京都で黒獅子・四悪の一人、天山と遭遇し、初めて圧倒的な敗北を味わった谷中と空本。
二人は気持ちを切り替え、新たな目的地――大阪へとやって来ていた。
「大阪かぁ……。」
道頓堀を歩きながら、谷中は嬉しそうに街を見渡す。
「大阪の女の人って積極的って聞くし、今回は期待できる気がする!」
「お前、それしか考えてないのか。」
空本が呆れたように笑う。
「もちろん、それだけじゃない!」
「……たぶん。」
二人は思わず笑い合った。
しかし、その笑顔はすぐに消える。
「……なんか変だな。」
空本が足を止めた。
普段なら観光客で賑わっているはずの道頓堀。
今日は人通りが少なく、多くの飲食店が店を閉めていた。
「大阪らしくないな。」
辺りを見回した、その時だった。
「うわぁぁぁ!」
突然、悲鳴が響く。
二人が振り返ると、一軒のたこ焼き屋で異変が起きていた。
焼き上がったばかりのたこ焼きが、銀色のパチンコ玉へと姿を変えていく。
「なっ……!」
店主はその場に崩れ落ちた。
「終わりや……。」
「商売にならへん……。」
異変は一軒だけではない。
街中のたこ焼き屋で、同じ現象が起きていた。
次々とパチンコ玉へ変わっていくたこ焼き。
大阪名物が、この街から消えようとしていた。
「誰がこんなことを……。」
谷中は拳を握る。
その時、一軒の店が目に入った。
「あっ!」
「ここだ!」
二人は急いで駆け出した。
そこは谷中が大阪へ来るたびに立ち寄っていた、馴染みのたこ焼き屋だった。
店先には、一人の女性が立っている。
「春花さん!」
「谷中くん!」
店主・
しかし、その笑顔にいつもの明るさはない。
店内へ目を向ける。
鉄板の上には焼きかけのたこ焼きではなく、無数のパチンコ玉が転がっていた。
「もう……お店、続けられへんかもしれへん。」
春花は寂しそうにうつむく。
谷中は言葉を失った。
昔から通っていた大好きな店。
笑顔で迎えてくれた春花。
その場所が、今まさに失われようとしている。
その時だった。
店の奥から、一人の男性が姿を現した。
白衣をまとった、落ち着いた雰囲気の医師。
「……谷中くん。」
聞き覚えのある声だった。
「山村先生!」
大阪へ来るたび世話になっている医師・
「久しぶりやな。」
だが、その表情はすぐに険しくなった。
「今回の事件、普通やない。」
「犯人も分かっとる。」
「誰なんですか?」
山村は静かに答えた。
「大原。」
「黒獅子の軍師や。」
谷中は思わず顔を上げる。
「黒獅子……。」
山村は静かに続ける。
「四悪を支え、数々の策を巡らせる男や。」
「人はあいつを――」
「
「鬼算……。」
空本が小さくつぶやく。
「あいつは真正面から戦うより、人を追い詰める方が好きな男や。」
「今回は大阪中のたこ焼きをパチンコ玉に変えて、街そのものを混乱させとる。」
「理由なんかない。」
「人が困る姿を見るんが、何より好きなんや。」
その時だった。
街中へ陽気な笑い声が響く。
「アッハッハッハ!」
「大阪からたこ焼きが消えたら、めっちゃおもろいやろ!」
「みんな困った顔しとるわ!」
二人が見上げる。
建物の屋上。
一人の男が腹を抱えて笑っていた。
派手な羽織。
狐のような笑み。
手には一本の黒い扇子。
扇子を振るたび、街中のたこ焼きが次々とパチンコ玉へ変わっていく。
「あいつか……!」
谷中が睨みつける。
男は楽しそうに笑った。
「ほぉ。」
「お前さんが谷中か。」
「天山様から話は聞いとるで。」
ゆっくりと扇子を閉じる。
「今日は大阪中、笑わせてもらうで。」
谷中は一歩前へ出た。
「笑いものになるのは、お前の方だ。」
「春花さんの店も。」
「大阪も。」
「俺たちが守る!」
大原は満足そうに笑う。
「ええ顔するやないか。」
「ほな、遊んだろ。」
鬼算の軍師・大原。
策を巡らせる男と、旅を続ける二人。
大阪の命運を懸けた戦いが、今始まる――。