谷中逆ナン物語   作:君脇玲

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8.たこ焼き消滅計画

京都で黒獅子・四悪の一人、天山と遭遇し、初めて圧倒的な敗北を味わった谷中と空本。

 

 二人は気持ちを切り替え、新たな目的地――大阪へとやって来ていた。

 

「大阪かぁ……。」

 

 道頓堀を歩きながら、谷中は嬉しそうに街を見渡す。

 

「大阪の女の人って積極的って聞くし、今回は期待できる気がする!」

 

「お前、それしか考えてないのか。」

 

 空本が呆れたように笑う。

 

「もちろん、それだけじゃない!」

 

「……たぶん。」

 

 二人は思わず笑い合った。

 

 しかし、その笑顔はすぐに消える。

 

「……なんか変だな。」

 

 空本が足を止めた。

 

 普段なら観光客で賑わっているはずの道頓堀。

 

 今日は人通りが少なく、多くの飲食店が店を閉めていた。

 

「大阪らしくないな。」

 

 辺りを見回した、その時だった。

 

「うわぁぁぁ!」

 

 突然、悲鳴が響く。

 

 二人が振り返ると、一軒のたこ焼き屋で異変が起きていた。

 

 焼き上がったばかりのたこ焼きが、銀色のパチンコ玉へと姿を変えていく。

 

「なっ……!」

 

 店主はその場に崩れ落ちた。

 

「終わりや……。」

 

「商売にならへん……。」

 

 異変は一軒だけではない。

 

 街中のたこ焼き屋で、同じ現象が起きていた。

 

 次々とパチンコ玉へ変わっていくたこ焼き。

 

 大阪名物が、この街から消えようとしていた。

 

「誰がこんなことを……。」

 

 谷中は拳を握る。

 

 その時、一軒の店が目に入った。

 

「あっ!」

 

「ここだ!」

 

 二人は急いで駆け出した。

 

 そこは谷中が大阪へ来るたびに立ち寄っていた、馴染みのたこ焼き屋だった。

 

 店先には、一人の女性が立っている。

 

「春花さん!」

 

「谷中くん!」

 

 店主・岡田春花(おかだはるか)だった。

 

 しかし、その笑顔にいつもの明るさはない。

 

 店内へ目を向ける。

 

 鉄板の上には焼きかけのたこ焼きではなく、無数のパチンコ玉が転がっていた。

 

「もう……お店、続けられへんかもしれへん。」

 

 春花は寂しそうにうつむく。

 

 谷中は言葉を失った。

 

 昔から通っていた大好きな店。

 

 笑顔で迎えてくれた春花。

 

 その場所が、今まさに失われようとしている。

 

 その時だった。

 

 店の奥から、一人の男性が姿を現した。

 

 白衣をまとった、落ち着いた雰囲気の医師。

 

「……谷中くん。」

 

 聞き覚えのある声だった。

 

「山村先生!」

 

 大阪へ来るたび世話になっている医師・山村(やまむら)が穏やかに笑う。

 

「久しぶりやな。」

 

 だが、その表情はすぐに険しくなった。

 

「今回の事件、普通やない。」

 

「犯人も分かっとる。」

 

「誰なんですか?」

 

 山村は静かに答えた。

 

「大原。」

 

「黒獅子の軍師や。」

 

 谷中は思わず顔を上げる。

 

「黒獅子……。」

 

 山村は静かに続ける。

 

「四悪を支え、数々の策を巡らせる男や。」

 

「人はあいつを――」

 

鬼算の大原(きざんのおおはら)と呼ぶ。」

 

「鬼算……。」

 

 空本が小さくつぶやく。

 

「あいつは真正面から戦うより、人を追い詰める方が好きな男や。」

 

「今回は大阪中のたこ焼きをパチンコ玉に変えて、街そのものを混乱させとる。」

 

「理由なんかない。」

 

「人が困る姿を見るんが、何より好きなんや。」

 

 その時だった。

 

 街中へ陽気な笑い声が響く。

 

「アッハッハッハ!」

 

「大阪からたこ焼きが消えたら、めっちゃおもろいやろ!」

 

「みんな困った顔しとるわ!」

 

 二人が見上げる。

 

 建物の屋上。

 

 一人の男が腹を抱えて笑っていた。

 

 派手な羽織。

 

 狐のような笑み。

 

 手には一本の黒い扇子。

 

 扇子を振るたび、街中のたこ焼きが次々とパチンコ玉へ変わっていく。

 

「あいつか……!」

 

 谷中が睨みつける。

 

 男は楽しそうに笑った。

 

「ほぉ。」

 

「お前さんが谷中か。」

 

「天山様から話は聞いとるで。」

 

 ゆっくりと扇子を閉じる。

 

「今日は大阪中、笑わせてもらうで。」

 

 谷中は一歩前へ出た。

 

「笑いものになるのは、お前の方だ。」

 

「春花さんの店も。」

 

「大阪も。」

 

「俺たちが守る!」

 

 大原は満足そうに笑う。

 

「ええ顔するやないか。」

 

「ほな、遊んだろ。」

 

 鬼算の軍師・大原。

 

 策を巡らせる男と、旅を続ける二人。

 

 大阪の命運を懸けた戦いが、今始まる――。

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