あのマスコミ騒動から数日の時が流れた水曜日。
午前中の座学の授業を終え、緑谷出久をはじめとするヒーロー科1-A組の生徒たちは、各々が自身のヒーローコスチューム*1に身を包み、雄英高校の敷地内を走る大型バスに揺られていた。
今日の午後の授業は『ヒーロー基礎学』。
出久はバスの座席に深く腰掛けながら、手元のヒーロー分析ノートをパラパラと捲り、先程のホームルームでの相澤の言葉を脳内で反芻していた。
『今日のヒーロー基礎学は、俺とオールマイト、そしてもう一人の教師の三人体制で見ることになった。内容は災害や水難何でもござれ、『
オールマイトに憧れ、人助けのためにヒーローを志した出久にとって、それは絶対に避けては通れない、そして最も力を入れたい分野の授業であった。
前の席では、芦戸たちが「どんな訓練になるんだろうね!」と期待に胸を膨らませて談笑している。車内は修学旅行に向かう学生たちのような、どこか浮き足立った穏やかな喧騒に包まれていた。
「───そう言えば、五条ちゃんは午後の授業には間に合うのかしら」
ふと、少し離れた席から蛙吹梅雨のケロリとした特徴的な声が響き、車内の空気が少しだけ変化した。
彼女の視線の先には、本来であれば長身の白髪の少年が座っているはずの、ポツンと目立つ空席がある。
今朝のホームルームで、相澤は『五条は家の事情で、今日は午後からの合流になる』とだけ短く告げていた。
それを思い出した蛙吹は、口元に人差し指を当てながら小首を傾げる。
「入学初日の時も、同じ理由で途中からの合流だったわよね。相澤先生と話してた『門限』のこともあるし……五条ちゃんの家って、結構厳しいところなのかしら」
その呟きに、周囲の生徒たちも「確かに」と頷き合った。
五条枢。あの圧倒的すぎる実力と、底知れぬ佇まい。それでいて、放課後は寄り道もせずにさっさと帰宅してしまうという、どこか謎めいた私生活。
彼が孤児院で暮らしているという詳細な事情こそクラスメイトたちは知らなかったが、彼を取り巻く『家庭環境』が一般的なものとは少し違うらしいということは、皆が薄々と察していた。
「先生は家の事情としか教えてくれねぇしな。出会って日の浅い俺らが、あんまり深く踏み込んでいいものじゃないとも思うけどよ……やっぱ、心配っちゃ心配だよな」
切島が腕を組みながら、少しだけ気遣うように眉を顰める。
どれだけ実力がプロ顔負けであろうと、枢は彼らと同じ十五歳の少年なのだ。家庭の事情で授業に遅れざるを得ない状況というのは、ヒーローを志す者として純粋に心配になるのがクラスメイトとしての情であった。
「まぁ、ヤオモモんとこみたく、どっかの名家の厳しい一人息子って言われても納得の雰囲気ではあるけどな。あの浮世離れした感じとか、なんでもそつなくこなす器用さとかさ」
瀬呂が空気を軽くするように、ニカッと笑って冗談めかして言った。
しかし、名指しされた八百万は、至って真面目な顔で首を横に振った。
「いえ……私の知る限り『五条』という名家に心当たりはございませんわ。五条さんほどの才児を抱えている家でしたら、社交界で父の耳に入らないはずがありませんもの」
大真面目に考察し始める八百万に、瀬呂をはじめとする周囲の生徒たちは「いや、適当に言っただけなんだけど……」と苦笑を零す。
そんな他愛のない雑談を交わしているうちに、やがてバスの窓からの景色が変わり、一行を乗せた車両は雄英の広大な敷地のはずれにある巨大なドーム状の施設の前へと無事に辿り着いた。
「お、着いた着いた!」
「すっげぇ……デカいドームだなー」
バスから降り立った出久たちは、目の前にそびえ立つ圧倒的なスケールの建築物に感嘆の声を上げた。
「───てかさ、五条のことだから案外一足先に中で待ってるかもしれないぜ?」
上鳴が、施設へと続くアプローチを歩きながら軽い調子で告げた。
連絡を取り合っている相澤が未だに一日欠席と明言していない以上、確かにあり得ない話ではない。上鳴の言葉を受けた大半の生徒たちが、普段から飄々として人を食ったような態度を見せる枢の姿を想起し、「あいつならやりかねない」「中で涼しい顔して待ってそう」と納得の声を上げながら、施設の入り口へと歩みを進めた。
「待っていましたよ、皆さん」
巨大なゲートを潜った先。
そこには、宇宙服のような丸みを帯びたコスチュームに身を包んだプロヒーローが、出久たちを温かく出迎えてくれていた。
今回の授業を相澤、そしてオールマイトと共に執り行う、災害救助のスペシャリスト───スペースヒーロー『13号』である。
「うわぁっ、13号だ! 災害救助で目覚ましい活躍をしている紳士的なヒーロー!」
憧れのプロヒーローを目の当たりにし、出久はヒーローオタクとしての血が騒ぎ目を輝かせてはしゃいでしまう。その隣では麗日も同じように感動して、出久の言葉に同意するように何度も頷いていた。
「さぁ、中へ入りましょう」
13号に案内され、出久たちはドームの内部───ウソの災害や事故ルーム、通称『USJ』と呼ばれる広大な演習場へと足を踏み入れた。
水難事故を想定した巨大なプール、土砂崩れゾーン、火災ゾーン、暴風雨ゾーンなど、あらゆる災害のシチュエーションが人工的に再現された、まさに救助訓練のためのテーマパークのような空間が眼下に広がっている。
「すごい……雄英って、こんな施設まであるんだ」
その光景に出久たちが圧倒されていると、先頭を歩いていた相澤が13号の元へと歩み寄って何かをヒソヒソと言葉を交わし始めた。
出久の耳には届かなかったが、相澤は「オールマイトは? ここで待ち合わせのはずだろ」と問いかけており、それに対し13号は三本の指を立てながら、どうやらオールマイトが通勤途中に
「(……全く、教師としての自覚が足りないだろ)」
相澤は呆れたように小さく嘆息し、生徒たちの方へと向き直る。
仕方ない、あの人抜きで始めるか。相澤がそう判断した直後、13号が一歩前に出て、生徒たちに向かって訓練前の重要な訓示を語り始めた。
「皆さんご存知の通り、私の“個性”は『ブラックホール』。どんなものでも吸い込み、チリにしてしまう力です。……しかし、この力は一歩間違えれば、人を簡単に殺せてしまう力でもあります」
その真摯な声に、出久たちの顔つきが引き締まる。
「皆さんの“個性”の中にも、そのような危険性を孕んだものは多いはずです。超人社会は“個性”の使用を厳しく制限することで成り立っていますが、一歩間違えれば致死の兵器になり得る力を、皆さんは持っているということを忘れないでください」
13号の言葉は、ヒーローを志す者としての根源的な責任を問うものだった。
人を傷つけるためではなく、人を救うために己の力を行使する。そのための訓練が、今日ここで行われるのだと。
「今日学ぶのは、自身の“個性”を『人命救助』のためにどう活かすかという実践です。皆さんの力が、人を傷つけるためのものではなく、人を救うためにあるのだと、ここでしっかりと学んでいってください!」
素晴らしい訓示に、出久たちは感動の面持ちで「ハイッ!!」と元気よく返事をした。
さぁ、いよいよ訓練が始まる。出久が気合を入れ直した、正にその時だった。
ズズッ……、と。
不気味な、空気が擦れ合うような低い摩擦音が、眼下に広がるUSJの中心広場から響き渡った。
同時に、広場の中央にある巨大な噴水の水が突如として不自然に途切れ、照明の光がチカチカと不吉な明滅を繰り返す。
「……え?」
何事かと出久たちが視線を下ろすと、そこには巨大な黒紫色の靄があった。
それはただの煙やガスではない。中心にぽっかりと開いた暗闇から、泥のように重く、粘り気のある得体の知れない気配が這い出してくる。
「───全員、固まって動くな!!」
その異変を察知した瞬間、相澤の声音が、それまでの気怠げな教師のものから戦場に立つプロヒーローのものへと劇的に変貌した。
彼は血相を変え、生徒たちを庇うように前に飛び出すと、首に巻かれた特殊合金製の捕縛布を両手に握り締め、瞬時に戦闘態勢に入った。
刹那、相澤のポケットの中でスマートフォンが短く振動した。
一瞬だけ落とした視線の先、通知画面には枢からの『今向かってます』という短いメッセージが表示されている。
だが、目の前に突如として現れた決定的な脅威を前に、画面をタップして返信するような猶予は一秒たりとも残されてはいなかった。
「(……悪いな、五条)」
心の中で短く謝罪の言葉を吐き捨てると、相澤は即座に意識を眼前の死線へと切り替える。
「13号! 生徒を守れ!!」
ただならぬ相澤の剣幕に、出久たち生徒は完全に思考が追いつかず、その場で硬直してしまっていた。
「なんだ、あれ……訓練の一環か?」
「また今までみたいな抜き打ちテスト的なやつ?」
切島や芦戸たちが、眼下の光景をUSJの設備の一つだと勘違いし、怪訝な表情で首を傾げる。
平和な学校生活の中で突如として牙を剥いた非日常の存在を、彼らの脳はまだ異常事態として正しく認識しきれていなかったのだ。
だが、その甘い認識は、黒い靄の中から次々と這い出してくる異形の集団によって容赦なく打ち砕かれることとなる。
金属のバールを持つ者、異様に腕が肥大化した者、全身が鱗に覆われた者───名もなき有象無象の集団が数十、いや百に近い数で広場を埋め尽くしていく。
そして。
その群れの中心。黒い靄の中から最後に姿を現したのは、顔や腕の至る所に切断された手首を貼り付けた異様な出で立ちの青年であった。
指の隙間から覗く充血した瞳。その口元には、獲物を見つけた肉食獣のような、純粋で狂気的な笑みがへばり付いている。
彼らの姿を一目見ただけで、出久の背筋に氷のような悪寒が走った。
あれは、訓練用のロボットでもなければ、戦闘訓練で自分たちが演じていた仮想敵でもない。
あそこから放たれているのは、どこまでも明確な、純度100%の『殺意』だ。
前に一歩踏み出そうとした生徒を制止するように。相澤がゴーグルを顔に装着しながら、凍りつくような真剣な声音で真実を告げた。
「お前ら、下手に動くなよ」
相澤の三白眼が、眼下の群れを冷徹に睨み据える。
「───あれは、
その言葉が響いた瞬間、USJの空気が完全に凍りついた。
出久の心臓が、早鐘のように激しく脈打つ。
まさか。雄英高校という、日本で最も警備が厳重であるはずのヒーロー育成施設のど真ん中に、本物の
だが、目の前の現実はそんな常識を嘲笑うかのように迫ってきていた。
「生徒たちを頼む、13号!」
相澤はそれだけを言い残すと、生徒たちを
イレイザーヘッドというプロヒーローがたった一人で、無数の敵陣のど真ん中へと突貫していくその後ろ姿を、出久はただ絶望的な無力感と共に見つめることしかできない。
一方、広場に降り立った
「なんだよ……」
死柄木は、顔に張り付いた手首の隙間からガリガリと自身の首筋を掻き毟りながら、ひどく掠れた不満げな声を零した。
「オールマイト、いねぇじゃん」
彼の目的はただ一つ、平和の象徴をその手で殺すこと。
その標的の姿がないことに落胆した死柄木は、首を掻く手を止め、階段の上で怯える出久たち生徒へその濁った瞳を向けた。
「……まぁいいや」
死柄木の口元が、三日月のように狂気に歪む。
「平和の象徴を引きずり出すための餌として……とりあえず、子供を何人か殺してみようか」
その呟きは、遠く離れた出久たちの耳には届かなかった。
しかし、彼から放たれるドロドロとした死の気配は、風に乗って確実に生徒たちの肌を粟立たせていた。
互いの命を懸け合う本物の
平和な学校生活の延長にあったはずのヒーロー基礎学は、今この瞬間、血で血を洗う絶望の死地へと変貌を遂げたのだった。
☆
広大なUSJの中心に位置するセントラル広場。
つい先程まで静寂に包まれていたその場所は、黒い靄から吐き出された百を超える
「(……なるほど、これがイレイザーヘッド)」
無数の
彼の眼前で繰り広げられているのは、完全なワンサイドゲームだった。
金属バットや刃物を振り回して襲い掛かる
さらに恐るべきは、彼の“個性”である『抹消』。イレイザーヘッドのゴーグルの奥の視線に捉えられた
「(対多数の集団戦は不得手と思っていましたが……流石は雄英の教師を務めるプロ。路地裏で燻っていた程度の不良相手では、どれだけの数をけしかけようとも足止めにすらなりませんか)」
黒霧は、バタバタと無惨に地に伏していく手駒たちを見下ろしながら、内心で静かに嘆息した。
隣に立つ首領の死柄木弔は、不甲斐ない彼らの姿に苛立たしげに首筋を掻き毟りながらも、まずはヒーローの出方を窺うように「なるほどねぇ」と楽しげな声を漏らしている。
しかし、黒霧の頭の中では極めて冷静な状況分析と、一つの重大な『イレギュラー』についての懸念が渦巻いていた。
「(オールマイトがこの場にいないのは想定外の事態でしたが───何もかもが上手くいっていないという訳ではなさそうですね)」
黒霧の視線が、眼下の戦闘から更に上へと向く。
遥か上方、USJの出入り口へと続く大階段の上。そこには、担任が単身で
その群像を遠目に見据えながら、黒霧は今回の襲撃計画の直前、脳無を創り出した『ドクター』こと氏子達磨から密かに聞かされていた、不可解な忠告を想起していた。
『雄英を襲撃するのは結構じゃがな。……いいか黒霧。もしも襲撃の際に
通信越しに響いた氏子の陰湿な声。
その言葉と共に転送されてきた一枚の写真には、雄英の学生服を着て、顔の半分を漆黒のアイマスクで覆い隠した透き通るような白髪の少年の姿が写し出されていた。
資料によれば、彼はこの春に雄英高校に入学したばかりの一年生だという。
『こんな少年が……ですか? 撤退とまで仰るとは、彼はそれほどの脅威であると?』
黒霧が思わず疑問を隠せずに問うと、通信の向こうで氏子はクツクツと心底気味の悪い笑い声を喉の奥で鳴らした。
『脅威などという生易しいものではないわい。……あれはオールマイトに並び立つ、いや、あるいはそれ以上の
オールマイトに並ぶ怪物。
あの氏子がそこまで断言する事実に、黒霧は戦慄を覚えた。もしそんな存在がオールマイトの側に控えていれば、平和の象徴を殺害するという彼らの計画は根底から瓦解してしまう。
戸惑う黒霧に対し、氏子は通信を切る直前にこう言い残したのだ。
『……ただまあ、先生に免じて。襲撃の間、わしの手でその少年を少しばかり
回想から意識を現実へと引き戻し。
黒霧は、上方で固まっている生徒たちの顔ぶれを、改めて一人一人慎重に確認する。
緑の髪の少年、ツンツンとした金髪の少年、オッドアイが特徴的な少年……だが、その中にアイマスクを着けた白髪の少年の姿はどこにも見当たらなかった。
「(感謝します、ドクター。あなたの仕込み通り、彼はこの場にはいないようだ)」
件の少年の姿はない。
氏子がどのような手を使って彼を足止めしているのか、その詳細までは黒霧には分からない。だが、氏子でさえ「足止めくらいしかできない」と語るほどの相手だ。その時間がいつまで保つかなど、全くの未知数である。
「(であれば、あまり時間をかけて遊んではいられませんね。彼が駆けつけてくる前に、迅速に事を運ばねば)」
黒霧は静かに決断を下すと、高みの見物を決め込んでいる死柄木の耳元へと顔を寄せた。
「死柄木弔。……上の生徒たちが、我々の存在を外部に知らせようと動く可能性があります。私が先回りし、手筈通り彼らを分断してきてもよろしいですか?」
「ん? ああ、いいよ。どうせオールマイトがいないんじゃ、ゲームは始まんねぇしな」
死柄木からの気怠げな許可を得た瞬間、黒霧の身体を構成する黒紫色の靄が、大きく膨張を始めた。
───一方、その頃。
USJの入り口付近では、残された13号が生徒たちを庇うように両腕を広げ、背後の巨大な扉へと避難を促していた。
「皆さん、早く外へ避難を! そして学校にこの事態を───!」
13号が叫んだ、正にその直後だった。
彼らの避難経路である扉の前方に、突如として巨大な黒紫色の靄のドームが湧き上がるようにして展開されたのだ。
「初めまして」
出久たち生徒が驚愕に目を見開く中。
空間を塗り潰すような靄の中から、二つの細い金色の瞳が、ひどく丁寧で、しかし感情の全くこもっていない冷酷な声と共に彼らを見下ろした。
「我々は
黒霧は長々と自己紹介をするつもりはないと言わんばかりに、自身の靄をさらに巨大化させ、生徒たち全員を一網打尽に飲み込もうとその魔手を伸ばし始めた。
「舐めやがって……!」
「行くぞ、爆豪!!」
「ッ……」
13号が指先のキャップを開け、自身の“個性”である『ブラックホール』を発動しようと構える。
しかし、恐怖よりも怒りが勝った二人の生徒───爆豪と切島が黒い靄の中心に向かって真っ直ぐに突撃を仕掛けてしまったために、全てをチリにしてしまう自身の能力をここで解放すれば飛び出した生徒たちを巻き込んでしまうと、13号が一瞬“個性”の使用を躊躇してしまった、まさにその隙だった。
「───申し訳ありませんが、あなたたちには平和の象徴を殺害するための
黒霧の言葉と共に、黒紫色のワープゲートが竜巻のように大きく広がり、出久たち1-Aの生徒全員を飲み込むべく襲い掛かった。
事前の作戦通り、自分を妨害し得るプロヒーロー───13号をこの場に留め、それ以外の生徒たちはUSJ内に点在する各災害ゾーンへと散り散りに転送し、そこで待機させている敵の群れに嬲り殺しにさせる。
それが、黒霧に与えられた分断の任務であった。
「うわぁぁぁぁっ!!」
「きゃあああああっ!!」
為す術もなく、次々と黒い靄に飲み込まれ姿を消していく生徒たち。
空間が反転し、三半規管が狂わされるような絶望の渦の中……しかし、そこは流石に天下の雄英高校に見出された金の卵たちと言うべきか。飯田や麗日など何名かの生徒たちは、間一髪で黒霧のワープゲートからの吸引を逃れ、この場に踏み止まることに成功していた。
「……まぁ、いいでしょう」
大半の生徒を各ゾーンへと転送し終え、元の人の形を取り戻した黒霧。彼は残された数名の生徒たちと、彼らを庇うように立ち塞がる13号を見据えて静かに首を振った。
「何人残ろうと、私がこの扉の前に立つ限り結果は同じこと。あなたたちはここから逃げることも、外部に助けを呼ぶことも叶いません」
黒霧の双眸が、ジッと細められる。
「オールマイトがいなくとも……
「「「ッ!!?」」」
突如として敵の幹部の口から発せられた、この場に不在のクラスメイトの名前。
なぜ、目の前の男が枢のことを知っているのか。そして、なぜ彼を名指しで警戒するような発言をしたのか。
残された生徒たち───特に、以前の戦闘訓練で彼の規格外の力を間近で味わった飯田や障子たちの顔に、計り知れない驚愕と動揺が走った。
「(どうして五条くんのことをッ……みんなは無事なのか……!?)」
飯田が青褪めた顔で身構える中。
黒霧は、自身の胸元のポケットに手を入れると、死柄木から事前に手渡されていた保険の一つ───
「さて、始めましょうか」
揺らめく靄の奥で戦闘態勢に移行しながら。黒霧はこの場に残されたヒーローの卵たちを全て刈り取るべく、その冷酷な笑みを更に深めるのであった。