鼓膜を劈くような激しい爆発音が空間を支配する。
巨大なドーム状の施設───USJの中心に位置するセントラル広場に、大地を揺るがすほどの凄まじい轟音が連続して木霊していた。
分厚いコンクリートの床が紙屑のように砕け散り、至る所に大小様々なクレーターが穿たれていく。その破壊の元凶は、死柄木弔の命を受けて眼前の白髪の少年を殺害せんと、低い唸り声を上げながら暴れ回る異形の改造人間、『脳無』であった。
純粋な素の力だけで平和の象徴と謳われるオールマイトに匹敵する、災害の如き圧倒的なフィジカル。
プロヒーローであるイレイザーヘッド───相澤消太を容易くアスファルトに沈ませ一蹴してみせたその豪腕が直撃すれば、並の相手であれば頭蓋を砕かれるどころか、肉体そのものが原型を留めずにミンチと化すことは明白だった。
「(チッ……すばしっこいガキだ)」
その破壊の嵐から少し離れた安全圏。顔に『お父さん』と呼ばれる手首を張り付けた死柄木弔は、指の隙間から血走った眼球をせわしなく動かし、目の前で繰り広げられている異常な戦闘を油断なく観察していた。
五条枢。
自身をそう名乗った白髪の少年は、脳無の放つ不可視の衝撃波すら伴う暴力の嵐の中にあってなお、その余裕を崩していなかった。
黒霧の『ワープゲート』によって各災害ゾーンに散らされた生徒たち。彼らにこの怪人の被害が及ばないように立ち位置を調整しながら、枢は脳無の豪腕を自身の周囲に展開した見えない防壁───『不可侵』で悉く阻んでいる。
死柄木は、苛立たしげに自身の首筋へ爪を立てて激しく引っ掻いた。
本来であれば、脳無の拳が触れた瞬間にあの生意気なガキは血飛沫となって弾け飛んでいるはずなのだ。しかし、脳無の丸太のような腕は、少年の身体の数センチ手前で、まるで目に見えない分厚い壁に叩きつけられたかのように完全に停止させられてしまうのだから無理もない。
「こんな汚物連れて歩くとか、やっぱり変わった趣味してるよ」
軽やかなステップで脳無の連続攻撃を躱しながら、枢は心底呆れたような、そしてどこか嫌悪感を滲ませた声で嘆息した。
彼のアイマスクの下から露わになった宝石のような碧眼───『六眼』は、脳無の肉体を一目見ただけで、そのあまりに惨たらしい真実を即座に看破していた。
この筋骨隆々の
死した人間の体を素体とし、そこに無理やり複数の個性因子を埋め込んだ物言わぬ『骸』。生命としての尊厳など微塵もない、ただ命令に従って動くためだけに造り出された悍ましい肉塊である。
そして枢の『六眼』は、その遺体に付加されている“個性”の波長すらも瞬時に読み取っていた。
「シッ───!」
直後、鋭い呼気を吐き出すと同時、脳無の拳が『不可侵』に阻まれて止まった硬直の隙を突き、枢の反撃が放たれた。
右の拳に空間を収束させる引力───『蒼』を圧縮して纏わせ、黒霧の実体を一撃で気絶させたのと同じ、膨大な質量を伴うカウンターを脳無の腹部へと深々と叩き込んだのだ。
大気が爆ぜ、空間そのものが震動するような衝撃波が広場を駆け抜ける。
空気が裂けるような轟音と共に、脳無の巨大な身体が後方へと数十メートルも吹き飛ばされ、セントラル広場の地面を激しく削りながらバウンドした。
引力による打撃自体は十全に機能している。並の敵であれば、内臓が破裂して即死していてもおかしくない一撃。
しかし。
「……」
土埃が晴れた先。
地面に倒れ伏していた脳無は、一切の躊躇いもなく上体を起こして立ち上がり、腹部を抑える素振りすら見せずに再び枢へと向かって歩みを進め始めた。枢の放った強烈な一撃を受けても、まるで効いていないと言わんばかりに平然としているのだ。
「ハハッ、無駄だよクソガキ!」
その光景を見た死柄木は、自慢の玩具の性能を見せつける子供のように、下卑た笑い声を張り上げた。
「さっきの奴の言葉聞いてなかったのか? そいつは対オールマイト用改造人間! 脳無は『ショック吸収』の“個性”を持ってる───つまり、あらゆる打撃が無効ってことさ!」
オールマイトに匹敵する規格外の身体能力を併せ持ち、かつ、自分に向けられた打撃の威力を文字通り『吸収』し分散させて無効化してしまう無敵の盾。
それだけの性能を持っているとなれば、彼らが意気揚々と「平和の象徴を殺しに来た」と息巻くのも納得というものだ。純粋な肉弾戦において、この脳無に傷を負わせることは事実上不可能に近い。
勝利を確信した死柄木は、脳無の無敵性を高らかに宣言したが───しかし、枢にとって話はそれだけで終わるものではなかった。
「一目見れば分かるっての」
枢は、死柄木の得意げな種明かしを「だから何?」と言わんばかりに鼻で笑い飛ばした。
「ついでに『超再生』も持ってんだろ? よくもまぁ、そんなレアな個性をいくつも集めたもんだよ」
「ッ!?」
枢の口から事も無げに発せられた『超再生』という言葉に、死柄木の顔から潮が引くように笑みが消え失せる。
「……お前、“個性”複数持ちか?」
死柄木は警戒心を露わにして低く唸った。
脳無が『ショック吸収』を持っていることは、その特異な肉体の挙動や先程の緑谷出久の攻撃を受けた際の様子から、勘のいい者なら推測できるかもしれない。
しかし、『超再生』に関してはまだこの場で一度も発動すらしていないのだ。ダメージを受けていないのだから再生の能力を見せる機会などなかったはず。それを見抜くとなれば、相手の“個性”を解析するような特殊な力を持っているとしか考えられない。
「別に? ただ、
死柄木の問いに対し、枢は自身の蒼く澄んだ瞳を指差して、意地悪く微笑んだ。
仮に打撃以外の手段───例えば斬撃や熱攻撃などで『ショック吸収』を突破してダメージを与えたとしても、即座に『超再生』が発動し、傷は瞬く間に塞がってまた振り出しに戻されることは明白。
ならば、この怪物を倒すにはどうすればいいか。
『ショック吸収』が適用されない攻撃手段を用い、かつ『超再生』の修復速度すら追いつかないほどの圧倒的な速度で細胞を破壊する。あるいは『超再生』が機能する間も与えないほどの強大な一撃で、文字通り塵一つ残さず消し飛ばして行動不能にするしかない。
枢は『六眼』を以て脳無の攻略法を看破し、自身の持つ手札の中から最適な戦術を脳裏で高速で組み立てていく。
ただ殴れば倒せる有象無象とは違う、一筋縄では行かないタフな相手。その事実が、かえって枢の闘争心を微かに刺激し、思わずその端正な口元に獰猛な笑みを浮かび上がらせていた。
対して、脳無と交戦を続ける枢の姿を油断なく見据える死柄木もまた、未だに脳無に一撃すら与えられていない、眼前の少年の不可解な力に対して思考を巡らせていた。
「(バリアみたいな“個性”かと思いきや、引力みたいな力で殴ってきたり、黒霧みたいなワープを見せたり……果てにはこっちの手札を解析するサーチみたいな“個性”まで使って来やがる)」
死柄木は、皮膚を破るほどの強さで無意識に首筋を掻き毟る。
「(口振りからして脳無みたいな複数持ちって訳じゃなさそうだが……どういう“個性”だ?)」
五条枢。
死柄木は今回の襲撃に先立って、ドクターこと氏子達磨からこの少年の詳細について聞かされそうになっていた。
しかし、その時の死柄木は「あー、そういうモブの些事は黒霧にでも言っておいてよ」とひどく面倒くさがり、ドクターからの忠告を適当に聞き流してしまっていたのだ。
その結果、参謀であり自身のブレインでもあった黒霧が意識を失ってしまった今、その怠慢と判断の甘さが最悪の形で裏目に出てしまっていた。
ただの生意気なガキじゃない。それは、枢の一挙手一投足、そしてあの見透かすような特異な瞳からも薄々と察してはいる。
だが、それでも死柄木には、対オールマイト用に設えた脳無に対する絶対的な信頼があった。
「(どんなチートみたいな“個性”だろうと、いつまでも使い続けてりゃあスタミナか身体に限界が来るだろうさ。そうなれば、あのバリアだっていつかは解ける)」
死柄木は、脳無が純粋な力比べで敗北することなど一ミリたりとも考慮していなかった。
遺体故に無尽蔵の体力と無敵の盾を持つ脳無に殴り続けさせれば、いずれ少年の集中力は途切れ、その瞬間に肉片へと変わる。そう信じて疑わなかった。
「(脳無があのガキを止めてる間に入り口で伸びてる黒霧を回収したいところだが……俺がここから離れたところを、さっきみたいなワープで急襲されでもしたら面倒だな)」
死柄木は忌々しげに出入り口の方角を一瞥した。
五条枢の“個性”の全容、それどころか発動条件や制限すら認知していない自身が、ここから無防備に動くのはリスクが高い。
であれば、黒霧の回収は各ゾーンに散らばっているモブの
死柄木は苛立ちによる鬱憤が溜まっていることも相俟って、まずは目の前でふざけた態度を取るこのクソガキから確実に潰そうと、注意深く枢の防御が解ける『隙』を窺い続けた。
───だからこそ、死柄木は気づいていなかった。
彼の認識と、現在のUSJを取り巻く『現実』との間に、絶望的なまでの乖離が生じていることに。
死柄木は気づいていない。
すでに意識を失った黒霧は、飯田天哉をはじめとする入り口に残された生徒たちの手によって完全に拘束されており、自分たちがここから逃亡するための唯一の手段を失っているという事実を。
彼は気づいていない。
USJの各災害ゾーンに散らされたはずの数十の敵たちの大多数が、轟焦凍や爆豪勝己といった、ヒーロー科の金の卵たちの圧倒的な力によって、既に無傷で鎮圧されてしまっているという事実を。
彼は気づいていない。
電波妨害で完全に孤立していると思い込んでいるこのドームの外部では、既に避難用の装置から雄英の本校舎へと緊急通報が為されており、今この瞬間にも怒りに燃える
そして、何よりも───
「───少し、乱暴しようか」
眼前に立つ白髪の少年の実力が。
己が絶対の自信を持っていた対平和の象徴用改造人間など、文字通り足元にも及ばないほどの絶対的な領域にあるという事実を。
「……!?」
枢がひどく獰猛に、その端正な顔の口角を深く吊り上げたのと同時だった。
肉が潰れ、太い骨が砕け散る悍ましい破壊音が立て続けに響き渡る。
「は?」
死柄木は、己の目を疑った。
枢に殴りかかろうと腕を振り上げていた脳無の、丸太のような四肢───両腕と両脚が。
枢が指先を軽く動かしただけで、見えない巨大な力によって、まるで濡れた雑巾を限界まで絞り上げるかのように、原形を留めぬほど無惨にひしゃげてねじ切られてしまったのだ。
骨が砕け、肉が裂け、黒い血が間欠泉のように噴き出す。
引力による空間圧縮の応用。触れることすらなく、相手の肉体の特定部位にのみ『蒼』の引力を発生させ捻り潰すという離れ業。
一体どういう“個性”の使い方をしたらあんなデタラメな現象が起きるというのか。
唖然として言葉を失う死柄木だったが、即座に「だが、脳無には『超再生』がある」と、ねじ切られた四肢がすぐさま再生を始めているのを見て、無理やり落ち着きを取り戻そうとした。
しかし。
枢が四肢を破壊して脳無の機動力を完全に奪ったのは、ただの
「術式反転───」
その右手の指先に、彼自身でさえ制御が出来ていないかの様に暴れ回る極小の球体が顕現する。
「『赫』」
枢の言葉が放たれた瞬間。
死柄木弔の視界の全てを、周囲の空間を焼き焦がすほどの圧倒的な熱量と破壊の奔流を伴う、太陽の如き『真紅』が埋め尽くした。
☆
術式反転『赫』。
それは本来、五条枢の扱う『蒼』と呼ばれる『収束』の力に対し、反転術式と呼ばれる正のエネルギーを流し込み、術式効果を反転させることで生まれる『発散』の力である。
本家本元の概念において、反転術式とは負のエネルギーである呪力同士を掛け合わせて産み出す極めて複雑な代物だ。しかし、呪力という概念自体が存在しないこの超人社会において、何故、枢がその力を使用することが出来るのか。
それは偏に、この力が枢自身に
本来ならば呪力を以て駆動するはずの『無下限呪術』という強大な術式。それが、個性因子という独自の生体システムを通し『無下限』という“個性”に置き換わって発現したためか。はたまた、それとは全く異なる別の次元の要因によるものか。
現時点では、枢の持つ“個性”を看破する碧眼───『六眼』を以てしても、その根源的なメカニズムを見通せていない。
それでも、五条枢という少年は、呪力による反転術式というプロセスを介さずとも、己の身体機能として『赫』という『発散』の力を扱うことができる。その結果だけが、確かな事実としてそこにあった。
大気が悲鳴を上げ、空間そのものが軋り声を上げる。
指先から解き放たれた赤銅色の閃光が、巨大なUSJの内包する空気を赫黒く染め上げながら、凄まじい衝撃波となってセントラル広場を蹂躙した。
大気が急激に膨張し、コンクリートが飴細工のように砕け散る。周囲の木々や瓦礫が、重力を失ったかのように暴風へと巻き上げられていった。
───ただし、本来の呪術とは異なる強引な起動方法の代償か。枢の『赫』には一つ、重大な欠陥が存在した。
それは彼自身が、未だにその力を十全に制御しきれていないということだ。
『六眼』の精密な“個性”操作によって、標的へ向けて僅かな指向性を付与することはできる。しかし、放つ寸前に指先で荒れ狂っていたあの光球を見れば、力が掌握の範疇を超え、極めて不安定な状態にあることは明白だった。
そして、その制御不足はもう一つの致命的な事象を引き起こす。
「いたた……やっぱり、
暴走気味に膨れ上がった『赫』の威容。それは猛威を敵に叩きつけるのみならず、術者である枢自身にも容赦なく牙を剥く。
極光に包まれたUSJ。その圧倒的な光の奔流が収まった後の広場には、土煙を上げて大きく抉られた巨大なクレーターと、自身が放った反動の衝撃で吹き飛ばされ、アスファルトの上を派手に転がった枢の姿があった。
「何本か逝ったかな、こりゃ」
砂埃を払いながら、枢は顔をしかめてゆっくりと身を起こす。
彼が『赫』を放った右手の指は、強烈な反作用によってあらぬ方向へと曲がっていた。さらに、防壁である『不可侵』の出力を上回るほどの余波を受け止めきれず、庇うように抑えた右腕の骨には鈍い罅が入っている。
しかし、その顔に僅かな苦悶こそあれど、驚きや焦りの色は欠片もない。
孤児院の地下に設けられた頑丈な修練場で、枢は定期的にこの実験を繰り返していた。ゆえに、この自傷ダメージは想定の範囲内であり、零れた言葉通り「またか」という、自身の未熟さに対する呆れが浮かんでいるだけだった。
「(さて……)」
自身の“個性”故に、生まれながらにある程度の耐性を持つ枢は多少の被害で済んでいるが、それでも術者本人が指を折り骨に罅を入れるほどの重傷を負うのだ。
ならば、その発散の力を真正面から受け止めた脳無と、その背後にいた死柄木弔はどうなってしまったのか。
答えは、土煙が晴れたクレーターの底で、すぐに判明した。
「……ま、大分威力を抑えて撃ったし、こんなもんか」
むくりと起き上がった枢が輝く『六眼』で前方を見据える。
そこには、全身の所々に酷い熱傷を負い、白目を剥いて意識を手放している死柄木の姿があった。
さらに、彼を庇うように立ち塞がっていた脳無は、先ほど枢の放った『蒼』によってねじ切られた四肢を再生する間もなく超高密度のエネルギーの直撃を受けて胴体から先の大半を吹き飛ばされており、死柄木以上の深いダメージを負って完全に活動を停止していた。
「
枢の言葉の通り、脳無の肉体には『超再生』の“個性”が宿っている。
並の人間であれば即死するレベルの重傷であっても、遺体をベースに造られた改造人間である彼にとっては、本来であれば『超再生』の治癒能力の範疇内であるはずだ。
しかし、無慈悲な実験の果てに生み出された彼らにも決定的な弱点が存在している。
それが頭部───醜く剥き出しになった『脳髄』そのものである。
圧倒的な破壊の奔流から咄嗟に死柄木を庇うというプログラムを実行した脳無は、自身の核であるその弱点まではカバーしきれなかった。
それ故に、剥き出しの脳髄へ致死レベルのダメージを受けた巨体は、先程までの暴威が嘘のように沈黙し、『超再生』の“個性”も機能することなく、死人のごとくピクリとも動かない。
「まったく……ヒーローってのは殺しちゃ駄目だのなんだの、色々制限があって大変だよ」
痛む右腕を庇いながら、枢は小さく嘆息を零した。
しかし、この超人社会におけるヒーローの勝利条件は、相手がどれほどの極悪人であろうと、法の手順に則って基本的には『生かして捕縛すること』ただ一つのみなのだ。
それ故に、たとえ相手が人間の遺体を弄んだ物言わぬ動く屍であろうとも、枢はこれからやって来るであろう警察機関への引き渡しのために、彼らを木っ端微塵に消し飛ばすわけにはいかなかった。
だからこそ、彼は先程の『赫』を放つ際、自身の右腕を犠牲にしてでも最大限に出力を絞り、標的が死なない程度の手加減を施していたのだ。
「(……向こうの世界なら、こんな連中一瞬で祓って終わりにできたのになぁ)」
脳裏を過ぎるのは、自身が幼い頃から抱いている、最強の術師が生きていた
贅沢な願いだとは重々承知しているが、それでも不殺という枷の中で戦うこの世界の窮屈さに内心で小さくボヤきつつ、枢は気を取り直した。
「(一先ず、こいつらが起きる前に動けないように縛っておくか)」
相澤の捕縛布でもあれば便利だったのだが、あいにくと今は本人もいなければその武器も手元にはない。誰か、瀬呂の『テープ』や峰田の『モギモギ』のような拘束に向いた“個性”を持った生徒が近くにいないかと、枢が周囲へ視線を巡らせた、その時だった。
鋼鉄がひしゃげる凄まじい轟音がドーム内に響き渡る。
USJの遥か上方。飯田をはじめとする生徒たちが待機しているであろう出入り口の重厚な巨大扉が、外側からの尋常ならざる衝撃によって、蝶番ごと内側へ吹き飛ばされたのだ。
「───もう大丈夫。私が来た!!」
飛び散る鉄の破片と土煙の中から姿を現したのは、スーツをはち切れんばかりに膨張させた筋骨隆々の巨漢。
トレードマークであるはずの笑顔を削ぎ落とし、その瞳に静かな、しかし確かな怒りの炎を宿した平和の象徴───No.1ヒーロー、オールマイトであった。
緊急警報によってUSJの異変を察知し、活動限界の身体に鞭を打って猛スピードで駆けつけてきた最強のヒーローの登場。
その絶対的な存在感を目の当たりにした生徒たちからは、安堵の涙と歓喜の声が次々と上がっていく。
しかし。
怒りに燃え、生徒たちを救うべく全速力で広場へと飛び降りようとしたオールマイトの視界に飛び込んできたのは。
生徒たちの絶望の表情でもなく、
ズタボロになって気を失っている
そして、クレーターの中心で右腕をだらんと下げながらも、涼しい顔でこちらを見上げている白髪の少年の姿であった。
「む……これ、は……」
すでに戦闘が終結しており、自身が到着する前に最悪の事態が回避されているという信じがたい光景に、オールマイトは怒りを忘れて目を丸くし、言葉を失って立ち尽くす。
「おー、よくテレビで言ってたやつだ」
そんな硬直する平和の象徴に対し、枢はアイマスクを外したままの『六眼』を瞬かせると、生で聞くオールマイトの決め台詞に対して呑気に感心した様子を見せていた。
「(……ま、これで一件落着でしょ)」
頼れる大人が駆けつけてきたのなら、もうこれ以上自分たちがしゃしゃり出る幕はない。
後の面倒な処理はプロに任せようと、枢は痛む右腕とは逆の左手を軽く上げ、呆然としているオールマイトに向けて「こっちこっちー」と気の抜けた手振りを送るのであった。