谷中逆ナン物語   作:君脇玲

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17.3人目への時計

 岡山で桑田を救い、伝説の治癒師・零乃と出会った谷中と空本。

 

 桑田が意識を失う直前、谷中へ託した一枚の古い写真。

 

 そこには三人の男が写っていた。

 

 一人は若き日の桑田。

 

 一人は帽子を深くかぶった逆ナン師範。

 

 そしてもう一人は、顔だけが何者かによって破り取られていた。

 

「この三人目って……。」

 

 新幹線の車内で写真を見つめながら、谷中は小さくつぶやく。

 

「零乃さんも教えてくれなかったな。」

 

 空本が腕を組む。

 

「桑田さんも、何かを伝えようとしてた。」

 

「きっと、この人が鍵なんだ。」

 

 二人は新たな手掛かりを求め、広島へ向かった。

 

     ◇

 

 広島県。

 

 駅前。

 

 平和記念公園。

 

 商店街。

 

 古書店。

 

 時計店。

 

 骨董品店。

 

「この写真の人をご存じありませんか?」

 

「いやぁ、見たことないね。」

 

「分からないな。」

 

 一日。

 

 二日。

 

 三日。

 

 広島中を歩き回ったが、手掛かりは何一つ見つからなかった。

 

「さすがに疲れたな。」

 

 谷中はベンチへ腰掛ける。

 

「でも、ここまで来たら諦めたくない。」

 

 空本は写真を見つめながら言う。

 

「まだ回ってない店がある。」

 

「最後にもう一軒だけ行こう。」

 

     ◇

 

 二人がたどり着いたのは、路地裏にひっそりと建つ古道具屋だった。

 

 古びた木の看板。

 

 店内には時計や陶器、古い家具が静かに並んでいる。

 

 カウンターの奥には、一人の老人が座っていた。

 

 白髪混じりの髪。

 

 穏やかな眼差し。

 

 長い年月を感じさせる落ち着いた雰囲気だった。

 

「いらっしゃい。」

 

「何か探し物かい?」

 

 谷中は桑田から託された写真を差し出した。

 

「この写真のことを知りたくて。」

 

 老人は写真を受け取る。

 

 その瞬間だった。

 

 老人の表情が静かに変わる。

 

「……。」

 

 店内に沈黙が流れる。

 

「どこで。」

 

 老人は写真から目を離さず尋ねた。

 

「どこで、その写真を手に入れた。」

 

 谷中は少し緊張しながら答える。

 

「桑田さんからです。」

 

 老人は静かに目を閉じ、大きく息を吐いた。

 

「そうか……。」

 

「桑田は、まだ生きていたか。」

 

 谷中は思わず身を乗り出した。

 

「知ってるんですか!」

 

 老人はゆっくりとうなずいた。

 

「知っとる。」

 

「昔からの付き合いじゃ。」

 

 そして立ち上がると、店の奥へ姿を消した。

 

 しばらくして戻ってきた老人の手には、一つの古い木箱があった。

 

「これは。」

 

「昔、ある男から預かったものだ。」

 

 木箱の蓋を開く。

 

 中には、年季の入った銀色の懐中時計が静かに収められていた。

 

 裏蓋には、小さく文字が刻まれている。

 

『三人目へ』

 

「三人目へ……。」

 

 谷中は思わず読み上げる。

 

 老人は静かに語り始めた。

 

「その男は言っていた。」

 

「いつか、この写真を持った若者が現れる。」

 

「その時は、この時計を渡してやってくれ。」

 

「必ず役に立つ日が来る。」

 

「……とな。」

 

 谷中は恐る恐る懐中時計を手に取る。

 

 不思議と温もりを感じた。

 

「その人は。」

 

「今どこにいるんですか?」

 

 老人は静かに首を横へ振る。

 

「知らん。」

 

「じゃが、一つだけ確かなことがある。」

 

 老人は谷中を真っすぐ見つめた。

 

「“三人目”は、まだ生きている。」

 

「そして。」

 

「この時計を必要とする日が、必ず来る。」

 

 谷中は懐中時計を大切に握り締めた。

 

「ありがとうございます。」

 

「ところで、お名前を聞いてもいいですか?」

 

 老人は穏やかに微笑む。

 

「川北。」

 

「川北黎じゃ。」

 

 その名を胸に刻んだ、その時だった。

 

 ドォォォォン!!

 

 店全体が激しく揺れる。

 

 入口が爆発し、木片が飛び散る。

 

「なっ!?」

 

 煙の向こうから、ゆっくりと複数の人影が現れる。

 

 全員が黒いコートをまとい、胸元には黒い獅子の紋章が刻まれていた。

 

「黒獅子……!」

 

 空本が身構える。

 

 川北は谷中たちの前へ静かに立つ。

 

 その穏やかな表情は消え、鋭い眼差しへと変わっていた。

 

「谷中。」

 

「時計だけは、何があっても守れ。」

 

「その時計は、日本の未来へつながる。」

 

 谷中は懐中時計を胸に抱く。

 

「はい!」

 

 黒いコートの男たちは一歩、また一歩と店内へ踏み込んでくる。

 

 川北は静かに構えた。

 

「どうやら。」

 

「昔の借りを返す時が来たようじゃな。」

 

 静かな古道具屋に、再び戦いの気配が満ちていく――。

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