谷中逆ナン物語   作:君脇玲

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18.師、現る

古道具屋・川北黎の店。

 

激しい爆発によって店内は崩れ始めていた。

 

「行け、谷中!」

 

川北の叫びが響く。

 

谷中は懐中時計を握り締め、空本と共に裏口へ向かって走り出す。

 

しかし――。

 

ドォォォン!!

 

裏口の壁が真っ二つに裂けた。

 

煙の中から、一人の男がゆっくりと姿を現す。

 

黒いローブ。

 

鋭い眼光。

 

そして余裕の笑み。

 

男は静かに口を開く。

 

「黒獅子、四悪が一人。」

 

「人呼んで――」

 

「悪法の天山。」

 

静まり返る店内。

 

天山は谷中へ視線を向ける。

 

「また会いましたね、谷中。」

 

谷中は拳を握る。

 

「天山……!」

 

天山はゆっくり川北へ目を向けた。

 

「川北黎。」

 

「余計な真似をしましたね。」

 

川北は谷中たちをかばうように前へ出る。

 

「この子たちには未来がある。」

 

「だから、ここで終わらせるわけにはいかん。」

 

天山は肩をすくめた。

 

「未来ですか。」

 

「面白い。」

 

「なら、その未来ごと消してしまいましょう。」

 

パチン。

 

鉄扇が開く。

 

無数の鋼線が音もなく伸びた。

 

川北は懐から短刀を抜き、一気に飛び込む。

 

金属音が響く。

 

火花が散る。

 

一瞬だけ互角に見えた。

 

しかし。

 

「遅い。」

 

天山の鋼線が川北の短刀を弾き飛ばす。

 

続けざまに鉄扇が振り抜かれた。

 

ドォン!!

 

川北の身体が棚へ叩きつけられる。

 

「ぐっ……!」

 

「川北さん!」

 

谷中が駆け出そうとする。

 

しかし空本が腕を掴んだ。

 

「待て!」

 

「でも!」

 

「川北さんは俺が助ける!」

 

空本は川北の元へ走る。

 

川北は苦しそうに笑った。

 

「若いの……。」

 

「ありがとう。」

 

そして谷中を見る。

 

「谷中!」

 

「時計だけは守れ!」

 

「絶対に渡すな!」

 

谷中は懐中時計を握り締める。

 

「……はい!」

 

天山は二人を見渡し、小さく笑った。

 

「仲間思いですね。」

 

「ですが。」

 

「終わりです。」

 

谷中と空本は視線を合わせる。

 

「行くぞ!」

 

「おう!」

 

二人は同時に飛び出した。

 

左右から挟み込む。

 

京都や大阪で何度も磨いた連携だった。

 

しかし。

 

「悪くありません。」

 

天山は一歩も動かない。

 

鉄扇を一振りする。

 

鋼線が無数に広がった。

 

「しまっ!」

 

空本が叫ぶ。

 

「谷中!!」

 

空本は谷中を突き飛ばす。

 

谷中は攻撃を避けることができた。

 

その代わり。

 

鋼線が空本の身体へ直撃する。

 

ドォォン!!

 

「ぐあああっ!」

 

空本は吹き飛ばされ、壁へ激突した。

 

「空本!!」

 

谷中の表情が変わる。

 

怒りのまま天山へ飛び込む。

 

「うおおおおおっ!!」

 

渾身の拳。

 

だが。

 

「遅い。」

 

天山は鉄扇で受け流す。

 

鋼線が谷中の腕へ巻き付き、そのまま身体ごと持ち上げた。

 

「まだまだ未熟です。」

 

そのまま壁へ叩きつける。

 

ドォォォン!!

 

「がはっ!」

 

息が止まる。

 

立ち上がろうとしても身体が動かない。

 

天山は静かに歩み寄る。

 

「谷中。」

 

「君は確かに面白い。」

 

「ですが。」

 

「逆ナン力すら扱えぬ今のお前では、私には届きません。」

 

鉄扇がゆっくり振り上げられる。

 

「これで終わりです。」

 

その瞬間だった。

 

カンッ!!

 

乾いた金属音が店内へ響いた。

 

天山の鉄扇が大きく弾かれる。

 

「……。」

 

天山の笑みが初めて消えた。

 

入口には、一人の男が立っていた。

 

長いコート。

 

深くかぶった帽子。

 

ゆっくりと歩み寄り、静かに帽子を脱ぐ。

 

「……先生?」

 

谷中が目を見開く。

 

穏やかな眼差し。

 

見慣れた顔。

 

「久しぶりだな。」

 

「谷中。」

 

「桐原先生……!」

 

川北は安心したように息を吐いた。

 

「やっと来たか……。」

 

天山は静かに息を吐く。

 

「なるほど。」

 

「ようやく姿を見せましたか。」

 

「――『師』。」

 

谷中は首をかしげる。

 

「師……?」

 

桐原は何も答えない。

 

ただ静かに天山を見据える。

 

その目には、道場で見せていた穏やかさはなかった。

 

「久しぶりだな。」

 

「天山。」

 

天山は鉄扇を構える。

 

「待ちくたびれました。」

 

「二十年前の続きを始めましょう。」

 

「望むところだ。」

 

次の瞬間。

 

二人は同時に踏み込んだ。

 

ガァァァン!!

 

衝撃だけで店中の窓ガラスが砕け散る。

 

「速い……!」

 

空本が壁にもたれながら息をのむ。

 

天山の鋼線が何十本も伸びる。

 

桐原は紙一重でかわし、一瞬で懐へ潜り込む。

 

掌底。

 

肘。

 

回し蹴り。

 

流れるような連撃。

 

天山も鉄扇で受け流しながら反撃する。

 

互いに一歩も引かない。

 

「さすがですね。」

 

天山は笑う。

 

「二十年前より、さらに強くなった。」

 

桐原は静かに答える。

 

「お前もな。」

 

「だが。」

 

「今日は、お前を倒しに来たわけじゃない。」

 

天山の目が細くなる。

 

「……ほう?」

 

「弟子を守りに来た。」

 

「なら。」

 

天山は笑みを浮かべる。

 

「完成する前に潰すまで。」

 

「やれるものなら、やってみろ。」

 

再び二人が激突する。

 

衝撃が床を揺らす。

 

その光景を見つめながら、谷中の視界は少しずつぼやけていく。

 

「先生……。」

 

隣では空本も意識が遠のいていた。

 

「谷中……。」

 

「先生……すげぇな……。」

 

最後に見えたのは。

 

悪法の天山と互角以上に渡り合う桐原の姿だった。

 

「谷中。」

 

桐原の声だけが静かに届く。

 

「安心して眠れ。」

 

「ここからは――」

 

「師匠の仕事だ。」

 

その言葉を最後に。

 

谷中と空本、二人の意識は静かに闇へ沈んでいった――。

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