第13話「再会 ―埼玉編―」
茨城での出会いを経て、谷中と空本は埼玉県へとやって来た。
「今日は師範の情報、見つかるといいな。」
谷中が地図を広げながら歩く。
「焦るなって。」
空本が笑う。
「旅はまだ始まったばかりだ。」
「そうだな。」
二人は駅前を歩き始める。
商店街。
公園。
神社。
人が集まりそうな場所を巡るが、有力な情報は何一つ得られなかった。
「やっぱり簡単には見つからないか……。」
谷中が苦笑した、その時だった。
「……谷中?」
聞き覚えのある声がした。
振り返る。
そこに立っていたのは、一人の青年だった。
短く整えられた髪。
鋭い目つき。
しかし、その表情にはどこか懐かしさもあった。
谷中は目を見開く。
「……浜下?」
青年は小さく笑った。
「久しぶりだな。」
「やっぱり谷中だったか。」
思いがけない再会だった。
「何年ぶりだ?」
「高校卒業以来だから……かなり経つな。」
二人は自然と笑い合う。
「知り合いか?」
空本が尋ねる。
「ああ。」
谷中はうなずく。
「高校の同級生なんだ。」
「へぇ。」
浜下は空本へ軽く頭を下げた。
「浜下海星です。」
「谷中には学生時代、何度も世話になった。」
「そんな大げさだよ。」
谷中は照れ笑いを浮かべる。
「お前こそ、スポーツも勉強もできて人気者だったじゃないか。」
浜下は少しだけ目を伏せた。
「……そう見えてただけだ。」
その言葉に、谷中は少し違和感を覚えた。
三人は近くの喫茶店へ入る。
昔話に花が咲いた。
文化祭。
体育祭。
修学旅行。
笑いながら思い出を語り合う。
「そういえば。」
浜下がコーヒーを口に運びながら尋ねた。
「今は何してる?」
谷中は笑う。
「日本中を旅してる。」
「逆ナンされるために。」
店内が静まり返る。
数秒後。
浜下は吹き出した。
「ははは!」
「相変わらずだなお前!」
空本も笑う。
「最初は俺も驚きました。」
「でも今は、その旅でいろんな人を助けてる。」
浜下は興味深そうに谷中を見た。
「旅か。」
「いいな。」
谷中は京都や大阪で起きた出来事を簡単に話した。
黒獅子。
逆ナン師範。
人との出会い。
浜下は黙って聞いていた。
やがて静かに口を開く。
「谷中。」
「お前、変わったな。」
「え?」
「昔のお前なら。」
「そんな面倒ごと、絶対に避けてた。」
谷中は少し考え、笑った。
「そうかも。」
「でも。」
「旅に出て分かったんだ。」
「困ってる人を放っておけない自分もいるって。」
浜下は小さく笑った。
「そのままでいろよ。」
「え?」
「お前は、そのまま進め。」
「きっと、それがお前の道だ。」
その言葉は、世良が宮城で言った言葉とどこか重なって聞こえた。
気づけば夕方。
別れの時間になっていた。
「今日は会えてよかった。」
谷中が手を差し出す。
浜下もその手を握る。
「俺もだ。」
「またどこかで。」
「おう!」
浜下は背を向け、駅の人混みへ歩いていく。
夕日に照らされるその背中を、谷中は静かに見送った。
「いい奴だったな。」
空本が言う。
「ああ。」
谷中は笑顔でうなずく。
「昔から変わらないよ。」
しかし。
人混みの向こうへ消えた浜下は、一度だけ立ち止まった。
ポケットから古びた写真を取り出す。
そこには学生時代の谷中と浜下が並んで笑っていた。
「……谷中。」
小さくつぶやく。
「今度会う時も。」
「お前は、その笑顔でいてくれ。」
浜下は写真をしまい、静かに歩き出す。
この時の谷中は、まだ知らなかった。
この再会が、いつか自分の運命を大きく変えることになることを――。