もはや何番煎じかもわからぬオーブ指導者層転生物 作:シチシチ
水中用モビルスーツへ反撃できる戦力を持つ。少なくとも、その必要性について会議室から異論は上がらなかった。
当初のオーブ軍の想定では戦闘領域を絞るという発想があったのは事実だ。しかし、議論を重ねるなかで警戒海域の広すぎる海中は切り捨て、戦場を地上に絞ろうという案が支持を得た。
私の考えは違う。
反撃の目があるというだけでも相手の戦力を拘束できる。現状の主敵と見定められているザフト*1の地上における戦力投射方法が宇宙からの空挺降下と潜水艦からの強襲であることを勘案するべきなのだ。オーブを攻撃した場合、彼らには勝利しての占領かモビルスーツをある程度捨てての潜水艦での人員退避の2択しかない*2。逆説的にこの潜水艦に損害を与えられる兵器の存在はザフトに対する強力な抑止力となる。
構想についてがまとめられる中で、海軍から参加していた者たちもそれに賛同した。
「少なくとも、港湾と島嶼間の水道を守れる機体は必須です。敵の上陸地点足りえる場所を無防備にはできない。」
「敵水中機の位置を確認し、足止めできれば、艦艇や航空隊を潜水艦等敵の母艦攻撃へ加われますぞ」
「ならば、この新型にはまず水中戦へ対応できることが必要になるわね。何か考えているの?」
エリカさんの問いに、私は頷きヘリオポリスから持ち帰った資料ファイルを開く。
例として表示したのは私のP05。プロトアストレイの全身へ、装備が付加されている。目立つのは脚部と背面。脛部の露出したフレーム部を覆うような増加装甲。そこと腕部側面に十字の板状パーツを装備。背部には機体全長とほぼ同サイズの大型推進器を背負う。頭部のセンサーには半透明のカバーが備えられる。
並べて表示された装備にはシールドがなく、ビームライフルに代わって、銃身部に6本の魚雷を備えた銃が表示されている。
「シミュレーション用のデータに残っていた、水中装備スケイル・システムです*3」
「腕部と脚部のこれは......、増加装甲か?」
「これ自体が一種の推進器、姿勢制御スラスターのようなものです。装甲表面へ並べた微細な鱗状部品を動かして推進力を生じます。これにより大きなスクリューだけで進むより、姿勢制御と急な方向転換に向いています。直立した状態で上下左右へ泳ぐことが可能となっています」
解説を、ヘリオポリスから脱した技術者へと引き継ぐ。
原作ではP03 ブルーフレームのメインコンピュータへと乗せることで脱出させたそれ。*4
エリカさんが映像を止め、機体内部の配線図へ切り替えた。
「これはM1への後付け、では済まないわね。ここまで全身に付けることは考慮していない*5。背部のジャンプユニット用プラグだけでは足りないし、全身の配線と接続部を最初から引き直す必要があるわ」
「それに、ここまで取り付け箇所が増えると、もうストライカーシステムとは呼べないのでは?」
別の設計者が口を挟む。
X105 ストライクへ装備されたストライカーシステムは背部と両肩の追加装備でもって複数の戦闘スタイルを切り替える。全身の装備後付けや必要に応じた頭部や四肢の交換はむしろプロトアストレイにて技術実証試験がされていた方式と言える。
「いいえ、背面の接続規格を合わせたいので」
「権利関係を避けるのにオーブ独自の規格にするわよ?」
「でしたら、変換器を介してでも既存のストライカー装備へ対応できるようにしてください。特に、ランチャーストライカーの配備を陸軍にて進めたいので」
「ランチャーストライカー?」
ミヤビが首を傾げる横で、エリカさんは数秒考え込んだ。
「……なるほど。侵攻用としては取り回しが悪いけれど、防衛用なら使い道は多いわね。山岳部の発電、変電設備から給電し、要所で撃ち下ろすだけでも、移動砲台にはなるわね」
「本体の電池を消費せずに撃てるなら、射程、火力も相まって突破は容易ならざるものとなるでしょう。国土を守る戦いで、国内の電力網を使わない手はありません」
まるで要塞だ、と誰かが呟いた。
そう。オーブは、攻める側と同じ条件で戦う必要がない。
工場も、発電所も、地形も、準備する時間さえも、使えるものは使えばいい。
なにせ自国領土とはホームグラウンドであることを意味する。装備と配置を事前に把握しておけば、その弊害となる地形や障害物についても把握と対策を事前に進めて置ける。
ましてAQM/E-X03ランチャーストライカ―へ装備された320㎜超高インパルス砲『アグニ』ならば、多少の障害物や量産型モビルスーツが持てる程度のシールドなど瞬間的に溶融、貫通させることができる。射程においても優越することから複数期の組織的運用の前には反撃もままならないだろう。*6
「いったんまとめましょう」
エリカさんが立ち上がり、壁面のホワイトボードへこれまでに上がった要求を並べていく。
一つ。基本となる機体は、装備の交換によって複数の戦域へ対応できること。
二つ。全身に追加装備を搭載できる配線と接続部を持つこと。
三つ。背面・肩部は独自規格としつつ、変換器によって既存のストライカー装備を利用できる余地を残すこと。
四つ。少なくともオーブ沿岸で、敵の水中用モビルスーツを拒止できることを念頭に全領域対応の本体とすること。
「これ、例の強みについては?」
ホワイトボードに書きつらねられている文字を見て、ミヤビが口を開く。
「それを探すための会議でもあるんです」
「つまり、まだないのね」
「ないものをあるように発表したのは、つい数時間前に十分にやりましたから」
ミヤビの冷たい視線を受け流す。目逸らし目逸らし。
エリカさんが深いため息をついたのを背中で聞く。
「明日、もう一度検討の場を設けます。今日は各部署へ持ち帰って、担当ごとに資料を集めて。完成した案にまでまとめる必要はないわ」
その言葉を聞いた技術者たちは、そろって微妙な顔をしてぞろぞろと会議室を出て行った。
部屋に残ったのは私とミヤビ、エリカさんのみとなる。
「ああ言っても、どの部署も明日までにまとまった資料にしてくるんでしょうね」
「徹夜してでも、でしょうね」
「あー、地獄だわ。いや、今のオーブはどこもこんな感じか……」
誰かの呟きへ、今度は誰も笑わなかった。
誠に申し訳ない。
上半期の賞与について、財務へ相談しておこう。
* * *
翌日。
会議室には、昨日より多くの資料が集まっていたが、昨日よりも生気は少なくなっていた。
案の定、それぞれの部署の担当者は睡眠時間まで資料へ変換してきたらしい。
政治家の無茶振りに真面目で応える技術者の鑑であるおお、彼らこそ国を支える真の柱。後世の教科書に載せてあげたい。これも技術史みたいな感じでまとめておくか。
なお、当の政治家である私も仕事が増えたせいで碌に寝ていない。
悲しいことに、私が同情してもらえる気配はなかった。
「これといった強みがでない、か」
エリカさんが、提出された報告を机へ置いた。
「汎用性は上がっています。想定した戦域ごとに装備を交換できる。機体そのものの設計にも余裕を持たせたれば、将来の改修にも対応しやすい」
「でも、それは直接の戦闘力ではないわけでして」
「ええ。何でもできるけれど、何をさせても専用機には届かない。新しい量産機の開発へ踏み切らせるには、どうにも今一つ何かが足りません」
特に問題となったのが、水中戦のシミュレート結果だった。
画面の中で、一日ででっち上げられたP05 スケイル・システムが海へ還っていく。
装甲の末端からベコベコとへこんでいき、ついには突如上半身からぺしゃんこになり爆散。ここ数時間で見慣れた光景となった。
入力値を操作するコンソールの前にいた社員が重い息を吐き、天井を見上げる。眉間を揉んでいるが、全身から疲労の色が見える。
耐圧シミュレートの結果から、今度は戦闘シミュレーションデータに再生内容を移す。写真や映像資料から推定された、既存の水中兵器を相手にした戦闘シミュレーション。
全身のスケイルが振動し、姿勢を保つ。停止状態からの加速も、旋回も、AMBACとスラスターからの噴射だけに頼るプロトアストレイやM1よりよほど速い。
初めに想定していた浅海域での戦闘成績は悪くない。
むしろ、良い。
問題は、戦闘が浅いところだけで終わってくれないであろうことだった。
「この国の周り、こんなに深かったのね」
ミヤビが海底地形図を見ながら言う。
「島の斜面に沿っていくだけで、1000メートル級まで落ち込む場所もあります。島と島の間でも200から500。海岸から150メートル概要へ離れただけで、もう海底へ足をつけられない場所もある*7」
シミュレーション担当者が、地形図へ機体の限界線を重ねた。
「プロトアストレイの基本構造では、戦闘行動を保証できるのは水深20から40メートル程度と見ています。それも、水没後にC整備相当の整備を行う前提の一度きりです。繰り返し運用はできません。50~70mも沈めばろくに動けんでしょう。完全な圧壊はその倍程度でしょうが、その前に乗員は死んでますね」
「スケイル・システムを付けても?」
「あれは推進装置であって、付けても機体が水圧に強くなるわけではありませんから……」
水深が増すほど、機体の外側からかかる圧力は大きくなる。
宇宙空間で必要となる気密は、内側の空気を外へ逃がさないためのものだ。水中では反対に、外から押し潰そうとする力へ耐えなければならない。
しかも、スケイル・システムは水中では止まっているだけでも電力を消費する。水中専用機や潜水艦のようなバラストタンクを追加装備だけでは十分な容積で確保できない以上、緊急用の展開式フロートがせいぜいだ。*8
海底へ足をつけられなければ、推進力で深度を維持し続けなければならない。被弾するまでもなく、バッテリーが切れれば沈む。沈めば圧力が増し、故障して浮上できない機体は、場所次第でそのまま乗員ごと潰されかねない。
「さすがに、これは出せんぞ……」
海軍側の担当者が首を振った。
「かといって、水中専用機を一から設計する余裕も、生産する余裕もありませんよ……」
「初期の構想から覆すことになるしな」
「ザフト機は、どの程度まで潜れるのです?」
私の問いに、情報部から回された資料が表示された。
「正確な数字は不明です。ジンの水中用改修機は、100メートル前後まで行動できるという推定があります。専用機のグーン*9はそれ以上、形状から水圧にはかなり強いでしょうな。先日公開されたゾノ*10も、グーンを下回るとは考えにくいでしょう」
「母艦のボズゴロフ級*11は?」
「あれも大概無茶な艦ですよ*12。船体構造と目撃情報から、シミュレーション部では300メートル前後をひとまずの運用深度と置いています。ただし、再三言いますがいずれも推定です」
「グーンの外形経常シミュレートは500前後でも活動可能と見積もっています」
当然だろう、兵器のスペックなど機密も機密。ナチュラルとコーディネイターの戦争という側面から情報の漏洩にもあまり期待できない。
確かなことは分からな以上、幾分は当て推量で設計するほかない。
「目標は、300メートルの深度へ攻撃できること、ですか」
「遠いな……」
誰かが、心底嫌そうに呟いた。
私も同感である。
政治の仕事には、現場へ無理を言うことも含まれる。だからといって、無理が無理でなくなるわけではない。
「前提として基本設計は、アストレイ系を引き継ぐしかないでしょう」
「そうね。それ以外のノウハウが、私たちにはないもの。完全な新規設計は時間も設備も食いすぎる。少しでもM1から流用したいというのが生産側の要求よ」
会議はそこで行き詰まった。
誰も彼もが腕を組んで思い思いの方向を向いたり、コーヒーを啜ったり。
重い沈黙が広まる。
全領域対応機に水中専用の構造を追加すれば重くなる。
重くなれば、M1の長所だった運動性を損なうため思慮なくやりたくはない。
かといって耐圧性能を妥協すれば、オーブ周辺の海では故障一つが乗員の死へ直結する。
広い用途へ対応させようとした結果、どこへ持っていっても決め手に欠ける機体ができあがりつつある。
器用貧乏。
前世でも、ゲームの中ではよく見た。
使い手の腕で補えば強いなどと説明されるが、それは大抵、使い手へ苦労を押しつけているだけだ。兵器として量産するなら、誰が使っても一定の結果が出なければ困るのだ。
このままではどこにでも出せるが、それぞれの戦域の敵機を相手にやや不利といった結果に終わってしまう。
だが、その程度の不利なら、対応したストライカーシステムで得た装備の幅で十二分に覆しうることは皆、口には出さないが感じている。
事実、スケイル・システム装備のプロトアストレイの機体強度パラメータを操作し、疑似的に水圧対応深度を増した機体は仮想ミッションに対しても良好な成績を残し、増加した重量を加味しても地上、宇宙での戦いにも対応して見せた。
問題なのは、電力切れ=死の状況とオーブ周辺海域の深さの組み合わせに対するしり込みの面が強い。加えて現状の良成績を残した機体がデータ上の存在であり、実際に機体全体を強化しようものなら許容できない機体構造・外形の変化、重量の増加は免れない。実際の製造を考慮すると現行機からのパーツをなるべく流用したいという思惑もある。
当初の問題から、徐々に焦点が切り替わっていく。強みに関しての検討は進まず、新たに水中に適応できない問題へと皆の目が移ってしまった。
誰も彼もが煮詰まり、頭を抱えていた。
「カガリ様がご留学中で、次期首長としてのお仕事も増えているでしょうに。よくこんなところまで首を突っ込めますね」
現状のままでは進展がないものと休憩を宣言。
皆が思い思いの行動へ入ったところで、ミヤビが呆れたように言った。
「ああー……」
「なに、その声」
「いえ。少々、私も処理能力の限界が近いなと」
「さしものあなたも超人というわけではなかったのね」
「残念ながら。分身できるものなら、三人ほどに分かれたいところです」
政務をする私。
技術開発へ口を出す私。
ひたすら寝る私。
最後の一人だけ仕事をしていない気がするが、生命維持担当ということで許してほしい。
「もういっそのこと、機体をボールにでも入れちまうか?」
背後から聞こえた声に、思考が止まった。
休憩中の技術者が三人、湯気の上がる紙コップを片手に話している。
「ガシャポンのカプセルみたいなにってか? 耐圧殻と装甲を兼ねさせようって?」
「あー、思い出したけどボズゴロフ級のドライチューブとかまんまその発想だよな」*13
「馬鹿みたいな話なのに、現実的に思えてきたぜ」
がはははは。
そんな笑い声を聞きながら、私の頭の中は洗濯機のように単語が回転していた。
ボール。
カプセル。
耐圧殻。
それまで別々に並んでいた言葉が、頭の中で渦巻いている。
「あ……ああ。あ?……あぁ?」
「今度はなに?年頃の女子がしていい顔じゃないわよ?*14……ちょっと、よだれは拭きなさいよ!*15」
球体。
圧力を均等に受けれる形。
耐圧殻の形状。
ぼーる。ボール。
独立した殻。
殻。
モビルスーツの全身を、潜水艦と同じように造る必要はない。
思い出せ、思い出せ。何を忘れている?この脳髄の裏を爪で掻くような違和感。
みず、水。水中。最近見た。シミュレーション? アストレイ、圧壊。
思い出せ。
『ついに上半身からぺしゃんこになり爆散』
なぜ、いつも上半身から?
上半身以外はどうだった?
あっあっあっ。
ひと。ひと。人。ひと?
守るべきは人。人を収める場所だけを。
「ひらめきました」*16
「は?」
私は立ち上がり、背後の3人を指さした。
「そこのお三方」
「は、はい!」
突然名指しされ、三人が姿勢を正す。
「お名前は?」
名乗られた名前を端末へ記録する。
「上半期の賞与を、三か月分上乗せします」
「……マジっすか!?」
「しゃあっ!」
「あ、ありがとうございます!おまえら言葉遣い!」
「ただし、今の発想を形にできたら、です」
喜びかけた三人の顔が引き締まった。
金だけもらって終われるほど世の中は甘くない。いいアイデアには報いるが、実現させるところまでが仕事である。
休憩は予定より早く切り上げ、館内放送で面子を再度呼び戻した。