廃工場。
吹き飛んだ壁から土煙が舞い上がる。
黒いローブをまとった謎の人物は、静かに桑田を見下ろしていた。
「久しぶりだな。」
低く響く声。
桑田は苦しそうに笑う。
「……やはり、お前か。」
「終わりだ。」
次の瞬間。
黒い影が桑田へ飛び込む。
「やめろ!!」
谷中が間へ割って入ろうとする。
しかし――。
「遅い。」
黒い影が腕を振るう。
見えない衝撃波が谷中と空本を吹き飛ばした。
「ぐあっ!」
「谷中!」
二人は壁へ叩きつけられる。
その一瞬。
黒い影の一撃が桑田を貫いた。
「……っ!」
桑田の身体が大きく吹き飛び、床へ倒れる。
「桑田さん!」
谷中は必死に駆け寄る。
桑田の身体は深い傷を負い、床には赤い血が広がっていた。
「そんな……。」
黒いローブの人物は谷中を見つめる。
「今はまだ、お前に用はない。」
「次に会う時まで、生きていろ。」
黒い風が工場内を吹き抜ける。
次の瞬間には、黒い影は姿を消していた。
静寂だけが残る。
「桑田さん!」
谷中は桑田の身体を抱き起こす。
桑田の呼吸は弱く、今にも止まりそうだった。
「しっかりしてください!」
桑田はゆっくりと目を開く。
「……谷中。」
「はい!」
「まだ……終わるわけにはいかない。」
「分かってます!」
桑田は震える手で谷中の腕をつかんだ。
「……零乃。」
「え?」
「零乃の……もとへ……。」
「零乃?」
「伝説の……治癒師だ……。」
それだけ言うと、桑田は再び意識を失った。
「零乃……。」
空本がつぶやく。
「知ってるのか?」
谷中は首を横に振る。
「いや。」
「でも、この人を助けられるのは、その零乃さんしかいないんだ。」
谷中は桑田を背負った。
「行こう。」
「どこへ?」
「分からない。」
「でも探すしかない。」
二人は桑田を連れ、廃工場を後にした。
◇
その夜。
岡山の町を歩き回る。
病院を訪ねる。
診療所を訪ねる。
「零乃という方をご存じありませんか?」
誰も知らない。
夜が更けても手掛かりは得られなかった。
「どうする……。」
谷中が桑田を見る。
呼吸はさらに弱くなっていた。
その時だった。
「零乃を探しているのか。」
後ろから声がした。
振り返ると、一人の年配の女性が立っていた。
「知っているんですか!」
女性は静かにうなずく。
「知っている。」
「だが、零乃は自分から人前へ姿を見せることはない。」
「本当に助けたい者だけを救う。」
「どこにいるんですか!」
女性は山の方角を指差した。
「あの山を越えた先。」
「古い診療所がある。」
「そこにいるという話を聞いたことがある。」
「ありがとうございます!」
谷中は深く頭を下げる。
桑田を背負い直し、再び歩き出した。
険しい山道。
夜風は冷たい。
足元も悪い。
それでも谷中は歩みを止めなかった。
「絶対に助ける。」
「桑田さんは、まだ死なせない。」
空本も黙って隣を歩く。
夜明け前。
ようやく山奥に一軒の古びた診療所が姿を現した。
明かりが一つだけ灯っている。
谷中は桑田を背負ったまま扉を叩いた。
「お願いします!」
「誰か!」
「助けてください!」
静かな山に、その声だけが響き渡る。
やがて、ゆっくりと扉が開いた。
中から現れたのは、一人の女性だった。
穏やかな瞳。
落ち着いた表情。
白衣をまとったその姿には、不思議と安心感があった。
女性は桑田を見るなり、静かに目を細める。
「……桑田さん。」
「ずいぶん無茶をしましたね。」
谷中は驚く。
「桑田さんをご存じなんですか?」
女性はゆっくりとうなずいた。
「ええ。」
「私は――」
「零乃です。」
谷中と空本は息をのんだ。
ついに出会った。
桑田が最後に託した、伝説の治癒師・北岡零乃。
その力が、絶望の中に一筋の希望を灯そうとしていた――。