谷中逆ナン物語   作:君脇玲

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16.逆ナン師範三人衆

 山奥の診療所。

 

 零乃の治療が始まってから数時間。

 

 谷中と空本は診療所の外で、不安そうに空を見上げていた。

 

「桑田さん……助かるかな。」

 

 谷中が小さくつぶやく。

 

 空本も静かにうなずく。

 

「助かってほしいな。」

 

 その時だった。

 

 診療所の扉が開く。

 

 白衣姿の零乃が静かに姿を現した。

 

「命に別状はありません。」

 

 その一言に、谷中は大きく息を吐いた。

 

「よかった……。」

 

「ですが。」

 

 零乃の表情は穏やかなままだった。

 

「しばらく安静が必要です。」

 

「目を覚ますまで時間がかかるでしょう。」

 

 谷中は深く頭を下げる。

 

「ありがとうございます。」

 

 零乃は小さく微笑んだ。

 

「お礼を言われることではありません。」

 

「私は、人を治すのが仕事ですから。」

 

 しばらく沈黙が流れる。

 

 やがて谷中が口を開いた。

 

「零乃さん。」

 

「桑田さんは……。」

 

「逆ナン師範を知っているって聞きました。」

 

 零乃は静かに目を閉じる。

 

「知っています。」

 

「私だけではありません。」

 

「桑田さん自身も、その一人でしたから。」

 

「え……?」

 

 谷中と空本は顔を見合わせた。

 

 零乃はゆっくりと話し始める。

 

「昔。」

 

「日本には三人の英雄がいました。」

 

「その名を――」

 

『逆ナン師範三人衆』

 

 部屋の空気が張りつめる。

 

「三人……。」

 

 零乃は静かにうなずく。

 

「一人目は。」

 

『盾』

 

「仲間を守ることに全てを捧げた男。」

 

「桑田竜馬。」

 

 谷中は思わず桑田が眠る部屋を見た。

 

「あの人が……。」

 

「二人目は。」

 

 零乃は少しだけ言葉を区切る。

 

『師』

 

「逆ナン力を極め、多くの弟子を育てた人物。」

 

「逆ナン師範。」

 

「そして。」

 

「三人目は。」

 

 零乃の視線が窓の外へ向く。

 

『道』

 

「誰よりも先を見据え、人々を導いた男。」

 

「この三人が力を合わせ。」

 

「かつて日本を救いました。」

 

 谷中は息をのむ。

 

「日本を救った……。」

 

「でも。」

 

「どうして今はいないんですか?」

 

 零乃は静かに答えた。

 

「戦いが終わったあと。」

 

「三人は、それぞれ違う道を選びました。」

 

「一人は人を守るため。」

 

「一人は人を育てるため。」

 

「一人は未来を見届けるため。」

 

「誰にも知られず、生きることを選んだのです。」

 

 空本が尋ねる。

 

「その中に……。」

 

「逆ナン師範はいるんですか?」

 

 零乃は小さく微笑んだ。

 

「います。」

 

「ですが。」

 

「今、その居場所を知る者はほとんどいません。」

 

 谷中は拳を握る。

 

「会いたい。」

 

「会って、修行を受けたい。」

 

 零乃はまっすぐ谷中を見つめる。

 

「焦らないでください。」

 

「人は、会うべき時に会うべき人と出会います。」

 

「それが――縁です。」

 

 その言葉は、兵庫で池村が語った言葉とどこか重なって聞こえた。

 

「縁……。」

 

 谷中は静かにつぶやく。

 

 零乃は続けた。

 

「ですが、一つだけ覚えておいてください。」

 

「黒獅子もまた。」

 

「逆ナン師範を探しています。」

 

「!!」

 

 谷中の表情が変わる。

 

「どうしてですか?」

 

「彼らにとって。」

 

「逆ナン師範は、この計画を阻む最大の障害だからです。」

 

 診療所に重い沈黙が流れる。

 

 谷中は眠る桑田を見つめた。

 

 京都で天山と出会ったこと。

 

 大阪で大原と戦ったこと。

 

 兵庫で逆ナン師範の存在を知ったこと。

 

 すべてが一本の線でつながり始めていた。

 

「俺。」

 

 谷中は静かに立ち上がる。

 

「必ず逆ナン師範を見つけます。」

 

「そして。」

 

「黒獅子を止めます。」

 

 零乃は穏やかに微笑んだ。

 

「その決意を忘れなければ。」

 

「きっと、あなたは必要な人と巡り会えるでしょう。」

 

 窓の外では、朝日が山々を照らし始めていた。

 

 新たな希望と、新たな謎。

 

 谷中たちの旅は、さらに大きな運命へと歩み始める――。

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