岡山で桑田を救い、伝説の治癒師・零乃と出会った谷中と空本。
桑田が意識を失う直前、谷中へ託した一枚の古い写真。
そこには三人の男が写っていた。
一人は若き日の桑田。
一人は帽子を深くかぶった逆ナン師範。
そしてもう一人は、顔だけが何者かによって破り取られていた。
「この三人目って……。」
新幹線の車内で写真を見つめながら、谷中は小さくつぶやく。
「零乃さんも教えてくれなかったな。」
空本が腕を組む。
「桑田さんも、何かを伝えようとしてた。」
「きっと、この人が鍵なんだ。」
二人は新たな手掛かりを求め、広島へ向かった。
◇
広島県。
駅前。
平和記念公園。
商店街。
古書店。
時計店。
骨董品店。
「この写真の人をご存じありませんか?」
「いやぁ、見たことないね。」
「分からないな。」
一日。
二日。
三日。
広島中を歩き回ったが、手掛かりは何一つ見つからなかった。
「さすがに疲れたな。」
谷中はベンチへ腰掛ける。
「でも、ここまで来たら諦めたくない。」
空本は写真を見つめながら言う。
「まだ回ってない店がある。」
「最後にもう一軒だけ行こう。」
◇
二人がたどり着いたのは、路地裏にひっそりと建つ古道具屋だった。
古びた木の看板。
店内には時計や陶器、古い家具が静かに並んでいる。
カウンターの奥には、一人の老人が座っていた。
白髪混じりの髪。
穏やかな眼差し。
長い年月を感じさせる落ち着いた雰囲気だった。
「いらっしゃい。」
「何か探し物かい?」
谷中は桑田から託された写真を差し出した。
「この写真のことを知りたくて。」
老人は写真を受け取る。
その瞬間だった。
老人の表情が静かに変わる。
「……。」
店内に沈黙が流れる。
「どこで。」
老人は写真から目を離さず尋ねた。
「どこで、その写真を手に入れた。」
谷中は少し緊張しながら答える。
「桑田さんからです。」
老人は静かに目を閉じ、大きく息を吐いた。
「そうか……。」
「桑田は、まだ生きていたか。」
谷中は思わず身を乗り出した。
「知ってるんですか!」
老人はゆっくりとうなずいた。
「知っとる。」
「昔からの付き合いじゃ。」
そして立ち上がると、店の奥へ姿を消した。
しばらくして戻ってきた老人の手には、一つの古い木箱があった。
「これは。」
「昔、ある男から預かったものだ。」
木箱の蓋を開く。
中には、年季の入った銀色の懐中時計が静かに収められていた。
裏蓋には、小さく文字が刻まれている。
『三人目へ』
「三人目へ……。」
谷中は思わず読み上げる。
老人は静かに語り始めた。
「その男は言っていた。」
「いつか、この写真を持った若者が現れる。」
「その時は、この時計を渡してやってくれ。」
「必ず役に立つ日が来る。」
「……とな。」
谷中は恐る恐る懐中時計を手に取る。
不思議と温もりを感じた。
「その人は。」
「今どこにいるんですか?」
老人は静かに首を横へ振る。
「知らん。」
「じゃが、一つだけ確かなことがある。」
老人は谷中を真っすぐ見つめた。
「“三人目”は、まだ生きている。」
「そして。」
「この時計を必要とする日が、必ず来る。」
谷中は懐中時計を大切に握り締めた。
「ありがとうございます。」
「ところで、お名前を聞いてもいいですか?」
老人は穏やかに微笑む。
「川北。」
「川北黎じゃ。」
その名を胸に刻んだ、その時だった。
ドォォォォン!!
店全体が激しく揺れる。
入口が爆発し、木片が飛び散る。
「なっ!?」
煙の向こうから、ゆっくりと複数の人影が現れる。
全員が黒いコートをまとい、胸元には黒い獅子の紋章が刻まれていた。
「黒獅子……!」
空本が身構える。
川北は谷中たちの前へ静かに立つ。
その穏やかな表情は消え、鋭い眼差しへと変わっていた。
「谷中。」
「時計だけは、何があっても守れ。」
「その時計は、日本の未来へつながる。」
谷中は懐中時計を胸に抱く。
「はい!」
黒いコートの男たちは一歩、また一歩と店内へ踏み込んでくる。
川北は静かに構えた。
「どうやら。」
「昔の借りを返す時が来たようじゃな。」
静かな古道具屋に、再び戦いの気配が満ちていく――。