谷中逆ナン物語   作:君脇玲

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14.師範への手がかり

 埼玉で浜下との再会を果たした数日後。

 

 谷中と空本は、次の目的地を決めかねていた。

 

 その時だった。

 

 谷中のスマートフォンが震える。

 

 画面に表示された名前を見て、思わず表情が明るくなる。

 

 世良。

 

 宮城で再会した、かつての上司だった。

 

「世良さん!」

 

『久しぶりだな、谷中。』

 

「どうしたんですか?」

 

『お前、逆ナン師範を探してるって言ってたな。』

 

「はい。」

 

『一人だけ、師範を知る男がいる。』

 

 谷中の表情が変わる。

 

「本当ですか!?」

 

『桑田という男だ。』

 

『今は岡山のどこかで身を隠して暮らしている。』

 

「桑田さん……。」

 

 世良は少しだけ間を置いた。

 

『桑田は昔――』

 

 電話の向こうが静かになる。

 

『逆ナン師範と共に、日本を救った男だ。』

 

 谷中は息をのんだ。

 

「……日本を?」

 

『詳しくは本人から聞け。』

 

『ただ、一つだけ忠告しておく。』

 

『桑田を探すのは簡単じゃない。』

 

「どういう意味ですか?」

 

『……行けば分かる。』

 

 プツッ。

 

 電話が切れた。

 

 谷中はスマートフォンを見つめたまま動けなかった。

 

「逆ナン師範と一緒に……日本を救った?」

 

 空本も腕を組む。

 

「ますます謎が増えたな。」

 

 谷中は静かにうなずく。

 

「行こう。」

 

「岡山へ。」

 

     ◇

 

 岡山県。

 

 二人は桑田という男を探し始めた。

 

 駅前。

 

 商店街。

 

 喫茶店。

 

 漁港。

 

 山あいの集落。

 

「桑田さんという方をご存じありませんか?」

 

「いやぁ、知らんな。」

 

「聞いたことないね。」

 

 情報は何も得られなかった。

 

 三日。

 

 四日。

 

 時間だけが過ぎていく。

 

「本当にいるのかな……。」

 

 谷中がつぶやいた、その日の夕方だった。

 

 古びたラーメン屋。

 

 店の隅でラーメンをすすっていた老人が、静かに口を開く。

 

「桑田……か。」

 

「その名前を口にする若いもんは、何年ぶりじゃろうな。」

 

 谷中は思わず立ち上がる。

 

「知ってるんですか!?」

 

 老人はゆっくりとうなずいた。

 

「山奥に廃工場がある。」

 

「そこへ住んどるという噂は聞いとる。」

 

「でも誰も近づかん。」

 

「なぜですか?」

 

 老人の表情が曇る。

 

「命を狙われとるらしい。」

 

「誰に?」

 

 老人は静かに答えた。

 

「……黒獅子じゃ。」

 

 店内が静まり返る。

 

 谷中は深く頭を下げた。

 

「ありがとうございます!」

 

 二人はすぐに店を飛び出した。

 

     ◇

 

 夕暮れ。

 

 山奥にひっそりと建つ古い廃工場。

 

 窓ガラスは割れ、雑草が建物を覆っていた。

 

「ここか……。」

 

 扉は半開きだった。

 

「桑田さん!」

 

 返事はない。

 

 慎重に中へ入る。

 

 静まり返った工場。

 

 壊れた機械。

 

 割れた机。

 

 そして壁一面に刻まれた、無数の傷跡。

 

「これ全部……。」

 

 空本が息をのむ。

 

「戦いの跡か。」

 

 谷中の胸騒ぎが強くなる。

 

 奥の部屋へ駆け込んだ。

 

「!!」

 

 そこには、一人の男が倒れていた。

 

 白髪交じりの髪。

 

 傷だらけの身体。

 

 それでも、その姿からは圧倒的な存在感が漂っていた。

 

「桑田さん!」

 

 谷中が駆け寄る。

 

 男はゆっくりと目を開けた。

 

「……遅かったな。」

 

「大丈夫ですか!」

 

「世良さんに言われて来ました!」

 

 桑田はかすかに笑う。

 

「世良……。」

 

「元気にしておるか。」

 

 谷中が肩を貸そうとした、その瞬間。

 

 桑田が力強く谷中の腕をつかんだ。

 

「聞け。」

 

「時間がない。」

 

「え?」

 

「奴らが来る。」

 

「奴ら……?」

 

 桑田は血を吐きながらも、谷中をまっすぐ見つめる。

 

「黒獅子は……。」

 

「もう逆ナン師範の居場所を知っている。」

 

「!!」

 

 谷中の表情が凍りつく。

 

「どういうことですか!?」

 

「師範が危ないんですか!?」

 

 桑田は震える手で、一枚の古びた写真を差し出した。

 

 そこには若き日の桑田。

 

 帽子を深くかぶった一人の老人。

 

 そして、もう一人。

 

 顔だけが破り取られた人物が写っていた。

 

「これは……。」

 

 桑田は写真を見つめ、小さくつぶやく。

 

「昔……。」

 

「俺と師範は、もう一人の仲間と共に、日本を救った。」

 

「だが、あの日から全てが変わった……。」

 

 その時だった。

 

 ドォォォン!!

 

 工場の壁が大きな音を立てて吹き飛ぶ。

 

 土煙が舞い上がる。

 

「!!」

 

 ゆっくりと、一つの黒い影が姿を現した。

 

 全身を黒いローブで覆い、フードの奥は闇に包まれている。

 

 胸元には、黒い獅子の紋章が刻まれていた。

 

「見つけたぞ。」

 

 低く響く声が工場内に響いた。

 

「桑田。」

 

 桑田は苦しそうに笑う。

 

「……間に合わなかったか。」

 

 谷中は桑田を守るように前へ出る。

 

「お前は誰だ!」

 

 黒い影は静かに笑った。

 

「自己紹介は次でいい。」

 

「今日は、お前たちの――」

 

「希望を潰しに来た。」

 

 土煙の向こうで、黒いローブが静かになびく。

 

 黒獅子。

 

 その魔の手は、ついに逆ナン師範へと伸び始めていた――。

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