谷中逆ナン物語   作:君脇玲

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11.雨の再会

 

 兵庫で逆ナン師範という存在を知った谷中と空本。

 

 新たな目標を胸に旅を続ける二人のもとへ、一通のメッセージが届いた。

 

 送り主は――世良。

 

 谷中が以前勤めていた会社で、直属の上司だった人物である。

 

『宮城に来ないか。久しぶりに話でもしよう。』

 

「世良さんだ!」

 

 谷中は思わず声を上げた。

 

「知り合いか?」

 

 空本が尋ねる。

 

「ああ。前の職場ですごくお世話になった人なんだ。」

 

「よし、宮城へ行こう!」

 

     ◇

 

 数日後。

 

 二人は宮城県・仙台駅へ降り立った。

 

 駅前は多くの人で賑わい、牛たんの香ばしい匂いが漂っている。

 

「久しぶりだなぁ。」

 

 谷中が辺りを見回していると、一人の男性が静かに手を挙げた。

 

「谷中。」

 

 落ち着いた声だった。

 

「世良さん!」

 

 世良は以前と変わらない穏やかな笑みを浮かべていた。

 

「元気そうだな。」

 

「はい!」

 

「旅に出たって聞いて驚きました?」

 

 世良は小さく笑う。

 

「少しな。」

 

「でも、お前らしいとも思った。」

 

 三人は駅前の小さな喫茶店へ入った。

 

 窓の外では静かに雨が降り始めていた。

 

 コーヒーの湯気がゆっくりと立ち上る。

 

 谷中は旅で起きた出来事を、一つひとつ語り始めた。

 

 長野で旅立ったこと。

 

 滋賀で河合天音と再会したこと。

 

 石川で巫女や漁師と出会ったこと。

 

 京都で天山に敗れたこと。

 

 大阪で鬼算・大原を倒したこと。

 

 そして兵庫で、逆ナン師範という存在を知ったこと。

 

 世良は一度も話を遮ることなく、静かに耳を傾けていた。

 

「……そうか。」

 

「ずいぶん濃い旅をしてるな。」

 

「はい。」

 

 谷中は少し照れ笑いを浮かべる。

 

「最初は逆ナンされたいだけだったんです。」

 

「でも気づいたら、人助けばっかりしてました。」

 

 世良はコーヒーカップを静かに置いた。

 

「それでいい。」

 

「え?」

 

「目的なんて、後からついてくることもある。」

 

 一拍置き、谷中を真っすぐ見つめる。

 

「大事なのは、自分の足で歩き続けているかどうかだ。」

 

 谷中は言葉を失った。

 

 旅に出る前の自分なら、逆ナンされることしか考えていなかった。

 

 しかし今は違う。

 

 出会った人たち。

 

 助けた人たち。

 

 守りたい街。

 

 そのすべてが、自分を少しずつ変えていた。

 

 世良の言葉は、不思議と胸の奥へすっと入り込んでくる。

 

 空本も静かにうなずいた。

 

「確かに。」

 

「俺たち、旅に出る前とは少し変わったかもしれないな。」

 

 世良は優しく笑う。

 

「その変化を大切にしろ。」

 

「旅は、人を育てるからな。」

 

 気づけば、窓の外の雨は小降りになっていた。

 

     ◇

 

 三人は店を出る。

 

 駅前には雨上がり独特の澄んだ空気が流れていた。

 

「じゃあ、俺はこの辺で。」

 

 世良が軽く手を挙げる。

 

「ありがとうございました!」

 

 谷中は深く頭を下げた。

 

 別れ際、世良が振り返る。

 

「谷中。」

 

「はい。」

 

 世良は少しだけ口元を緩めた。

 

「もし本当に逆ナンされたら。」

 

「ちゃんと報告しろ。」

 

 一瞬の沈黙。

 

 谷中は思わず吹き出した。

 

「はい!」

 

「その時は真っ先に連絡します!」

 

 空本は笑いながら肩を叩く。

 

「その連絡、いつになるんだろうな。」

 

「うるさい!」

 

 三人は思わず笑い合った。

 

 世良は軽く手を挙げ、そのまま人混みの中へ消えていった。

 

 その背中を見送りながら、谷中は静かにつぶやく。

 

「やっぱり世良さんは、すごい人だな。」

 

 空本も笑う。

 

「ああ。」

 

「いい上司だったんだな。」

 

 谷中は力強くうなずいた。

 

     ◇

 

 旅には、まだ終わりがない。

 

 逆ナン師範。

 

 黒獅子。

 

 そして、まだ見ぬ仲間との出会い。

 

 二人は新たな決意を胸に、再び歩き始める。

 

 その旅路の先で待つ運命を、まだ二人は知らなかった――。

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