谷中逆ナン物語   作:君脇玲

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12.約束の花

 宮城を後にした谷中と空本は、新たな目的地・茨城県へやって来ていた。

 

 今回の目的は一つ。

 

 逆ナン師範の手掛かりを探すことだった。

 

「師範の情報、見つかるかな。」

 

 谷中が地図を眺めながら歩く。

 

「簡単には見つからないだろうな。」

 

 空本は周囲を見回した。

 

「でも、池村さんも言ってたじゃないか。」

 

「“縁”を大事にしろって。」

 

 谷中はうなずく。

 

「そうだな。」

 

「まずは歩いてみよう。」

 

 二人は街を歩き回り、神社や商店街、観光案内所などを訪ね歩いた。

 

「逆ナン師範って知りませんか?」

 

「いやぁ、聞いたことないねぇ。」

 

 どこへ行っても返ってくる答えは同じだった。

 

 夕方になり、谷中は大きくため息をつく。

 

「全然ダメだな……。」

 

 その時だった。

 

「お兄ちゃん!」

 

 元気な声が聞こえた。

 

 振り返ると、小学生くらいの女の子が手を振っている。

 

「こんにちは!」

 

「こんにちは。」

 

 谷中が笑顔で返す。

 

「私は福山姫奈!」

 

「お兄ちゃんたち、旅行?」

 

「そうだよ。」

 

「旅をしてるんだ。」

 

 福山は目を輝かせた。

 

「すごーい!」

 

「じゃあ、この町も案内してあげる!」

 

「え?」

 

「任せて!」

 

 福山は二人の手を引っ張るように歩き始めた。

 

     ◇

 

「ここは私のお気に入り!」

 

 連れてこられたのは、大きな公園だった。

 

「春になると、お花がいっぱい咲くの!」

 

「へぇ。」

 

 谷中は辺りを見渡す。

 

 しかし季節はまだ早く、花壇にはほとんど花が咲いていない。

 

「まだ寂しいな。」

 

 そう言うと、福山は少しだけ笑顔を曇らせた。

 

「毎年、お母さんと見に来てたんだ。」

 

「でも、お母さん今、お仕事で遠くにいるから。」

 

「今年は一人。」

 

 谷中は静かに耳を傾けた。

 

「寂しくないの?」

 

 福山は少し考えてから笑った。

 

「寂しいよ。」

 

「でも、お母さんが頑張ってるから。」

 

「私も頑張るって約束したの。」

 

 その笑顔は、どこか無理をしているようにも見えた。

 

     ◇

 

 公園を出ようとした時だった。

 

 強い風が吹き、福山が大事そうに持っていた手紙が空へ舞い上がる。

 

「あっ!」

 

 手紙は道路の向こうへ飛ばされていく。

 

 ちょうど車が近づいていた。

 

「危ない!」

 

 谷中はとっさに駆け出した。

 

 車が通り過ぎる寸前。

 

 手紙をつかみ、そのまま転がるように歩道へ戻る。

 

「大丈夫ですか!?」

 

 空本が駆け寄る。

 

 谷中は笑って立ち上がった。

 

「大丈夫。」

 

 福山は目に涙を浮かべながら手紙を受け取る。

 

「ありがとう……。」

 

「これ、お母さんに送る手紙だったの。」

 

「絶対なくしたくなかった。」

 

 谷中は優しく笑った。

 

「ちゃんと届くといいな。」

 

「うん!」

 

 福山は力強くうなずいた。

 

     ◇

 

 夕焼けに染まる街を歩きながら、空本が口を開く。

 

「今日は師範の情報、何もなかったな。」

 

 谷中は少し考えた後、小さく笑う。

 

「いや。」

 

「ちゃんと収穫はあった。」

 

「え?」

 

「俺さ、ずっと”目的”ばかり見て歩いてた。」

 

「師範を探すこと。」

 

「逆ナンされること。」

 

「そればっかり考えてた。」

 

 少し空を見上げる。

 

「でも今日分かった。」

 

「人との出会いって、目的の途中にあるんじゃない。」

 

「出会いそのものが、旅なんだ。」

 

 空本は笑った。

 

「世良さんが言ってたことだな。」

 

 谷中もうなずく。

 

「目的なんて後からついてくる。」

 

「まずは、自分の足で歩く。」

 

「それでいいんだ。」

 

 その時だった。

 

 後ろから元気な声が聞こえる。

 

「お兄ちゃーん!」

 

 振り返ると、福山が大きく手を振っていた。

 

「今日、お母さんに手紙送るね!」

 

「きっと喜んでくれる!」

 

 谷中は笑顔で大きく手を振り返す。

 

「ああ!」

 

「返事が来るといいな!」

 

「うん!」

 

「また茨城に来てねー!」

 

「約束!」

 

 夕焼けに照らされた笑顔が、二人の胸に残った。

 

     ◇

 

 逆ナン師範への道は、まだ遠い。

 

 しかし谷中は少しだけ気づいていた。

 

 旅とは、目的地へ向かうことではない。

 

 誰かと出会い、自分が少しずつ変わっていくこと。

 

 その一つひとつの出会いが、未来へと続く道をつくっていく。

 

 二人は新たな一歩を踏み出した。

 

 約束の花が咲く、その日を信じて――。

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