宮城を後にした谷中と空本は、新たな目的地・茨城県へやって来ていた。
今回の目的は一つ。
逆ナン師範の手掛かりを探すことだった。
「師範の情報、見つかるかな。」
谷中が地図を眺めながら歩く。
「簡単には見つからないだろうな。」
空本は周囲を見回した。
「でも、池村さんも言ってたじゃないか。」
「“縁”を大事にしろって。」
谷中はうなずく。
「そうだな。」
「まずは歩いてみよう。」
二人は街を歩き回り、神社や商店街、観光案内所などを訪ね歩いた。
「逆ナン師範って知りませんか?」
「いやぁ、聞いたことないねぇ。」
どこへ行っても返ってくる答えは同じだった。
夕方になり、谷中は大きくため息をつく。
「全然ダメだな……。」
その時だった。
「お兄ちゃん!」
元気な声が聞こえた。
振り返ると、小学生くらいの女の子が手を振っている。
「こんにちは!」
「こんにちは。」
谷中が笑顔で返す。
「私は福山姫奈!」
「お兄ちゃんたち、旅行?」
「そうだよ。」
「旅をしてるんだ。」
福山は目を輝かせた。
「すごーい!」
「じゃあ、この町も案内してあげる!」
「え?」
「任せて!」
福山は二人の手を引っ張るように歩き始めた。
◇
「ここは私のお気に入り!」
連れてこられたのは、大きな公園だった。
「春になると、お花がいっぱい咲くの!」
「へぇ。」
谷中は辺りを見渡す。
しかし季節はまだ早く、花壇にはほとんど花が咲いていない。
「まだ寂しいな。」
そう言うと、福山は少しだけ笑顔を曇らせた。
「毎年、お母さんと見に来てたんだ。」
「でも、お母さん今、お仕事で遠くにいるから。」
「今年は一人。」
谷中は静かに耳を傾けた。
「寂しくないの?」
福山は少し考えてから笑った。
「寂しいよ。」
「でも、お母さんが頑張ってるから。」
「私も頑張るって約束したの。」
その笑顔は、どこか無理をしているようにも見えた。
◇
公園を出ようとした時だった。
強い風が吹き、福山が大事そうに持っていた手紙が空へ舞い上がる。
「あっ!」
手紙は道路の向こうへ飛ばされていく。
ちょうど車が近づいていた。
「危ない!」
谷中はとっさに駆け出した。
車が通り過ぎる寸前。
手紙をつかみ、そのまま転がるように歩道へ戻る。
「大丈夫ですか!?」
空本が駆け寄る。
谷中は笑って立ち上がった。
「大丈夫。」
福山は目に涙を浮かべながら手紙を受け取る。
「ありがとう……。」
「これ、お母さんに送る手紙だったの。」
「絶対なくしたくなかった。」
谷中は優しく笑った。
「ちゃんと届くといいな。」
「うん!」
福山は力強くうなずいた。
◇
夕焼けに染まる街を歩きながら、空本が口を開く。
「今日は師範の情報、何もなかったな。」
谷中は少し考えた後、小さく笑う。
「いや。」
「ちゃんと収穫はあった。」
「え?」
「俺さ、ずっと”目的”ばかり見て歩いてた。」
「師範を探すこと。」
「逆ナンされること。」
「そればっかり考えてた。」
少し空を見上げる。
「でも今日分かった。」
「人との出会いって、目的の途中にあるんじゃない。」
「出会いそのものが、旅なんだ。」
空本は笑った。
「世良さんが言ってたことだな。」
谷中もうなずく。
「目的なんて後からついてくる。」
「まずは、自分の足で歩く。」
「それでいいんだ。」
その時だった。
後ろから元気な声が聞こえる。
「お兄ちゃーん!」
振り返ると、福山が大きく手を振っていた。
「今日、お母さんに手紙送るね!」
「きっと喜んでくれる!」
谷中は笑顔で大きく手を振り返す。
「ああ!」
「返事が来るといいな!」
「うん!」
「また茨城に来てねー!」
「約束!」
夕焼けに照らされた笑顔が、二人の胸に残った。
◇
逆ナン師範への道は、まだ遠い。
しかし谷中は少しだけ気づいていた。
旅とは、目的地へ向かうことではない。
誰かと出会い、自分が少しずつ変わっていくこと。
その一つひとつの出会いが、未来へと続く道をつくっていく。
二人は新たな一歩を踏み出した。
約束の花が咲く、その日を信じて――。