じ条件で電離層へ放送波を入れるには、連合艦隊を越えて大気圏突入直前の位置まで出て、同じように送信点を並べねばならん。届く範囲で異議を唱えたところで、すでに地球中へ回った放送へ追いつけはせんよ」

 

「では、ニュートロンジャマーの出力を落とし、長距離通信を回復させれば……」

 

「こちらの通信は届きやすくなる。だが、送信点も位置も足りん。その上、連合のレーダーと誘導兵器にも精度を返すことになる。この距離で試すには、代償が大きすぎる」

 

 アデスは画面に目を戻した。オーブの往還船、第八艦隊、その向こうで降下の準備を進める足付きが、同じ状況図にある。

 

「今ここで攻撃すれば、地球が先に知るのは、ザフトがヘリオポリスからの避難民を載せたオーブ船の降下を承知しながら、その航路で戦闘を始めたというやつらの主張する事実だ。オーブは中立国で、プラントとの関係もまだ切れてはいない。その上、こちらの説明だけが届かないとなれば、オーブの主張を吹き消すことはできん」

 

「……ここで撃てば、我々の攻撃が、オーブの主張を証明することに」

 

「そういうことだ」

 

 クルーゼは背もたれに身を預けた。

 オーブはヘリオポリス崩壊の事実を報じたのみでまだ、詳細についてを発表していない。その状況でこの放送だ。ヘリオポリス崩壊の要因について、ザフトの襲撃が前面に出され、G計画についてを覆い隠せはしないまでも印象操作はされかねない。ザフトの国際的立場を弱めるようなことになれば、処罰が下りかねない。

 

「やむをえん。こちらから回答は送らん。だが、第1陣の待機と第2陣の発進中止を徹底させろ。距離は離させるな。すでに発進した機体も、その場で待機だ」

 

「はっ」

 

 アデスが命令を復唱する。クルーゼは、地球へ向けて流れ続けるオーブの放送に、ほんのわずかに首を傾けた。

 

「中立とは時に艦隊よりも厳介な盾になるものらしい。ゲームに参加もせぬままにチリと消える存在と思っていたが……厄介なことだ。いっそのことシナリオに組み入れるべきかね?」

 

          * * *

 

 その機体のコックピットへ、イサリの声は届いていなかった。

 

 機体はローラシア級ガモフの発進区画にあり、この時、パイロットのイザーク・ジュールが受信していたのは艦内のモビルスーツの取り回しを指揮する管制用回線だけである。

 

 彼は一つ前の、キラのストライクとの戦闘で負傷し、顔についた傷はいまだ治りきっていない。

 ゆえに彼と彼の機体は今回の出撃表に含まれてはおらず、修理も兼ねた改修作業が行われた直後だった。

 

 

 医務室から飛び出し、苦痛にやつれた顔で衛生兵を振り払い、熱を持つ傷を抑えながらイザークは自機であるX-102デュエルへ乗り込んだ。第2陣へ加わるつもりで発進準備を進めるよう整備士に怒鳴りつけたところ、驚いた管制官からは制止される。それをはねつけた彼は、勢いのまま、その通信を切っていた。

 

《第2陣、発進中止。繰り返す、全機発進を中止せよ。発進済みの機体は現位置で待機》

 

「何だと!?」

 

 いまだ閉じられていないコックピットハッチから飛び込んだ全艦放送のみが、彼の知り得た情報であった。

 

 理由の説明はない。皆が聞いていたであろう通信をわざわざ解説するような真似をするほど暇なものはいなかったから。

 

 激情のまま、睨むようにモニターへと目をやれば、デュエルのカメラアイを介し、外に展開する第八艦隊の姿がズームされる。すでに前方、ローラシア級の発進口越しに、地球を背に降下姿勢へ移ろうとするアークエンジェル――イザークたちが足つきと呼ぶ白い艦――が見て取れた。

 それほどまでに近く、手が届きそうなところにありながら、その手をすり抜けようとしている。

 

「ふざけるなァ! 俺は出る!」

 

《イザーク、待て! 今は命令に従え!》

 

 制止の声を聞き入れず、機体を歩ませる。その姿に咄嗟にマイクを取った艦長ゼルマンの声が格納庫に響く。

 

 発進作業が完全に止められる前に、イザークはコックピットハッチを閉じた。本来誘導を受けて動かすべき機体を無断で発進口へ向けて正対させる。

 給電ケーブルをパージ。

 開いていた発進口から艦を蹴ることで宇宙へ飛び出し、ある程度離れたところで推力を最大まで上げる。

 

 加速した機体は燃焼した推進剤の尾を引き飛翔する。道中、先発し待機へ移ろうとしていたアスランのイージスやジンからなる第1陣を追い越す。

 

 目標は、アークエンジェル。

 

「この傷の礼はさせて貰う……ッ、ストライクのパイロットォ!!」

 

          * * *

 

 第八艦隊前方に展開していたメビウスの一機が、接近するモビルスーツを捉えた。

 

 攻撃停止要求は彼を含めた敵味方の全軍へ届いているはずだ。現にほかの機体は足を止めた。

 だが、白と青のモビルスーツだけは速度を落とさない。真正面から突っ込んでくる。

 

《く、来るな……来るな!》

 

 いかな第八艦隊と言えども、開戦以来の各艦隊の損耗は著しい。その穴を埋めるため、艦もパイロットも各地からかき集められ、そして死んでいった。

 補充されたのはいずれも実戦経験など望むべくもないひよっこたち。

 

 警告信号を送っても、通信で呼びかけても、デュエルは止まらなかった。

 

 接近するモビルスーツ。伝え聞くその強さからくる恐怖に、彼は耐えられなかった。

 接近するデュエルを捉えた一機のメビウス。そのパイロットは恐慌のまま操縦桿を握り込み、引き金を引いた。

 

 発射されるミサイル。

 炸裂。

 

 静止したはずの戦線上に、大輪の花が炸く。

 

 それを攻撃開始の合図と誤認したかのように、周囲のメビウスも続いて攻撃を開始した。

 

《前衛、発砲!》

《ザフト機、突入してきます!》

《各艦、迎撃準備!》

 

 オペレーターの報告に、ハルバートン提督の判断は迅速だった。黙って通すという選択はない。

「各艦、迎撃! 撃て!」

 

 第八艦隊の砲口が一斉に光る。

 

 発砲を控え、命令を待っていたザフトの第1陣の他機にもまた同じようにミサイルと砲撃が降り注ぐ。

 

《ナチュラルどもが撃ったぞ!》

《ふざけるな、反撃しろ!》

 

 咄嗟に回避したザフト側の機体も、一斉に武器を構え突撃の姿勢をとる。

 

 一機の強行出撃と、一人の恐慌。

 

 それだけで、止まりかけていたはずの戦争は、いともたやすく動き出した。

 

          * * *

 

《前衛、発砲! 続いて艦隊各艦が射撃を開始!》

 

「ザフト側、反撃してきます!」

 

 アークエンジェルの艦橋が、一息に戦闘のものへ切り替わった。

 

 艦長席に座るマリューは上部正面のモニターを見つめた。

 各艦がレーダー、あるいはカメラで捉えた敵機の位置を反映した戦況図。ザフトのモビルスーツの動きは第八艦隊各艦への攻撃以外の意図を感じさせた。それぞれの艦にとりつくのではない。一点突破。殲滅ではなく艦隊を抜けようとしている。

 

 その先にいるのは、アークエンジェル。

 

「ハルバートン提督。敵の目標は本艦です」

 

《こちらでも確認している》

 

「本艦が戦列に残れば、第八艦隊への攻撃は止まりません。予定を繰り上げ、降下を強行します!」

 

 状況も相まって、第八艦隊旗艦メネラオスとアークエンジェルの間には回線を開いたままであった。

 

 もとより、アラスカ基地への降下は予定されていた。降下開始前にザフトの追撃を受け、そこへオーブ側の介入による猶予が生まれた時点で、この間にアークエンジェルを降下させてしまおうと、ハルバートン提督とはすでに協議していたのだ。

 同時に、往還船から出てきた3機のモビルスーツについても協議していた。カスタムされたジンはともかく、残る2機はGに酷似している。ザフトが実用化する前の小型ビーム兵器を標準装備し、同型の対ビームシールドまで備えていることから、マリューやホフマン大佐も疑義を呈した。ハルバートンだけが、青いフレームの機体に刻まれたマーキングを見て「噂の……」とこぼしたのであった。

 

 ゆえに、戦場の変化に際して即座に連絡を取ることが可能であり、咄嗟につかんだ通話機に向け、彼女の口から出たのは許可を求める言葉ではなかった。

 ザフトがアークエンジェルを追うなら、戦場そのものを地球へ向けて引き離す他ない。そうこうしているうちにも、前衛の艦にはすでに被害が出ている。

 

《分かった。君たちは地球へ降りろ。後ろは第八艦隊が引き受ける》

 

「ありがとうございます」

 

《メネラオスより各艦コントロール! 本艦隊はこれより、大気圏突入限界点までのアークエンジェル援護のための防衛ラインを構築……》

 

 アークエンジェルが艦首を地球へ向ける。

 

 その動きを、ザフト側も見逃さなかった。

 

          * * *

 

「足つきが降下を始めます!」

 

「逃がすな!」

 

 ヴェサリウスの艦橋で、ラウ・ル・クルーゼは即座に命じた。

 

「何としても撃沈しろ。全機、攻撃を中央に集中。左右の露払いにガモフ、ツィーグラーを前へ出せ。艦砲で対応しろ」

 

「しかし、オーブ船が近くにいます!」

 

「照準を誤らなければいい。連合との偶発的戦闘で言い訳をつけるさ。足つきを地球へ降ろしてしまえば、我々は何のためにここまで追ってきたのか分からんぞ」

 

 中立国への配慮によって生まれた迷いは、連合側からの発砲で消えていた。

 

 ザフトの各機が、一斉に加速する。

 

 先ほどまでの静止が嘘だったかのように、入り乱れた戦場で第八艦隊の迎撃ラインへ機体が殺到した。イージスとブリッツは左右から迎撃を受け、中央への進路を阻まれる。

 

 デュエル。

 バスター。

 さらにジンが二機。

 

 抵抗むなしく、この四機が第八艦隊の前衛を抜けた。

 

 同時に、ローラシア級ガモフが連合左翼からの砲火を受けながら前進する。艦長ゼルマンは、もはやいくばくの猶予もないと判断。艦首をメネラオスへ向け、モビルスーツの後を追うように艦隊中央へ突入していった。

 

 のちに低軌道会戦とうたわれる戦い、その第二幕が始まる。

 




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