古道具屋・川北黎の店。
激しい爆発によって店内は崩れ始めていた。
「行け、谷中!」
川北の叫びが響く。
谷中は懐中時計を握り締め、空本と共に裏口へ向かって走り出す。
しかし――。
ドォォォン!!
裏口の壁が真っ二つに裂けた。
煙の中から、一人の男がゆっくりと姿を現す。
黒いローブ。
鋭い眼光。
そして余裕の笑み。
男は静かに口を開く。
「黒獅子、四悪が一人。」
「人呼んで――」
「悪法の天山。」
静まり返る店内。
天山は谷中へ視線を向ける。
「また会いましたね、谷中。」
谷中は拳を握る。
「天山……!」
天山はゆっくり川北へ目を向けた。
「川北黎。」
「余計な真似をしましたね。」
川北は谷中たちをかばうように前へ出る。
「この子たちには未来がある。」
「だから、ここで終わらせるわけにはいかん。」
天山は肩をすくめた。
「未来ですか。」
「面白い。」
「なら、その未来ごと消してしまいましょう。」
パチン。
鉄扇が開く。
無数の鋼線が音もなく伸びた。
川北は懐から短刀を抜き、一気に飛び込む。
金属音が響く。
火花が散る。
一瞬だけ互角に見えた。
しかし。
「遅い。」
天山の鋼線が川北の短刀を弾き飛ばす。
続けざまに鉄扇が振り抜かれた。
ドォン!!
川北の身体が棚へ叩きつけられる。
「ぐっ……!」
「川北さん!」
谷中が駆け出そうとする。
しかし空本が腕を掴んだ。
「待て!」
「でも!」
「川北さんは俺が助ける!」
空本は川北の元へ走る。
川北は苦しそうに笑った。
「若いの……。」
「ありがとう。」
そして谷中を見る。
「谷中!」
「時計だけは守れ!」
「絶対に渡すな!」
谷中は懐中時計を握り締める。
「……はい!」
天山は二人を見渡し、小さく笑った。
「仲間思いですね。」
「ですが。」
「終わりです。」
谷中と空本は視線を合わせる。
「行くぞ!」
「おう!」
二人は同時に飛び出した。
左右から挟み込む。
京都や大阪で何度も磨いた連携だった。
しかし。
「悪くありません。」
天山は一歩も動かない。
鉄扇を一振りする。
鋼線が無数に広がった。
「しまっ!」
空本が叫ぶ。
「谷中!!」
空本は谷中を突き飛ばす。
谷中は攻撃を避けることができた。
その代わり。
鋼線が空本の身体へ直撃する。
ドォォン!!
「ぐあああっ!」
空本は吹き飛ばされ、壁へ激突した。
「空本!!」
谷中の表情が変わる。
怒りのまま天山へ飛び込む。
「うおおおおおっ!!」
渾身の拳。
だが。
「遅い。」
天山は鉄扇で受け流す。
鋼線が谷中の腕へ巻き付き、そのまま身体ごと持ち上げた。
「まだまだ未熟です。」
そのまま壁へ叩きつける。
ドォォォン!!
「がはっ!」
息が止まる。
立ち上がろうとしても身体が動かない。
天山は静かに歩み寄る。
「谷中。」
「君は確かに面白い。」
「ですが。」
「逆ナン力すら扱えぬ今のお前では、私には届きません。」
鉄扇がゆっくり振り上げられる。
「これで終わりです。」
その瞬間だった。
カンッ!!
乾いた金属音が店内へ響いた。
天山の鉄扇が大きく弾かれる。
「……。」
天山の笑みが初めて消えた。
入口には、一人の男が立っていた。
長いコート。
深くかぶった帽子。
ゆっくりと歩み寄り、静かに帽子を脱ぐ。
「……先生?」
谷中が目を見開く。
穏やかな眼差し。
見慣れた顔。
「久しぶりだな。」
「谷中。」
「桐原先生……!」
川北は安心したように息を吐いた。
「やっと来たか……。」
天山は静かに息を吐く。
「なるほど。」
「ようやく姿を見せましたか。」
「――『師』。」
谷中は首をかしげる。
「師……?」
桐原は何も答えない。
ただ静かに天山を見据える。
その目には、道場で見せていた穏やかさはなかった。
「久しぶりだな。」
「天山。」
天山は鉄扇を構える。
「待ちくたびれました。」
「二十年前の続きを始めましょう。」
「望むところだ。」
次の瞬間。
二人は同時に踏み込んだ。
ガァァァン!!
衝撃だけで店中の窓ガラスが砕け散る。
「速い……!」
空本が壁にもたれながら息をのむ。
天山の鋼線が何十本も伸びる。
桐原は紙一重でかわし、一瞬で懐へ潜り込む。
掌底。
肘。
回し蹴り。
流れるような連撃。
天山も鉄扇で受け流しながら反撃する。
互いに一歩も引かない。
「さすがですね。」
天山は笑う。
「二十年前より、さらに強くなった。」
桐原は静かに答える。
「お前もな。」
「だが。」
「今日は、お前を倒しに来たわけじゃない。」
天山の目が細くなる。
「……ほう?」
「弟子を守りに来た。」
「なら。」
天山は笑みを浮かべる。
「完成する前に潰すまで。」
「やれるものなら、やってみろ。」
再び二人が激突する。
衝撃が床を揺らす。
その光景を見つめながら、谷中の視界は少しずつぼやけていく。
「先生……。」
隣では空本も意識が遠のいていた。
「谷中……。」
「先生……すげぇな……。」
最後に見えたのは。
悪法の天山と互角以上に渡り合う桐原の姿だった。
「谷中。」
桐原の声だけが静かに届く。
「安心して眠れ。」
「ここからは――」
「師匠の仕事だ。」
その言葉を最後に。
谷中と空本、二人の意識は静かに闇へ沈んでいった――。